#157 アスタロト攻防戦
アスタロトとアスタロトドラゴンが迎撃ポイントに近づくとアスタロトが指を差し出し、黒い光が迎撃ポイントを一閃。迎撃ポイントが大爆発してしまう。
罠を排除したアスタロトとアスタロトドラゴンはトリスタンたちに攻撃を加えようとした瞬間、張りめぐられた糸で進行を妨害される。アラネアの硬糸を使ったワイヤートラップだ。
罠に引っかかったので、孤子、ルーナが幻術を解除する。
これが俺の考えた作戦。目視で罠を狙うなら目を騙すまでだ。結果アスタロトは見事に罠にはまってくれた。無理矢理破ろうとするが俺たちと農家の人たちでグロウで成長させた大樹にたくさんの硬糸が固定されている。そう簡単には破れない。
そして糸に絡まったアスタロトたちの動きが止まる。
「ルインさん、今です!」
『了解よ』
----------第二拠点----------
カタパルト数台が設置されている第二拠点でルインはタクトから連絡を貰い、ユグさんに攻撃の命令を下す。
「ユグ!」
「攻撃指示が出たよ! みんな! 火を点けて!」
料理で火魔法を取得した生産職たちがウールを巻いた巨大な岩に火を点ける。ウールは燃えやすい素材なので一気に巨大な岩が燃え上がる。ユウナさんとハルさんが代表してユグさんに告げる。
「「準備完了!」」
「了解! さて、ボスに生産職の恐ろしさを教えてあげよう! カタパルト、発射!」
男性プレイヤー全員が何故か自分の名前を叫びながら「行きまーす!」と言い、糸を離すと燃えている巨大な岩がボス目掛けて飛んでいった。
「何、やってるのよ…」
「仕方ないだろ? 日本男子はカタパルトを使うときはこう言うのが伝統なんだからよ」
「それは電磁カタパルトでしょうが!」
『カタパルトはカタパルトです!』
譲れない男性生産職たちに頭を抱えるルインさんだった。
「分かったから早く次の準備をして!」
「報告! カタパルト、全弾命中! アスタロト及びアスタロトドラゴン、地上に落下! 全プレイヤーの総攻撃が開始されました!」
「狙い通りね…私たちもここでポイントをしっかり稼ぐわよ!」
『おぉ!』
生産職の士気は非常に高く、すぐに第2射の準備に入った。
----------迎撃ポイント----------
アスタロトたちの墜落した現場ではプレイヤーたちが総攻撃を開始した。
「弓術師隊、総員、放てー!」
「魔法使い隊、総員、放てー!」
無数の矢と無数の魔法が倒れているアスタロトたちに降り注ぐ。
「今だよ! みんな! 突撃!」
「モフモフ軍団、突撃!」
「いくぜ! お前ら! ポイントゲットだ!」
「全員、突撃です!」
メルたち近距離職が一斉に襲い掛かり、チロル率いる獣部隊と烈風率いるテイムモンスター部隊も一斉に各召喚師、猛獣使いの指示でボスに噛み付く。
俺もグレイたちに指示を出し、グレイをリーダーに虎撤、チェス、ゲイル、白夜、優牙、サビク、狐子、エアリー、ルート、セグロ、レクスが襲い掛かる。
チェスとセグロがここにいるのはイオンのスピードに誰もついて行けなかったからだ。ルークはゴブリンたちの指示出しに忙しそうだ。
シフォンたちも参加しているわけだが、先ほどのカタパルトの攻撃を思い返していた。
「流石に怖かったね…」
「せ…じゃない。タクトやルインさん。絶対ボスに当たった後の岩のことなんて考えてなかったでしょ」
ボスに当たった岩は当然砕けて落下するわけだ。そう下にいる自分たちに向かって。プレイヤーへの攻撃は無効になるが流石に巨大な岩が自分たちに向かって落ちてくる様は寿命が縮むことだろう。
「休み明けの学校で絶対文句言ってやる」
「そうだね。ところで…」
シフォンが視線を向ける。そこにはアスタロトに群がる男性プレイヤーたち…正確には彼らが目指しているものは。
「アスタロトたんのピーは俺のもんだ!」
「いや、俺だ!」
「一番乗りはもらった~!」
『させるかぁ! うおぉぉぉ!!』
彼らが目指しているのはアスタロトの胸だ。卑猥な言葉を連呼し、あちこちでピー音が発生している。カオスな戦場となっていた。当然その中にはアーレイの姿があるわけだ。
しかしそんなことこのゲームは許しはしない。胸に到達する前に彼らの足がアスタロトの体に沈んでいく。必死に助けを叫ぶが、彼らを助ける人はいなかった。
「…アーレイのやつは現実でも死刑ね」
