#1528 ゲームの終わりと別れの時
翌日、無事に聖戦イベントを終えた俺たちは夜に祝勝会を開催することとなり、みんなが食料集めと料理で大忙しとなった。その甲斐もあって、全ての国の代表と騎士たち、プレイヤーたちが集まった祝勝会が開催された。
そこでは戦死した者たちへの祈りと戦った者たちへの褒美として大金と特に活躍した人たちには『世界の救世主』という称号が与えられた。そして重要となるのが正式に国の代表者たちから聖戦イベントの終了と世界の平和宣言が行われた。まぁ、全ての国が滅茶苦茶状態だ。戦争なんてする気がしないだろう。
俺たちプレイヤーとしての恩恵は全ての国に行き来が簡単になった。ライヒ帝国とか向こうから許可貰えないと入れない国とかがあったからな。残りの期間でまだ行っていない所を自由に見て回れるのは非常に有難い。
そんなわけで俺たちは残りの期間で世界中を旅することにした。思い返してみると最初の目的って色んな所をリリーたちと冒険することが目的だったとここでようやく思い出した俺たちである。悪魔とかが出てきて戦争とかになり出してから俺たちはいつの間にか強くなって魔王たちに勝つことが目的になってしまっていたんだよな。それがもう終わったし、ここからは本来の目的に戻ってもいいだろう。
そんな俺たちだが、旅だけで終わるはずもなかった。まず俺たちだが、俺の召喚獣の中で誰が最強か決めるトーナメントが開催された。
「決勝戦はリリーたちになったね? イオンちゃん」
「そうですね。今までいっぱい訓練して来ましたがこれが最後です。どちらが最強か決めますよ。リリー!」
決勝戦はリリーとイオンの因縁の対決が実現した。まぁ、この二人はウロボロスの武器を持っているところがやはり大きかった。イクスやノワ、セフォネ、ファリーダは善戦していたんだけどな。無限属性のごりおしには勝てなかった感じだ。ここに来てテクニック無視のごり押しって強いんだなと再認識させられた。
この結果はリリーの勝利で幕を閉じた。いつものように武器を大振りしてくれるリリーならイオンが勝っていただろうが隙を見せないリリーの本気モードだと勝ち目が無かったな。イオンもテクニックで勝負していたがそれを全てねじ伏せたリリーは本当に強くなったと改めて思った。
「やったー! これで一日タクトを独占する権利を貰えた―!」
リリーが本気だった理由がこれです。そんなわけで丸一日リリーとずっと二人っきりになる一日があり、二人で最初の頃を思い出しながら一杯話しながらリリーが欲しい物を買ったりしていっぱい楽しんだ。
そしてプレイヤーたちもやり残したことをやりたいと動いていた。そこで開催されたのがやはりプレイヤーの中で誰が一番強いか決める戦いだ。最後に残ったのは俺と鉄心さんだった。俺たちが選択した戦法が同じだっただけに結局このゲームにおいてはこの戦法が一番強いと証明されてしまったな。
その戦法は初手で距離を詰めてその後手数で相手をボコボコにするという侍が得意としている戦法だ。この戦法を選択するとまず切り札が使えない。切り札を使ってしまったら、首が飛ぶからね。一撃必殺級の武器を持っていたら、これで即試合終了だ。
それに対抗するためには接近戦で勝つしかないが俺と鉄心さんが相手では他のみんなはきつかった。そして俺たちの勝負だが、もし決勝戦になったらお互いに決めていた試合方法で優勝を決める事にした。それがステータスを全て一にした状態で全てのスキルを封印し、武器は初期武器と言う縛りで勝負を決める。
つまり俺たちは生身で刀を使った試合をしたかったのだ。
「行きますよ」
「来い」
勝負の結果は俺の勝ちだったがかなり緊迫した試合だった。俺としてはこんな試合は爺さん以来というかそもそも爺さん以外と戦ったことが無かったからな。凄い熱い試合をさせて貰えて大満足だ。
そんな戦ってばかりっぽい俺たちだが、大晦日はホームでみんなでのんびり新年を迎えて元日は桜花で伊勢参りをさせて貰ったり、ゲームの最後の最後まで名一杯楽しんだ。そしていよいよ成人の日の夜。ゲームが終了する時がやって来た。
俺は午前と午後の時間を使って、各地でお世話になった人に別れの挨拶を済ますと時間間際にホームの前でヘーパイストス、パンドラ、キキ、ノアに別れの挨拶をする。俺がいなくなってからヘーパイストスとパンドラはサイクロプス三兄弟と共に暮らすそうだ。まぁ、ヘーパイストスたちならそうするだろうな。
キキは俺たちのホームに残るそうだ。俺がいつか戻って来ると言うなら誰かがこの家の維持管理をしないといけないし、リリーたちじゃそれがたぶん出来ないからな。俺はキキに感謝した。
ノアはワントワークで造船業をするらしい。ワントワークの造船業は一連の聖戦イベントで壊滅的な打撃を受けたからな。ノアがいけば引く手あまただろう。これは余談だが、ノアが作ったノアズ・スクナは聖戦イベントを戦い抜き、フリーティア王家の旗艦として使われることになった。移動手段として優秀だからな。存分に使って欲しいものだ。
これでみんなとのお別れは終わって俺たちが家を出るとお別れの場所に向かう。選んだところは始まりの町のギルド内にある召喚の間だ。ここなら誰も来ないし、俺がゲームを始めた時に初めてリリーを召喚した場所に一番近い景色の場所と言われたらここが真っ先に思い浮かんだんだよな。
「ふわー…初めて来ました! フリーティアにある召喚の間とは少し雰囲気が違っていますね!」
「そうか…シルフィはここから始まっていないんだな」
「はい! 私はずっとフリーティアの獣魔ギルドで召喚していましたから凄く新鮮です! ここがタクトたちにとって一番思い出深い所なんですね?」
「あぁ…最初は俺とリリーの二人だけで旅をしていたんだけど、結構限界があってね。トレントの森でグレイたちを餌付けしてここで契約を結んだり、イオンやセチア、他のみんなも結構ここで召喚したんだ。思い返してみても俺たちの召喚師としての出発点はここだったなと今ここにきて改めて思うよ」
