#1465 レバーを下ろせ
俺の情報がみんなに伝わるとそれぞれが動き出す。
一階にいるアーレイたちが言う。
「レバー!? そんなのどこにあるんだよ!」
「それを探さないといけないって話でしょ! ほら! 階段の左右に扉がある! 効率よく探すなら二チームに分けた方がいいわね」
ミランダのこの発言に対してノストラさんが言う。
「いいえ。その必要はないわ。探さないといけないものがこのフィールドにあって、はっきりわかっているなら見つけられる。時間をちょうだい」
ノストラさんの占い師は占いで見つけたいものの位置を見つけられる。非常に便利なスキルだけど、その対象があるフィールドにいないと発動できないところとかそもそも欲しいものがはっきりわかっていないと発動出来ないなど使いにくいところもある。
これは図書館という建物を利用するためだと考えられている。俺はそこまで利用しなかったけど、情報を手に入れるにはいい施設なんだよね。
しかし敵からすると占いを目の前でされて止めないはずがない。
「させませんよ!」
「それはこっちの台詞…だ!」
「邪魔だ! く…!」
クロケルがブルーフリーダムのリーダーを水練刃で弾き飛ばしたがそこでまたブルーフリーダムの狙撃手ちゃんに狙われる。回避に動いたところを他のブルーフリーダムが襲い掛かり、動けない。
「あの占い師を狙いなさい!」
「やらせるかよ!」
「邪魔だー! 人間!」
アーレイが狼のセリアンビーストに襲われ、爪を剣で止めたが連続攻撃に対して防戦一方となる。フリーティアのことを考えると斬れないよな。それに対してフェンリルとビーストエンゲージをしたチロルが彼を殴り飛ばした。
「召喚師~!」
召喚師に対して狼のセリアンビーストが血走った眼で睨みつけて来た。それを見たチロルは目を瞑りながら拳を構えた。
「助けられなくてごめんね…遅くなったけど、今助けるから!」
「うるせ~! 何が助けるだ! 俺たちがこうなったのは全部お前たちのせいだろうが! 狂戦士化! 逆鱗!」
「…ごめん!」
堕天使たちにそういう風に教えられた感じだろう。そして怒りのままに飛び掛かって来たがチロルはカウンターを横腹に決めて、ぶっ飛ばした。
「お、おい…死んでないよな?」
「大丈夫。気絶させただけだよ。スキルは何も使ってない。でも、今はこうするしかない。戦わないと勝てないんだから」
「そ、そうだな…」
チロルたちは俺以上に魔王たちと戦って来たプレイヤーだ。そこで色々学んで精神的に成長したらしい。チロルのこの動きを見て、他の人たちも気絶や状態異常で奴隷たちの無効化していく。いくら訓練されていたとしても軍隊としての練度の差が完全に出て、ノストラさんを守り切った。
「一階は右の扉! 通路に出るから五番目の右の部屋にあるわ!」
「よっしゃ! じゃあ、俺が」
「あんたがサラ姫様から離れてどうするんのよ! 馬鹿! 私が行くわ! 援護して!」
「お、おう!」
ミランダの言い分に何も言い返せないアーレイである。そして他のプレイヤーたちもレバー上げに動く。そんな彼らを援護してくれたのが英雄NPCたちだ。
「彼らの邪魔はさせないよ」
「おら! 雑魚は大人しく寝とけ」
「ここより先は行かせません」
「諦めてくれ。私たちが守る以上、何人も通さない」
ランスロットたちが道を開けてくれるとその裏でクーフーリンが二人の頭を掴んで壁に顔をぶつけている。そしてミランダが通り抜けるとシグルドさんとブリュンヒルデさんが右の扉を封鎖した。
「大海波動!」
「く…! なぜあなたほどの天使が人間と一緒に戦うのか理解出来ませんね!」
「人間の悪い所しか見ていないあなたには理解出来ないでしょうね。彼らを率いている人間はエデンの試練を超えた人間です。主も私たち天使も彼に期待せずにはいられないんですよ」
「っ!? エデンの試練を超えたですって!? 人間が!? そんなことは不可能だ! そもそもエデンに行くためには炎の剣を超えなけばいけないはずです!」
「えぇ…あれを超えてエデンに辿り着き、ウロボロスドラゴンとアポカリプスビーストを見てなおエデンの試練に挑み、制覇したのが人間たちのリーダーです」
クロケルはあり得ないという感想しか出てこない。それだけ厳しい試練なのだ。実際に俺は何度も死にそうになったからね。その試練がバカにしている人間に超えられたことが彼からしたら信じられないって感じだ。するとクロケルは考え方を変えた。
「そうか…分かりましたよ。あなたたちは試練を超えさせるために手加減をしましたね?」
「主がそんなことをする筈でしょう。人間を一番信じられないのは我らが主であることぐらい知っているはずですよ。だからこそ厳しい試練を用意しているんです」
神話ではアダムとイブに裏切られたのは神様だからな。人間不信になるのはしょうがないだろう。ラファエルの話から推測するとこのゲームでは人間がエデンの園から追放されてから再び戻るためには神の試練を突破しないといけないようにしたって感じらしいな。
「それは知っていますが…いいえ。私を騙そうとしても無駄です。人間があの試練を超えれるはずがない」
「信じる信じないはあなたたちの勝手ですが、知らないままだと痛い目に会いますよ?」
「うるさい!」
クロケルはそういうと戦闘を続行した。一方レバーを上げにいったミランダたちの方では何故か大量のアーレイが待っていた。
