#1369 恋火の稲荷大明神戦
俺たちが旭光近衛を抜くと稲荷大明神は格納スキルを発動する。
「神刀、小狐丸」
稲荷大明神が取り出したのは黄金の鞘に純白の柄の太刀。それを抜くと炎の波紋がある刃が現れた。あれが
稲荷大明神が平安時代に京の名工、三条宗近と共に作ったとされている太刀か。残念ながら現在では同じ名前の刀はあるがこの伝説由来の刀は見つかっていない空想の刀だ。このゲームでは稲荷大明神の刀として神刀扱いになっているんだな。
「ほな始めよか。神火」
『獄炎!』
稲荷大明神の姿が消えると俺は攻撃を受け止める。そして接近戦となるとお互いに炎の刀をぶつけあい、俺たちは稲荷大明神と互角の戦闘になる。これは恋火が空中浮遊や尻尾の攻撃に意識を集中できるようになったことが大きい。ただこちらの攻撃も稲荷大明神には届かない。悉くこちらの攻撃が止められている。
そして俺が攻撃を後ろに下がり、躱したタイミングで大振り攻撃を仕掛けてきた。稲荷大明神のレベルでこのタイミングでの隙が大きい攻撃はあり得ない。つまりこれは偽りの攻撃。
「抜打!」
「神鎧!」
俺が前に出て抜打を放つがこれは神鎧に防がれる。しかし相手の朧は封じた。フェイントの技である朧は逆に懐に入られると技のタイミングが外されて上手く技が発動出来なくなる欠点がある。ただこちらも相手に飛び込むわけだからそれなりのリスクは背負っているんだけどね。少なくともこれがもし朧ではなく、純粋な攻撃だったら俺は逆にやられていた可能性が高い。
しかし俺の中では朧が使われる確信があり、逆に攻めるチャンスを掴み取った。リスクを恐れていたら、上の存在には勝てはしない。どこかで勝負しないといけないと俺はこれまでの強敵たちとの戦いで学んだ。
俺は抜打からすぐさま刀を構え直して稲荷大明神の首を狙う。
「太陽風!」
熱風を超える灼熱の風が稲荷大明神から発生し、俺たちは吹っ飛ばされる。すると俺たちの周囲が光に照らされる。
「日輪!」
「あっぶね…雷光!」
「光閃!」
俺たちが光速の斬撃の応酬となる。ここで稲荷大明神も新たな武器を使用して来た。
「後光。硬化!」
「がは!?」
俺たちを後光で目潰しすると稲荷大明神の天の披帛が俺たちの腹に突き刺さると俺たちは吹っ飛ぶ。布ではあり得ない硬さの攻撃だった。まるで鉄の棒で腹を突かれたような感覚。これが硬化スキルの力か。本来硬くないものに硬さを与えて攻撃力を上げるスキル。
俺が分析していると天の披帛が俺たちに襲い掛かって来た。俺が旭光近衛で弾くと金属音がする。それだけの硬さを持っているということだ。更に別の天の披帛が横薙ぎに攻撃してくる。
「万物切断」
「ッ!?」
俺が咄嗟に旭光近衛で天の披帛を受け止めると今度は太刀音が聞こえた。天の披帛の側面を万物切断で刃にしたってところか。明らかに俺たちが持っている天の披帛よりも性能が上だ。稲荷大明神が使っているんだから当然と言われたらそれまでだが、悔しさはある。特に伊雪は悔しがるだろうな。
さて、これで俺たちは小狐丸と天の披帛に対処しないといけなくなった。厄介なところは天の披帛は伸縮自在の武器で突きと斬る以外に本来の縛る攻撃も忘れたいけない。天の披帛で接近戦が厳しくなり、接近戦をしても小狐丸を持った稲荷大明神がいる。それでもやるしかない。
「強欲門。光速激突。武装射出」
俺の気持ちを読んだかのように今度は稲荷大明神の周囲に武器が展開されて、光速で飛来する。それを弾くと弾いた武器が念動力で操られて、襲い掛かって来た。流石にこれは俺一人では捌き切れない。
『武器で迎撃頼めるか? 恋火』
『はい! 武器展開します!』
ロンギヌスを除く武器が俺たちの周囲に展開されて、俺たちに襲い掛かって来た武器を迎撃すると空中で俺たちの武器と稲荷大明神の武器が激しく打ち合う。流石にこれは俺たちの武器のほうが上を行く。稲荷大明神の強欲門は恐らく妲己が由来の武器と稲荷大明神の由来の武器が混在している。中国っぽい剣と槍がある一方で刀が含まれているから間違いないと思う。
妲己由来の武器は殷の王様が持っていた武器で稲荷大明神の武器は神社に奉納された刀が由来だろう。俺の記憶が確かなら伏見稲荷大社には刀は奉納されていないが佐賀県にある三大稲荷神社の一つとして知られている祐徳稲荷神社には刀が奉納されていたはずだ。
