#1511 サタンの塔
午後三時前、暗黒大陸のルシファー領、アスタロト領、ベルゼブブ領の三方向に魔王討伐同盟の大部隊が集結した。その様子をルキフグスは城の頂上から見ており、報告を受ける。
「ルキフグス様、こちらの準備は整いました」
「ご苦労様です。敵部隊の中に例の召喚師や召喚獣の姿は確認出来ましたか?」
「恐らくですが確認出来ました。何やら料理を運んでいたようですが」
「それなら彼女たちに間違いなさそうですね…一見すると敵の作戦は最大戦力で一気にここを落とす作戦のように見えますが自分たちの国や非力な国民を見殺しにするとは思えませんが…どう来るか」
ルキフグスはここに来る戦力としてタクトたちが担当するか他のプレイヤーたちが参加するかの二択だと考えていた。両方参加は想像外だが、それをすると彼らの国を叩くことが出来るので別段問題はない。寧ろ好都合だと考えていた。
『恐らく彼の目的はこちらのかく乱でしょうね。わざわざ姿を見せて自分たちの国を手薄だと思わせると同時にこちらが認識している戦力の誤認を狙っている。攻め手だからこそ許される一手ではありますがそんな作戦が通用する状況下ではもはやないですよ?』
「中央大陸の動きはどうですか?」
「エクスマキナの船が人間の各国の上空に展開されております。それと同時に各国の兵たちが防衛しているようです」
「そうですか…本当にそのままならこちらが先にチェックを仕掛けることになりますが人間たちはどうしますかね?」
ルキフグスは楽しそうだ。ルキフグスは大奥義書では首相、宰相の地位にいる悪魔だ。政治のトップにいる彼は軍師の悪魔と見て間違いないだろう。問題は戦闘能力だ。恐ろしく強いことは分かっているがどんな能力を持っているか全くわからないんだよね。ピエロの姿をしていたからこちらを惑わすような戦闘をしてくるとは思うと予想されているけど、どう来るかな。
お互いの作戦の読み合いが続く中、ついに午後三時を迎えて暗黒大陸のサタン領の攻略が始まった。それと同時に各国でも新たな動きが発生する。
各地の地面から突如巨大な骸の塔が出現したのだ。この塔を見たオーディンが驚愕した様子で発言する。
「なんじゃあれは!? ユグドラシルと同等の大きさの建物じゃと!?」
『驚いて貰えたかな? ユグドラシルにいる神たちよ』
「この念話…お主がサタンか?」
『如何にも。私はここに全世界に対して宣言する! 私は遂にこの星を手に入れた! もはやこの星にいる全ての存在に逃げ場はない! 諸君を絶望のどん底に突き落とすあの塔の名はネケッセ マルムトゥリム! 私の肉体から作られた塔だ。せいぜい私が用意した祭りを思う存分楽しんでくれたまえ』
ネケッセマルムトゥリムはラテン語だな。直訳すると必要悪の塔か。この塔の効果はすぐに判明する。塔から無数の悪魔たちが現れた。つまりあの塔は悪魔たちを無限に湧きポイントみたいだな。ただそれだけなら普通の湧きポイントとあまり変わらわない。そう思っているとユグドラシル近くのネケッセマルムトゥリムならなんと悪魔の翼を持つ巨人たちが現れた。
これにはオーディンたちも驚きの声を挙げる。
「どういうことじゃ!? どうしてヨトゥンたちに翼があるんじゃ!? それにあの奇妙な仮面はなんじゃ!」
「オーディン様! それどころじゃありません! 飛行能力を得たという事は彼らはユグドラシルに昇る必要が無くなったということを意味してします! つまり直接ここに来ますよ!」
オーディンたちが見た奇妙なヨトゥンたちの変化は各地に現れた敵にも発生している。例えば桜花に現れた鬼にも悪魔の羽があり、顔にはサタンの仮面が装着していた。人型だけでなく、ドラゴンゾンビやヘルハウンドたちまで塔から現れた敵は全て悪魔の翼と謎の仮面をつけて現れた。
それが無限湧きで襲撃してくるとなると戦況は大変だ。何せ一気に敵の飛行戦力が急増したことになる。それに対してこちらの飛行戦力はぶっちゃけそこまで多くない。制空権を失うと空から一方的に攻撃されることになる。それは避けないといけないな。
「とにかく一つ倒して見るか」
フリーティアにいた俺はそう口にすると創星近衛を抜く。俺やリリーたちは今回防衛側だ。全世界の主要戦力が暗黒大陸にほぼ集結する代わりに俺は自分の召喚獣を各地に送り込んでいる。どうやら各国の王様たちから俺の召喚獣は一体につき百師団を超える戦力だという評価らしい。
これを聞いたメルたちはもっと上の評価だろうって評価を下した。まぁ、核撃一発を核兵器と判断するなら確かに評価は違って来るよな。俺たちの評価は置いておいて、各国が戦力を出す条件が俺たちの防衛参加だった。俺としては元々そうするつもりだったので、引き受けたわけだ。
それにルキフグスが言うように流石に各国の防衛を手薄には出来ない。もしそれをすると俺たちはまた物資を失い、更には休憩所を失うことになる。聖域の島で夕凪の中でテント暮らしとかしてもいいけど、どうせゲームエンドを迎えるなら自分たちの家は無事であって欲しい物だよ。