本当に色んなことがあったな。出会いもあれば別れもあり、笑顔もあれば涙もあった。それらが全て今の俺たちに繋がっている事を考えると本当に感慨深い。そう思っているとイオンが声を掛けてくれた。
「タクトさん、急がないと時間が無くなってしまいますよ」
「そうだった。それじゃあ、始めるか。まずはリース」
「はい!」
俺はリースから順番に別れの挨拶をしていく。今までの冒険でお世話になったことや聖戦イベントでの活躍を伝えて、みんなの今後について背中を押していく。
俺がいなくなると召喚獣は契約が切れて自由になるらしい。そこからどんな道に進んでいくかは各自の自由だ。もちろん俺がお願いしたら、みんな言う事を聞いてくれそうではあるがそれはみんなのためにはならないと俺が判断した。
少なくとも俺は自分の将来について自分で決めたことで一つ大人になる決断をしたと思っている。みんなにもこれを感じて欲しいし、自分が選んだ道には自分が選んだという責任が発生する。そうなるとやっぱり逃げにくくはなるからな。俺はみんなに逃げて欲しくはないから自由意志を尊重することにした。
聖戦イベントでの俺たちの活躍で大きなところを紹介するとまずワントワークで白夜と蒼穹、コーラル、夕凪たちがベルフェゴールを二回も倒している。一回目は白夜と蒼穹、コーラルで本気の姿となってコーラルがヴァサヴィ・シャクティの必殺技を使用して撃破した。
そして二回目は夕凪が本気を出したところでベルフェゴールは強引にワントワークを破壊しようとしたところで本気状態が続いていたコーラルが突撃して自爆で自らを犠牲にしてベルフェゴールを倒して見せた。
最後にコーラルのためにヴァサヴィ・シャクティを手に入れれて良かったよ。ただその代わりにヴァサヴィ・シャクティは失われている。これはしょうがない。そういう武器だからね。
この他にもクリュスはレヴィアタンを一回倒しており、伊雪とチェスは二人だけでヴェインリーフを防衛し、桜花の首都では大妖怪とされている山本五郎左衛門が登場し、虎徹がこいつを仕留めている。
山本五郎左衛門は妖刀をもちつつ、妖怪を無限に生み出す創造属性を有している魔王だったが本気の虎徹は妖怪たちを次々倒して、最後は封滅の陣で山本五郎左衛門のスキルを封印したところで降り注ぐ武器と虎徹の三十日月からの桜花爛漫で倒された。
この他にも千影が平安京で烏魔天狗を一騎打ちで倒し、グレイは伊勢神宮でカグヅチと戦い、一回相打ちで奇跡スキルで死亡は免れた。グレイに魔狼神王の鉤爪を作ってあげて良かったよ。あれが無ければみんなが勝てていなかったと言っていたからね。それほどの激戦だったのだろう。
そして伊雪は暗黒大陸でインドラジットを一回倒し、リースとスピカはウィザードオーブに現れた即死の魔眼で有名なバロールを三回も倒している。
他のみんなも活躍したがボスを倒したのはプレイヤーであることが結構多かったみたい。その代わりに敵の撃破数が他の皆は多い感じだな。圧倒的に多いのはストラ。まぁ、ストラが本気を出したら俺たちの中で群を抜いて攻撃回数が多いからそりゃそうなるわなって感じだ。
またぷよ助やロコモコ、夕凪のように防衛や味方の回復などで味方をサポートすることで活躍した召喚獣もいる。彼らにはプレイヤーや各地の騎士たちから感謝の言葉がたくさん送られて来たから凄く助かったことがわかる。これはこれで嬉しいものだ。
そしてここからはいよいよリリーたちだ。
「次は燎刃」
「はい!」
「燎刃は一番最後に召喚したドラゴニュートで一杯努力していたな。俺が料理しているときとか影で武器を振っていたとか本当に努力家だったと思う」
「え…知っていたんですか!?」
まぁ、料理をしていても手が空く時間はあるからな。そこでみんな何しているか見に行った時に偶然声を出さずに素振りをしている燎刃を見かけたことがあったのだ。本人が影で努力しているならわざわざそれを言うのは野暮なので今までは言って来なかったが最後には伝えてもいいだろう。
俺は燎刃を抱きしめて頭を撫でる。
「本当によく頑張ってくれたな。俺や仲間のために強さを真っ直ぐ求める燎刃の姿とその姿勢が俺は大好きだった。本当にありがとう。愛している」
「う…某も…某も! タクト殿のことを! 愛しております! いつまでも! 永遠に! 愛し続けて見せますので、必ず約束を果たしてください!」
「あぁ…改めて約束するよ」
そういうと泣いている燎刃の目の涙を拭いて離れた。燎刃は強い女の子だ。きっとどんな道を選んでも大丈夫だと俺は信じている。
「次はアリナ」
「はいなの! アリナはみんなみたいに泣かないから覚悟しておくの! お兄様!」
どんな覚悟をしろというのかさっぱりわからん。
「アリナは…まぁ、ドラゴニュートの中で一番強さが迷走していたな」
「う…いきなり過去の傷口を抉って来たの…」
「実際そうだったからな。まぁ、これは俺の育成ミスだ。もっと早くにアリナにレイピアや二刀流をさせていればもっと早くにアリナは自分の戦闘スタイルを確立出来たはずだからな」
アリナは速さが強みだったが筋力が無く、武器を持てなかった結果、スキルや魔法を使った遠距離攻撃主体になったり、敵を誘導する役割になったり、かなり戦闘スタイルが決まらなかった。だからこそその苦労は人一倍あったはずだ。俺がもっと明確に進むべき道を示していたら、もっと楽だったんだろうけど、俺自身がアリナの戦闘スタイルで迷走していたからここは本当に反省したいところだ。
一応他の風のドラゴニュートの話も聞いていたんだけど、手裏剣や爆弾などの投擲武器を使用したりしていた話を聞いていたんだけど、それだと火力が足らずに微妙に感じたんだよな。するとアリナが言う。
「それを言ったら、アリナも自分がどんな戦闘したいのかお兄様にちゃんと伝えることが出来なかったからこの話はおあいこなの」
「アリナがそう言うならいいんだけどな…いっぱい悩んで苦しんだ果てによくここまで強くなったな。アリナがいなければサタンの速度で勝てなかったし、ドラゴニックマウンテンの攻略も出来ていなかったはずだ。本当に助けてくれてありがとうな」
