#1460 新約聖書の悪霊
ベリアルの撃破を確認した俺はセチアに連絡を取って、現状の確認をする。
『ベリアルは倒したんですがベリアルが使役で召喚したベリアルの子供たちが暴れているようです。へ? ちょっと待ってください! なんでこっちに逃げて来るんですか!? 私たちは今、何も出来ないんですけど!?』
どうやらベリアルの子供たちはベリアルよりは流石に弱いみたいだが、十分な強さを持っているらしい。ここでイクスが補足説明をしてくれる
『マスター、グレイさんとゲイルさんが切り札を発動。優牙さんと一緒にゴグを潰しています』
アーレイたちの邪魔をさせないためにゴグを潰しに動いてくれていたんだな。非常に偉いです。逆にいうとベリアルの子供たちは本気の姿のグレイたちを狙わずにアーレイたちと後ろに下がっているリリーたちを狙うところは賢いな。
しかしそっちがそう動くならこちらもそれに対応しよう。
『白夜、蒼穹、コーラル、夕凪。切り札を使用してベリアルの子供たちの排除を頼む』
これを聞いた四人は本気の姿となり、ベリアルの子供たちをそれぞれ叩き潰すとそれぞれが動いて、ベリアルの子供たちを倒していく。これでアーレイたちとリリーたちは大丈夫だろう。
メルたちが城門の上から正門に向かっているし、グレイたちは右門からやって来た敵の援軍の足止めに動いているから正門の制圧も時間の問題だろう。その認識はルシファーも持っていた。
「ルシファー様」
「外壁の城壁はもう持ちませんね。ここからは市街地戦となります。堕天使と悪魔たちは市街地戦闘へ。ソドムとゴモラ、ゴッドオーガたちは転移魔法で市街地の外に準備が出来次第、送り続けて下さい。チャリオット部隊も外で戦闘続行です」
「了解しました」
「後、市街地にいる彼らに連絡を…極上の獲物がやって来たと」
「は!」
ここでルシファーも切り札を投入することにした。そいつらと最初に接敵したのは俺たちだった。俺たちはすでにルシファーの首都に入り、防衛部隊の堕天使とデーモンたちと戦闘している。
「次元震! …ダメか」
『建物の破壊はダメそうです。ダメージが通っているようには見えません』
『了解です』
俺は敵部隊をぶっ飛ばしながら建物に対してダメージが入っているか確認したが壊れる様子が見受けられない。流石にこのステータスの俺の次元震でダメージが与えられないなら破壊は不可能という認識で大丈夫だと思う。
「「「「はぁあああああ!」」」」
「懲りない堕天使さんたちですね。粘着糸! 魔素爪! 伸縮!」
堕天使たちを相手に無双しているのはアラネアと千影だ。アラネアの粘着糸に命中してしまうと建物にへばりついてしまうことで飛行と武器の使用が封じられてしまう。結果、アラネアの爪や鋼索と超鋼線から逃げる手段が無いんだよな。
千影のほうは直接ダマスカスワイヤーで堕天使たちを拘束してそのまま体をバラバラにしていた。これは堕天使たちのメイン武器が槍であることがかなり影響しているな。剣なら糸を斬る動きが出来るけど、それを槍で行うのは相当難しい。
この世界はゲームなので獄炎を槍に発生させたり、槍から雷光刃を発生させて糸を斬る動きは出来るんだけどね。それをしてもアラネアの糸の攻撃の数に対処出来ないし、千影はその動きを見たら、一瞬で首を斬り落としている。
「暴れ過ぎだ! てめぇ! ん!? 身体が動かね…」
「操り糸」
「うわぁあああああ!?」
「おい! 貴様! 私たちは味方だぞ!」
魔将がアラネアに襲い掛かったが操り糸に捕まり、堕天使と戦闘を強制されられる。本当に強い。一方で俺と恋火、和狐もそれぞれが襲い掛かって来た敵を片っ端からぶっ飛ばしていた。ここではもうステータスの差が如実に出ている。折角パンチを盾で防いでいるのにぶっ飛ばされて、壁に激突するって何だろうね?
