#1470 クロケルとムルムル戦
俺たちがルシファーと話している時にシルファーの城の中ではみんなが激闘を繰り広げていた。まずは一階ではクロケルとブルーフリーダムのメンバーとラファエルが戦闘をしている。
「はぁ!」
「どりゃ!」
「せい!」
「そこ!」
ブルーフリーダムのリーダーが斬撃を放つとそれを躱したクロケルだが、続く戦斧使いが襲い掛かって、リーダーをフォローすると逃げたクロケルに槍使いが追撃に出て、それを逃げた先を狙撃手ちゃんが狙い撃つ。
「堕天使技! クロケルマジック!」
しかし撃たれたクロケルの姿が水になるとラファエルも水に包まれる。するとクロケルとラファエルの位置が入れ替わり、ラファエルが撃たれてしまう。しかしラファエルも察知して、攻撃を躱すがホッとした狙撃手ちゃんがクロケルに襲われる。
「う…」
「堕天使技! フォールンダイブ!」
「カラミティカリバー!」
狙撃手ちゃんに追撃しようとしたクロケルだったが、ここでミランダがちょうど帰って来るタイミングに重なり援護に入った。狙撃手ちゃんの状況が見えていなかったが、ダイブ技の使用を見たことで誰かがピンチな状況であることと、カウンターが確実に決まることを瞬時に判断したミランダの神プレイだ。
ラファエルは水の魔法使いタイプの天使だ。遠距離戦闘がメインの彼女は自然と遠距離戦闘職の人と距離が近くなる。ただこれはラファエルだけの問題ではない。他の遠距離職でもこの入れ替えの技は有効だと考えるが大部屋という広くはあるが限られた空間では遠距離職同士の距離を取ることは不可能だ。
「おのれ!」
「天雨!」
「大海壁!」
ラファエルがぶっ飛ばされたクロケルに追撃に出ると水の壁に阻まれる。それを予期していたブルーフリーダムのリーダーがクロケルの背後を取り剣を振ったが逃げられ、その後のブルーフリーダムの追撃は逆にカウンターで足を掴まれて投げ飛ばされてしまう。
その後もこちらが優勢で数も圧倒的なのにクロケルに全てカウンターを喰らうという明らかな異常事態に陥った。そしてラファエルがこの現象にあることに気が付いた。
「クロケル…あなた…」
「気付きましたか? ラファエル様。あなたも未来を見る力を主より与えられておりますが私もルシファー様から力を与えられ、今ではあなたを超える未来の力を手にしたんですよ! あなたたちに勝ち目はありません! 決められた未来から逃げる事は不可能です!」
「ラファエルさん…あいつの能力って?」
「未来予知と予知無効です。これでこちらの予知系のスキルが封じられて、自分だけが未来を見る事でこちらの全ての攻撃に対して彼はカウンターをしています」
ラファエルは予知無効は持っていない。ルシファーがラファエルにぶつけるのに選んだだけはある堕天使だな。
「そのことを証明いたしましょう! 大洪水! 大瀑布!」
城の一階が一気に浸水していく。このままだと水中で呼吸する手段がない騎士NPCたちや英雄たちが死んでしまう。しかもこの様子なら水中戦闘に相当な自信があるみたいだ。しかしクロケルは未来が見えているのにも関わらずブルーフリーダムのリーダーの逆鱗に触れることを言ってしまったことに気が付いていない。
ブルーフリーダムのリーダーが新たなオリハルコンの剣を取り出した。それは柄の部分が時計になっている不思議な剣で時計の中央には宇宙の輝きを放つ神石が装着されていた。
「あなたのその言葉だけは認める訳には行きませんね! 入院してこのまま終わるかも知れない未来を変えてくれたのがこのゲームです! 勝負は! 未来は! 諦めなければいくらでもひっくり返せると僕たちに教えてくれたのがタクトさんです! 彼を尊敬する者としてあなただけには負けれない!」
「ならば私に勝って見せるがいい!」
「言われなくとも! 神威解放!」
ブルーフリーダムのリーダーの剣から時空の力が解放されて、老人姿の神が現れた。その神が言う。
『未来の力を得た堕天使よ。己の未熟さを知るがいい』
「神技! クロノスイレイザー!」