「それは違うの。お兄様。お兄様がいつもアリナの事を助けてくれていたの。初めてエンゲージバーストした時お兄様が一生懸命戦う姿を見てアリナはかっこいいと思ったの。それと同時にアリナも強くなればお兄様のように戦えるかも知れないと思えた。あの時のお兄様の姿がアリナを強くしてくれたの。だからこれもお互い様なの」
これは予想外の答えが来たな。エンゲージバーストにはこういう影響もあったのか。確かにエンゲージバーストは強化が弱いからこそ成長した自分の姿をイメージしやすいのかもしれないな。
「そっか。それじゃあ、俺から言える最後の言葉はやっぱりこれだな。アリナ、愛している。そして必ず約束を果たすから待っててくれ」
「なるべく早く約束を守って欲しいの。アリナは風のドラゴニュート。なんでも早いことが大好きだから早くして欲しいの」
「あぁ、頑張らせて貰うよ」
これを聞いたアリナは笑顔を見せてから背中を見せて下がっていった。その後ろ姿は震えているように見えたがそれを指摘するのは野暮だな。別れがつらいのはみんな一緒だ。
「次はユウェル」
「おう!」
「ユウェルはとにかく武器で世話になったな」
「それについてはタクに言いたいことがあるぞ! たくさんのアイデアを教えてくれたこととたくさんのわたしの我儘を聞いてくれて本当に感謝しているぞ!」
この言葉を聞いて今までユウェルと一緒に作って来た武器を思い出す。
「ぷ」
「あ!? 今、ユウェルバスターのことを思い出しただろ! タク!」
「悪い悪い…なんというか俺とユウェルの悪ノリというか無茶さの集大成の武器だったなぁと今更ながら思ったんだよ」
「むぅ…確かにこの武器は思い出深い武器だけどあまり思い出して欲しくないぞ」
制御方法知らずにブースターを吹かせて空をクルクル飛んでいたからな。まぁ、この話を続けていると時間が来てしまうので、話を切り替えよう。
「そっか。でも、俺たちのそんな悪ノリも全てが俺たちの最終決戦の勝利に繋がっていると俺は思っている。ユウェルが頑張って作ってくれた武器たちが無かったら、サタンに勝てていないだろうし、ドラゴニックマウンテンの攻略も創星龍神との対決にも勝てていなかったと断言できる。武器以外にもユウェルの筋力と防御能力とは一杯助けられた。本当にありがとな」
「それほどでもあるぞ。でもいっぱい武器を作って自分も武器を使って気付いた。どれだけいい武器を作っても使う人次第だって。だからわたしは鍛冶師としてタクにお礼を言いたいんだ。わたしが作った武器たちを最後まで愛してくれてありがとう。鍛冶ばかりしているわたしのことを一杯心配して愛してくれてありがとうだぞ」
「本当に最後の鍛冶場で不眠不休だけはやめてくれ。俺でもそこまでしたこと無いからな。鍛冶をしてもちゃんと睡眠は取る事だけは約束してくれ。約束果たしたのにユウェルに会えないなんてことは絶対に許さないからな」
「お、おう…タクがそういうならわたしも言わせて貰うぞ! タクが約束を守らなかったら、絶対に許さないからな。土のドラゴニュートは守りには五月蠅いんだ」
アリナのことをパクったな。まぁ、そこもユウェルらしい。
「それは怖いな。大丈夫。ちゃんと約束は果たして見せるさ。ユウェル、愛している」
「わたしもタクのことを愛している」
そういうとユウェルは俺から離れて行った。ユウェルはもう自分の道を決めているみたいだな。ユウェルの目はしっかり未来を見据えている目をしていた。だからと言って長く待たせるのも良くないからな。一生懸命頑張らせて貰おう。
「次はファリーダ」
「えぇ」
「ファリーダはもう圧倒的な力で俺たちを助けてくれたな」
「そうだったわね。でも私的にはやっぱりラーとの戦いが一番記憶に残っているわね」
それはそうだろうな。ラーとの戦いも本当によく勝てた物だと今でも思う。俺がそう思っているファリーダが続ける。
「後はそうね…やっぱりタクトにダンスを教えたところかしら?」
「よりもよってそこが印象に残っているのかよ」
「そりゃそうよ。タクトだって完璧じゃない。ちゃんと苦手なことがあったとわかった瞬間だったんだから記憶にも残るわよ。それを私が教えたことでより印象深くなっているわね」
まぁ、かくいう俺も戦闘より日常のほうが印象深いことが沢山あった気がする。戦闘では熱狂するけど、面白いことのほうが記憶には残りやすいのかも知れないな。
「それを言うなら俺は踊り子衣装を着たファリーダの踊りが」
「すけべ」
綺麗で印象に残っているって言おうとしたのにすけべ扱いされるのか!?リリーたちも頷くんじゃありません!サタンのせいで悪戯やり放題になったリリーには色々言われたくないぞ。
「すけべじゃありません。全く…でもまぁ、ファリーダには本当に色々なことで助けられたな。本当にありがとう」
「礼を言うなら私のほうよ。封印された魔神を解放してしまうことは人間ならあるだろうけど、契約して力を取り戻すのに協力してくれる人なんて早々いないわ。だから私を永遠に思える孤独と私にもう一度チャンスをくれたタクトに感謝しているわ。本当にありがと。愛しているわ」
「俺も愛している」
「あら? 私にはそれだけなのかしら?」
「わざわざ言わなくてもファリーダは好きに動くだろ?」
それを聞いたファリーダは納得してしまう。
「まぁ、敢えて言うならファリーダが暴れると世界が壊れる可能性あるから俺たちが再開するためにも世界を壊すのだけはやめてくれ」
「確かにそれは不味いわね。気を付けて暴れるわ」
暴れるんだ…まぁ、それでこそファリーダだし、今のファリーダなら無謀や無茶は早々しないはずだ。まぁ、仲間が襲われたり、むかつくことをされたらそれはもう暴れてもしょうがない。俺でもカチンと来るからな。止める権利はないのだよ。
「次はセフォネ」
「うむ!」
「セフォネはあれだな」
「どうせ一番最初の頃に殺されては蘇生を繰り返す記憶が残っておるんじゃろ?」
どうしてわかった!?
