#1425 劇毒竜戦
アシッドドラゴンが発生させた毒霧をリビナが暴旋風で吹き飛ばしてくれるとアシッドドラゴンの姿が消えた。
「いない? あ、毒沼の中?」
「リビナ! 上だ!」
俺の声に反応してリビナは回避に動くがリビナの白蛇がドラゴンクローに触れて、引き裂かれる。これを見たアシッドドラゴンはすかさず両肩の隆起した穴から黄色い液体がリビナに放水される。
「きゃ!? 何? この水…あぁあああああ!?」
リビナの身体から煙が上がり、リビナが火傷と腐蝕の状態異常になる。あれは確か硫酸スキルだ。俺が知っているのだと土属性のスライムの最終進化であるヘドロスライムが使うことが出来る。酸のドラゴンなら硫酸くらいは使って来ないと名乗れはしないよな。
本来ならリビナの白蛇が自動防御するところだが、ドラゴンクローでやられた瞬間を狙って来た。仕掛けて来た段階でもうコンボをするつもりだったんだろうが最悪の形で決まってしまったな。
「ギャオオオ――!」
「転瞬! あっぶね…」
俺が更なる攻撃からリビナを助けているとリビナが言う。
「あ、この手はタクトの手…」
「それぐらいわか…もしかして目をやられたのか?」
「全身で浴びっちゃったからね…でも大丈夫。この程度で負けないから」
本当に俺の妻はみんな精神的に強いよ。そう思っていると俺たちに無数の死滅光線が放たれた。これを回避していると虎徹がアシッドドラゴンに襲い掛かる。これに対してアシッドドラゴンの尻尾が虎徹のほうを向くと尻尾の先が穴が開いており、そこから硫酸が放水される。
これを虎徹は空を蹴り、上に避けたがアシッドドラゴンの背から毒針が反射される。それを一生懸命刀で弾くが流石に全ては無理で十数発発受けたが残りは鎧でガードした。
「ガアァアア!?」
虎徹の叫ぶと虎徹の体から煙が発生している。よく見ると刀と鎧に硫酸が付着していた。考えられるのは先程の毒針だ。あれに触れた時に付着したんだろう。
そして虎徹の刀たちが腐蝕の効果でボロボロになる。こいつ、装備で火力を出す者になっては天敵のドラゴンだぞ。
「タク! 危ない! 避けろ!」
俺が空を飛び過ぎたせいで劇毒竜デッドリーポイズンドラゴンが巨大な翼を羽ばたかせると毒の雨が俺たちに降り注ぐ。
「暴風壁!」
リビナの暴風壁で毒の雨は弾かれるが暴風壁をぶち抜いて巨大なドラゴンの爪が俺たちに迫る。しかしこれは俺が距離を取り、回避に成功する。思ったより攻撃が速かったな。
「ギャオオオ―――!」
「く…!」
俺たちが氷の地面に着地するとそこを狙って、アシッドドラゴンがドラゴンダイブを使って来た。これを氷の地面を蹴り、アシッドドラゴンを飛び越えるように回避するとまた針が発射される。これも着地と同時に氷の地面を蹴り、回避した。必中スキルはないな。
「タクト!? 大丈夫!?」
「大丈夫だ。俺の強さは知っているだろ?」
しかし虎徹の刀の様子を見るとここで武器を使うべきか悩んでしまう。するとリビナが言う。
「タクト…切り札を使わせて」
「リビナ?」
「ボクには見えないけど、ユウェルたちも苦戦しているんでしょ?」
リビナの言う通りでユウェルたちは防戦一方となっている。今までの敵は神の加護や毒無効などで毒はそこまで怖くなかったが、デッドリーポイズンドラゴンは違う。加護無効と耐性無効で確実に敵を毒の状態異常にしてくる。
そして毒のスキルの中には即死毒がある。これを喰らったら、問答無用で即死だ。その状況下でユウェルとストラは必死に攻撃を当てている。これは二人だから出来ることだ。一人が守り、一人が攻撃を担当している。
しかし一人の火力ではデッドリーポイズンドラゴンを落とすのは厳しそうだ。こっちとしては虎徹がほぼ戦闘不能状態に追い込まれたのが痛い。するとリビナが続ける。
