#1376 子供イオンとそっくりな少女
俺たちはディアンの毒域で汚れた湖を元に戻してから湖の畔でルミにかまくらを頼むとここで料理バフをかけ直しつつ、回復を行う。
「は~ん! んん~…最高れふ」
イオンが食べているのはヘイズルーンシェーブルチーズを使ったチーズフォンデュ。これをイオンは魚のつくねで食べている。他もみんなもそれぞれの好物をチーズフォンデュで食べていると空間索敵に一つの反応があった。
「敵ですか!?」
「いや、反応はかなり小さいし、何か変な動きをしているな。ふらふらしている。でも確実に近づいてきているな」
「反応からしてドラゴンでは無さそうね。案外ドラゴニュートがお父様の料理の匂いに釣られているんじゃないかしら?」
「そんなまさか~」
イオンはそういうがクリュスの話を俺は否定できない。グレイたちが料理に釣られて来た経験があるからね。それにクリュスの話を聞いてから相手の動きを見ると料理の匂いを嗅ぎながらフラフラしているように見えてきた。
「ルミ、一応偵察頼めるか?」
「…うん」
ルミが消えるとすぐに帰って来た。
「…ドラゴニュートの子供だった」
「ほらね?」
「ち、因みにアリナたちもこんなことが起きてますよね? タクトさん」
イオンが自分の種族だけが料理に釣られたとは思いたくないらしい。ここで嘘をついても後からバレるので真実を伝えよう。ただフォローも忘れないにしないとな。
「いや、今回が初めてだが相手は子供のドラゴニュートならしょうがないだろう? 折角の機会なんだし、お腹が空いているならご馳走してあげようぜ。それで村に行けるならラッキーだ」
「それはそうですけど…なんか求めていた流れと違います…」
「全部が思い通りに行かないからこそ人生は辛く、楽しいんだよ」
そんなわけでドラゴニュートの子供がやってくるまで休憩しているとその子がやって来た。こっそりかまくらの中の様子を伺う少女と俺たちはばっちり目がある。
「イオン?」
その女の子は子供の頃のイオンとよく似ていた。ツインテールではなくショートヘアだったが顔付きがイオンにそっくりだった。今まで出会ったドラゴニュートの子供はいたがここまで似ている事は無かったから驚いた。
「ひ!?」
女の子は驚いて後ろに倒れてしまう。まぁ、俺たちのレベルもそうだが、ディアンとクリュスがいたらそりゃあ驚くよな。
「タクトさん! 私はこっちですよ!」
「いや、それはわかるけど、初めて会った時のイオンとよく似ていて」
「あんな貧乳と一緒にしないで!」
めちゃくちゃ度胸あるな。この子。とんでもないレベル差があることは分かっているだろうに地雷を踏み抜くとは将来強くなるだろうな。
「何か言いましたか?」
怒りのオーラ発生させている笑顔のイオンから逃げれたらの話だけどね。するとその子は起き上がると俺に抱きついて来た。どうして俺は子供の盾に使われるんだろうな。
「な!? 何しているんですか! あなた! タクトさんから離れなさい!」
「暴力反対! 子供に手を出して恥ずかしくないんですか!」
「生意気な子供には教育が必要です!」
なんか微笑ましい光景に思えてきた。イオンは大人を意識しているがどことこなく姉妹喧嘩しているような感じがした。
「タクトさんもタクトさんです! 何抱きつかれているんですか!」
「落ち着け。イオン。俺がこの子に手を出すわけにはいかないことぐらい分かるだろう? それに目的を見失っているぞ」
今の俺の筋力で下手に攻撃してしまったら、この子を殺してしまう。そうなったらドラゴニュートたちと敵対することは免れないだろう。折角のイオンの里帰りをこんな形で無くした挙句同族と敵対して殺し合いで終わるのは嫌だ。
「それは…それですが…むぅ~!」
「かわい子ぶらないで。年増」
かまくらの中なのに猛吹雪が発生した気がした。