「お主たちはいいかもしれんが妾からすると普通にトラウマじゃからな? 他に何かいい記憶はないのか?」
「そうだな…告白の時を除外するとトゥルーヴァンパイアに進化を選んだ時かな~。あの時が一番セフォネの成長も覚悟も強く感じて印象深いな」
「あぁ~…確かにあの時で色々妾の未来が決まった気がするのぅ…まさかタクトと別れてまた永遠の孤独が始まるとは思っていなかったが」
「それは違うだろ? セフォネ。セフォネには故郷に両親もいるし仲間が一杯いる。みんなそれぞれ別の道を選ぶかも知れないけど、仲間の絆は絶対に変わらない。そして俺も必ず戻ってきてみんなと再会する。だから永遠の孤独は訪れないさ」
本当にセフォネは寂しんぼだ。まぁ、あんな過去があったから別れに敏感なのはどうしようもないことだけどさ。
「本当じゃな!? 約束じゃからな! 後、いつまでも妾を愛しておらねば許さぬからな! もし約束破ったら、タクトの血を全部吸ってやるからの!」
俺、セフォネに殺されるのか…まぁ、約束破った俺が明らかに悪いから死を受け入れようじゃないか。
「あぁ。いいぜ。俺は約束を守るからな。セフォネもいつまでも俺を愛していてくれ」
「もちろんじゃ! 最後にタクトの味を忘れないようにさせて貰ってよいか?」
「あぁ」
セフォネが俺に噛みついて血を吸っていく。それは今までと吸血とは違っており、じっくりその味をおぼえるようにセフォネは吸うと俺から放たれるのだった。
「次はブラン」
「はい!」
「ブランとはエデンのイベントが一番印象深いか」
「そうですね…一つ気になっていることがあるんです。もしかして主が私を召喚したから魔王たちとの戦いに巻き込まれてしまったのではないかと…あう!?」
ブランならそういうことを考えそうだよな。そんなブランのおでこをデコピンした。
「そういうマイナス思考は治して行かないとな。どんな形になったとしても俺たちは魔王たちの戦いは避けられなかったさ。確かにゾンビ襲撃とか防げたイベントはあったんだろうけど、この世界で生きている以上は魔王たちから逃げる事は出来なかったよ」
運営のイベントや魔王たちが俺たちに喧嘩を吹っ掛けて来ていたからな。そして最終的には世界終わりますって言われたら戦いの回避なんて不可能だ。
「そうかも知れませんね。ところで主は私と印象に残っているのはどこですか? 私は告白と初めての出会いなのですが」
「それも印象深いけど、ブリューナクをブランに託した時かな? あの時のブランの慌てている姿とその後にブリューナクを目を輝かせながら見ているブランが印象に残っている」
「う…これはだって…しょうがないではありませんか。あの時のブリューナクは私たちの切り札になる武器の一つだったんですからそれを私に渡されたら、主に私の力を認めて貰えた気がするに決まってますよ」
あの時の心情はそんな感じだったんだな。実際にブランなら使いこなせると思って預けたし、その解釈に間違いはないので、それがブランのやる気に繋がったのなら良かった。そんあブランを抱きしめる。
「ブランには俺たちの最強の盾としてまた魔法での遠距離戦闘に槍での突撃、格闘戦を含めた接近戦と本当にその場で色々な役目を任せて大変だったと思うが見事に全部果たせてくれた。本当にありがとう。真面目で遠慮しつつ俺にアピールしてくるブランが大好きだった。いつまでも俺を愛していてくれるか?」
「もちろんです。私の愛は永遠に主だけのものですから必ず戻って来てください」
「あぁ…改めて約束するよ」
キスを交わしてお互いに距離を取る。これだけで俺たちは十分だ。
「次は和狐」
「はいな」
俺は和狐の頭を撫でながら思い出しながら話す。
「和狐とは出会いから本当に色々あったな…本当にあの時のトラウマをよく乗り越えてここまで成長したと思うよ。本当に防具の作製から料理のお手伝い、遠距離支援、俺が狙われた時のための護衛と俺たちを本当によく支えてくれたな」
「そんな…うちが過去を乗り越えられたのはタクトはんのお陰です。あの時、身を挺してうちの暴走を止めてくれなかったら、うちはたぶん死んでました。うちが恋火と再会できてここまでこれたのは全部タクトはんとみんなのお陰どす。ほんまおおきに助かりました」
「和狐の助けになって良かったよ」
ここで和狐がもじもじしながら聞いて来る。
「あの…一つお願いしてよろしおす?」
「いいぞ」
「あの時みたいに思いっきり抱きしめてください」
「分かった」
俺は和狐の身体をぎゅっと抱きしめた。和狐はここでそっと呟く。
「本当は別れとうない…一生一緒にいてほしいどす…」
これはみんなが心の中で思っている本音だろうな。
「ごめんな…でも一生の別れにはならないから安心してくれ。ちょっとだけ離れるだけだ」
「それでも辛い物は辛いんどす…せあけどうちの我慢してタクトはんの背中を押します。だからうちのことずっと愛していてください」
「もちろんだ。ずっと愛しているよ。和狐」
「はいな!」
和狐と離れる。こういうみんなの本音を伝えてくれるところはお姉ちゃんって感じだな。きっと俺が知らない所でみんなを影で支えてくれていたと思う。本当に感謝したい。
「次はリアン」
「はい」
「リアンはとにかく水中戦でお世話になったな。最後もリヴァイアサンを倒したみたいだし、本当にたくさん助けられたよ」
「あれはトリアイナがあってこそでしたよ。トリアイナとみんながいなければ勝てませんでした」
