#1474 魔神バラム戦
最初に仕掛けたのは三体の俺のドラゴンたちだ。三体同時のドラゴンブレスを魔神バラムに向けて放つ。これに対してまたしてもバラムフォーチューンが発動される。
「お前たちのドラゴンブレスは外れる」
魔神バラムがそういうと三体のドラゴンの攻撃が外れてしまう。しかしその隙をついてみんなが襲い掛かったが魔神バラムの後ろの顔が口を開いた。
「お前たち全員、吹き飛ぶ」
これによってみんなが問答無用で吹き飛ばされた。
「なるほど。バラムフォーチューンを発動されるためには言わないといけない。それが二つの顔になったことで同時命令が可能になったわけか」
「ただでさえ厄介なのに二つの命令に対処しないといけないとなると厄介なことこの上ないな」
みんながどう攻略するか考えようとした時にいち早くダーレーが仕掛けた。
『雲海!』
周囲が雲に包まれて視界が無くなる。これを見たみんなはダーレーの雲海の意図を理解して、みんなに作戦共有する。しかしバラムもダーレーの狙いを理解したようだ。
「馬鹿ではないな。我の視界を奪って命令を遅らせるつもりか」
今までバラムはみんなの姿が見えている状態で命令を口にしていた。これだと確かに命令する側は状況を見ることが出来るので、適切な命令を出しやすかった。しかし視界が閉ざされると攻撃の種類、攻撃を仕掛けて来る人数などがギリギリまで分からない。命令をする側はやりにくくなるとダーレーは考えたのだ。
「ふん…ならば爆風波!」
魔神バラムは魔剣をぶん回して爆風波で雲海を吹き飛ばすと既にみんなが仕掛けて来ていた。これに対して魔神バラムは距離を取って魔剣を構え直し、追撃に出たみんなに応戦すると後ろの顔が命令を口をする。
「お前たち、吹き飛べ」
これでみんなは吹き飛ぶ。しかしここでダーレーが息を吸い込んだ。
『ドラゴンブレス!』
「ぬぅうううん!」
これに対してバラムは魔剣で受け止めた。いい判断だ。ここでダーレーの罠にはまらないのは流石だな。ダーレーは自分の攻撃が外されたら、一気にジークと叢雲、ミカエルたちによる追撃を行おうとしていた。
いくら顔が二つあっても命令を口に出さなければならないという性質上、どうしても時間が掛かる。結局数を使って波状攻撃を繰り返すのが一番の魔神バラムの攻略法だろう。
「せやあああ!」
「どりゃあああ!」
「やぁあああ!」
「おらぁあああ!」
「うざったい!」
マグラスたちの波状攻撃に対して命令で吹き飛ばしながら、追いつかない命令に対しては魔剣を使った剣術と左右の顔から放たれるスキルを使って応戦してきた。このメンバーの波状攻撃に対して応戦できること自体が凄まじい力量といえる。
魔神バラムからすると、ちょっと人間離れした大きさ程度で抑えている所が大きいな。後はやはり四つの顔があるところもみんなの波状攻撃に対処できる大きな要因となっていた。
ただそんな強い魔神バラムだが、攻めに転じられない。その原因の一つが叢雲だ。追撃しようと思ったところで、正確に次元歪曲と次元圧縮が飛んで来て回避を余儀なくされている。そして逃げると与一さんたちの正確な射撃が飛んで来る。
これはバラムフォーチューンで強制的に外させるがうざったい事この上ない。こうなると魔神バラムの狙いはやはり遠距離職ということになる。魔神バラムの姿が消えて、遠距離職たちが狙われるが魔神バラムの目の前に白亜の壁が突然現れる。
「ぬ!?」
魔神バラムは魔剣を叩きつけて直接ジークの体に触れるのを阻止したが、続いてジークのドラゴンクローが迫る。
「お前の攻撃は外れる」
ジークの爪が外れると続いてジークの噛みつき攻撃が来る。
「お前の攻撃は外れる」
これで二回の命令が行われた。ここでジークは地面を蹴ると体当たりを決行した。魔神バラムは魔剣でジークに触れることだけは阻止しているがバラムの玉座があった塔が破壊されて、その奥にルシファーの白い巨塔に魔神バラムを押し付けた。
『おいおい…あの塔壊したら、タクトに怒られるぜ? ジークさん』
「キュ!?」
