#1529 未来と守れた約束
エリュシオンオンライン終了後、運営が記者会見を開いてエリュシオンオンラインの秘密が一般公開されて全世界を驚かせる一大ニュースとなった。本人の許可なく大人数を人体実験していたようなものだからそりゃあ、バッシングも受けるし、当然社長は後日警察に出頭して罪に問われることになった。
ただバッシングだけではない。死者と再び出会える技術の開発は専門職はもちろんのこと一般人からも賛否両論を呼んだ。そしてその裏ではやはり人工知能に注目を受けた。記者会見の時に全ての技術は放棄することにしたと発表されたがそんな凄い技術を簡単に日本が手放すなんてどこの国も信じやしない。
その結果、俺にも他国のスパイと思しき人に声を掛けられてたり、家を監視されたりしていたのだが、そこは警察が対応してくれた。警察と言うか御剣家と関わりがある人たちだけどね。彼らは俺の事情を知ってくれているらしく、他国にリリーたちの技術が渡るリスクも高い事から護衛してくれていた。
それでも泥棒が侵入して俺と鉢合わせになって戦闘するような謎展開があったが俺は見事に泥棒を撃退して見せた。リリーたちとの約束があるんだ。殺されるわけにもリリーたちを渡す訳にもいかない。
そんなことを知ってたか知らずかここから急に俺への圧力が無くなることになる。なんかどこかの国で一斉にコンピューターが落ちるサイバー攻撃があったとニュースで見た気がするんだけど、まさかね。
リリーたちのデータが保管されているサーバーは警察が管理を任せている。俺や会社のメンバー、御剣家で保管するよりずっと安全だからね。しかも警察も危険度を知っているからそのサーバーは本当に上の人と御剣家と関わりがある人しか場所を知らない場所に保管された。逆に言うと警察が使おうと思えば使える訳だからこのサンバー攻撃の真相は俺は知らない。
そんなことがあったが俺は一年間、受験勉強を頑張り、無事に情報系の大学に進学を果たしてゲームの記述と人工知能を勉強して、人工知能について卒業論文を発表した。
そして肝心の就職活動はSEの会社に就職した。まぁ、ゲームの会社に簡単に入れるわけが無かったな。倍率も凄かったし、専門職はやはり専門学校のほうが強いとこの時学んだが時すでに遅しって感じだ。人生思い通りにはいかないものだね。
そんなわけで少し挫折を味わったがプログラミングの技術を得る事には成功してその会社に三年間勤務してから仕事の伝手で無事にゲームの製作会社に転職するとそこで三年間勉強してそこから数年経過して現在に至る。
俺はゲーム会社を立ち上げて今は社長室で寝ている。
『三…二…一…』
寝ている俺の近くで聞き覚えがある声でカウントダウンが始まる。
『朝―! 朝だよー! タクトー! 今日は約束の日だよー! リリーたちが待ちに待った日だよー! タクトー! 起ーきーてー!』
リリーの元気な声が社長室に響き渡る。ここはVR世界ではない。現実の世界だ。リリーの声が聞こえるはずがないと思いきあ社長室の机の上にホログラムで投影されたリリーの姿が映っている。
時がたてば当然技術も進歩する。ホログラムの技術は今では当たり前となっており、人間の生活を人工知能がサポートするのが当たり前の時代だ。そんな中、俺はリリーたちのデータをサーバーから移植してみんなと会話することを可能にした。
流石にまだ肉体接触は出来ないが人形やロボットに人工知能を搭載してセンサーも取り付けて感触を人工知能に教えれば一応可能。ただリリーたち曰く俺を抱きしめている感覚とは程遠いらしい。まぁ、それだけ生身の感触を人工知能に伝えるのは難しいということだね。
