#1505 午前の聖戦イベント、ヴァンパイア領地
リビナと同じく暗黒大陸に転移したセフォネは上位のヴァンパイアたちを集めて、何やら作戦の準備を終えると叢雲、月輝夜と一緒に城門の前で待機することを選んだ。このセフォネの選択に対して月輝夜がセフォネに声を掛けるとセフォネが言う。
「いいのじゃ。月輝夜。ヴァンパイアの不死身。故にいつでもここには来れるし、時間はたくさんある。じゃが、この戦いに負ければ故郷を失い、果ては世界そのものが滅びるかも知れぬのじゃ。それなら今は目の前の戦いに集中するほうがいいじゃろ?」
「グォ」
セフォネの言葉に月輝夜の納得をしているとそのセフォネの言葉をこっそり聞いていたセフォネの両親が話す。
「私たちの娘は本当に立派に成長したな」
「えぇ…私たちよりも心も力も強くなったことが分かりますね」
「あぁ…だがこの子にはまだ親が必要な感じはした。故にこの戦い、負ける訳にも死ぬわけにもいかんな」
「えぇ。私たち家族が再びゆっくり話せる時を迎える為に頑張りましょう」
それからしばらくして地面から吹き上がる火山を確認した。この音が聞こえた叢雲が眠りから覚めて、空に飛び立つ。その叢雲の姿を見て、セフォネは言う。
「この状況で寝て待てる叢雲が妾は羨ましいぞ」
「グォ…グォグォ!」
「うむ。ここは妾が引き受けるのじゃ。月輝夜は別の城門の守りを頼むぞ」
「グォオオオ!」
こうしてセフォネたちは戦場に散ると早速叢雲が先制攻撃をする。
「ギ~…ギーーーーー!」
ドラゴンブレスと共に全員から死滅光線を放ち、火山口からあふれ出た魔王軍に攻撃が降り注いだ。叢雲の攻撃で被害は出たもののドラゴンブレスはアバドンに防がれるとアバドン三体が叢雲に向かって来た。これはまた随分と評価されたものだが、それを見た叢雲が天に向かって雄叫びを挙げる。
叢雲が瀑布を発動したことで天から滝が落ちて来る。アバドンたちはあっさり回避するが下にいる空や地面に逃げれないゴブリンたちや魔王たちはこれで溺死することになった。その結果、呪滅コンボが発動するが叢雲には効果が無いので、関係なし。
そして空で叢雲とアバドン三体の戦闘が勃発する。先手を取ったのは叢雲だ。まず最初に一体の戦斧持ちのアバドンをいきなり次元封鎖で強制的に別次元に飛ばして封じた。これでアバドンの数は二体となった。
大剣で斬りかかって来たアバドンの手を次元歪曲で問答無用で捩じ切るとアバドンは魔素で作られた手で再び大剣を握って対処して来た。そして叢雲に大剣が振られるがそれよりも早くにドラゴンテイルがアバドンの腹に決まり、爆氷の効果が発動する。
しかし氷の爆発を受けてもアバドンは凍ることなく、叢雲に攻撃を仕掛けて来た。寒無効持ちだな。サタンを監視している伝説の通りなら寒無効を持っているのは当然と言える。何せずっとコキュートスにいる事になるからな。寒さ対策のスキルを有していないとその場所で生きていくことは出来ないだろう。
この攻撃に対して叢雲が両手のドラゴンクローで大剣を止めるともう一体のアバドンが大鎌を振りかぶって横薙ぎを狙って来る。すると叢雲は尻尾で大鎌を弾き飛ばしてしまう。そして両手のドラゴンクローを使った分、叢雲は大剣を弾くことに成功すると大剣持ちのアバドンの頭を掴んで大鎌持ちのアドバンに向けて投げつけた。
そして両手を上に上げて星核を作り上げると落下しているアバドンたちの目の前に叢雲は現れて、ゼロ距離で星核をぶつけて、アバドン二体は地面に落下して大爆発が発生する。そしてその場所に向かって叢雲のドラゴンブレスから死滅光線の拡散光線が降り注いだ。
だが、これで倒せる相手じゃない。そんなことは叢雲も分かっており、攻める手を緩めない。両手に黒星と星核を作り出し、連続で投げまくり、最後は冥撃で倒しきってしまった。魔力無限と無限連撃を組み合わせたとんでもない大技ラッシュ攻撃。これが可能になるのが無限属性の怖い所だよな。
しかも叢雲の怖い所はこれだけじゃない。今の戦闘でもちろんアバドンたちのフォローに動こうとしていたメフィストフェレスや魔法使いタイプの魔神たちがいたのだが、全員次元歪曲と次元圧縮に捕まって、フォローに動く事を封じられていた。
これも無限連撃があってこそ出来る技だが、アバドンたちを相手にしながら周囲に気を配り、正確に敵を狙うことが出来たのは純粋な叢雲の戦闘センスだと言える。
