#148 聖竜の試練
俺が目を開けるとそこは地面もなければ空もない。ただ真っ白い空間だ。不思議な空間だと思う。ただ白いだけなのにここが神聖な場所だと思ってしまう。
「タクト〜!」
お、リリーだ。他のみんなはいないみたいだな。
「タクト。イオンちゃんたちは?」
「いないみたいだな。リリーはここがどこかわかるか?」
「わかんない!」
そうだろうな…さて、これからどうすればいいんだ?と思ったら、第三者の声がする。
『ここは私が統治している世界の1つです』
声主は優しい雰囲気のお姉さんみたいな声だった。すると真っ白な世界が眩く光る。その光はやがて超巨大な西洋の竜の姿に変貌し、その龍は顕現した。
美しいドラゴンだ。そんな稚拙な答えしか出てこない。光のドラゴンとはこういうドラゴンを言うんだろうな。
「あ、あわわ…わわわわわ…」
リリーがブルブル震え出す。こんなリリーは初めて見たな。そしてその龍は自ら名乗り出る。
『私は聖輝龍王ドォーンドラゴン。世界に夜明けの光をもたらすドラゴンです』
「しぇ、しぇいきりゅうおうさま!?」
リリーが慌てて、土下座をする。ちゃんと言えてないぞ。
「タ、タクトも早く頭を下げて!」
えー。そんなこと言われてもな。
『そのままで構いません。あなたたちをここに招いたのは私ですからね』
俺たちを招いただって?
『その通りです。私はリリーを通じてあなたたちのこれまでの冒険の全てを見てきました。龍の王としてリリーをここまで大切に育てて頂いたこと、感謝いたします』
さらりと心を読んだな。この龍王様。
「いえ、リリーには本当にたくさん助けられました。感謝するのは俺のほうです」
「タクト…」
『ふふ。いいコンビですね。しかしそんなあなたたちに私は試練を与えなければ行けません』
あぁ。いよいよインフォの本題か。
『まずはリリー。あなたは選ばなければなりません。竜の力を覚醒するかどうかを』
「竜の力を覚醒すると今より強くなれる?」
『間違いなく強くなります』
「じゃ、じゃあ!」
『ただし、竜の力に目覚めるということはそれだけ竜の姿に近づくということです。あなたに今の自分の姿を捨てる覚悟はありますか?』
「え……」
リリーは絶句する。それはそうだろう。いきなり姿を捨てろと言われたら誰でもそうなる。
「タクト…」
リリーが不安げに俺を見る。俺は聖輝龍王様に話す。
「これはリリーが決めることですよね?」
『はい。ですがあなたの召喚師としての覚悟も聞きたいと思います』
なるほどね。聞かれたら答えないとな。
「では、失礼して…俺にとって、リリーはどんな姿になってもリリーです。それはいつまでも変わりません。これが俺の答えです」
「タクト…せ、聖輝龍王様。決めた! リリーは強くなりたい! リリーはタクトの召喚獣でドラゴニュート! ならもう迷わない!」
リリーの答えに聖輝龍王が優しい笑顔を浮かべた気がする。
『あなたたちの覚悟と思い。確かに聞き届けました。我が眷属の求めに従い、リリーの竜の血を覚醒させましょう』
リリーの体が光を放つ。そして進化が始まった。
進化が終わるとそこには中学生くらいまで成長した擬似竜化状態のリリーの姿があった。これは…一体。
『擬似竜化とは時間限定で竜の力を発揮するためのスキルであると同時にいざ進化を行った際に使用者の不安を少しでも軽減するためのものなんですよ』
あ、酷い。それならそうと言ってくれても良かったのに。
『すみません。それを伝えて決める覚悟より伝えず決めた覚悟のほうが良いと判断しました』
そりゃ、そっちのほうがいいだろうけどさ。するとリリーが心配そうに聞いてくる。
「え…えと…変じゃないよね? タクト?」
「全然変じゃないぞ。髪の毛も伸びて可愛くなったな」
実際可愛さが増した。その証拠に服装が黄色と白のドレスになっている。なんというかもう幼女とは言えないかな。
「えへへ〜」
さて、進化したリリーはどうなったかな?
名前 リリー ドラゴニュートLv30→ドラゴニュート・クーラLv1
生命力 40→60
魔力 32→42
筋力 85→105
防御力 27→42
俊敏性 24→39
器用値 20→35
スキル
素手Lv6→光拳Lv6 飛行Lv4 片手剣Lv21 大剣Lv12
連撃Lv1 闘気Lv10→錬気Lv10 光魔法Lv1 光波動Lv1 竜技Lv4
擬似竜化Lv4→竜化Lv4 聖竜の加護Lv1
筋力105!ステータスで100を超えたのはリリーが最初だったか。
スキルもだいぶ増えたな擬似竜化の時に使われていた飛行と竜技が追加された。素手が光拳に進化。アンデッドたちに効果があるのか?
連撃はなんだろう?武技を連続で使用出来るスキルかな?だとしたら凶悪だ。リリーならなおさらだな。聖竜の加護と錬気はバフかな?