クリュスがリヴァイアサンを倒した後、リアンは二度目のリヴァイアサン戦でリヴァイアサンを倒している。これは本人が言うように他の水の召喚獣たちが切り札を使ったうえでの勝利だ。それだけリヴァイアサンは簡単な相手じゃない事は俺たちはよく知っている。だからこそここは褒めたい。
「タクト先輩の私の一番の思い出はなんですか? 私は初めて服を買って貰った時なんですけど」
凄い女の子らしい思い出が来たな。リアンの言葉にリリーたちがしまったって顔しているのがなんか笑える。
「俺はあれだな。初めてリアンの歌声を聞いた時だな」
今では当たり前だが、本当に上手で感動したのを覚えている。それを聞いたリアンは顔を真っ赤にして慌てる。
「ふぇ!? え、あの、その、エッチです! タクト先輩!」
「歌聞いてエッチってどういう状況?」
「リビナお姉様!?」
リビナにエッチ発言で突っ込まれたら、お終いだな。ショックを受けるリアンの頭を撫でる。
「エッチではないとは思うがリアンの歌声に随分助けられたし、歌以外にも先陣を切って突撃して貰ったり、本当に助けられたよ。ありがとう」
「いえ…マーメイドで海でしか強くない私が地上でも皆さんの役に立てるようになったのはタクトさんや美奈さんのお陰です。こんな私を愛して、仲間にしてくれてありがとうございました。あ」
俺はリアンを抱きしめた。
「そういうマイナス思考は俺と再会する時までに治しておくようにな」
「あ…はい。努力しますから必ずまたこうして抱きしめて下さい」
「あぁ。リアン、愛している」
「はい。私もずっと、ずーっと愛しています。タクト先輩!」
キスをしてリアンと離れる。リアンの明るく綺麗な歌声が好きだった。その歌声みたいになることを将来のリアンの姿として期待して持つとしよう。これもまた再会の約束だ。
「次はリビナ」
「はいはーい。すけべなタクトが一番大好きなリビナだよー」
「別れの時ではリビナは変わらないな」
「まぁね。もちろん寂しいし、タクトをおちょくる生き甲斐が無くなっちゃうのは大問題だけど、一生ってわけじゃないからね。しばらくはリリーたちとシルフィで我慢するよ」
「私も対象なんですか!?」
リリーたちもショックの顔をする中、シルフィも驚きの声を挙げた。まぁ、あれだ。頑張って欲しい。
「タクトにとって僕との一番の思い出はどこかな? ふりふりの服を着た時は除外で教えて欲しいな」
除外されてしまった。リビナが取り乱して恥ずかしがるところは早々ないから正直インパクトが強すぎたんだが、それを除外となるとあれか。
「うーん…初めてリビナを召喚した時かな?」
「ありゃ。やっぱり初めてみた時からタクトはボクにメロメロだったのかな?」
「いや、サキュバスなんて来てどうしようって感じだったな。思えばリビナが一つきっかけでもうメンバーなんてなんでもいいやって思った気がする」
「えぇ!? ボクがきっかけだったの!? いやいやいや。それは違うでしょ」
まぁ、リビナを仲間にする前でもバラエティー豊かなメンバーが揃っていたのは事実だが、ノワがいたにしてもサキュバスの登場は当時かなり驚いたし、育てられるのか本気で悩んだものだ。サキュバスを育てられると自信を持てる人ってそうそういないと思う。
そしてリビナがいたからこそセフォネやファリーダを仲間にすることに全く抵抗が無かったのかもしれない。そこを考えるとリビナの召喚もまた一つ俺たちの冒険の一つの重要なターニングポイントだったのかもしれないな。
「知らぬは本人だけだな。とにかくリビナにも一杯助けられたな。特に魅了を使った無双には本当に助けられたと思う」
「まぁね。相手を選んじゃうところは難点だけど、ボク自身もみんなの役に立てたと思う所は一杯あったよ」
リビナの魅了による制圧力がなければ負けていたかも知れないと思う戦いが結構あるんだよな。それほどリビナには思っている以上に助けられている。そんなリビナを抱きしめる。
「ありがとな。色々振り回されたりしたけど楽しい日々だった。俺が帰って来てからもそのままでいてくれ」
「いやだよ。帰って来たタクトを骨抜きにしてあげる予定なんだからさ。だからタクトも今よりもっと男として成長して来てよ」
「そうだな…確かにそこも頑張らせて貰うよ」
男として成長した結果、おじさんになる可能性もあるがもしそうなったら、リビナには一生懸命愛して貰いたいものだ。
「最後にお願いしてもいい?」
「いいぞ。いぃ!?」
リビナに首を噛まれて血を吸われる。いきなりはやめてくれ~。今だにこれ、慣れないんだよ。
「はい。マーキング完了。じゃあね。タクト。マーキングしたんだからずっとボクのことを愛していないとダメだからね」
「マーキングってまぁ、いいか。あぁ、約束するよ」
リビナらしいと言えばらしい別れの挨拶だったがちょっと目がうるっとしていたところが印象に残った。
「次はノワ」
「…ん」
ノワは返事をするといきなり抱きついて来た。
「…ノワもにぃと離れたくない」
「俺もだよ。出来ればずっと一緒にいたかった」
「…過去形にしないで…にぃがいてくれるなら炬燵を失ってもいいから」
「「「「ッ!?」」」」
これには全員驚いた。ノワはほっとけばずっと炬燵の中で寝ているほどの炬燵愛好家だ。炬燵から出そうとすると凄い憎悪の感情をぶつけているレベルだから何があっても炬燵だけは手放さないとは思っていたがそれだけ俺に離れて欲しくないというノワの思いは滅茶苦茶重く感じた。
するとイオンがこれに対してついツッコミをいれてしまう。
「ちょっと待ってください。炬燵が無くなってもノワはベッドで寝るようになるだけでは?」
「…イオン。今、にぃを止めているところだから少し黙る」