しかしこれらの武器と俺たちが使っている武器と比べると流石にレベル差はあるだろう。何せ使われている素材のレベルが違うからね。
ただこれで勝っても状況はそこまで変わっていない。俺たちが遠くで手をこまねていると稲荷大明神の日光と放射熱線の拡散光線に変光スキルで光線が操られる攻撃が来ると更に神雷や黒雷が空から降り注ぐ。
遠距離が強い上に中距離には天の披帛と尻尾がある。そして近距離には小狐丸と格闘術だ。ここまでバランスが取れている敵は早々いない。これが狐たちの神の実力か。
『相手の切り札を恐らく滅茶苦茶残している。時間をかけてもこちらが不利になるだけだ。こっちから仕掛けるぞ。恋火』
『はい!』
「神刀解放! 神威解放!」
旭光近衛の真の力が解き放たれる。これを見た稲荷大明神は目を細める。
「ようやく本気どすか? ほならうちも答えようか。小狐丸。神刀解放。神威解放」
小狐丸も神刀解放と神威解放の両方が使えるんだな。真の姿になった小狐丸は刃の色が緑に変化し、神の炎と神の気を放つ太刀となった。
「雲蒸竜変!」
「篝火狐鳴」
俺たちが斬りかかると稲荷大明神も接近してきてくれた。しかし斬撃を放つ瞬間に稲荷大明神が炎に包まれて俺たちの眼の前が炎に包まれる。
「コーン」
狐の声が聞こえると俺たちは次の瞬間、身体を斬られていた。
篝火狐鳴の意味はかがり火を使い、狐の鳴き声を真似て民衆を惑わせること。これは中国で実際に行われた作戦から来ている四字熟語だ。
炎は雲蒸竜変で斬ったんだが、稲荷大明神には届いていない。恐らく確定の回避付きのカウンター技。朧とよく似た技と見ていいだろう。これは俺の慢心だ。
「これは前のお返しどす」
「思いっきりばっさり斬ってますけどね!」
「女の身体を斬ったんどすからこれぐらいは当然の罰やよ」
俺じゃなくて恋火がしたんだけどな。まぁ、これは殺し合いだからしょうがない。
「旋風刃!」
「ふふ」
俺たちが旭光近衛から旋風刃を放つと稲荷大明神はまさかのノーガードで受けた。凄く嫌な予感はするが相手の出方を見るためにもここは攻める。
「天悪英嵐破!」
俺たちは上に回ると稲荷大明神に天悪英嵐破をお見舞いした。この結果、稲荷大明神は雲の地面に落下した。
「流石にスサノオはんの一撃はとんでもありまへんな。最もうちにはこれがありますけど…神技、五穀豊穣」
雲の地面に稲が生え、空から稲穂が降っていくと稲荷大明神の生命力が全回復し、更に謎のバフが発動する。
「…おい」
「大ダメージをくれてありがとな。五穀豊穣の発動条件は大ダメージをうけやんと発動できへんのや。その代わりに発動出来たら、生命力を全回復し、状態異常を全解除、うちに料理バフを付与することが出来る。この料理バフはうちが食べたことがある料理バフしか無理やけど、どっかの誰かはんがいい料理バフの料理を奉納してくれたからな。効果もりもりやわ」
それってうちにある九尾の社が原因だよね!?後、黙ってあんたと九尾が俺が作った料理をつまみ食いしていることを俺は知っているからな!酷い!とんでもない裏切り行為だ!
「うちは狐の神様やからな。人々に豊穣をもたらす稲荷大明神としての善神がある一方で人々を騙す九尾としての悪心を持ってます。だからこれはしょうがないんよ」
起きてしまったはどうしようもない。まさか自分の料理バフと戦う日が来るとは思っていなかったが弱点は知っている。そして稲荷大明神に勝つ方法も見えてきた。まずこちらの攻略の鍵は恋火が新しく覚えた鎮座祭だ。これはもう稲荷大明神に使えと言わんばかりの技だからな。
しかしこれを使うには稲荷大明神の動きを封じる必要がある。かなり強引な手段になるがこれは可能だ。ただそれに行きつくまでが大変なんだよな。五穀豊穣のせいで俺たちは地道にダメージを与えていく必要がある。まずはここからスタートだな。
俺たちは魔導書を展開すると稲荷大明神に再び接近戦を挑む。
「樹海支配! 簡単には行きまへんよ?」
雲の地面から無数の木の根が生えて俺たちに襲い掛かって来た。俺たちが回避行動を取ると俺たちが知らないスキルが使用される。
「空爆」
空爆ときいて俺は空を警戒すると俺たちは爆発する。空じゃなくて空間かよ。ややこしい!
