#1368 空天狐の最後の試練
俺は恋火と和狐を連れて、伏見稲荷大社の千本鳥居前まで来た。そして二人と手を繋ぎながら千本鳥居を進んでいくと霧が発生して、神秘的な光景を作り出した。本来なら怖い光景の可能性もあるのだが、神社という場所がそうされているのか空気を吸うだけで浄化されるような不思議な感覚を持つ。
そして千本鳥居を抜けると伏見稲荷大社の本殿が見えてきた。そして俺たちの前に空狐と天狐が現れた。
「空天狐様の最後の試練に挑みますか?」
「「「はい」」」
「では、ご案内いたします」
俺たちは本殿の中に入ると空天狐がいる場所に案内されると二人は消える。
「よう来たなぁ。うちの試練に挑むってことで良いんどすな?」
「「はい!」」
「今の状態で本気でうちに勝てると思ってはるんどすか?」
空天狐の目付きが猛獣のものに変わり、とんでもない殺気と重圧が俺たちに襲い掛かって来た。
「「ッ!? はい! 勝つためにここに来ました!」」
二人が睨み返すと空天狐は殺気を止めた。
「ふふ。ついさっきまで不安で押しつぶされそうになっておりましたのに…どんな言葉を貰ったんやろね? やっぱり愛する人からの言葉は偉大やわ」
空天狐の言葉に二人は超反応して顔を真っ赤にする。ここで俺は聞いてみた。
「二人の不安は知っていたのに俺の言葉は聞かないんですね」
「神にもよるけど、うちは自分の眷属の大切な出来事を覗いたりはしまへん。そういうのは後から本人たちから聞いた方が眷属たちの幸せな姿を見れてええどすからな」
いい神様だと思ったけど、眷属たちの惚気る姿をニヤニヤしておちょくるんだろうな。それで照れる姿とかそういうのを見たいんだと俺にはそう聞こえた。
「神の中には全部見る神もいるんですね」
「神もそれぞれ考えがあるからなぁ。人を作り出して、人の全てを観察することで次の世界の創造をより良くすることを考える神もおります」
これは現実にもそういう説がある。なぜ神は人を創造したのか?という回答の一つに人を作り出すことで神がシュミレーションゲームをしているという考え方だ。それで人類と言うか世界の行く末を観察して自分たちの糧にするわけだね。
俺たちもゲームでキャラクターを作っているわけだから同じことを神がしても不思議ではない。俺個人としては別にどっちでもいいが俺の考えは俺だけのものだと信じたい。自分の思考まで神に決められているとかは思いたくない。そう言う意味ではこのゲームのキャラクターが自分で考えて経験して成長していくことに俺は賛成の立場と言う事になるんだろうな。
「話はこの辺でええどすか? 時間が無いみたいやし早く終わらそか。諦めが早く着いたほうが良い事もあるやろからな」
「勝つのはあたしたちです!」
「絶対に負けまへん!」
「ええ顔や。久しぶりに本気で楽しめそうどすな」
ここで試練内容が表示される。恋火と和狐で個別に試練を受ける事になる。どちらの試練も俺だけは参加可能だ。
「つまり俺だけあなたと二連戦することになると?」
「そういうことになりますな。現代の英雄と二回も戦えるなんて最高の贅沢やわ~」
俺たちの会話を聞いて恋火と和狐は慌てる。
「あ、あの!」
「タクトはん…あう」
「大丈夫だ。任せとけ」
俺は気合いを入れると最初に恋火の試練から開始する。
「ほな。場所を変えよか」
空天狐が両手を合わせて音を鳴らすと俺たちと空天狐は転移する。そこは金色の雲の上だった。俺と恋火がそれぞれ刀を構えると空天狐は両手を背に回すと二本をサーベルを取り出した。
「妲己の双刀」
