#1469 死んだ母との会話
ルシファーが俺たちのところに歩いて来るとリリーたちが警戒する。しかし俺は前に出て、指示を出す。
「ブラン。ウリエルを頼む。不屈スキルでギリギリ耐えているはずだ」
「え…あ!」
俺に言われてブランがウリエルを見るとウリエルの手が一瞬動いたのを確認した。しかしルシファーを目の前にして行くべきかブランは悩む。そんなブランに俺は言う。
「ルシファーの気が変われば大切な憧れている先輩を失う事になっちゃうぞ。俺はそれで後悔するブランを見たくない。だから行って治療するんだ。俺はやられたりしないからさ」
「わかりました。行ってきます! 皆さん、少しの間だけ主をお願いします!」
「任せてください!」
恋火が自信満々に答えるが俺にはルシファーが何を考えているかよくわかる。最後の攻防でウリエルは雷を不屈で強引に耐えていた。その時のルシファーの攻撃速度が不自然に遅かった。攻撃の間隔も上手く調整していたようだけど、明らかに最初に雷雲を使った攻撃より遅く攻撃していた。何よりルシファーならウリエルの突撃に対して真っ向勝負をする理由が無い。
あそこの攻防はルシファーが逃げ続けて、ウリエルが雷に打たれ続けて力尽きて終わっていた勝負だった。そこを上手く調節して、不屈スキルを一回残して状態で自分に攻撃を決めさせたのは偶然とは流石に言えない。
母さんは優しい人で母さんの本音は先程聞いたから断言できる。母さんは息子の前でウリエルを倒す事は出来ない。息子の前で例えNPCだとしても母親が人殺しをするところを見せたくはないはずだ。
「恋火、みんな。少し下がっていてくれ」
「え!? で、でも」
「ルシファーはさっき言っただろう? ここからは俺たちとルシファーの時間だ。まずは俺と話をさせてくれ」
「わ、わかりました」
みんなが俺から下がると俺とルシファーは双方近付いていく。そして近距離になるとルシファーが動いた。みんなが慌てて構えるがルシファーが取った行動は俺を抱きしめることだった。そして抱きしめる瞬間にルシファーの目には涙が浮かんでいた。
「本当に…本当に…誠吾なんですね?」
「そうだよ。母さん」
「こんなに大きく逞しくなって…ごめんね。あなたを一人にして…ずっとずっと謝りたかったんです」
「母さんも苦しんでいたんだね…俺も一杯苦しんで苦労して来たけど、もう大丈夫だよ。爺ちゃんや婆ちゃんに近衛家のみんな。学校の友達にバイトで出会った先輩たち…本当に色んな人に助けられながら生きて来た。今は父さんと母さんの分まで生きないといけないと思っている。だから謝らないでほしい。寧ろ俺ともう一度会う為にたくさん頑張ってくれてありがとう」
「うぅ…ありがとう。誠吾。あぁ…もう! 本当に立派で優しい男の子になって! 本当に良かった!」
ルシファーが安堵の顔に染まる。そりゃあ、親からしたら、ずっとあっていない子供がどんな風な子供になっているか分からないからな。恐らく色々聞いていたと思うがそれでもやっぱり直接会って会話しないと本当の安心も確信も得られはしない。
俺たちの様子にリリーたちが恐る恐る聞いて来る。
「えーっと…?」
「話には聞いてましたけど、戦わなくていいんですか?」
「あなたたちがサタンの聖戦を止めたいなら私といずれ戦う事になりますね。誠吾は全部聞いているんですよね?」
「うん。全部聞いた。その上で俺はリリーたちを…この世界を守ることにしたよ」
俺の答えにルシファーは優しい笑みを浮かべた。
「誠吾なら必ずその選択をすると思ってましたよ。ただその選択は上手く行ったとしても危険を伴いますけど、それでもいいんですね?」