「あ、ごめんなさい」
確かに炬燵が無くなったら、暖炉の前に陣取りベッドで寝るようになるだけだな。イオンの指摘にはみんなを納得している。まぁ、ここは仕切り直そう。ノワの頭を優しく撫でる。
「俺は幸せ者だよ。こんなに愛してくれてありがとな。ノワ」
「…当然。ノワのことをこんなにも甘やかして得くれているのはにぃだけ。にぃが教えてくれたんだよ? 仲間の大切さを…仲間のために怒ることは悪い事じゃないって。だからノワはずっとノワのままでいられた。ノワをいっぱいだらけていたけど、いっぱい愛してくれてありがとう。にぃ」
「そんなノワだから俺は好きになったんだよ。ノワがいつも俺にだらけるように言ってくれたから俺も休むことが出来た。しかもちゃんとその場の空気や俺の疲れ具合を見て言って来ていただろう? そんな優しいノワが大好きだから俺と再会した時もこのままのノワでいてくれ」
「…ん。約束する。だからにぃも約束してほしい。再会したら、ノワをずっと甘やかして欲しい」
「そうだな。結構甘えん坊が多いからどうなるか分からないけど甘えさせてしまう自覚はあるから。いっぱいノワのことを甘えることを覚えておくよ」
ノワとキスを交わす。
「…ん。にぃ、ずっと愛している」
「俺もだよ。ノワの事ずっと愛している」
そして俺とノワは離れた。ずっと離れたくないと言っても後ろにはまだリリーたちが残っているからな。最後までノワの仲間思いの姿を見れて良かった。
「次はイクス」
「はい。マスター」
「イクスにはある意味一番世話になったな。エクスマキナの力が無かったら、俺たちの安全が保障されていなかったかも知れないし、俺も強気に出れなかったと思う。実際の戦闘でも敵拠点の破壊数と敵の撃破数は恐らくイクスは一番だったはずだ。本当に世話になったな」
「マスターを支える事がわたしの幸せです。そのはずだったのですがマスターに愛を教えて頂きました。そこから少し考え方が変わった気がします」
これは思いもよらない告白だ。驚く俺を気にせずイクスは胸に手を当てて続けた。
「愛を知ってからよりマスターを守る意識が上昇し、マスターの敵を許さないという感情が上昇した気がするんです」
上昇って表現がイクスらしいな。
「そっか。だったら俺はイクスに愛を教えられて良かったと思うよ。俺自身愛を知らなかったら途中で挫折していたと思うからさ。そう言う意味では本当に召喚師が持つエンゲージとマリッジはよく考えられて作られたものだと思うよ」
召喚師は召喚獣を愛さないと強くは慣れない。それは結局暗黒召喚師でも変わらなかった。一応強くはあるんだけど、やはり暗黒召喚師だと召喚師と召喚獣との連携が取れず連携が優れている通常の召喚師のほうが結局強いって結論になって最終的には消えたんだよな。
まぁ、ゲームで強くなれなかったらゲームを止めてしまうと言うのは自然の流れではあるので、暗黒系の職業の消滅は必然と言っていい。しかも最後の方では新規の人がいなくなって魔王たちとの戦闘ばかりとなったことでプレイヤー同士の連携が増えた上にレベルが上がる速度が尋常じゃなくなったからPKを仕掛けたら返り討ちに会うのが当たり前となってしまった。こうなったらもう彼らはゲームを楽しめないだろう。
「そうですね。エンゲージやマリッジがなければ奥手のマスターが動く事は無かったでしょうし」
「う!?」
イクスの指摘が俺の胸に突き刺さった。完全に図星だからな。寧ろ告白や結婚式があったからこそリリーたちへの自分の気持ちが愛だったんだと気付いたまである。でも、このエンゲージやマリッジも賛否両論があったのだ。
逆に強くなるためには告白や結婚を強制しているんじゃないと言われてもしていた。言われてみれば確かにそうなのだが召喚師はエンゲージやマリッジを使わなくても召喚獣は強くなるから嫌なら俺みたいに召喚師が強くなる道を選ばずに召喚獣を強くすることに全てを捧げればいいって話となる。実際にそれで強くなった召喚師は一杯いるのだ。
「まぁ、その、なんだ? おっと」
ここでイクスに抱きしめられてしまった。
「そんなマスターがわたしに気持ちを伝えてくれた時、わたしの胸の温度は未知の上昇を確認しました。それと同時に未知の感情が支配していきました。あの時は分かりませんでしたが今ではあれが幸せの感情だったと理解しています。それを教えてくれた上にエクスマキナのために命懸けで動いてくれたマスターのことをわたしは機能停止するまで愛し続けることを誓います」
「ありがとな。俺もずっとイクスの事を愛し続けることを誓うよ。後、機能停止してもまた魔力を供給して目覚めさせてやるから安心してくれ」
「ふふ。そうですね。そのときはよろしくお願いします。わたしの最愛のマスター様」
イクスともキスを交わして離れる。因みに壊れてしまったマザーシップはエクスマキナの星で新しいのをただで貰っている。俺とイクスがエクスマキナにしたことを考えれば新品のマザーシップの無料で渡すことぐらい当然とのことだ。それだけ大きなことを俺たちはしたんだな。エクスマキナの星も復興して欲しいものだ。
「次は恋火」
「はい!」
「恋火とはたぶん一番一騎打ちの訓練をしたよな?」
「えへへ~。そうかも知れませんね」
確信しているだろ。耳がピクピク動いて尻尾がぶんぶんですよ。
「俺の剣術を一番知っているのは恋火だ。受け継げとは言わないがずっと覚えていてくれ。俺にとってはとっても大切な剣術なんだ」