謎なのは光波動。確か光の波動説というものがあったはずだが、詳しく知らない。
最後は擬似竜化が竜化に進化。とうとうドラゴンになっちゃいますか。
凶悪なスキルが随分増えた気がする。これが竜の力に覚醒したリリーか…種族の名前はドラゴニュート・クーラ。この名前は…
『リリーがあなたをいつまでも癒し、支えられるように名付けました』
やはりイタリア語か。世話とかそういう意味だったはず。
『では進化が終わったので、改めて試練を始めます』
え!?まだ終わってなかったの!?
『はい。あなたたちの可能性を見せてください』
すると光が集まり、リリーがもう一人登場する。ただしパラディンの鎧に巨大な大剣を二本持っている。
そして身体中に赤い稲妻が走り、目には敵意が全開だ。
あー…これは…識別する。
ドラゴニュート・クーラLv1
イベントモンスター 暴走状態 アクティブ
『暴走しているリリーを作りました。彼女をあなたたちの手で止めてください』
「えーっと…装備が全然違う気がするのですが?」
『彼女を作った親心です』
その一言で終わらせちゃうの!?
『この空間では望んだものが全て出現します。これをどう使うかはあなた次第です』
それなら公正か?なら暴走が治る薬!
俺の手に謎の薬品が入った注射器が出現する。これで注射したら、終わりだな。
それを見たリリーは慌てる。
「な、なにそれ!? タクトはリリーにそんなもの使わないよね? そうだよね?」
あー、確かに作られたとは言え、見た目がリリーの子に注射するのはちょっと酷いか。
俺たちがそんなことをしているとニセリリーが突っ込んでくる。
「…ヘビースラッシュ」
「負けないよ! ヘビースラッシュ!」
二人のヘビースラッシュの力は互角。互いに弾き飛ぶが、ニセリリーのもう一本の大剣が構える。
「…ヘビースラッシュ」
「うそ!? 練気! きゃあああ!?」
リリーは予期せぬ2回目のヘビースラッシュをもろに受けてしまう。だが、リリーは咄嗟に練気を使用した。どうやら闘気は筋力のみだったが、練気は防御力も上げてくれるスキルみたいだ。
そしてニセリリーはこちらに来る。
望んだものが手に入るならこいつも可能なはず。頼むから来てくれよ。
俺が唯一手に持ったことがある日本刀である。
デザイン、重さまで完璧だ。凄いな。
俺は日本刀を構える。するとニセリリーの剣が輝く。なんだ?
「…光波動」
ニセリリーが光る剣を振り上げるとでかい光が俺に放たれる。
あ、あぶねー。予備動作から光の遠距離技だと思って、横に飛ばなかったら、直撃していた。リリーの奴、凶悪性が随分増したな。
ニセリリーは俺に斬りかかってくる。どうやらさっきの技、連射できないみたいだな。
「…ドラゴンクロー」
その技は知ってるぞ。受けることは不可能なので、避ける。
するとニセリリーはもう片方の大剣を構える。
「…ヘビースラッシュ」
ドラゴンクローの連発はやはり出来ないか。これを待っていた。俺はヘビースラッシュを弾き、隙だらけのニセリリーにーー
『あなたたちの手で止めてください』
デコピンした。これで暴走したお仕置きは終わりだな。
「うぅ…」
おでこを抑えてうずくまるニセリリーに俺は杖をイメージして構える。
「スリープ!」
以前リリーを眠らせた魔法だ。だがスリープの魔法は決まらなかった。ニセリリーが纏う光のオーラに無効化されたみたいだ。あれが聖竜の加護の能力か…ヤバイな。
こうなったら、暴走するニセリリーを止める手段はこれしかないな。
「がぁああ!」
デコピンされて怒ったニセリリーが大剣を振りかぶる。
それに対して、俺はイメージしたものをニセリリーに差し出した。
するとニセリリーの動きが止まる。勝ったな。
「あぁ!? あ、あれは!?」
『ふふ。なるほど。そう来ますか』
俺が差し出したものは以前作ったサーロインステーキだ。サーロインステーキを動かすとニセリリーの視線が動く。
「暴走をやめるならこいつを食べれるぞ? どうする?」
「…やめる」
ニセリリーの暴走が治まる。
「解除した…早くちょうだい」
「あぁ。召し上がれ」
「…いただきます」
ニセリリーがサーロインステーキにかぶり付き、なんとも幸せそうな笑顔を見せる。
すると本物のリリーが慌てて飛んでくる。
「タクト! リリーも! リリーにもあれ出して!」
はいはい。しかしイメージしても出てこない…あれ?
『試練は終わりです。もう望んでも出てきませんよ』
「そんな! まだ残りが」
「…ご馳走さまでした」
リリーよ。自分なら残すか?残さないだろ?
「ひ…酷い…」
『ふふ。これで私の試練は終わりです。あなたたちの旅路に光があらんことを祈ってます』
聖輝龍王様がそう言うと再び世界がまばゆく光る。
目を開けると元の場所だ。みんなもいる。
「うわーん! リリーのお肉~!!」
進化したリリーが叫んでいる。
「な、何があったんですか? タクトさん」
イオンがそう聞いてくる…色々あったんだよ。