「うん…俺は父さんと母さんに勝って、父さんの技術を継承する。技術を消す事も出来るだろうけど、リリーたちを死なせたくはない。時間はかかるかもしれないし、危険なことかも知れないけどさ。俺は必ずリリーたちと再会するよ。そうリリーたちと約束したから」
「そうですか。男が女に約束したからには守らないといけませんよ?」
「もちろん」
俺が自信満々でそう答えるとルシファーは笑うと結論を言う。
「これで私たちが戦う運命にあることは決まりました。ですけど、今すぐ戦わないといけないというわけでもありません。幸い配下の者たちが頑張ってくれているようなので、もう少しだけ会話しても大丈夫でしょう。あなたたちも誠吾の話を聞きたかったから聞いてもいいんですよ?」
「「「「え!」」」」
目を輝かせないで欲しい。絶対にろくな話じゃないことは分かるぞ。そしてこういう話にすぐ食いつくのはアリナである。
「はい! お兄様の面白い話を聞きたいの!」
「誠吾の面白い話ですか…そうですね…面白いかどうかわかりませんけど、誠吾は幼稚園…そうですね。子供たちが集まって遊んだりお勉強をする場所があるんですけど、そこから逃げ出して迷子になったことがあるんですよ」
「「「「えぇ~!?」」」」
幼稚園の時の記憶なんてないわ!ん?そういえば何か網目状の柵に足をかけてよじ登った記憶があるな。その後の記憶は飛んでいるけど、警察の人が来てその後に両親が来たような気がする。
この話を聞いたリリーたちは驚いている。どうやら迷子になったところがかなり意外だったみたいだ。この世界だとマップのデータとかあるし、流石に特殊な幻術でも使わらない限りは道には迷わないからな。次はリリーが手を上げる。
「はい! お母さんから見てタクトはどんな子供だったの?」
「優しい子供でしたよ。ただお父さんと同じで自分の中で譲れない気持ちをしっかり持っている子供でしたね。そのせいでよく他の子どもたちと喧嘩してました。その度に親同士で喧嘩することもありましたけど、今では母親をしていた数少ない私の自慢になってますね」
これも少しだけ心当たりがある。俺が遊んでいる時に遊んでいる玩具を取られたり、積み木を壊されて頭に血が登ったことを覚えている。子供同士が喧嘩したら、当然親は気が付いて親同士当然自分の子供の味方をする。その結果、親同士の喧嘩にまで発展するのは想像しやすいな。
そこで母さんはしっかり俺の味方をしてくれていたんだと言うことを初めて知ったよ。流石にこれは嬉しいな。これを聞いたリリーは笑顔で言う。
「へぇ~。子供の頃からタクトの気持ちは変わっていないんだ~」
「おい…それはちょっと引っ掛かるぞ。リリー」
「事実じゃない」
ファリーダにそう言われると何も言い返せない。やはりこの話、俺が不利すぎる。そしてセチアからとんでもない質問が飛び出してしまう。
「タクト様は何か失敗したことってあるんですか?」
「ふふ。子供は一杯失敗するものですよ。勿論誠吾もいっぱい失敗してました。その中でも印象深いのは小学生二年生の時…えーっと…みんなで言うと召喚獣として召喚されるより、まだ一回り小さい時期にお漏らしをしてしまったことがあるんですよ」
「母さん!?」
「「「「タクトがお漏らし!?」」」」
リリーたちは驚愕するがちょっと待って欲しい。子供の頃にお漏らしするエピソードって結構誰にでもあること何じゃないか。ただこの話にはみんなが目を輝かせる。そしてリリーが自慢げに言って来る。
「タクト! タクト! リリーはお漏らししたことないよ!」
そりゃあ、このゲームにはトイレという概念がないからそりゃそうだろうよ!みんなしてドヤ顔をするんじゃありません。その後も少しだけ話は続いたところでようやく時間が来たらしい。
「…どうやらあまり時間が無いみたいです。戦う前にあなたたちに聞きたいことがあります」
