#1434 ノワの暴走
俺たちの目の前に降臨したドラゴンは黒ずんだ黄金の体を持つドラゴンで頭には羊の角が生え、背中には真っ黒な光輪を追加された。識別してみる。
黒陽魔竜神クロム・クルアハLv95
ボスモンスター 討伐対象 アクティブ
クロム・クルアハはクロウ・クルワッハの正式名称だ。クロウ・クルワッハは日本読みなんだよね。
この姿は間違いなく太陽神としてのクロウ・クルワッハの姿と見て、間違いないだろう。ここでクロム・クルアハが一言だけ俺たちに向かって宣言して来る。
『我、黒き太陽神なり。我に勝たんと挑む者たちよ。ここからは死力を尽くすがいい』
クロム・クルアハはそういうと背中の光輪が外れるととんでもない闇の魔力が集まる。
『全員! 回避しろ!』
『暗黒輪!』
暗黒の特大レーザーが放たれた。日輪スキルの闇属性バージョンスキルだな。これが本来なら直線に放たれる攻撃なのだが真っ黒な光輪を動かすことで追尾してきた。クロム・クルアハの狙いは回避スキルがもうない月輝夜だ。
『グォオオオオオ!』
逃げれない月輝夜は神剣イガリマを突き出すと神剣技オーロックス・バベルを発動される。月輝夜の前に閉じた門が出現して、暗黒輪がぶち当たると霧散する。
『我が黒き太陽の一撃を止めるとはな! お前の強さ、認めてやるぞ。鬼神よ! 光速激突!』
さっきよりも更に速い!すると狙われたことを理解した月輝夜は顕明連を取りだし、なんと二刀流となると顕明連を神剣解放すると両者がぶつかる。それを見たノワが叫ぶ。
『…月輝夜! ダメ! 何をするつもりなの!』
『グォ!』
『ノワよ。止めても無駄のようじゃぞ? 月輝夜もタクトの召喚獣じゃ。無茶なことをすぐやるが何も考えがないわけではない。ここで止める事は月輝夜の覚悟を否定することになる』
さりげなく俺の召喚獣はみんな無茶なことをするように言われた。セフォネの言う事のほうが正しいが仲間思いのノワは止めに入る。
『…セフォネの言い分は分かる。でも月輝夜は間違いなく死ぬ。それで月輝夜はいいの?』
『グォオオオオオ!』
『覚悟の上か』
月輝夜は遅かれ早かれ自分が倒されることを理解している。何せ逃げスキルが無いのだ。その判断になるのも当然と言える。しかしここでの死は今までの経験値の全ロスを意味している。ノワが言いたいのはそこだと思うがどうせ全ロス確定ならクロム・クルアハに今出せる自分の全てをぶつける覚悟を月輝夜はしていた。
「グォオオオオ!」
『見事だ』
月輝夜はクロム・クルアハの先程よりもパワーとスピードが上がった攻撃に対処出来ず、神剣イガリマと顕明連は弾き飛ばされてしまう。
ここで月輝夜が取った行動はオーガラッシュだった。最初は魔素の手か放たれて、武器を失った両手からも使用される。これに対してクロム・クルアハは殴られながらオーガラッシュの心臓を爪で貫いた。そこには両者の圧倒的な実力差があった。これで確殺スキルが発動して月輝夜は死は確定した。
戦いの神でもあるクロム・クルアハは最後まで戦い抜いた相手を称賛する。だが、心臓が貫かれた月輝夜だが、貫かれる手前でオーガラッシュを解除しており、月輝夜の魔素の手は弾かれた顕明連まで伸びてしっかり掴んでいた。
この結果顕明連の神刀技、黄泉還りが発動する。確殺されても死後に発動する技なので、これは完全に不意打ちという結果となる。
『何!?』
「グォオオオオオ!」
『シッ!』
月輝夜はクロム・クルアハの背後で蘇生すると太極波動を発動される。それに対してクロム・クルアハは振り返りながら爪を振るった。結果は月輝夜の首が飛び、クロム・クルアハには太極波動が炸裂する相打ちという結果となった。
これで月輝夜は召喚石に戻される。月輝夜が俺たちに残してくれたものはクロム・クルアハの片腕と片翼の喪失という最大限の戦果だった。