ジークはそれは不味いという顔をしているがぶっちゃけ中にいる俺たちは全く激突の衝撃を感じなかった。それだけこのルシファーの白い巨塔は丈夫に作られていた。
「…やってくれたな! ドラゴン! 魔剣ペオル! 魔剣解放!」
ジークが離れたことで魔神バラムは飛び出し、魔剣解放を使用した。
「魔剣技! ツル・ペオル!」
魔神バラムから斬撃がジークに放たれる。するとジークの体が袈裟斬りされてしまった。ジークも迎え撃つために防御態勢を取っていた。それなのにジークの体が斬られると言うことは技自体がそういう能力を持っているという事になる。
「キューーー!」
しかし体が斜めに斬られたからと言って止まるジークではない。崩れ落ちる自分の岩をジークは操って、魔神バラムにぶつけようとした。
「お前の攻撃は外れる! ッ!?」
魔神バラムは飛んで来る岩を外させようとしたが、その岩たちが空中で止まる。攻撃が外れるように命令されたなら攻撃自体を止めてやると言うのがジークの回答だ。
「天変地異!」
命令がすかされたので、次に来るのは岩の攻撃だ。これに触れると半減スキルが発動してしまうので、全て破壊するために魔神バラムは天変地異を発動された。
『今、安心したな?』
「ッ!?」
巨大な竜巻の中心にいる魔神バラムに白いドラゴンの爪が突然現れた。捕まると巨大竜巻の外に強引に連れ出され、残っているジークの体にぶつけられた。これで半減スキルが発動する。
ダーレーの仙郷移動を使った奇襲だ。完全に相手の心を読み切った上での見事な奇襲だった。これで魔神バラムは一気に不利な状況に陥った。
「貴様! 魔剣技! ツル・ペオル!」
『霊化!』
ダーレーは霊化で斬撃を躱すと逆に魔神バラムの体に巻き付き、拘束しながら締め付けると急降下する。狙いは床への激突だ。
「離せ!」
『あぁ。離してやるよ』
ダーレーの拘束から逃れることが出来たが、目の前には神威解放を使ったリサがいた。その背後には青い肌に三つの目と四本の手がある女神がいた。そしてリサの拳にはとんでもない破壊の力が宿っている。これはとんでもない女神とリサは契約したな。
「神技! ヒムサ・パラ!」
「お前の攻撃は外れる!」
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
リサの拳のラッシュが放たれるが全部外れる。一つでも当たれば即死だろうな。リサが契約した女神の名前はカーリー。あの破壊神シヴァの妻でカーリーが踊っただけで大地が壊れそうになったことでシヴァが踏みつけにされることで大地を守った話が有名な殺戮と破壊の女神だ。
リサは武御雷と契約しているから速さの次に破壊神の力を求める理屈は理解出来る。ただメルがカーリーと契約したのは意外だ。メルは家族を大切にするからね。危険極まりない女神と契約するとは思えないんだよね。
しかし事実として契約しているならそれだけリサの強くなるという覚悟が強かったという事だろう。後で聞いたところによると、リサが暴走した時は俺が止めるから大丈夫だという話をされました。とんでもない暴れん坊の妹を押し付けないで欲しい。まぁ、そうなったら止めますけども。
サンスクリット語の意味的には暴力の結果という意味になるらしい。カーリーにボコボコに殴られた結果がどうなるかなんて想像したくないね。
そんな拳のラッシュを能力で避けた魔神バラムだが、もう状況は詰んでいる。周囲をミカエルたちとマグラスたちが取り囲んでいた。
「いっくよー! 荷電球!」
「水爆!」
「光球!」
リサの攻撃が終わった瞬間、天使たちが攻撃を仕掛ける。魔神バラムはこれを受ける選択をした。この状況だとどの攻撃を外されるのか選択せざるを得ない。
「「「「エクスカリバー!」」」」
「お前たちの攻撃は外れる!」
続くエクスカリバー持ちのみんなが同時に襲い掛かった。これはみんなが魔神バラムの顔を狙ったので、命令をするためにも外さざる追えない。しかしこうなるとマグラスさんの攻撃がフリーだ。
「英雄技! クー・ポ―・リベルテ!」