「うん…流石に弁解の余地ないかな?」
夢を求める男たちの死刑は静かに決定したのだった。
プレイヤーたちがお楽しみ中、俺は少し離れた場所で戦いを見守っているとそこでリキュールに乗ったトリスタンさんが帰ってきた。
「任務、お疲れ様です」
「お陰様でね…リキュールちゃんには凄く助かったわ。いっぱい褒めてあげて」
確かにリキュールを含めて、これまで皆頑張ったからな。ご褒美も上げないとな。
「リキュール、お疲れ様。頑張ったんだってな? 後でちゃんとご褒美用意するから今はゆっくり休んでくれ」
リキュールの目が光った気がした。まぁ、リキュールの期待にはしっかり応えてやろう。そこでリリーたちが自分たちにもご褒美があるか確認してくる。
当然と答えるが最後の戦いの結果次第で報酬が変わることを伝えると全員に火がつく。
「大変そうね」
トリスタンさんにそう言われながら笑われたのだった。もう馴れましたよ…
そして戦場で変化が訪れる。
アスタロトの目が怪しく光るとアスタロトは力付くで硬糸を引きちぎる。
「ワイヤーが!? みんな! 下がって!」
「全員、退避だよ!」
「早く逃げろ! 死に戻るとマイナスだぞ!」
プレイヤーと召喚獣たちが慌てて逃げ出す。
「撤退を援護します! 総員、構え! 放て!」
「弓の後に魔法をぶつけるよ! 今だ! 撃て!」
弓矢と魔法の波状攻撃をするがアスタロトはうざったそうにするだけだ。
しかしこちらもルインさんからカタパルトの準備が出来たと報告を受ける。俺はトリスタンさんにカタパルトの準備が出来た合図を出してもらう。トリスタンさんが上空に矢を放つ。
「カタパルトの合図です! 発射までの時間を稼ぎます! 全員、可能な限り矢を撃ち続けてください!」
「こっちもです! 撃ちまくって、時間を稼ぎます!」
『了解!』
与一さんとレッカの部隊は見事に時間を稼いだ。そしてカタパルトの第二射が飛んでくる。
だがアスタロトドラゴンが息を吸い込み、ドラゴンの代名詞とも言えるドラゴンブレスを放つ。
赤褐色の閃光が飛来する岩に直撃し、空中で爆散する。
「なんて出鱈目な火力だよ…」
「チートすぎるだろ…」
その光景に絶句して立ち止まってしまうプレイヤーたち。
そんな中、第二拠点にいるルインさんは直ぐに決断する。
「全員、拠点を放棄して撤退! ここは直ぐに狙われるわ! 急いで!」
『は、はい!』
生産職が撤退する中、迎撃ポイントではアスタロトは片手を天に掲げると上空に巨大な魔方陣が描かれる。
「大魔法だ! 逃げろ!」
プレイヤーたちが慌てている中、アルさんは冷静だった。
「サウンドバット部隊! 妨害です!」
サウンドバットたちが超音波を発生させ、大魔法の発動を妨害する。
それを見たアスタロトはサウンドバットたちを狙う。
しかし余所見をしたアスタロトに勢いよく飛んできた岩が直撃する。
倒れはしなかったがアスタロトは犯人を睨む。アスタロトの視線の先には巨大な岩を持っている黒鉄がいた。
今まで使ったことはなかったが黒鉄は投擲で物を投げれるのだよ。
そして黒鉄がもう一発投げるより早く、アスタロトの指から光線が黒鉄に向けて放たれる。
だがその光線はライトシールドにぶち当たる。ロボの時に黒鉄は真っ先に狙われたからな。ビームは対策済みだ!
黒鉄が岩を投げつける。だがアスタロトドラゴンが立ち上がり、爪で岩を破壊する。
「ちっ! 邪魔だな。あのドラゴン」
黒鉄の岩は品切れだ。なら近接戦するしかない!
黒鉄がアスタロトに向けて歩き出す。そんな黒鉄にアスタロトは指を向ける。
しかしそんなアスタロトに上空から何かが落ちてくる。スライムだった。
「空爆成功です! ひよこ隊長!」
「やりましたよ! ひよこ隊長!」
「わたしの案じゃないんですけどね…」
この案は一部男性プレイヤーの熱烈な要望で実現した。スライムたちはくっつかないと意味ないから作戦自体は有効なのだが、絵面がやばいな。
アスタロトが叫ぶとアスタロトの体から赤雷が走り、スライム部隊は全滅した。
うん…怒って当然だよな。
そしてアスタロトの狙いが再び黒鉄に向くが、強制的に狙いが変わる。満月さんたちだ。
「来るぞ!」
『来いやー!』
アスタロトがアスタロトドラゴンに合図を出すとアスタロトドラゴンが叫び、赤褐色のオーラを纏い、満月たちに突進した!