『くく…ははははは! やってくれたな! まさか我の確殺スキルをすり抜ける死後に発動する技があるとは知らなかったぞ! なかなかどうして小癪な武器を持っているものだ。そして見事! 実に見事だ! お前は我の片腕と片翼をあげるに相応しき強者よ!』
俺たちとしては月輝夜が命をかけて作ったチャンスを無駄にするわけにはない。
『畳みかけろ! 月輝夜の死を無駄にするな!』
「ワオーン!」
「ギー!」
優牙が地面から氷を出してクロム・クルアハを貫こうとしたがこれは神鎧でガードされる。しかし優牙の氷は攻撃だけに使われたわけじゃなかった。クロム・クルアハを氷で囲っている。そこに叢雲のドラゴンブレスが放たれた。
俺たちも追撃に出ようとしたところ、体の中からぞくっとする気配が感じられた。
『…』
それを放っているのはノワだった。完全にいつものノワじゃなくなっている。今まで仲間の死をトリガーに気配が変わることはあったが、今回は異常だ。とんでもない悪意がノワから放たれている。
『…黒星!』
ノワにドラゴンの操作権を奪われ、ノワは特大の黒星を放つ。それを見たクロム・クルアハは真っ向からそれを受けた。
『闇吸収』
黒星がクロム・クルアハに吸収されて、回復させてしまう。
『何をやっておるんじゃ! ノワ!』
『…殺す。あいつだけは絶対に殺す!』
ノワがそういうとクロム・クルアハに突撃していく。これはやばい!
『ふん。未熟!』
『あぁあああああ! ッ!?』
俺たちの中で絶叫するノワの頬を俺はビンタして強引に操作権を奪うと俺たちの突撃に対して向かって来ていたクロム・クルアハと爪が激突すると案の定力で負けて鋭い突き攻撃が来ると翼を羽ばたかせて身体を仰け反らせて回避するとドラゴンテイルでぶっ飛ばした。
しかし上に上がったクロム・クルアハは片腕に重力球を作り出すと俺たちに向かって再び突撃して来ると優牙も重力球を作り出してクロム・クルアハの側面から襲い掛かったがそれに反応したクロム・クルアハは優牙の重力球にぶつける判断をした。
これで俺たちは一旦危機的状況を脱することが出来た。するとセフォネの怒りが爆発する。
『ノワ! お主、なんのつもりじゃ! 今の突撃、リリーでもせぬぞ! 妾たちを殺すつもりか!』
リリーは突撃癖はあるけど、相手の力量を見て意外としっかり判断出来ているからな。相手を殺すだけを考えて突撃したノワとはセフォネが言うように大きな差がある。
『…違う! あいつ! あいつを殺すためにノワは! あ』
俺はノワを優しく抱きしめた。
『みんな、思いは一緒だよ。だからこそ憎しみや怒りに支配されちゃいけないんだ』
『…にぃ』
『落ち着いたか?』
『…ん。ありがとう。それとごめんなさい』
なんとかノワを落ち着かすことが出来た。そしてちゃんと悪い事をして謝れるのはノワの美徳だ。当たり前のことだけど、それが出来ない人は結構いるからね。ノワにはそれを大切にしてもらいたい。
優牙と叢雲がクロム・クルアハと戦闘しているとクロム・クルアハは失った腕から魔素の手を作り出して攻撃するなどしていることから腕や翼を復活されるつもりはないらしい。これは戦いの神故のこだわりっぽいな。
戦いで負った傷は誇り。それを無かったことには出来ないのだろう。ここも他の冥府神とは決定的に違うところだな。他の冥府神たちは自分の不死性を最大限に生かして来るからな。
ここで俺たちは戦闘に乱入して必死にクロム・クルアハの攻撃に当たらないように戦っている二人を引かせるとクロム・クルアハは言ってくる。
『落ち着きを取り戻したか。折角の楽しい戦いに水を差すな。興ざめする』
『…む! 誰のせいだと思って』
俺はノワの言葉を遮断するようにクロム・クルアハに言う。
『召喚獣のミスは俺のミスだ。謝罪するよ。それと安心しろよ。ここからは興ざめすることはない。お前はお前の命の心配をしてろ』
『くく。言うではないか! それでこそだ! 今こそどちらが強いドラゴンか決しようではないか!』
お互いのドラゴンの爪を構える。遂に俺たちとクロム・クルアハの全力バトルが始まろうとしていた。