そしてここで次元封鎖で飛ばしたアバドンが戻って来るが戻って来た瞬間に次元歪曲で体をばらされると次元圧縮で体が消滅させられて、秒で倒されてしまった。
「ひ、怯むなー!」
「所詮ドラゴン一体だ! 全員であいつを倒せば何も問題はない!」
強い敵に対して数で勝つ。その判断は普通なら正しい。しかしこのゲームでそれをするのは大変なんだよ。
叢雲に集まった敵が叢雲の威圧を受けて、叢雲より弱い敵は全員、地面に膝をつく。ゴブリンの中には恐怖の状態異常になり、手から武器を堕としてしまう者が現れる程だ。この現象は他の戦場でももちろん発生している。威圧や重圧は集団戦では本当にとんでもない威力を発揮するスキルなんだよな。
そしてそんな彼らに天変地異が襲い掛かり、叢雲がいる戦場の敵は壊滅するのだった。
一方セフォネと月輝夜がいる戦場ではセフォネが考案した作戦が魔王軍に襲い掛かって来た。最初は無数のブラッティレイドボムの奇襲を受けた魔王軍だが、お構いなしに突撃していく。しかしヴァンパイアたちは魔法で攻撃するのみで魔王軍は数を減らしながらも強引に攻め込む。
十分に敵を引き込んだところで作戦が発動する。
「「「「生物創造!」」」」
戦場にエンシェントドラゴンやバハムート、九頭竜、ラードーン、闇のドラゴニックマウンテンで登場した邪竜たちが戦場に登場した。これはセフォネが生物創造出来る化け物たちだ。セフォネは戦う前に自分が召喚出来る強いモンスターたちを他のヴァンパイアたちに見せていた。これにより生物創造を使える上位のヴァンパイアたちが一斉にモンスターを召喚することで戦場の流れが一気に変わる。
魔王軍からすると真正面からとんでもない威力もブレスや多種多様なブレスが無数に放たれたことで足が止まる。足が止まるとどうなるか。魔王軍の背後に闇転移したヴァンパイアたちがフェンリルを召喚して、モンスターたちに囲まれることになる。
こんなことをされたら、勝負はすでに決しているも同然だが、やはりこの状況でも粘るのがアバドンたちだ。モンスターたちに魔素化や砂化を駆使して強引に接近戦を挑んでパワーで吹っ飛ばすると強引にヴァンパイアたちを殺そうと動いて来た。
「あ…」
「アァアアアアア! ッ!?」
「誰の許可を得てヴァンパイアに攻撃しておるんじゃ?」
若い女性のヴァンパイアに放たれカラミティカリバーを止めたのはなんと俺だった。もちろん俺はフリーティアにいるので、これは俺ではない。シェイプシフトで俺に変身しているセフォネだ。
これに対してアバドンは距離を取るが、俺の速度から逃げられるはずもない。オリジンデスサイズを構えた俺はアバドンの体をバラバラにすると無波動でアバドンを消し飛ばした。
「つ、強い…あ、あの! 助けて下さり、ありがとうございます!」
「う、うむ…」
『不味いのじゃ…タクトに変身すれば最強になれるがタクトに惚れる女が続出してしまうのが弱点じゃな』
セフォネは妻故の悩みを抱える事になるのだった。
一方、月輝夜も強引に城門にいるヴァンパイアたちを狙って来たアバドンたちを魔素の手で捕まえることでアバドンの動きを止めると四対一で戦闘していた。アバドンと月輝夜の筋力だと月輝夜が負ける結果となったので、この戦いは非常に厳しい物になるかと思うが、月輝夜は魔素の手で増えた四本の腕と剣術と体術、爆破の魔眼でアバドンたちと互角というか寧ろ押す展開を作り出した。
アバドンたちの連携の悪さはあるが悪いと言うほど悪い物でもない。強いて言うなら同時攻撃はせずに四人が別方向から一人ずつ戦うやり方をしていた。この戦い方をしてくれるなら休憩する時間は取れないが一人ずつ戦えるので、戦闘に余裕は出来る。
最も全く手を出して来ないかと言われるとそうでもない。ちゃんと隙を狙って攻めて来るのがその攻撃に対して月輝夜が魔素の手を操作してカウンターでパンチしたり、蹴りでカウンターを決めているせいでアバドンたちは月輝夜を攻めきれない。
はらからみると簡単に勝てそうな戦闘なんだけど、月輝夜と戦闘を続けたことで月輝夜の戦闘能力に対しての警戒感が強くなったことで同時攻撃とかしていいのか悩むような形となった感じだな。強者との戦闘するとこういう悩みはつきものだ。お互いに意思疎通して作戦を決めることが出来るならいいのだが、残念ながらアバドンたちにはそういう考えはなかった。
