#154 古の島のラスボスと無敵戦闘
午後1時、遂にレイドイベントが開始される。
空に巨大な黒い魔方陣が出現し、そこからどす黒い体に紫色の天使の翼を持った女性型の巨人が降臨する。俺の識別スキルが奴を捉える
アスタロト?
? ? ?
うん。壁画を見たときからラスボスの正体には気がついていた。ドラゴンに跨り、毒をばらまく悪魔といえばアスタロトしかいないだろう。
ソロモン72柱のうちの1柱。40の軍団を従える地獄の大公爵だ。勝てる相手じゃないのは明白だな。因みにネビロスの上司でもあったはずだ。
さて、まずは様子を見るが全く動かない。あれ?
「どういうことでしょうか?」
「誰かが攻撃しないと動かないみたいね。これは困ったわ。ボスに最初に攻撃したら、まずその人が最初に狙われるから誰も攻撃したがらないわ」
当然だな。死に戻ったら、ポイント大損して終わりなのだ。誰も攻撃したくはないだろう。
そして時間が経過しても動く気配がない。流石にそのままだということはないはずだが、このままだと作戦成功する前にタイムアップになりそうだ。
仕方ないか。
「俺たちがファーストアタックもらっていいですか?」
「え? 本気なの? タクト君。あなたが死に戻ったら、作戦が全部崩れるのよ?」
「大丈夫です。秘策ありです」
俺はドリンクをルインさんに見せる。
「攻撃手段が毒だけとは限らないわよ?」
「それについても大丈夫です。俺には果たさないといけない約束がありますから」
俺がセチアを見るとセチアも約束を思い出した。
「タクト様、まさか」
「あぁ。約束の敵としては十分な敵だと思わないか? セチア」
「ふふ。そうですね。文句はでないと思います」
決まりだな。
「それに俺は誘導隊長ですから。俺が行くのが適任じゃないですか?」
「はぁ〜。わかったわ。何か約束があるなら私とも約束して、絶対に死に戻りしないで」
「もちろんです。みんな! いくぞ!」
『おぉ!』
みんなからも声援を受けて、俺はダーレーに乗り、ボスの元に出陣した。
ボスに攻撃が届くところでレギオン召喚し、みんなで食事をしながら作戦の説明をする。
そして隠していた秘密兵器を取り出す。
アップルヨーグルト:レア度5 料理 品質D+
効果:一時間毒無効、一時間魔力自動回復(中)、一時間魔力アップ(大)
角切りされたりんごがたっぷり入っているヨーグルト。りんごの甘さとヨーグルトの酸味がとてもあっており、美味。
オレンジヨーグルト:レア度5 料理 品質D+
効果:一時間毒無効、一時間魔力自動回復(中)、一時間筋力アップ(大)
オレンジの果肉がたっぷり入っているヨーグルト。オレンジの味とヨーグルトの酸味がとてもあっており、美味。
こっそりヨーグルトを生産していたのだ。ロコモコとエアリーは俺の召喚獣だし、問題ないはず!実はスキルが上がるたびに量が増えており、ルインさんたちには毎日同じ量を渡していた。たぶんバレていないはず。
ヨーグルトを食べた全員が大興奮。俺も食べたが美味かった。
全員のバフが完了し、俺は総司令官に通信を送る。
「総司令官。今から攻撃を開始します」
『のりのりじゃない…タクト君。了解よ』
「そこは攻撃を許可するじゃないんですか?」
『どうでもいいでしょ! 早く始めて!』
「イエス、マアム!」
因みに男の場合は有名なイエッサー。間違えて言うとどうなるかわからないので、注意しよう。
「セチア! 精霊召喚!」
「はい!」
セチアが詠唱を開始する。するとリリーたちがお願いしてくる。
「タクト! 名乗りを挙げて!」
「え? 言わないとダメか?」
「私はあんな恥ずかしい思いをしたんですよ? タクトさんもしてください」
イオン、その言い分は酷いだろう。
「誰もいないみたいですし、タクトお兄ちゃんの名乗りを聞きたいです」
ぐ…仕方ない。恥ずかしいがリリーたちに頼まれたなら仕方ないか。
「精霊召喚の詠唱準備完了しました。いつでもいいですよ?」
はいはい。言いますよ。言えばいいんだろ。
「よし。じゃあ、始めるか…悪魔の大公爵よ!最初は俺たち『リープリング』が相手になってやる! 最高に楽しいバトルをしようぜ!」
俺、コノハ、ひより、ゲイル、ひまり、ルーナが魔法の準備が完了。いくぞ!
「俺たちからの開戦の狼煙だ! 受け取れ! レーザー!」
ボスに俺たちの攻撃が当たる。そしてこれが本当にイベント開始の合図となった。
俺たちの攻撃が当たるとアスタロトに動きがあった。自分と俺たちの周囲に大量の魔方陣が出現する。これが攻撃魔法なら終わりだが、俺の読みが正しければこの魔法はーー
魔法陣から大量の黒い丸玉にコウモリの羽を生やした小さい悪魔が出現する。識別する。
プチデビルLv1
イベントモンスター 討伐対象 アクティブ
やはり下級の悪魔の召喚魔術…狙い通りだ。
「セチア!」
「はい! 精霊召喚!」
「エントラスト!」
セチアが消費した魔力は俺が回復させる。そしてMPポーションを飲む。…ぐえぇ。
精霊召喚で呼び出されたのは約束をした火の精霊だ。
「約束の召喚と考えて、いいのかい?」
「はい。あなたにぴったりの敵を用意しました」
「へぇ〜。随分強気だね。一体どんなてーー」
悪魔の大公爵様です。火の精霊がアスタロトを見て、固まる。まぁ、普通そうなるよな?
