#172 イクスの処遇と姫騎士
翌日、学校が終わり、ゲームにログインする。下に降りると猫姿のカイムさんがいた。
「おふ…そんなとこばかり撫でないで…は!?」
「あ、タクトだ!」
「ネコさんと遊んでました」
ほほう。ネコさんと遊んでましたか。
「えーっと、アウラさんの連絡先は」
「ま、待って! そんなことをしたらフリーティアが滅亡してしまう!」
アウラさん、どんだけだ。
「あ〜。こほん、エクスマキナの件で王様が君に話があるそうだ。今からいいかな?」
「大丈夫です」
俺は初めて王城に入ることになった。色んな騎士から見られまくる。そりゃそうだよな。めっちゃ浮いてるもん。
「ここが王との謁見の間だよ。礼儀はさっき教えた通りにね?」
「大丈夫です」
「いい返事だ」
そして扉を開け、入ると一列に並ぶ騎士たちと長い階段の上には玉座がある。よくある王様の謁見の間だ。
俺はカイムさんと共に進み、カイムさんに教わった通りに挨拶する。フリーティアの王様の名前はグラン・フリーティア国王というそうだ。かなりお年のようだが、落ち着いた雰囲気をまとっている。
「そなたがエクスマキナと契約したのは真か?」
「はい。契約いたしました」
「うむ。この場に召喚してくれぬか? 実際に見てみないことには信じられぬのでな」
「わかりました。来い、イクス!」
「お呼びですか? マスター」
俺がイクスを召喚すると周りからどよめきが起きる。
「静まらぬか。とはいえ、まさか本当にエクスマキナを見る日が来ようとは信じられぬな」
「私自身、同じ気持ちです。国王様。しかしこうして見たからには信じるしかないでしょう」
カイムさんがそういうとグラン国王は頷く。
「そうじゃな。イクスとやら、わしはどんな亜人種でも友好を望む。そなたの答えを聞こう」
「わたしは常にマスターと共に生きる存在です。全てはマスターのお望みのままに」
イクスの信頼が重い。
「では、タクトよ。お主の答えを聞こう」
「私は召喚獣の差別がないこの国で冒険を続けたいと思います」
「うむ。そなたの答え確かに受け取った。ではわしもエクスマキナを我が国の一員として認めよう」
「感謝いたします」
「下がるが良い」
「はい。失礼いたします」
俺は謁見の間から出ると息を吐き出す。やばい、超緊張した。バイトの面接である程度、大丈夫だと思っていたが全然そんなことなかった。
「お疲れ様。いやー、グラン国王様にあそこまで出来たら、上出来だよ。大したもんだ」
誉められても全然嬉しくないんだが?
「じゃあ、帰ろうか」
「はい」
俺はカイムさんとは逆方向に歩き出す。
「待って待って! こっちだってば!」
カイムさんが慌ててくる。俺もバカじゃない。来た道ぐらいは覚えている。
「来た道と違いますが?」
「えーっと…それは…こっちが近道なんだよ」
ほほう。それはそれは…
「つまりカイムさんは近道を知っていて、使わなかったと? グラン国王様の貴重な時間を遠回りさせることで無駄に使わせたわけですね?」
大問題だな。
「ちょっとグラン国王様にご報告を」
「ちょっ!? 待って! 待って! 今の嘘だから! 実は第二王女サラ・フリーティア様が君に会いたがっているんだよ!」
全くそれならそうと言えばいいのに…王女の頼みなんて断れるわけないじゃん。
そしてたどり着いたのは野外の騎士たちの訓練場だった。なぜ訓練場?もうイベントが発生するの確定な気がする。
そして騎士たちの中から美しい空色の騎士甲冑を着ている女性が出てくる。
「お待ちしていました。召喚師のタクト様。私はフリーティアの第二王女サラ・フリーティア。この国の騎士団長をしているものです」
年は俺と同じくらいな気がする。威厳や誇り高さがあり、まさに姫騎士を体現している女性だった。
「お初にお目にかかります。召喚師のタクトです。私に会いたいと伺いましたが?」
「はい。まずはお礼を。姉の苦しみを和らげてくれる飲み物を提供してくれたことに国を代表して感謝いたします」
律儀な人だな。
「それと先日、騎士たちを倒してくれたことにも感謝いたします」
おや?それで戦う流れになるかと思ったが違うのか?
