#1467 傲慢堕天女王ルシファー
俺たちは準備を終えてウリエルに声を掛けるとウリエルが扉を開けてくれる。広がった光景は白い巨塔を象徴するような一面白く輝いている地面と壁が特徴的な部屋だった。その中央には階段があり、階段の上には玉座がある。
そこに一人の十枚の黒い翼に髪型はロングで紫色のサイドダウンの堕天使の女性が座っていた。彼女こそのは堕天使の頂点にして、女王である堕天使ルシファー。識別する。
傲慢堕天女王ルシファーLv95
ボスモンスター 討伐対象 アクティブ
その姿を見た俺は過去の母の記憶が思い起こされる。髪の毛の色が変化していても顔の形や髪型は俺がよく知る母そのものだった。そしてルシファーが口を開いた。
「…ここまでよく辿り着きましたね。フリーティアの英雄タクトとその召喚獣たち。それにウリエル」
「ルシファー…」
俺は完全に思考が停止状態だ。声も俺の母のものと全く同じだった。一方でウリエルは拳を握って、双剣を抜くとルシファーに襲い掛かる。自分の母に斬りかかるウリエルの姿に俺はウリエルに攻撃しそうになったが今がルシファーは敵だという脳の思考が入り、思いとどまった。
その結果、ウリエルがルシファーに斬りかかったがルシファーは手を伸ばす。
「魔神バリア」
紫色のバリアが貼られて、ウリエルの斬撃が止められる。神バリアの魔神バージョンか。更にルシファーが仕掛ける。
「大気壁」
「く…!」
大気の壁がぶつけられて、ウリエルは後ろに下がることになった。
「素直で真っ直ぐなところは変わっていないようですね? ウリエル」
「何故ですか! ルシファー! 何故私たちを! 我らが主を裏切ったのですか! あんなにも神に感謝していたではないですか!」
「私がなぜ神を裏切ったかですか…まず根本的な話をしましょうか。私はこの世界の生物で一番神に感謝している存在であり、一番神を憎んでいる存在なのです」
ルシファーのこの言葉に凄い重みを感じた。しかしウリエルにはそれが感じられなかったのかルシファーの言葉に噛みついて行く。
「何を言っているんですか! ルシファー! あなたが神を憎むことなど一度もなかったはずです!」
「そうですね…確かにこの世界ではありませんでしたよ」
ルシファーのこの言葉で俺は全てを察してしまった。俺が両親の死で世界を神を憎んだことが母さんにも起きていたんだ。
「この世界では? それはどういう意味ですか?」
「私はこの世界の別の世界で人間として生きていた存在なのですよ。それが不幸な事故で私は死んでしまいました。しかしその世界の技術で私は死後、この世界にルシファーとして転生することになったのですよ」
「な、何を言っているんですか…それではあなたは彼らと同じ」
「はい。私はそこにいるタクトと同じ世界の住人でした。そしてタクトこそ私がこの世界で悠久の時間の中待ち続けた実の息子なのですよ」
「な!?」
ウリエルが驚いて俺を見る。俺はリリーたちに話していたからそのことは神にも伝わり、ウリエルたちにも話は伝わっている可能性があるとは思っていたがどうやら聞かされていなかったみたいだな。そしてウリエルに向かってルシファーは神に対しての自分の気持ちをぶつける。
「ウリエル、あなたに理解出来ますか? こことは別の世界では子供を授かることは必然ではありません。子供が産むことが出来ない夫婦がたくさんいるのです。そんな世界で愛している夫との子供を産むことが出来た。そのことに神に感謝せずにはいられない。これが私が神に一番感謝している理由です。この世界の生物はみなそれぞれの神から子供を授かっているので、この感謝の気持ちはこの世界で私しか持ちえない気持ちなのですよ」
そりゃあ、ゲームの世界で子供を産むことは不可能だよな。一応このゲームは全年齢対象ゲームだしね。その結果、このゲームでは神というかゲームシステムとゲームの運営によってNPCやモンスターは管理をしている。NPCやモンスターが減れば増やすという作業がリアルタイムで行われているのだ。
だからこのゲームでは自動生成で夫婦や子供が作り出されている。そこに対して神への感謝の気持ちは発生するかもしれないが現実世界と比べると大差が生じるだろう。子供を孕み、お腹の中の子供を一生懸命育て、物凄い激痛の果てに子供を産む。その苦労と奇跡は言葉ではとても語り尽くせないものがあるはずだ。
だからこそルシファーは断言できるのだろう。この世界で神に一番感謝しているのは自分だと。それを聞いたウリエルが叫ぶ。
「で、では! どうして神を憎むのですか!」
このウリエルの言葉にルシファーの感情が爆発する。
「私と夫が死んで、愛すべき息子をまだ小学生と言う幼さで一人にしてしまったからですよ…。ウリエル、あなたに耐えることが出来ますか? 幸せだった時間が一瞬で奪われる絶望! 愛すべき息子に一生会う事が出来ない絶望! 息子を一人にした母としての大罪! これがどれほどのものが想像出来ますか? 出来ないでしょう!」
「ル、ルシファー…」
「これが私が神を憎む理由です。死を悟った時に私は思いました。愛すべき子供を一人にしてしまうくらいなら子供なんて欲しくなかったと…。しかしこの世界に来て、一人にした息子と会うことが出来るかもしれないという新たな希望が見えて、私はそのためにずっと頑張って来ました。神や天使たちの裏切りくらい息子に会う為なら平気でするのが私と言う母親です」
俺と会う為にゲームの世界でルシファーを演じ続ける事を母さんは選んだんだな。俺は母さんの優しい心を知っている。ウリエルの様子からしてもみんなと仲良くしていたはずだ。それを裏切るという行為に対して心を痛めない人間なんかじゃ絶対にない。
父さんもちゃんとフォローしているんだと思うがもししていなかったら、ぼこぼこに殴る程度では済ませることは出来ないな。
「私と言う女が理解出来ましたか? ここからは私と息子の時間です。あなたは邪魔しないでくれますか?」
「…そういうわけにはいきません。私はあなたの親友としてあなたを止める義務があります」
「そうですか。息子との再会の邪魔をするというのならまずあなたから倒す事にしましょう」
ルシファーが指を鳴らすと封鎖が俺たちとウリエルの間に展開されて、俺たちは手出し出来なくなる。
「望むところです!」
こうしてまずルシファーとウリエルの対決が始まるのだった。