封神演義で妲己が最後に使った武器か。ならサーベルというよりあれは中国刀と言うべきだな。
「タクトお兄ちゃん」
「あぁ。思いっきり戦っておいで」
「はい! 行きます! 空天狐様!」
「はよきよし」
恋火が間合いを詰めて斬りかかると空天狐は連続攻撃を受け止めると刀を弾き飛ばし、蹴りで恋火をぶっ飛ばすと姿が消える。恋火は立て直して空天狐の斬撃を止めるが空を自由自在に動き回る空天狐の動きに恋火は付いていけていない。
これが空中浮遊を極めた戦闘のお手本と言うべき戦闘だな。地面を蹴るや翼を羽ばたかせるといったアクションは空中浮遊にはない。ノーアクションで距離が詰まったり、距離が離れたりする。これが接近戦では非常に厄介なことだと恋火が苦しんでいる姿からはっきりわかる。
後は単純に空天狐の近接戦闘能力が高い。剣を踊るように振るっている独特の戦闘スタイルにそこに加えて蹴りや尻尾の攻撃を合わせている。これは中国の戦闘っぽい動きだな。天狐の話は中国が原点だからこういう戦闘になるのは当たり前のことかもしれない。
しかし恋火も空天狐の戦闘に順応し始めた。空天狐の剣術は基本的に受け流してからのカウンターが多い。だから恋火も空天狐のカウンターに対応するために細かい動きを意識して戦闘している。しかしそれでも空天狐に攻撃が当たらない。惜しい攻撃があるんだが、空中浮遊によるノーアクションバックで攻撃を躱されている。追撃しても身体を回転されて斬撃を躱される。
これはもう恋火と見えている世界が違うな。恐らく未来予知で恋火の動きを読んでいる。その上で全て対処して見せるんだから空天狐個人の実力は本物だ。
「そろそろいきますえ? 獄炎!」
「ッ!? 神火!」
空天狐が剣に獄炎を宿すと恋火は神火を宿して応戦する。そして空天狐が空中浮遊でノーアクションで後ろに下がったタイミングで仕掛けてきた。
「鬼火どす」
「やぁああ!」
「神魔毒、即死毒、麻痺毒。いきなはれ」
「ッ!?」
恋火が飛んで来る鬼火を斬り裂くと空天狐は双刀に毒を宿して、恋火に投げて来た。これを恋火は弾こうとしたが念動力で動きが変化する。それを体捌きで躱すが次の瞬間、空天狐が空間転移で現れると恋火が躱した双刀を手に持ち、恋火に襲い掛かる。恋火は強引に体勢を変えたせいで対処出来ない。
「それはさせる訳にはいきませんね」
「そうやろな」
俺がここで襲い掛かったが双刀で受け止められた。お互いに距離を取ると俺と空天狐がぶつかり合う。実際に対戦してみてわかったが普通に武器の技量はかなりある。ただ本人も以前に言っていたが単純な武器の技術だと烏魔天狗である爺さんのほうが上だな。ただスキルを組み合わせて来ると実力では空天狐のほうが上となる。
「毒霧! 病気ブレス!」
接近戦をするとこれらのスキルを使われて、離れざる追えない。ここで恋火も戦闘に参加して二人で空天狐に戦いを挑むが俺たち二人の攻撃を時にいなし、時には弾き、蹴りと尻尾の攻撃を組み合わせて対処される。
「はぁ!」
「やぁ!」
「甘いどす。狐技。狐稲爆!」
俺たちが左右から大振りの攻撃をすると空天狐は空を蹴り、攻撃を躱すと狐稲爆を俺たちに降られて来た。これに対して俺たちは大きく後ろに下がると火山雷と火山弾、流星群が降り注いで来た。遠距離はやはり俺たちだと勝ち目がない。接近戦を挑まないとな。
「分かれて距離を詰めるぞ」
「はい!」
俺たちはそれぞれ空天狐の攻撃を対処しながら距離を詰める。
「金縛どす」
「う!?」
「やぁあああ! ガッ!?」