俺が本当は御剣誠吾だという一つの証明書みたいなものだと俺は思っているからな。恋火は俺を除けば俺たちの中で一番の刀愛好家だ。そんな恋火にはやっぱり覚えていて欲しい。すると恋火は返事を返して来た。
「もちろんです! タクトお兄ちゃんの剣術を忘れるはずありません! でも、タクトお兄ちゃんが帰って来るのが遅かったら忘れちゃうかも知れません」
これは早く帰って来いって事だな。そんな甘えん坊の恋火に近付いて抱きしめた。
「俺も最短で再会したから頑張るよ。でもたぶん今より弱くはなるだろうな」
これから俺はゲームと人工知能の技術を学ぶために情報系の大学に進むために受験勉強を頑張らないといけない。予定通り大学に進んだら、勉強を頑張って出来ればゲームの会社に就職していっぱい業界のノウハウや技術を学んでからリリーたちの約束を果たす為に動くことになるだろう。考えてみるとかなり長い道のりだ。その間に剣術の訓練なんてする余裕があるとは思えないんだよな。だから再会した時にレベルとかどうなるかわからないが剣術の腕前だけみても確実に弱くなるはずだ。
「弱い俺でも好きでいてくれるか?」
「もちろんです! あたしたちがタクトお兄ちゃんを好きになったのはタクトお兄ちゃんの心なんですから! 寧ろ弱くなったのなら今度はあたしたちがタクトお兄ちゃんを強くしてあげますよ」
恋火たちにしごかれるのか…それはそれで悪くないかも知れないな。
「そっか…ん?」
「う…ぐ…タクトお兄ちゃん…やっぱりあたしも…寂しいです…愛ってこんなに痛いものだったんですか?」
「そうだな…俺も知らなかったよ。愛ってこんなにも幸せをくれて痛みも与えて来るものだったんだな…恋火はさ。後悔しているのか? 俺のことを好きになったこと」
「い、いいえ! 後悔なんてするはずありません! あ」
俺は恋火を抱きしめて優しく頭を撫でる。
「俺も後悔は全くしていない。たぶんこれは俺たちがお互いに好きになって愛し合った思い出が永遠の物だからなんだと思う」
恋人が死んで残された人たちは一体どういう気持ちを心に背負って生きていくのか俺には分からないけど、俺なら恋人と過ごした幸せの日々を思い出しながら生きていくと思う。彼女がいない世界で生きている価値なんかないと考える人もいるかも知れないけど、俺は歯を食いしばって生きて死んだ後に彼女に向かって精一杯生きたと胸を張れる男になりたいよ。
「永遠…そうですね。あたしもそう思います」
「それに俺たちは必ず再開するんだ。一時寂しい思いはさせてしまうが再会した時にまた大きな幸せを感じられる。それが愛だと思う。だからお互いに頑張って我慢しような」
「う…はい! 頑張ります! あたしはタクトお兄ちゃんの召喚獣ですから! タクトお兄ちゃん、大大大好きです!」
「俺も恋火のこと、大大大好きだよ」
俺と恋火はキスを交わして距離を取った。
「次はセチア」
「はい」
「セチアにも武器から防具の作製、料理の手伝いに薬の調合、聖域の島の管理と本当に多岐に渡って世話になったな」
「そうですね…タクト様は私との一番の思い出はなんでしょうか? やはり水着ですか?」
やはりで水着を出して来るな。というか水着着ていたときとかあったな。リビナとかが言って来ないから忘れてたよ。当のリビナもその話があったかと悔しがっているし。ここは正直に言わせて貰おう。
「水着よりもセチアは薬の記憶が凄くてな」
嫌な記憶と言うのはずっと残り続けるものだ。
「そこですか!? いやいやいや。いい記憶もきっとあるはずですよ!」
「いい記憶というとやっぱり出会いの時とスカーレットリングを受け取った時だな」
「あ…あの魔法剣のこと覚えていてくれたんですね」
「当然だろ? セチアが初めて俺のために作ってくれた魔法剣だからな」
出会いはやっぱり初めてのドラゴニュート以外の亜人タイプの召喚獣だったからな。衝撃はかなり大きかった気がする。しかもファンタジーの王道であるエルフだったしな。滅茶苦茶テンション上がっていた気がするな。
スカーレットリングについては残念ながら壊れてしまったけど、スカーレットリングはゾンビイベントで俺たちを勝利に導いてくれた大切な相棒だ。忘れるはずがない。
そのイベントでフリーティアが滅茶苦茶になっていたらシルフィとの結婚も無かったかもしれないし、俺たちの未来は大きく変わっていたはずだ。そう言う意味でも俺の専用の最初の武器としてもやっぱりスカーレットリングの存在は忘れらない武器となっている。
セチアが近付いて来たので、俺も近付きセチアを抱きしめる。
「セチアがいたから俺は最後まで戦えた。セチアが一生懸命作ってくれた武器や防具から放たれる光が俺の背中を押してくれていた。本当にありがとうな」
「いえ、タクト様を支える事が私の幸せでした。本当に約束してください。私たちは魔法剣伝説の二人みたいに別れたまま終わりにはならないと…私はそれが凄く怖いんです」
そういえば魔法使い伝説に登場したエルフと人間は別れたままお互いに死んでしまうストーリーだったな。確かにこの話を知っていたら、自分もそうなるんじゃないかと思ってしまうのはしょうがないかもしれないな。
「大丈夫さ。俺たちは喧嘩もしていないし必ず再開出来るはずさ」
「絶対ですからね! 私、信じてタクト様のこと愛し続けますから!」
「あぁ。俺もセチアのことを愛し続けて必ず再開を果たして見せるよ」
俺とセチアはキスをして離れる。
「次は」
「私からのほうがいいですね」
そういうとイオンが前に出て来た。シルフィとどちらにするか迷っていた俺のことを察してくれたな。本当にイオンにはこういうところで滅茶苦茶お世話になった気がする。