「無限刃。原子分解。閃影!」
フリーティアの城門にいた俺は見えていたトレントの森に現れたネケッセマルムトゥリムとの距離を一瞬で縮めると切断して倒す。
「それなりの硬さはあるがこれなら誰でも倒せそうだな」
もちろんこれはリリーたちやプレイヤーたちのことを指している。各国の兵士NPCたちに出来るかはちょっと疑問だね。
この結果、無限に湧き出した悪魔たちに俺は取り囲まれる結果となったが自分に重力場を発生させて、周囲の敵を引力支配で吸い寄せる。すると重力場に触れた敵が次々重力によって破裂する。アバドンのバッタと同じ扱いを受ける悪魔たちには同情するよ。
さて、塔を倒すとどうなるかが問題だな。傾いた塔は地面に落下すると地面に吸収されるように消えた。それで終わりかと思っていると俺は奇襲を受ける。
「お前も学習しない奴だな…ゼパル」
俺がゾンビイベントで戦ったゼパルが襲撃してきたが神障壁で攻撃は俺に届いていない。
「ふぅー! ふぅー!」
「狂戦士化? 逆鱗? いや、違うな。あぁ…この仮面で憤怒スキルが発動しているのか」
「あぁああああ!」
正常の意識が無いゼパルは俺は噛み付いて来たがパンチ一発で倒される。更に俺に向かって今度はシルフィが魔剣を持って襲い掛かって来た。この光景にはぶちギレです。俺があっさりシルフィの首を掴むと偽物のシルフィが言う。
「ふふ。あなたに私を殺せますか?」
「…ルーンスキル。変身」
俺が変身スキルを封印するとこちらもゾンビイベントでシルフィの暗殺を狙ったオセラが現れた。
「俺がお前を殺せるかと聞いたな?」
「が…あ…あ」
「殺せるに決まっているんだろうが!」
これがオセラをワンパンチで倒してフリーティアに戻って、悪魔たちの対処をしていると塔があった場所の地面が紫色に輝くと塔が復活した。時間で復活するのか。そして塔から再び悪魔たちが湧きだした。その中にはゼパルとオセラの姿がある。
「塔を倒せば一定時間悪魔たちの湧きを抑え込むことが出来るけど、それをする価値があるかどうかだな」
これは場所によるな。出現している敵が強いと塔を倒すために敵陣に突っ込むと酷い事になる。遠距離で壊せると楽なんだが、魔神障壁と多重障壁が展開されたので、簡単に倒す事は難しそう。ごり押しで倒せもするだろうがその価値があるかだな。
ごり押した結果、敵から攻撃を受けてたら、マイナスだし、こちらからするとルキフグス攻略まで防衛に成功すれば取り敢えず俺たちの勝ちって状況だ。一応リリーたちにこの話をして、各自の判断に任せる事にした。
その後俺は戦闘を続けているとネケッセマルムトゥリムの他の能力が大体わかって来た。能力一つ目は塔の周辺にいる悪魔たちの強化だ。そこまで高い強化は入っていないが以前のゼパルより確実に強くなっていたので、これは確定。
この話をサバ缶さんたちに伝えると恐らくこの強化がサタンがイベント開始に話していた暗黒大陸で魔王領の多さでプレイヤーたちが不利になるという話ではないかと予想してくれた。
確かにこの塔のバフが強くなるとプレイヤーサイドは結構厳しい状況になりそうだ。攻略を頑張ってくれていた人たちに感謝しないとね。
更にもう一つ塔の能力で判明したのが塔から一定範囲を対象にした魔法の弱体化だ。明らかに威力と規模が下がっている。ただし暗黒魔法と悪魔たちが固有に持っている悪魔魔法などは対象外らしい。これは塔が発生している魔素が影響しているらしい。
これは能力の一つに関わって来る話だが、長時間塔の範囲内で戦闘を続けていると魔素による汚染が発生する可能性が高いとフリーティア城の医師ヒポクラテスさんが教えてくれた。彼はずっと魔素汚染の研究をし続けているらしいからこの情報は正しいだろう。
そして最後の能力はイクスから連絡で判明する。どうやら現在この星は紫色のオゾン層のような物に覆われている状態らしい。恐らくこれはサタンが先程世界中に言っていたオーディンとの会話から推測すると俺たちを宇宙に逃がさないために貼られてある代物だと推測出来た。
それと宇宙からの援軍に対処するための物だな。マザーシップは現在宇宙に展開しており、これで俺たちはマザーシップが使えなくなった。逆に言うとマザーシップを宇宙に展開しているからこの情報が入ったんだけどね。バトルシップたちを先に地上に展開出来て良かったと思うべきだな。
まぁ、サタンからすると恐らくこれはプラネットデストロイヤーやエビデンス・ゼロ対策だろう。星と同化しているような状態のサタンが一番恐れるのは間違いなくプラネットデストロイヤーだろうからな。ここに対して対策を講じるのは当然と言える。
もしかしたら塔を倒せば解除出来るかと思ったが結果は揺らいだだけらしい。揺らいだということは影響は確実に出ているから塔を複数もしくは全部を塔が修復されるまでの時間内で破壊出来ればこの膜は解除される可能性はある。
これらの情報を踏まえて俺たちは防衛戦を頑張ることとなった。