「キモ!?」
流石にコピーした人間の気持ちまでコピー出来るとは思えない。となるとこれは誰かの指示だな。ミランダの気持ちはこの戦闘に参加しているなら相手でも疑惑を持つことぐらいはあるだろう。しかしこの判断は甘いな。
「カラミティカリバー!」
大量のアーレイが吹っ飛ばされる。偽物とわかっていればミランダは躊躇しない。そもそもミランダは誰に対してもしっかり注意できて、怒ることが出来る人だ。ここで攻撃を躊躇するはずがないんだよな。アーレイが見たら、キモいと言われてぶっ飛ばされる自分の姿を見る事になるんだからショックだろうな。
それを見て他の人に化けるアーレイたちが止めに掛かって来たが、みんなは止まらず目的の扉まで来たが鍵がかかっていた。
「任せろ!」
暗殺者の人が解錠スキルで扉を開けるとレバーが見えた。ミランダたちが入ろうとしたが暗殺者の人が止める。
「止まれ! この部屋、罠だらけだぞ!? 解除するから防衛頼む!」
「「「「了解!」」」」
流石にただでレバーを触らせてはくれないらしい。ただ罠を全て解除さえすればレバーを上げることに成功するのだった。
一方二階でも同じ流れとなったが戦場の状況がやばい。とんでもない爆音の演奏バトルが発生しており、真空スキルが切れた瞬間、自分たちの耳と脳が死ぬことを理解している満月さんたちは風の禁呪使いさんは連れて行きたい。
というわけで満月さんたちが風の禁呪使いさんの周囲を固めてノストラさんから教えられた部屋を目指したが、鍵を開けれる人がいなかった。結果、一階か三階の人に助けを求めるしかなかった。
一階はクロケルを超えないといけないから越えれないだろう。となると三階から安全に下に降りれる三階の人がいい。ただその為にはムルムルとガブリエルの対戦に耐えられる真空スキルがないといけなかった。この時点で普通の暗殺者では無理だ。
しかしこの困難な任務にも適任者がいた。それが風影さんだ。彼は風属性の忍者故に真空スキルを持っていた。忍者なので当然解錠スキルや罠解除を持っており、更にゾンビの大群相手にも分身と影潜伏と影移動を使えば超えられると判断された。
そして見事にその任務を達成する。
「お待たせした」
「流石だな。護衛は任せてくれ」
「よろしくお願いするでござる」
こうして二階のレバーもあげることに成功した。そして最後は俺たちがいる三階と四階にあるレバーだ。ここはどうやら一つらしい。問題はその位置だ。ノストラさんたちから聞いたメルたちが驚愕する。
「「「「玉座の裏!?」」」」
これでメルたちは手出すする手段がない。アミ―がすんなりいかせてくれるほど、甘い相手じゃないことは確かだからだ。一応ミカエルと一緒にメルたちが攻撃仕掛けたがアミ―の槍裁きが完璧だった。常に槍を突いて正確に当て、距離を取るという行動を徹底していた。
立ち止まってくれるなら距離を潰せるんだけど、そんなことを簡単にさせてくれる相手じゃなかった。リサがフェイントで槍を躱して距離を潰して拳を放ったが陽炎で躱されて、ゼロ距離からの溶波動を受けてしまう。
一方マグラスさんたちもバラムの三つ首に苦戦させられている。その原因がこれだ。
「これは間違いないな」
「えぇ…同時に三つ以上のスキルを使うことが出来るみたいですね」
全ての首から同時にスキルが発動されているのを確認した。逆にちょっとずらすこともしており、かなり攻撃がしにくい相手となっていた。三つ以上というのは獣化した手や蛇の尻尾まで合わせると更に使用するスキルが増えるからだ。
これに加えて、魔法の発動が早すぎて魔法を破壊する前に使われる状況となった。これはベルゼブブとの対戦でもみんなが経験したことだ。この対処法は魔法を受けながら接近するという回答となっている。流石に接近戦をしながら魔法は使えないからね。
ただこの固定概念を超えて来たのがベルゼブブだった。魔方陣を透明にして至る所に配置し、接近戦をしてくるプレイヤーたちの背後から魔法を撃ったり、エクスプロージョンの魔方陣があるところに誘導したりと、本当に魔法の使い方の上手さが圧倒的だったのがベルゼブブという魔王と言える。
流石にバラムがこのレベルになっているとは思えないから仕掛けるがバラムは微動だにしない。まるでこれがバラムという魔王だと教えているようだ。
「お前たちではレバーは触ることは不可能だ」
「ふ…触る必要はないようだぞ?」
「よいしょ」
俺があっさりレバーを下ろした。だって、俺から丸見えでバラムは俺を全く警戒しないんだもん。そりゃあ、レバーを下ろすよ。
「貴様!?」
「グラビティカリバー!」
「ぬぅ!?」
バラムが俺を見た瞬間をマグラスさんは見逃さず仕掛けたが、杖で止められると牡羊の首から黒雷、牡牛の首から獄炎、尻尾の首から麻痺毒が放たれた。これを見たマグラスさんは下がると言う。
「ずいぶん間抜けな王様がいたもんだな?」
「お前たち人間が礼節に欠けているだけの話だ。恥ずかしいとは思わんのか?」
「全く思わん。ミスした方が悪いと思うのは当然だろう?」
マグラスさんの言葉に対してバラムは杖をまるで棍棒を使うように攻撃して返事をし、マグラスさんはそれに応戦するのだった。
こうして白い巨塔に入るための扉が開いた。これで俺たちはようやく白い巨塔の内部に侵入することに成功するのだった。