「イオンお姉様! 落ち着いて下さい!」
「…剣を抜くのはまずい」
「退いてください! 二人共! 世の中には許せることと許せないことがあるんです!」
まぁ、年増は女性に言うには致命的な言葉だ。本当にこの子、容赦ないな。
「あぁ~…今、ご飯を食べている所なんだが、食べるかい? 外は寒いし、温まるよ」
「いいの!? ありがとう! 優しいお兄ちゃん!」
「タクトさんと私との温度差は何なんですか!」
みんなにイオンを任せて、俺はそのドラゴニュートとご飯を食べながら会話する。
「君は水のドラゴニュートでいいのかな?」
「はい! この山の地底湖にある村に住んでいるの!」
あっさり村の情報を教えてくれたな。地底湖ってことはまた洞窟に入る流れになりそうだ。
「自分の村をあっさり教えるなんてまだまだ子供ですね」
「あなたと違って人を見る目はあるつもりです」
イオンと水のドラゴニュートの少女との間で火花が散る。本当に同レベルの喧嘩をしているんだよな。
「水のドラゴニュートの村に案内してくれないかな?」
「いいけど、行くのは大変だよ? 強いドラゴンがいるからね」
土のドラゴニュートの時と同じ流れになりそうだな。
「構わないから案内してくれ」
「ただで?」
「しっかりしているな。美味しいスープを作ってあげるから待ってて」
「やっぱりお兄ちゃん、話が分かる~。そこのドラゴニュートと大違い」
本当にこの子はイオンに対して当たりが強いな。まぁ、水のドラゴニュートはクールなキャラや真面目で不器用な性格が多い傾向らしく、周囲に当たることも多いらしいからしょうがないのかも知れない。
そんなわけで彼女の案内で進んでいくが当然襲撃を受けながら進むことになる。もちろん案内人である彼女を倒されるわけにはいかないので、クリュスとディアン、ルミに護衛を頼む形だ。本来ならイオンが適任なんだけど、お互いに嫌がりそうなので任命するのはやめた。
しかもここで大問題が発生する。
「ええ~…と…こっちです!」
「タクトさん? もしかしてあの子…」
「あぁ…道分かってないな」
ご飯の匂いに夢中で自分がどう歩いて来たのか分からなくなっているんだろう。それでも自信満々に道案内をすると言ってしまったから引けなくなっている感じだ。なんかこういうところもイオンに似ている。
「似てません! 私が迷子になんてなるはずないじゃないですか」
「そういって迷子になるのよね?」
「ならないと言っているのが聞こえていなかったんですか? クリュス」
みんなから弄られているな。イオン。しかしこのままあの子の道案内に付き合っているとこっちが巻き添えの迷子になりかねない。時間があって、普通の旅なら付き合うんだけど、ここは手助けしよう。
「あっちに用事があるんだけど寄り道していいかな?」
「え? 良いですけど、迷子にならないでくださいね」
「迷子になっているのはあなたのほうでしょうが」
ツッコミが遠くなっているだけイオンも少しは落ち着いて来たな。俺は空間索敵で彼女が来た方向は大体わかっている。なので軌道修正は可能だ。後は彼女が知っている場所に出てくれればいいんだけど、どうなるかな?
「この! 本当に数が多いですね」
「あ、あの岩! こっちだよ! お兄ちゃんたち!」
どうやら目印はちゃんとあったらしい。なんかこういうところもイオンに似ている気がする。基本的にしっかり者なんだけど、変なところでミスをしちゃうんだよね。そしてここからは彼女はルンルン気分になる。そして俺はイオンの視線攻撃が頭に刺さってます。それに耐えていると俺たちの目の前に凍った巨大な滝、即ち氷瀑が見えてきた。
「あの子が村の入り口だよ!」
どうやら氷瀑の裏に道があるらしい。そして空間索敵に巨大な敵を二匹感知する。どうやら彼女が言っていた強いドラゴンのご登場らしい。