「引くなよ! 俺たちには新技がある! あいつに俺たちの衝撃を返すぞ!」
『おう!』
アスタロトドラゴンの突進が満月たちの盾に当たる。
「今だ!」
『カウンターインパクト!』
アスタロトドラゴンの突進の衝撃がそっくりアスタロトドラゴンに返される。自分の突進の衝撃をもろに受けたアスタロトドラゴンはひっくり返り、アスタロトドラゴンに乗っていたアスタロトも倒れる。
「今でござる! 皆のもの! 忍法、粘着糸の術!」
そんな忍法はない。アラネアが作った粘糸をアスタロトにかけているだけだ。
アラネアと他のスパイダー、キャタピラーも参加する。
糸で再び拘束しようとするがアスタロトはうざったそうにするだけだ。やはり粘糸では無理か。
「こうなれば皆の衆、奥の手でござる!」
『承知!』
火影たちが印を結ぶ。
「行くぞ! 忍法、火遁の術!」
「忍法、水遁の術!」
「忍法、土遁の術!」
「忍法、雷遁の術!」
「忍法、風遁の術!」
火影から口からマッチの火のようなものが出る。風影からはそよ風、土影からは小石、水影からは水滴、雷影からは静電気が発生する。
『……え?』
アスタロトに再度攻撃するために集まっていたプレイヤーたちやその場にいた盗賊たち、挙句の果てに召喚獣やテイムモンスターまで動きが止まり、静寂が流れた。
何?今の弱い忍術…忍術ってあんなんなの?
アスタロトが土影をぶん殴る。
『土影~!!!』
アスタロトに時間を与えたのは不味かった。アスタロトが再び起き上がろうとする。
「ワオーン!」
そうはさせないためにグレイが咆哮でアスタロトのバランスを崩すがグレイがアスタロトに捕まる。
だがグレイは鉄壁で防御を固め、不屈の闘志でアスタロトに爪を立て、噛み付き、最後まで抵抗する。
虎撤たちもアスタロトドラゴンに殺到する。だがグレイは地面に叩きつけられ、倒される。更にアスタロトは叫び、赤雷が虎撤たちを襲う。
チロルたちは撤退の指示を出したが虎撤たちは最後まで噛みつき続けた。まるでグレイが見せた不屈の闘志に自分たちも答えようとしたみたいだった。
グレイたちの稼いだ時間を無駄にしないために黒鉄が格闘戦を挑むが黒鉄の拳はアスタロトに止められ、拳を砕かれる。更にアスタロトドラゴンの強烈な尻尾の一撃が黒鉄に直撃し、黒鉄は吹っ飛び倒される。
。
「ダメ! もう攻撃できそうにない!」
「口惜しいが仕方無い。全員撤退だ!」
メルと満月が撤退を決断する。俺もリターンで古の湖に戻る。グレイたちの覚悟に応えないといけない。
プレイヤーたちが逃げ出す中、上空からアルさんの指示でコノハたちがアスタロトに襲いかかる。
それに対してアスタロトはアスタロトドラゴンのドラゴンブレスをコノハたちに向けて放つ。何体も被害は出たがコノハたちは回避して、掴んでいた物をアスタロトの顔に当てる。
するとアスタロトの顔が燃え上がる。コノハたちが持っていたものは錬金術師たちが錬金術で作った油だ。石油やガソリンではなく、ただの油で食用でも無いものだが、俺が渡した布切れを使って、火炎瓶擬きを作ったのだ。
顔を焼かれ、怒るアスタロトは両手を構えると黒い光がアスタロトに集まり、黒い光球を作られる。
そしてそれは解放された。無数の闇の閃光が空を飛ぶ召喚獣たちに襲いかかった。
コノハたちは必死に回避するが、黒い閃光は追尾し、コノハ、ひより、ひまりたちは黒い閃光が直撃して倒される。それでも回避しながら、羽投擲、風魔法で攻撃を加えていた。
黒い閃光はカタパルトにも降り注ぎ、拠点はボロボロにされる。しかしルインさんの判断のおかげでプレイヤーの被害は出なかった。
攻撃が収まったアスタロトに稲光が直撃する。稲光は筏に乗る俺が放ったものだ。
アスタロトたちと俺たちが対峙する。
こうして俺たちのこのイベント、最後の戦いが始まった。