「正直今の騎士団は緩みきっています。私直属の騎士たちは違いますが、国の騎士団はここ数百年戦争もモンスターの襲撃もないせいで訓練も形だけで真面目にやろうとしません」
「挙げ句の果てに王族の護衛をしてポイント稼ぎをする始末です。ずっとなんとかしたいと思っていましたが何も失敗しない彼らを追及することが出来ませんでした」
あぁ…話が読めたな。
「つまりアンリ王女様の護衛の騎士たちを俺が倒してしまったので、追及することが出来たわけですね?」
「その通りです。お陰で彼らは一生懸命訓練をしています。ですが私にも立場があります。何より騎士たちやアンリ、オリヴィエ殿が称賛するあなたと騎士として剣を交えたく思います」
ほら、イベントじゃんよ。しかしただのイベントではなかった。騎士甲冑を着たセリアンビーストの大男とイケメンの騎士が言う。
「ちょい待ち。姫さんだけ戦わせるのは俺たちの面目が立たねーよ」
「ガルーの言う通りです。姫様。我々にも戦う機会を下さい」
「確かに二人の言う通りですが、それでは公平さに欠きます」
公平なら言い訳か?ならちょうどいい。
「では、俺の亜人種たちと戦うというのはどうでしょうか?」
「お! それなら公平なんじゃないか? 噂のドラゴニュートなら俺様も戦ってみてー」
「私も相手にとって、不足なしですね」
二人の騎士は乗り気だな。しかし姫様は違うようだ。
「私もドラゴニュートと戦いたいのですが…」
「「ダメです(だ)!」」
しゅんとする姫様。この人、純粋に戦うのが好きみたいだな。
「お前さんの亜人種は何人いるんだ?」
「現在、全部で六人ですが剣で戦えるのは四人ですね」
「つまり、五対五か! いいねぇ。燃えてきたぜ!」
「しかし姫様、我々だけで楽しむと他の騎士団長たちがいい顔しませんよ?」
相手が騎士団長クラスなのは確定なんだな。
「…そうでしょうね。では、日を改めるとしましょう。タクト様のご都合が良い日はございますか?」
先に提案されなかったら、俺がしていた。リリーたちが戦えないからな。
「助かります。実はドラゴニュートが竜化の代償で現在戦えない状態でして」
「竜化できるのかよ!? ヤバかった…ルールで禁止にしてなかったら、負けてたぞ」
流石にドラゴン状態のリリーたちほどの強さがないみたいだな。いや、油断は大敵か。
「ルールはしっかり決めないとダメですね。ドラゴニュートの竜化の代償は四日で治るそうですよ」
四日ということは明日直るのか。でもキングコングの砦のこともあるからな。よし、決めた。
「二日後のこの時間でどうでしょうか?」
「問題ありません。二日後の決闘を楽しみにしています」
そこでインフォが流れる
依頼クエスト『フリーティアの騎士団訓練試合』:難易度B
報酬:勝敗により変化。
フリーティア騎士団の隊長達との訓練試合。
五対五の試合形式。
難易度が料理バトルと同じか…あのクエスト、騎士団の隊長たちと闘うことと同じ難易度だったのか。
「そこのデブ猫は彼を案内しなさい」
「いぃ!? む、無理です! 明日から会議でこれから旅立つんですよ!?」
ありゃ…ということはアウラさんたちもいなくなるのか。まぁ、他の職員さんに頼めばいいし、何かあれば連絡すればいいか。
「役に立たないデブ猫ですね」
「ひ、酷い…フリーティアのためにボクほど頑張っている人間はそうそういないよ?」
「それであなたの罪が消えるとでも?」
「うぐ…」
何をしたんだ?この人。帰り道、事情を聞くと三年前、城の庭園でデブ猫姿で寝ているとそれを発見したサラ姫様が撫でてくれたらしい。しかしカイムさん曰くデリケートゾーンを触られ、変身魔法が解けてしまった。
結果しゃがんでいるサラ姫様のスカートの中に顔を突っ込むことになったそうだ。そりゃ、アウトだな。
普通なら死刑ものだが、既に獣魔ギルドのグラマスとして世界でも指折りの実力を持っていたため、助かったがサラ姫様との関係は最悪らしい。自業自得だな。