セチアが挑発的に言う。
「火の精霊よ。約束通りあなたにぴったりの戦場を用意しました」
「何?」
周りには大量のプチデビルにアスタロト。戦う事が好きな火の精霊としては全力を出せる戦場だろう。
「敵はこの森を毒で侵した悪魔です。ならば私たちエルフと精霊の敵のはずです。力を貸してくれますね?」
「へ~。おおよそは召喚師のシナリオなんだろうけど、前と違って確かな闘争の意思をもってるようだね…そうじゃないといけない。あたしは火の精霊! 燃え上がる意思を司る者! あんたの思いに答え、我らが敵を焼き付くしてあげるさね! ファイヤーダンス!」
火の精霊が以前使用した火の粉をばらまく技を使用する。次々に燃えていくプチデビルだが、次々に召喚され、また焼かれるのループに入る。
俺たちも戦闘を開始。プチデビルは毒を飛ばしてくる。攻撃手段がそれしかないようだ。だが毒は料理バフで無効だ。すなわちプチデビル相手なら短い間だが、俺たちは無敵となった。
この状態には色々なヒントがあった。まずこのイベントは弱い敵から強い敵まで用意されていた。ならばボス戦の最初は弱い敵が出てくる可能性が高いと思った。
次にこのイベントの異常な時間。ボス戦4時間は長すぎる。しかも攻略法がわかっているのにだ。ならばなぜ長いのか?その理由が存在するはずなんだ。
決定的だったのが壁画のヒント。最初に現れたアスタロトは悪魔の軍団を率いていた。これは先に述べた通り、現実と一致する。このゲームは現実の設定を比較的再現している。ネビロスがそうだった。
つまり他のヒントと合わせるとアスタロトは最初に雑魚の悪魔を召喚して徐々に強い悪魔を召喚していく可能性が高いと思ったのだ。
セチアの火の精霊は俺たちの中で最強の殲滅力を誇る。使うとしたら誰にも邪魔されないこの場面が一番いいだろう。次々とプチデビルを減らしていき、遂にプチデビルを全滅させる。
そして遂にモンスターの種類が変わる。現れた悪魔がこいつ。
レッサーデビルLv5
イベントモンスター 討伐対象 アクティブ
まぁ、小さい普通の悪魔だ。しかもこいつらはプチデビルと同じで毒攻撃しかしてこない。まだ無双状態だな。しかし流石に強くなったから火の精霊の攻撃に粘るようになった。なら火力をあげよう。
「トリッドヘル!」
恋火がトリッドヘルを使い、火の精霊の火力が上がる。火の精霊はそのままレッサーデビルを殲滅し、次のモンスターが出現する。
デビルLv8
イベントモンスター 討伐対象 アクティブ
普通の悪魔だ。そしてこいつから毒攻撃以外に通常攻撃をし始めた。ここで火の精霊が頑張ってくれている間に料理バフをかけ直す。なんとかバフしおわり、精霊召喚の時間が切れる。火の精霊は思う存分戦えて満足な一方でボスを倒せなかったことが悔しそうだった。その気持ちわかるなー。
火の精霊がいなくなったから全員が本格的に戦いに参加する。この戦闘では進化したイオンが大活躍している。理由は相手の脆さ。いつもなら何度も切り刻むイオンだが、一回斬るだけで倒せるらしく。次々敵を倒している。
しかも謎だった投擲操作も披露した。投擲した双剣がイオンの意志に従い、空を自在に動き回る。かなり便利なスキルだな。俺も使ってみたい。
だがイオンが活躍するということは逆に言うとリリーの出番がないとも言える。片手で大剣を振りましているがそれを見た敵はリリーに近づいてこない。
「むー! どうして逃げるのー!」
当たったら、死ぬからだよ。
この戦闘の難しい所は撤退のタイミングだ。撤退を決断する際に重要なのが料理のバフ時間と敵の把握だ。料理のバフが切れる前に撤退しないとダメだし。こちらがダメージを受ける状態になると数で押されてダメになるだろう。
みんな戦闘に集中している。故に俺の責任は重大だ。鍵は次に召喚される敵だな。そろそろ全滅する。どんな奴が来る?
地面に魔方陣が描かれ、新たな悪魔が現れる。識別してみる。
デーモンLv12
イベントモンスター 討伐対象 アクティブ
ヤギの悪魔だな…スケープゴートの進化先な気がするが問題は戦闘だ。どうだ?
イオンが攻撃するが一撃では倒せない。
「っ! 氷刃!」
イオンの双剣が氷の刃になる。イオンがそのままデーモンを切り裂くとデーモンが氷結する。
「ヘビースラッシュ! もう一回、ヘビースラッシュ!」
「一閃!」
他のみんなも戦えてはいるな。しかしこのデーモンからはやはり違った。後ろにいる奴らが魔法陣を展開した。
「攻撃魔法だ! コノハ!」
「ホー!」
コノハが羽投擲で魔法を展開した奴らを全部倒すことは出来なかった。
複数の火球が放たれるがコノハが数を減らしてくれて助かったな。全員無事に回避できた。
相手はコウモリの羽がない悪魔だ。だけど魔法を使って来るなら潮時だな。
「撤退するぞ!」
『はい!』
俺はレギオン召喚を解除する。残ったメンバーはリリー、イオン、レクス、リキュール、ダーレーだ。
「フラッシュバン!」
「ガァアア!」
レクスの強威嚇と強烈な閃光と爆発音でデーモンたちを足止めする。
「リリー! イオン! ぶちかませ!」
「うん! イオンちゃん!」
「えぇ!」
二人が剣を構える。
「光波動!」
「蒼波動!」
白と蒼の閃光がデーモンの一団を飲み込み、アスタロトに直撃する。
リリーたちはリキュール。俺はダーレーに乗り、撤退を開始した。