ブルーフリーダムのリーダーが選んだ神の一体は俺のクロノスクロックの持ち主であるギリシャ神話の時空神クロノスだった。クロノスの実力はギリシャ神話の中ではトップクラスだ。何せ父親であり、最初の神々の王であるウラノスを神の座から落としたのがクロノスだ。このゲームでも相当な実力者だったが、ブルーフリーダムのリーダーは時空対策をした上で持ち前の反射神経の高さを使ってクロノスの試練に勝利したのだった。
そのクロノスの必殺技が放たれた。次の瞬間、クロケルが何かをする前にクロケルの首が斬られる。
「え、液状化! な、何が起きた!?」
クロケルは不屈で命をギリギリで止めて、液状化で逃げると同時に自分の首をくっつけるが何が起きたのか全く把握できていない。ただクロケルは一つだけ理解したことがある。自分が未来を見るよりも早く首を斬られた。そしてブルーフリーダムのリーダーが言う。
「例え未来が見えても時空を支配された状況であなたに自分の未来を変えることが出来るのか試させてもらうよ! クロノスイレイザー!」
クロケルの首や体が一瞬でバラバラにされてしまう。クロノスイレイザーは時間停止が発生する即死効果付きの暗殺技。一回の斬撃を放つと技の効果が切れてしまう所は難点だが、連続使用すれば敵からすると一瞬で連続斬りを受けた錯覚を起こしてしまう技となっている。
何せ技を使った瞬間に時間が止まるからね。面倒なのはわざわざ斬って技と使ってまた斬るという作業をしないといけないプレイヤーだが、時空対策がされていないと詰むというところでは滅茶苦茶な必殺技と言える。
「ば、馬鹿な!? こんな未来は見ていないぞ!?」
「見る前に一方的に倒されてしまったんですよ。もしこの攻撃の未来が見えたとしても対処不可能な攻撃でしょうね。彼に時空神の力を使わせた段階であなたの未来は決まっていたようです」
「ラ、ラファエル!?」
「人間が罪の償いが出来るようにわたくしたちもわたくしたちの罪の償いをしましょう。エンジェルノヴァ!」
最後はラファエルに止めの一撃を譲って勝負ありだったが水は危険な水位まで上がっており、特に重い鎧を装備している重装歩兵やレギオンに憑りつかれている奴隷たちは既に溺れている者がでていた。
「旅人たちにラファエルの祝福を授けましょう! 天使魔法! ガーディアンラファエル!」
その状況を見て、ラファエルが自分の天使魔法を発動させた。すると全員の背後にラファエルの姿をした水が現れると一人一人を天使の羽で包み込む。するとレギオンたちは憑依が強制解除されて浄化される。更にみんながシャボン玉の中に入っている状況になると押し寄せる水流や水圧が無効化された上に水中での呼吸が出来るようになった。
ラファエルは天使たちの中でも回復やバフを担当するサポートタイプの天使だ。ラファエルらしい魔法と言えるだろう。
しかしそれでも泳げない者がおり、水が止まってからみんなは救出のために時間を使う事になるのだった。
一方その頃、二階ではガブリエルとムルムルとの演奏バトルというか騒音バトルが繰り広げられていた。
「この! いい加減にその下手糞の演奏をやめたらどうなのさ!」
「やめるはずが無いでしょう! そもそもあなたのほうが遥かに下手糞ですよ!」
「なんだとー!」
「なんなんですか!」
こんな子供のような喧嘩をしながら騒音を響かせる二人がいる戦場でゾンビたちと戦う事になった満月さんたちには同情を禁じ得ない。
「そもそもあのパイプオルガンはなんなのさ! 君、オルガンなんて弾けないじゃん!」
「弾けます~。あなたと一緒にしないで欲しいですね?」
「嘘つけ! それにボクはオルガンぐらい余裕で弾けます~。音楽の大天使を舐めないでくれないかな?」
「それこそ嘘ではないですか! いつもラッパしか使わないではありませんか!」
こんな調子でずっと演奏バトルを繰り広げてはいるが勝負はついていない。しかしこうなると戦っている満月さんたちのほうで動きが発生する。
「英雄技! シャドーランスメイデン!」
レイジさんが槍を地面に突き刺すと敵の影から無数の槍が飛び出して敵をめった刺しにした。これはオイフェが放つ英雄技だ。どうしてレイジさんがオイフェの英雄技を取得しているかは察して欲しい。
「おっしゃ! こっちは倒したで!」
「聖剣技! エクスカリバーストリーム! こちらも倒しました!」