「んん~…分かっているよ。リリー…昨日もみんなで最終調整していたんだからなぁ。ふぁ~」
『頑張っていたもんね』
ゲームというかコンピューター業界ではいつまで仕事を終わらせるスケジュール管理が重要となっている。納期が遅れると契約解除もあり得るから期間内に仕事を終わらせるために期間が迫ると残業や会社に泊まり込みの作業ははよくある話だ。
自作ゲームなら発売日延期とかで対処可能だけど、リリーたちにテスト開始日を知られてしまったのが運の尽き。今日を楽しみにしているリリーたちの様子を毎日見ていたら頑張らないといけなかった。その結果、昨日は社員総出でシステムチェックをしていて大変だったからこうして俺は社長室で寝る事になっている。
そんなわけで今日は俺たちが作ったエリュシオンオンライオンサーバーのデータを使った新たなゲームのテスト開始日だ。つまり俺とリリーたちの再開の約束を本当の意味で果たす日となっている。ここで部屋がノックされる。
「社長、起きてますか?」
「起きているよ。佳代姉」
「失礼します。おはよう」
佳代姉は俺の秘書をしてもらっている。会社を立ち上げる話をしたら、すぐ話に乗ってくれた。まぁ、これにはちゃんとしたわけがある。
「兄ちゃん! おっはよー!」
「いよいよだね。兄様」
理恋と未希も俺の会社で働いている。しかもプログラミングを担当しているバリバリの技術者だ。二人は高校卒業後、ゲーム関係の専門学校に進学して卒業後ゲーム会社に就職したという敬礼でお兄ちゃん泣きそうです。
まぁ、二人のほうが俺より能力が高い事は最初から分かっていた事なんだけどね。因みに佳代姉は銀行員となって結構上の所まで行ったけど、ゲーム会社に就職したいと言い出して今に至る。社会には嫌なことが一杯あるから佳代姉からすると我慢の限界を超えてしまったんだろう。しかし佳代姉にはゲームのノウハウが無いからそうなると事務管理とか専門知識が必要無い役割になるのが当然だ。経歴と俺たちの関係を考えると社長秘書は適任と言えた。実際に他所との交渉とかバリバリにやっているからね。非常に助かってます。
俺は身だしなみを整えてみんなの仕事場であるオフィスに向かうとまだ寝ている人から結構いた。すると起きている人に声を掛けられた。
「おはようございます。社長」
「おはよう。社長。いよいよ今日ね」
「小柳さん、泉さん、おはようございます」
小柳さんはもちろん俺にエリュシオンオンラインを渡してバイトで滅茶苦茶お世話になった小柳さんだ。小柳さんのように元エリュシオンオンラインの運営に関わった人たちを再雇用した人は結構いる。一番エリュシオンオンラインのことを知っている人たちだからね。勧誘しない手はないだろう。
最も事件が事件なだけにもう関わり合いたくないという人もいたし、年を理由に辞退した人もいた。あれから十年以上が経過しており、プログラマーが現役でいられるのは三十代後半とか言われている。どんどん新しい技術が開発されて、その新しい技術を吸収して行かないといけない業界だから年に勉強が追い付かなくなるといのが理由だ。そこはもうしょうがない。
そしてもう一人の泉さんはエリュシオンオンラインで一緒になったルインさんだ。彼女はなんと佳代姉が勧誘して来た。偶然銀行のお仕事の関係で知り合ったらしい。ルインさんは公務員をしていたらしいから何か繋がりがあったんだろう。
そんな二人は小柳さんがゲーム開発部の主任で泉さんは広告部と事務の主任になっている。我ながら結構万全な布陣を引いているんじゃないかな?