俺が自分の戦闘力に呆れていると建物の小道から人間がたくさん出て来た。
「人?」
「タクトお兄ちゃん! 気を付けてください! あの人たち、変です!」
「嫌な気配を感じます」
恋火と和狐が俺の前に出て警戒していると人間たちが顔を上げるとその人間の顔は真っ青になっており、その瞳は金色で口は狂気の笑みを浮かべるとナイフを持ち出して、走り出して来た。
「「「「あぁあああああー!」」」」
識別しても通常の人間のNPC判定だ。何より明確な攻撃の意志を持っているのに非討伐対象でインアクティブになっていることが意味が分からない。しかしここに恋火たちがいてくれたのが幸いした。
「タクトお兄ちゃん! この人たち、何かに憑依されて操られています!」
「うちが祓います!」
「アラネア! 千影! 彼らを拘束してくれ。攻撃はしないような」
「「はい!」」
俺の指示でアラネアと千影が拘束すると和狐の大祓が発動する。すると人間たちから黒衣を来た人間の姿をした悪霊たちが飛び出した。そいつらをすぐさま識別する。
レギオンLv80
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
レギオンは古代ローマでの軍団の呼称として使われている言葉だが、これが悪霊となると新約聖書に登場した悪霊の名前となる。その話では一人の男に多数の悪霊が憑依されている話となっており、その多数の悪霊全てがレギオンだとレギオン自身がイエスに説明している。
このゲームではそういう設定ではないようだが、悪霊の集団という意味では同じらしい。俺たちの背後に回り込むようにレギオンに憑りつかれたNPCたちが現れ、正面からも次々現れた。そして解放されたNPCが言う。
「あ、あれ? ここは一体?」
「私たちは何をしていたのかしら?」
「あん? 誰だ? お前ら? お、おい! こいつ! 獣人を連れているぞ!」
「ひぃ!? おい! お前ら! 助けてくれ!」
こいつら、フリーティアの人間じゃない事は確定したな。それにしても哀れな人たちだ。よりにもよって即死効果があるナイフを持っている人間に助けを求めるとはな。まぁ、獣人差別を持つ人間からしたらそのナイフは獣人たちに向けられていると考えてしまうのかも知れない。
「「「「へ?」」」」
案の定、彼らはナイフで刺されて即死する。流石に彼らを助ける事は無理だな。すると操られている人間の背後から祓ったレギオンたちが俺たちの前にやって来ると一斉に口を開いた。
「「「「我らはレギオン。大勢ですから」」」」
マルコ第五章でレギオンがイエスに名前を聞かれた時に返答した有名な台詞だ。そしてレギオンたちは続ける。
「「「「極上の…獲物!」」」」
どうやらやる気らしい。まぁ、そうじゃないと俺たちの前に現れたりはしないだろうな。ここで和狐が話して来る。
「タクトはん。この悪霊、今まで戦って来た悪霊と比べてレベルが違いはります。かなり危険な悪霊と思ってください」
「だろうな。和狐の大祓を受けて消えない上に悪霊なのに足があり、言葉を話すというだけで死神クラスくらいは考えておいたほうがいいかもな」
「わかりました!」
俺たちが陣形を組む中、レギオンたちはまず憑依した人間たちを突撃されてくる。こちらが下手に無害のNPCを攻撃出来ないと分かった上で狙ってやがるな。
アラネアと千影が糸で止めてくれるが数が多すぎて止められない。下手に魔法も使えないし、困ったぞ。そこで俺は閃いて、杖を取り出した
「「「「スリープ!」」」」
NPCたちが寝る。これならダメージを発生させずに無効化出来る。そう思ったんだけど、寝たNPCたちが起き上がって来た。憑依したレギオンが睡眠の状態異常を無効化してやがるのか。一応スタンとフリーズも試したが結果は同じ。これはもう状態異常無効持ちだな。
ボトムレススワンプなら動きを封じられるか?いや、泥沼に沈んで自害とかされたら最悪だしな。
「悪い…ちょっと手が思いつかない。結界を頼めるか?」
「はいな。遮断結界!」
和狐が遮断結界を展開するとゾンビのように結界にへばりついて来て、結界を叩きまくって来た。しかしそれで破れる結界ではない。
『シルフィ。俺だ。ちょっと厄介なことになった』
『どうしたんですか? タクト』
俺は正門側に向かったシルフィに事情を説明した。
『う、うーん…それはなんというか出来るだけ人命救助を優先して欲しいって感じです。祓って貰った後にどう動くかはその人個人の問題というか』
『そういうことになるよな…了解。できるだけ頑張ってみるよ』
『お願いします。私はこのまま召喚獣たちと合流して指揮しますね』
『お願い。救助した人たちをそっちに転移されると思うから色々説明とかお願いしてもいいかな?』
『任せて下さい』
これでやるべきことが決まった。
「恋火、和狐。片っ端から大祓で祓ってくれ。俺が転移魔法で一気に本陣に助けた人たちを転移させる」
「「分かりました!」」
「千影、アラネア、二人を守るぞ。攻撃は最低限にしてくれ」
「「了解!」」
俺たちが動くとやはりレギオンは恋火たちを狙って来た。大祓のクールタイムを狙った動きだが、二人が交互に使っているから攻めきれずにいるとここで憑依された人間たちが小道に逃げた。祓ったレギオンたちも同じ動きをする。
「タクトお兄ちゃん」
「完全に誘ってやがるな」
俺はルシファーの首都の建物の中に入って、恋火たちに大祓を使って貰った。すると建物の中にまで効果が発動しないことが確認することが出来た。
「最悪だな」
俺は現状をみんなに報告した。それを聞いたみんなも俺と同じ感想を持つ。NPCたちには手出し出来ない。しかしそのNPCたちは即死のナイフを持って襲い掛かって来る。肝心の大祓や神職たちのスキルは建物の中にまで効果は届かない。ということは俺たちは小道に入った瞬間、攻撃出来ないNPCたちに襲撃されることになる。
少なくともNPCが建物から飛び出して人間を襲うまでのわずかな時間では大祓は間に合わないだろう。みんなもこれを聞いて対応を考えるが結局襲われてから取り押さえて、祓うしかないという結論となった。そして俺は追加で警告する。
『それとまだレギオンたちと直接戦闘になっていない。何をして来るか分からないやばい敵だから気を付けてくれ』
俺がそういうとその場で待機して、味方の正門突破と合流まで待つことにした。俺のこの動きに堕天使たちも傍観姿勢だ。完全にレギオンたちによる仕掛けを待ってやがるな。ここからの市街地戦はかなりやばい市街地戦になる気を俺は感じるのだった。