「まだまだいきますえ。溶波動! 自然波動! 流動!」
二つの波動が自在に動いて俺たちを追尾して来る。これはこちらも波動技で相殺した。本当にどんな距離でも強い神様だよ。ただこちらがやることは変わらない。接近戦でケリを付ける。その前に俺たちは準備を整える。
「遅延魔法。エクリプス」
『内気功。気力融合。自然採気。フォックスフォース』
準備は出来た。俺たちは稲荷大明神の遠距離攻撃を掻い潜ると木の根は切断し、天の披帛を弾き飛ばして接近戦をする。ここで遅延魔法でストックしたエクリプスが発動して料理バフが消滅した。
「酷い事するわぁ」
「あなたに言われなくはない!」
「「閃影!」」
「そうどすな。内気功。気力融合。自然採気。フォックスフォースどす」
閃影のぶつかり合いでお互いに距離が離れると稲荷大明神もファックスフォースを発動した。こちらの強化解除を見越していたこちらが強化解除した後にフォックスフォースを発動して来た。しかしこれで強化は互角。ここからは技量勝負だ。
「はぁあああ!」
『やぁあああ!』
俺たちのスピードを活かした攻撃に稲荷大明神は押され始めた。これは本人が認めていたことだ。それにしても刀がぶつかる度に猛爆や焼尽の効果で周囲の空が爆発しまくっている。その度に俺たちもダメージを受けている。当然このレベルの神なら耐性無効や加護無効ぐらいは普通に有している。それでも止まる訳にはいかない。
「仙郷移動!」
『逃がしません! 稲荷大明神様! 仙郷移動!』
今度は仙郷が爆発に包まれる。そして戦闘は更に激化していく。
「太極波動!」
『心眼! タクトお兄ちゃん!』
「はぁ!」
俺たちは稲荷大明神の腹を斬り裂く。本来なら大技を決めれたが五穀豊穣が結果的に大技封じになっているのが非常に面倒臭い。
「く…核撃!」
「どわ!?」
『きゃ!? ッ!?』
「黒星!」
『星核!』
至近距離からの核撃を受けると吹っ飛んだ俺たちに稲荷大明神は空間転移からの追撃を試みたが恋火が星核で相殺してくれた。すると次は稲荷大明神が子狐丸を構えて接近戦を挑んで来た。俺に同じ技は通用しないぜ。
「神刀技! 狐仮虎威」
『くっ!? 重い!』
『タクトお兄ちゃん!? ッ!? 速い!?』
俺たちが激突すると稲荷大明神のパワーが急上昇して俺たちは吹っ飛ばされるととんでもない速度で斬り刻まれた。
狐仮虎威は虎の威を借る狐という言葉と同じ意味の四字熟語で意味としては他人の力を自分の力のように使って、好き勝手に振る舞うこと。このゲームでは攻撃をしてきた相手の全ステータスを一時的に自分に付与する技だった。
「調子に乗り過ぎ…ッ!?」
「はぁあああああ!」
『やぁあああああ!』
俺たちは必殺技の効果は一時的であることは知っている。一瞬でとんでもないダメージを受けたとしても引く訳にはいかない。
俺たちは確実に稲荷大明神に斬り傷を与えていくと稲荷大明神も追い詰められている状況に気が付く、勝負に出る。
「いい加減にしいや! 獣化! 天変地異!」
稲荷大明神が巨大な狐の姿になった。的がでかくなるこの時を待っていた!
「恋火!」
『獣化! 天変地異! 火炎車! やぁあああ!』
「ッ!?」
こちらも狐の姿になり、天変地異をぶつけると天変地異がぶつかっているところを巨体でぶち抜き、狐状態の稲荷大明神に体当たりを決めた。しかし俺たちはこの結果、狐状態の稲荷大明神の牙と爪が体に刺さり、毒に侵される。それでもいい。勝負ありだ。
恋火が尻尾で攻撃しようとしていた稲荷大明神の尻尾を止めるとそのまま稲荷大明神を雲の地面に押し倒す形になると空から俺たちの武器が降り注いで稲荷大明神の尻尾を貫いた。しかしこれではまだ完全に動きを封じられない。
「天鎖」
エンゼルファミーユから天鎖が発動して稲荷大明神の拘束に成功した。
『鎮座祭!』
「おやめ」
『やめません! 怒れる神を鎮めるのはあたしたち巫女の大切な役割ですから』
「そうどすな」
鎮座祭が発動して稲荷大明神は空天狐の姿に戻る。そして俺たちは勝ったと思うと血反吐を吐き、身体が光に包まれる。爪と牙でやられた時に発生した毒のダメージか。しかし俺たちには恋火が奇跡の効果がある。これで蘇生したが俺たちも解除された。
「こんな形になるとは思ってなかったけど、恋火。最後は自分で決めて来な」
「はい! ありがとうございます! タクトお兄ちゃん! 行きます! 空天狐様! 狐炎之舞!」
「お見事どす」
流石は恋火が決めて、試練は終了となった。
「負けてもうたなぁ。ほんまつようなったわぁ」
「タクトお兄ちゃんやみんなのお陰です」
「そうやね。その気持ち、一生忘れたらあかんよ」
「はい! 絶対に忘れません!」
この試練でまた恋火は一歩成長したな。俺が微笑ましく見ていると空天狐はあっさり起き上がり、俺に言ってくる。
「恋火の進化は後にして、次はあの子の試練をしよか」
「…休みなしですか」
「うちの手の内を少しは見たんやからそれぐらいのことは我慢しぃ。あ、大切な事を言い忘れてましたわ。この戦闘の事をあの子に話すのは禁止な。話すと試練ではなくなりますから」
「わかりました」
こうして俺はこのとんでもない神様との連戦に挑むこととなった。