「そっか…それじゃあ、イオン」
「はい」
「イオンには水中戦からリリーを初めみんなの戦闘フォローに俺の私生活のファローまで一杯して貰ったな。本当に助かっていたよ」
「そう思っていただけていたならよかったです。タクトさんの一番の私との思い出はなんですか? 私は釣りなのですが」
釣りで二人でまったりしていた時だろうな。イオンがこっそり甘えて来たからよく覚えている。しかし俺は違うな。
「俺はもうイオンがドォルジナスの魔素を受けて倒れている姿がずっと脳から放たれないよ」
「あぁ~…あはは…そんなこともありましたね」
「笑い事じゃないからな? 本当にイオンを失うんじゃないかと物凄く心配したんだからな?」
あの時は完全に俺の油断からイオンが俺を庇ってドォルジナスの攻撃を受けてしまったからイオンがシルフィのようになっていたら俺は戦闘よりもイオンを優先していたし、イオンを失っていたら俺の心は壊れていたかも知れない。それほどやばい事件だった。
ここでイオンが抱き着いて来た。
「そんなにタクトさんに愛されて私は幸せ者です。私ももちろん放たれたくはないですが私たちがずっと一緒にいるために我慢が必要だと言うなら頑張って我慢してみます。でも我慢は長続きしないので、なるべく早く私たちのところに戻ってきてください」
「あぁ…お互いに辛いだろうけど、頑張ろうな。イオン、愛している」
「私もです。私の愛は永遠にタクトさんと共に」
ここでイオンとキスしてお互いに離れた。
「次はシルフィだな」
「はい!」
俺とシルフィはお互いに近付いて静かに抱き合う。
「シルフィと出会えてよかった」
「私もです。タクトにとって、私との一番の思い出はなんですか?」
「初めて会った時だよ。俺はあの時にシルフィに一目惚れしていたんだと今ならはっきり言える」
「ふふ。タイミングは違いますけど、私と同じですね」
俺たちは一度離れてお互いの顔を見る。本当にこんな可愛いお姫様と結婚出来て最高の冒険だったな。
「タクトがいなくなってから私は正式にフリーティアを治める女王になるそうです。戦争からの復興に民の生活支援、やることがいっぱいできっと冒険に出かける事はないでしょう」
「そうなのか…シルフィは外に出ていた方が輝くから凄く残念だな」
シルフィとは戦争終了後も一緒に冒険していた。流石に王様たちも夫との別れが確定している状況で夫との思い出作りを邪魔する無粋はしなかった。
「本当にそう思っているなら早く帰って来てください。タクトが王になってくれたら、私は役目から解放されるんですからね」
「果たしてそう上手く行くかな? 俺が王様になったらきっと仕事ほっとたらかして外で遊ぶ王様になるぞ」
「それはそうなるでしょうね。なので私もそれについていくので、問題なしです」
国としてはダメダメだけどな。まぁ、ちゃんとやることをやれば自由ぐらいは許してくれるだろう。許してくれなかったら、脱走する。誰も俺とシルフィを止める事は出来ないだろうしな。俺がいなくなっている間にフリーティアの騎士たちには俺たちを止めれるように訓練することを薦めるとしよう。
「本当に俺たちは相性がいいんだろうな。考えが基本的に似ていてそれでいて違うところは違っていて」
「そうですね。だからこそお互い惹かれ合ったんだと思います。お互いに召喚獣を愛して冒険と言う旅が好きでそれでいて私の弱いところをいつも助けてくれる。本当にタクトは私の理想の王子様でした。どうか離れてからもずっと私が愛した王子様のままでいて下さい」
「う、うーん…頑張らせて貰います」
社会の荒波にもまれて王子様を貫けるのか自信が全くないがシルフィのお願いなら頑張るしかないな。俺たちは優しいキスをする。
「タクト、永遠に愛しています。ルシファーさんからもお墨付きを貰えましたからタクトも私たちとの再会のために頑張ってください」
「あぁ。頑張るよ。それと俺もシルフィのことを永遠に愛している」
「はい! あ、そうだ。私たちのことは気にせずタクトの世界で好きな人が出来たら、結婚してもいいですからね?」
「ん? いや、結婚なんてするかなぁ?」
既に複数婚の常連である俺からすると今更の話ではあるが正直現実世界で誰かと結婚する姿を創造出来ない。するとシルフィが言う。
「タクトは色々しょい込んで潰れそうになりますからね。誰か支えてくれる人が必要だと思います。そう言う人は案外近くにいるかもしれませんよ?」
「そうかな?」
「そうですよ。本当に鈍感さんなんですから」
シルフィの最後の言葉が聞こえなかったがリリーたちには聞こえていたようでみんなが頷いている。何を言われたんだ?
「最後にリリー」
「うん!」
「俺たちにもう言葉はいらないよな? リリー」
「そうだよ! たくさんデートの時に話したもんね! だからリリーからタクトに最後のお願いはこれ! 最後の一瞬までタクトの存在をリリーたちに味合わせて欲しい」
「よろこんで」
俺はリリーを抱きしめているとゲーム終了のアナウンスが来た。ここでリリーはみんなを呼んでみんなが俺に抱きついて、そんな俺たちの周囲をグレイたちが伏せの状態で待機する。そして俺の身体からログアウトの光が発生して消えて行く。
「リリー、愛している。みんなも! 俺に最高の思い出をくれてありがとう! そして再会した時、必ずまた最高の思い出を作るために冒険しような!」
「「「「もちろん! ありがとう! タクト! 愛している!」」」」
リリーたちの愛の言葉を聞いて俺のエリュシオンオンラインの冒険は一先ず幕を閉じたのだった。