風使いの騎士さんは風のエクスカリバーで敵を吹き飛ばして勝負を決めた。しかしそんな彼らにゾンビたちが群がって来る。雑魚にやられる彼らではないが突破には時間が掛かってしまう。それだけ相手のゾンビの雑魚では無かった。
しかしこうなるとムルムルも自分に攻撃が集中されることを考えないといけないので、突然演奏バトルを止めて、ガブリエルを蹴り飛ばした。
「く…不意打ち…でも音楽をやめたっていうことはボクの勝ちだね!」
「好きなだけ言っているといい! あなたたちに聞かせて上げますよ! ルシファーの音楽を!」
「ッ!? まずい!」
ムルムルが向かったのはパイプオルガンだ。ガブリエルやみんなが阻止しようと動くがゾンビたちが群がり、妨害される。
「不味いな」
そんな中、満月さんはオリハルコンで作られた大盾を取り出した。その盾はエメラルドの輝きを放ち、中央には緑の神石が埋め込まれていた。
そしてムルムルがパイプオルガンに座る。
「堕天使技! ラ・デヴィナ・コメディア!」
ラ・デヴィナ・コメディアはイタリア語でダンテ・アリギエーリの代表作として知られており、日本では神曲というタイトルでなじみ深い長編叙事詩だ。この叙事詩の中で地獄編、煉獄編という所があり、そこでルシファーが登場している。
ムルムルが奏でている音楽はまさにそこの部分の音楽だった。そしてこの音楽の効果がみんなに発生する。
「「「「あぁあああああ~!?」」」」
ラ・デヴィナ・コメディアの効果はバフ効果の全解除、無効スキルの無効化だった。これによってムルムルの音楽と言う名の騒音がみんなの耳に直撃して、みんなが倒れ込む。
「ははははは! 愉快! 実に愉快! この私が奏でる音楽こそが最強だ!」
「ふん。そんな音楽で最強を名乗れるなら俺たちは誰も苦労しないな」
「ッ!?」
そんな音楽が響く戦場で満月さんだけは平気で立っていた。というかバフ効果も満月さんだけ解除されていない。
「馬鹿な!? 人間がどうしてこの音楽に耐えられる!?」
「俺が契約した大地母神の力だ」
「大地母神の力だと!? 馬鹿な! 大地母神では私の音楽に耐えられるはずがない!」
「お前の言う通り、普通の大地母神では無理だろうな。しかし俺が契約した大地母神は普通の大地母神じゃない。お前に見せてやる! 俺が契約した神の力をな! 神威解放!」
満月さんの背後に緑の輝きを放つ女性の女神が現れた。彼女の名はダヌ。ケルト神話に登場する大地母神だ。彼女は満月さんが言うように普通の大地母神じゃない。一番近い大地母神だとイザナミになるだろうか?
満月さんに宿っている大地母神の力を見たムルムルは理解する。
「その力!? まさか破壊の力か!?」
「そうだ。俺が獲得したダヌの加護は自分に向けて発動したあらゆる効果を破壊する力を持っている。使える数に限りはあるがこれで俺はデバフ攻撃に対しての防御を獲得することができた。そして!」
ダヌも優しい神ではない。豊穣の女神でありながら戦いと破壊の女神でもあった。満月さんからしたら、こんな美味しい神は中々いない。大地母神としての防御能力と破壊の力を同時に手に入れるわけだからね。もちろん契約するためにウィザードオーブとパラディンロードの国境まで行って、その上で大地母神でありながら破壊神であるダヌと戦わないといけないわけだから大変に決まっている。
そんな苦労をした満月さんが大盾を構える。
「神技! アナ・スイフト!」
「はや!?」
満月さんのとんでもない速度のタックルが使用される。その射線上にいるゾンビたちを一瞬で肉片に変えてムルムルとパイプオルガンに突進が炸裂するとパイプオルガンは粉々になり、演奏していたムルムルは回避出来ずにパイプオルガンの奧の壁に大盾ごと押し潰された。
大地母神、破壊神の力を持っている重装歩兵で目視が困難な速度での突進技。単純だけどそれ故に凶悪な技だな。
「悪いが仕留めさせて貰うぞ?」
「う…うん…お願い。流石に耳がやられて動けそうにないや。あぁ…これ…絶対に後でミカエルたちに何か言われちゃうよ~」
ガブリエルがそういうと満月さんは自分の槍でムルムルを貫いて、倒した。
こちらの戦場では三半規管のダメージでみんな暫く動けなかったが、ラファエルたちが来たことでみんなを回復させてもらえた。こうして一階の人たちと共に三階に向かうのだった。