俺の動きが止められると空天狐は両手の双刀を手放すと太刀を振り抜いていた恋火の懐に潜り込むと肘打ちを決めると悶絶する恋火は爆心と紅炎の効果で爆発と炎に包まれる。更に空天狐は背後に回ると尻尾を掴み、振り回すと俺に投げつけて俺は動けず、恋火とぶつかると空天狐は目の前に現れる。そして空天狐の両手によく知る光を見る。
「太極波動どす! ッ!?」
俺は恋火を捕まえた状態で空中で回転すると蹴りで空天狐の手を上に上げ、太極波動を弾いた。しかし次には危険が知らされる。空天狐が上に上がると手放した双刀が俺たちに向かってきていた。
「ハーミットテイル!」
これを恋火が尻尾で弾き飛ばしてくれた。しかし空天狐は攻め手を緩めない。
「強欲門!」
空天狐の周囲から無数の剣や槍、錫杖が現れると俺たちに降り注いで来た。それを俺と恋火は二人で協力して弾き飛ばすが止む気配がない。俺たちは再び分かれて、空天狐との距離を詰める。武器はご丁寧に俺たち双方を狙って来た。
「おぉおお!」
「はぁああ!」
俺のほうが先に空天狐との距離を詰め、襲い掛かるが空天狐と激しい剣戟の応酬になる。そこに遅れて恋火が参戦するが恋火の攻撃も止められる。その瞬間、空天狐からの気配が変化する。やばい技が来る。
「魔神技。酒池肉林」
逃げようとした俺と恋火だったが一瞬でピンクの霧に包まれてしまう。その瞬間、俺の視界はぐにゃぐにゃになり、酔いそうになり手を動かそうとするが動かず、体が熱くなる。自分のステータスを見ると泥酔と魅了の状態異常になっていた。自分を中心にした広範囲にいる敵を泥酔と魅了の状態異常にする技か。
酒池肉林は妲己の伝説から生まれた四字熟語だ。妲己の指示で酒や肉がいっぱいある宴を開き、その場所で男女を裸にして民を虐めたという伝説から来ている。その伝説から魅了と泥酔の効果がある技になった訳だね。
「うちは妲己の上でもあるんやよ? 妲己に出来ることはうちも出来て当然」
やばい。魅了吸収まで発動して凄い勢いで生命力が無くなっていく。しかし魅了の効果で思うように身体が動かせない。今頃になってリビナに襲われている人の気持ちを味わうことになるなんてな。
「禊! タクトお兄ちゃん!」
恋火が俺を助けに来る。まずい。空天狐の顔は完全に恋火を狙っている。空天狐が振り向きざまに毒が宿った剣を振り抜くと恋火の姿が幻なって消える。
「朧」
恋火はここで初めて空天狐にかすった程度だが斬り傷を与えるとそこが爆発し、空天狐が燃える。これは空天狐に攻撃を当てるより、俺を助けることを優先したのが原因だ。
「大丈夫ですか!? タクトお兄ちゃん」
「かなりきつい…しょうがない。使うぞ。恋火」
「はい」
「「マリッジバースト!」」
俺たちがマリッジバーストを発動する。そして俺に発動していた魅了と泥酔の状態異常を禊で解除した。
「慌てて夫を助けに来ると思ってはりましたけど、夫を助けるために冷静な判断をしましたな。うちに通常状態で一撃を与えたことを褒めなあかんね。資格は十分。うちも本気の姿を見せるとするわ。神格解放!」
空天狐に光の柱が発動すると天女の姿に九つの狐の尻尾がある女神が降臨した。
稲荷大明神?
? ? ?
これが伏見稲荷大社の主祭神。わざわざ自分の名前を稲荷と名乗っていたから分かっていたことだけど、まじかで見るととんでもない神気を放っている。当たり前だ。このゲームでは神の強さは信仰の強さで決定している。稲荷大明神は伏見稲荷大社に加えて稲荷信仰がある。信仰の強さはかなり高い部類だろう。そんな女神との全力戦闘が始まろうとしていた。