挨拶を済ましてそれぞれが朝食を取りながら仕事を行っていくと圧倒言う間にお昼を迎えるとお客さんがやって来る。
「社長。奥さんと子供さん、それとお友達が登場しました」
「分かった。オフィスにいくよ」
実は結婚しており、子供も二人います。まだ二人共小学生低学年だけどね。どうしても俺たちが作ったゲームをしたいと言われてテストに誘ったのだ。そして俺の結婚相手はシフォンこと姫嶋優希だ。彼女とは大学時代から付き合いを続けて俺が最初の会社の時に結婚式を挙げて夫婦になった。そこから子供を作って両親共働きで子育てをしていたが俺が会社を立ち上げてからは主婦となり、子育てに専念して貰っている。
そしてお客に呼んだのはアーレイこと真中海斗とミランダこと椎名真子ご夫妻だ。この二人がなんと結婚しているおり、しかも二十歳で結婚式を挙げて三人の子供がいるというから驚きである。
海斗は大学に進んだんけど中退して工場で今も働いている。真子はスーパーのパートで働いており、早期結婚を凄く後悔しており、俺たち夫婦がよく愚痴を聞かされている関係だ。ノリと勢いで結婚式を挙げるところは海斗らしいと言えばらしいし、そんな海斗に振り回れてしまうのも副委員長らしさではある。
海斗を呼んだ理由はやはりサラ姫様が理由だ。俺だけシルフィと再会したら不公平だからね。もちろん仕事の関係で来れない可能性もあったが有給休暇を使って今日来てくれた。
みんなで昔話をしつつ、いよいよテスト開始の時間がやって来た。テストに参加するのは俺と海斗、それに子供たちだ。みんながVRの装置を頭に付けて一斉にログインする。俺とアーレイは昔の姿と名前で速攻ゲームを始めると始まりの町に降り立つ。
「タクトーーーーー!」
「アーレイ!」
俺たちを待っていたリリーとサラ姫様が抱き着いて来た。
「タクトだ! タクトタクトタクト! タクトだー! やっと触れた―!」
「待たせてごめんな。リリー。でも、これでやっとちゃんと約束を果たすことが出来たな」
「うん! ずっと信じていたよ! タクト! タクトならきっと守ってくれるって!」
ここで俺の視界にイオンたちの姿が映った。
「俺たちは外すな?」
「悪いな」
「気にすんな。俺とお前の仲だろ? 行こうぜ。サラ」
「えぇ」
アーレイたちが離れるとイオンたちが抱き着いて来た。この滅茶苦茶加減を感じて帰って来たと実感するな。
「タクト」
「シルフィ」
シルフィに声を掛けられて、俺が返すとみんな一旦俺から離れてくれた。そして俺がシルフィに近付いてくとシルフィが抱き着ける距離になると飛び掛かって来て、俺はシルフィを抱きとめた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「「「「えへへー。突撃ー!」」」」
「うお!?」
「きゃ!? もう! リリーちゃんたち!」
俺たちにリリーたちが一斉に突撃したことで俺たちは倒されてしまう。シルフィが注意するがリリーたちは笑顔だ。今日からまた新しい世界で俺たちの物語が始まる。そしてそれは俺だけじゃない。
俺たちの後ろで俺とアーレイの子供たちがゲームにログインしてきており、俺の長男である近衛誠二の隣には銀髪の子供のドラゴニュートがおり、長女の近衛夕陽の隣には一匹の狼がいた。
どうやら誠二は召喚師、夕陽はビーストテイマーになったっぽいな。親子の血のつながりを強く感じた。
「え…えーっと? これからどうすればいいんだ?」
「私に聞かれても分かりません」
「か、かーわーいーいー!」
「ギャウン!?」
誠二と結構ぎこちない感じだな。まぁ、女の子との接し方で戸惑うのはしょうがないだろう。誠二のほうがお兄ちゃんだからか結構しっかり者の性格だ。そして夕陽のほうは明るく人懐っこい性格を知っている。二人の性格の違いが最初のアクションで思いっきり差が出るのは面白いな。
「どうやら大丈夫っぽいな。俺たちは先にフリーティアに向かっちゃうか?」
「いいの? タクト?」
「いいんだよ。俺たちがそうだっただろう? 最初は何も分からないけど、そこからもう冒険は始まっているんだ。子供の冒険に大人が口出すのはマナー違反だろ?」
「そうかも知れないね! それじゃあ、リリーたちはリリーたちの冒険に向かってレッツゴー!」
「あぁ。みんな行こう! 俺たちの新しい冒険に!」
俺たちはそういうと笑顔で始まりの町から飛び立つのだった。
ーーーFinーーー
これで『Elysion Online ~ドラゴニュートと召喚師~ 』の本編は完結となります。
第一話を投稿したのが2018年11月14日でなんと約六年四カ月という長編小説となってしまいました。ここまで愛読してくださった読書の皆様、改めて感謝申し上げます。
この作品は最終章まとめを作り、一週間から二週間で投稿したのち一旦完結させます。そこから第一章からまとめの作製やまだ終わっていない修正作業を行ったのち日記の方にて完結の宣言をしたいと思います。
自分のその後ですが新作を今年中に発表する予定です。ジャンルは異世界転生ものを予定しており、クライムサイスペンスとファンタジーを合わせたものにチャレンジしようと思います。新作が発表した時はまた読んで頂ければ幸いです。
それでは今まで皆様、長い間ありがとうございました。また新しい作品で会いましょう。