マグラスさんから蒼いオーラの特大の斬撃が放たれる。これはローランの英雄技だ。マグラスさんはデュランダルの持ち主としてローランさんに弟子入りして、英雄技を教えて貰った。日本語に略すと自由への一撃といった感じの意味となる。ドイツにおけるローランは自由の象徴になっているらしいので、そこからの技名だと予想される。
「お前の攻げ」
「遅い!」
マグラスさんの一撃は魔神バラムの顔を真っ二つした。
「魔素化!」
魔神バラムは魔素化して自分の体をくっつける。不屈で耐えたな。マグラスさんの斬撃をスキルで躱せれば一番よかったんだろうが流石に激突スキル持ちだから逃げさせてはくれなかった。
そして逃げた魔神バラムだが、空間に捕まる。本当に叢雲のサポートのいやらしさが光っているな。
「お前のスキル全てを解除しろ!」
叢雲のスキルが解除される。しかし叢雲が作り出した時間は無駄にはならない。狙っているのはトリスタンさんだ。神威解放を使うと背後に現れたのは銀髪ロングヘア―の美しい女神だ。トリスタンさんが弓矢を構えると月光の輝きを放つ。
それを感じて魔神バラムはトリスタンさんの方を向く。次の瞬間、トリスタンさんの姿が消えるとトリスタンさんは魔神バラムの頭の上に現れた。
「神技! フェンガーリ・イーオケアイラ!」
トリスタンさんが契約した女神の名前はアルテミス。技を日本語に略すると月光の矢を射かける者という意味になる。流石にゼロ距離射撃されては命令は間に合わない。ただそこから逃がしてくれる敵でもなかった。
「女―!」
「く!?」
トリスタンさんが捕まると魔剣で斬られてしまった。そして追撃に出た魔神バラムだったが、叢雲が次元転移で現れてドラゴンテイルでぶっ飛ばした。そしてドラゴンブレスを放つと魔神バラムに異変が発生する。
ここで魔神バラムが巨大化スキルを使ったのだ。不屈スキルを使うほどの瀕死の状況でこの行動は不可解だ。しかも巨大化した魔神バラムは周囲に魔神波動や冥ブレスをまき散らす理性無き怪物となっていた。これがトリスタンさんが使った神技の効果である暴走の状態異常だ。これでもう命令は口に出来ない。
「GYAAAAA!」
「「「「ッ!?」」」」
しかし暴走状態の魔神バラムは襲い掛かったみんなを拳と尻尾の蛇でみんなをぶっ飛ばした。暴走状態では理性が無くなる。しかしその分、野生の勘とも言える戦闘本能が強化される傾向がある。魔神バラムはプレイヤーたちの殺気を感じ取って、迎撃したんだろう。
そして魔神バラムはここで体を回転させて、みんなに向かって来た。
「止めるぞ!」
「「「「おぉおおおおお! キャッスルランパード! ぐぅううう~! うわぁあああ!?」」」」
重装歩兵たちでも魔神バラムの回転を止めらない。みんなが押しつぶされそうになった時だ。目の前に大蜘蛛になったアラネアが現れて大量の粘着糸を魔神バラムにぶっかけると、自分の回転を止められずに糸を巻き取って、ぐるぐる巻きになると動きが若干遅くなる。
『ナインテイル!』
それを見た狐子の尻尾と月輝夜が伸ばした腕と魔素の手で完全に動きを止めた。それでも口と目からブレスと光線を放つところを見ると凄まじい戦闘本能だと感じたが流石に詰みだな。
みんながスキルを躱しながら魔神バラムに攻撃を叩き込んで、最後はマグラスさんの渾身の一撃で魔神バラムの体は両断されて倒された。
「結構な被害が出ちゃったね…トリスタンさんは大丈夫かな?」
「今、ラファエルが治療しているので大丈夫ですよ」
「ははははは! 派手に斬られたな! ジークさん!」
「キュー!」
ダーレーに笑われて回復しているジークが怒っている。ちゃんと不屈スキルで生き残っているジークは偉いね。みんなが休憩していると自然とみんなの視線が白い巨塔を見る。
「残すはルシファーだけですか…」
「というか玉座があった塔、壊しちゃったけど、どうやって中に入ればいいのかな?」
みんながジークを見るとジークの驚きの声を挙げる。そりゃあ、身体を真っ二つにされたのに仕事を与えられては驚きもするだろう。それを見た叢雲がやれやれといった様子でみんなの回復が終わってから白い巨塔に運ぶことになるのだった。