自分がこいつを倒すという意識に憑りつかれ、他のアバドンが動くと慌てて自分も動くと言う思考をしてしまった結果、全員が時間差で月輝夜に襲い掛かるという状況が出来上がった。この決定的なチャンスを月輝夜は見逃さない。
月輝夜は一番近いアバドンに神剣イガリマを投げつけると当然アバドンは神剣イガリマを弾くために足を止めて、武器を振るう。その結果、腹に隙が生まれて、月輝夜のデモンクラッシャーが炸裂する。
これを見た次に近い左右のアバドンたちが月輝夜に攻撃を仕掛けるが大振りしたアバドンの懐に月輝夜が潜り込むとそのまま背負い投げして右のアバドンに左のアバドンを投げつける形となった。そして最後に残ったアバドンが攻撃しようした瞬間、左右のアバドンの尻尾の針が地面から現れて、月輝夜の体に迫った。
勝ちを確認したアバドンだったが斬りかかったアバドンは見事に月輝夜のクロスカウンターが炸裂する。この瞬間、左右の地面に倒れているアバドンたちは目にする。月輝夜は針が届く体の部分だけ魔素化して針の攻撃を躱していた。自分の姿を見せていたのは斬りかかって来たアバドンの油断を誘う為だな。
そして月輝夜は自分を指そうとした尻尾二つを掴むと怪力を発動させて二体のアバドンを振り回すとカウンタークロスでぶっ飛ばしたアバドンに投げつけるとすぐさまレージングルで三体のアバドンを拘束する。
この月輝夜の動きにたいして最初のアバドンが月輝夜に迫って来ていたがそのアバドンに拘束したアバドンたちを見事に叩きつけた。これで四体のアバドンが一か所に集まった。月輝夜は満を持いてオーガラッシュを発動されるとゴッドブレス、神撃と続けて神剣イガリマを手に取ると王撃で吹っ飛ばすと最後は神剣イガリマを地面に刺し、太極波動でアバドンたちを消し飛ばした。
「グォオオオオオ!」
月輝夜の勝利の雄叫びが戦場に響き渡る。流石にこれは大戦果なので喜んでいいだろう。
こうして全ての戦場でおおよその戦況は決した。一応追加のアバドンや魔王軍があったがプレイヤー側は全ての攻撃に対して多少の被害は出したものの防衛には成功という形で午前の戦いは幕を閉じた。その証拠に午前の戦いが終わった知らせのインフォが来る。
『リビナの時空魔法のレベルが80に到達しました。時空魔法【タイムフリーズ】を取得しました』
『リアンの杖のレベルが40に到達しました。杖【マジックブラスト】、【マジックシールド】を取得しました』
『優牙のレベルが30に到達しました。成長が可能です』
『黒鉄のレベルが30に到達しました。成長が可能です』
『伊雪の氷魔法のレベルが80に到達しました。氷魔法【コキュートス】を取得しました』
『伊雪の時空魔法のレベルが80に到達しました。時空魔法【タイムフリーズ】を取得しました』
『クリュスの雷魔法のレベルが80に到達しました。雷魔法【スーパーボルト】を取得しました』
『クリュスの氷魔法のレベルが80に到達しました。氷魔法【コキュートス】を取得しました』
『月輝夜のレベルが50に到達しました。成長が可能です』
『夕凪のレベルが40に到達しました。成長が可能です』
『リースのレベルが50に到達しました。成長が可能です』
『リースの空間歪曲のレベルが30に到達しました。空間歪曲の最大数が1増加しました』
『リースの連続詠唱のレベルが50に到達しました。連続詠唱の最大数が1増加しました』
『リースの連続詠唱のレベルが上限に到達しました』
『リースの疾魔法のレベルが40に到達しました。疾魔法【オキシゲンロスト】を取得しました』
『リースの神聖魔法のレベルが40に到達しました。神聖魔法【アルティメットブレス】を取得しました』
『リースの時空魔法のレベルが80に到達しました。時空魔法【タイムフリーズ】を取得しました』
『リースのルーン魔術のレベルが40に到達しました。ルーン魔術【剣のルーン】、【盾のルーン】を取得しました』
成長は昼食を食べてからにするとしよう。そんなわけで俺は頑張ったリリーたちを褒めて一度ログアウトすることにした。午後からはいよいよサタンの軍勢から町を守りながらルキフグスがいる暗黒大陸の中央都市攻略が始まる。やり直しが効かない一発勝負だ。しっかり休息も取りながら油断せずに攻略を進めていくとしよう。