「「「「なーにー?」」」」
「誠吾のことが好きですか?」
「「「「大好きです!」」」」
即答するリリーたちの姿を見て、ルシファーが満足げな笑顔を見せた。
「そうですか…それでは母親としてあなたたちの気持ちを確かめさせて貰いますよ」
これにウリエルの回復を終えたブランが答える。
「私と恋火お姉様、和狐お姉様の三人でお相手します」
「いい目ですね。それにしてもこんなにたくさんの女の子を惚れさせるなんてお父さんの子供ですね」
「どういう意味?」
「お父さんもモテモテだったんですよ。学生時代もいっぱいバレンタインのチョコ貰っていたらしいですし、社会人になってからも大学で臨時講師をしていたことがあって、そこで大学生の女の子たちに大人気だったんです。この世界に来てからもアスタロトやレヴィアタンと仲良くしてましたし、配下の女の魔神たちとも仲良くしていたことをルキフグスから聞いています」
今、父さんがルキフグスに詰め寄っている姿が想像出来たぞ。これは聞いたみんなが呆れた様子だ。
「タクトのハーレム属性は父親からの遺伝だったんだね~」
「ほんと罪な属性よね?」
「私もそう思いますけど、みんなが幸せになる道を選んだ主の判断は間違いだとは言いたくないですね」
「「「「それはそう」」」」
リビナとファリーダの言葉に珍しくブランが同意する中、ちゃんとフォローしてくれて、それに対してみんなが同意してくれた。みんなと言うのはちょっと語弊があるんだけどね。俺、サラ姫様フッているから皆を幸せには出来ていないんだよな。
ここで俺はどうしても聞いてみたいことを戦う前に聞くことにした。
「戦う前に一つだけ質問してもいい?」
「いいですよ」
「母さんは父さんのどこが好きになったの?」
俺の質問が滅茶苦茶意外だったのか驚きで目を見開くルシファーだったが次の瞬間には笑顔になって答えてくれる。
「そうね…基本的には優しい性格が好きになったところでした。後はしっかり者なお父さんでしたけど、子供っぽい所があって可愛かったんですよ。特に、モテモテなお父さんでしたけど自分からプロポーズしたのは私が初めてだったらしくて、凄く緊張していた姿が今でもはっきり思い出します」
ギャップ萌えにやられたって感じなのかな?いや、母性をくすぐられた感じになるのか?うーん…よくわからないがリリーたちは違うらしい。
「わかる~!」
「そういうところもお父さんとそっくりなんですね…遺伝ってここまで似るものなんですね」
「私のこの世界で皆さんの冒険を知る度にお父さんの良い所も悪い所も遺伝しちゃったんだな~って思いましたよ。これで回答になりましたか?」
「十分なったよ」
俺は恋火と和狐、ブランを残してリリーたちは入口付近まで移動された。そしてルシファーも俺たちと距離を取る。
「ここからは母親ではなく堕天使の女王ルシファーとして全力であなたたちと戦います。あなたたちの愛が本物であるなら全力を持って、この私に勝って見せて下さい」
「もちろん。俺の…俺たちの成長を母さんに見せつけてあげるから覚悟してくれ。いくぞ! 恋火! 和狐! ブラン!」
「「「はい! マリッジバースト!」」」
降臨するのは神主の衣装を着た狐耳の天使。その翼の数はは五対十枚の翼となっており、純白ではなく宇宙の色を放っている。そして更に狐の尻尾が合計十本となっており、天使の輪っかは宇宙の色に変化していた。そして一番の今までとの違いは俺たちの頭には宇宙の色を放つ竜の角が生まれていた。明らかに創星龍神の影響が色濃く出ているマリッジバーストだ。
「それが創星龍神の力みたいですね…これは私も本気を出さないとすぐにやられてしまいです」
「いくよ? 母さん!」
こうして俺たちとルシファーとの勝負が始まるだった。