「タクトは毒竜の対策でボクを選んでくれたんでしょ? もちろんレベル上げとか色々考えてくれたんだと思うけどさ。毒竜の対策で選ばれたならボクが本気を出すところはやっぱりここだと思うんだよね」
「頼めるか?」
「任せてよ」
「虎徹、リビナの時間を稼ぐぞ」
リビナが魔神化を使おうとするとやはりアシッドドラゴンとデッドリーポイズンドラゴンは妨害に動いて来た。
「ギャオオオーーー!」
「リビナの邪魔はさせねーよ!」
ドラゴンダイブで飛び込んで来るアシッドドラゴンに対して俺も前に出ると拳を握る。突撃技はカウンターに弱いと知れ。
「星震! アッパー!」
アシッドドラゴンの懐に入ってからの俺のアッパーが綺麗に顎に炸裂した。この結果、アシッドドラゴンの体は浮かび上がり、後ろに倒れ込んだ。そして虎徹が封滅の陣を発動させる。これでアシッドドラゴンはどうにかなったが問題はデッドリーポイズンドラゴンだ。
「う…この! 止まれ!」
「「「シャー!」」」
ストラが斥力場を展開して、ユウェルは全力で防御スキルを発動させると二人でデッドリーポイズンドラゴンの巨体を受け止めることで阻止しようした。
「うわ!?」
「「「シャー!?」」」
そんなユウェルたちはドラゴンテイルの一撃で吹っ飛ばされた。完全に巨体で潰そうとしていたところでのまさかの不意打ちだった。やはりこのレベルのドラゴンになると賢い。
「リビナ!」
「ギャオオ…」
デッドリーポイズンドラゴンが息を吸い込む。ドラゴンブレスの態勢になった時だった。氷の地面が砕けて、黒鉄のレールガンロケットパンチが飛んできて、デッドリーポイズンドラゴンの腹に炸裂するとデッドリーポイズンドラゴンはドラゴンブレスが撃てなくなった。
そのロケットパンチにはヴェノムサーペントが電気網で捉えられていた。毒沼の中で何が起きたのか少し時間を遡る。
黒鉄とヴェノムサーペントとの戦いは俺の予想通りの展開となった。ヴェノムサーペントは神魔毒ブレスや腐蝕ブレス、ドラゴンブレスで黒鉄に攻撃したが反射装甲で弾かれ、ヴェノムサーペントの側面にある紫色の宝石から死滅光線の拡散光線が放たれたがこれも反射装甲の前に手も足もでない。
ただヴェノムサーペントもこの反射にはスピードとサーペントタイプ独特の動きで見事に回避している。そして遠距離攻撃が効かないとなるとやはり接近戦を選択する。
ヴェノムサーペントの額に魔素刃が発生するとドラゴンダイブで突撃したが逆に弾かれてしまう。そして黒鉄はヴェノムサーペントにレールガンロケットパンチを放つがこれを身体の動きだけで回避されてしまう。
これで肩腕が無くなった黒鉄に対して、噛みつきが攻撃は通らず、締め付けようとしたが電弧放電を喰らう結果となった。黒鉄にヴェノムサーペントの攻撃は全く通用していない。それほど相性が悪かった。
ここで黒鉄はロケットパンチを元に戻すと別の腕で通常のロケットパンチを放った。電弧放電を喰らった所への不意打ちのための即撃ちとしても流石に違和感がある。案の定、ヴェノムサーペントは身体をくねらせてあっさり回避に成功した。黒鉄はこの瞬間を狙っていた。
通り過ぎたロケットパンチが逆方向、つまりヴェノムサーペントのほうに向きを変えると手をグーからパーにすると掌の中央に穴が開いて、電気網が発射される。一回目のロケットパンチを見せられていたヴェノムサーペントは何が起きたのか理解出来ないまま電気網に捕縛される。
黒鉄が地上での魔力の高まりを感知したのはこの時だった。黒鉄は電気網の腕を自分のところに戻すとレールガンロケットパンチを地上に向けて撃ったのだ。
「ナイス! 黒鉄! さぁ! 行くよ! 毒竜の王様! これがたぶん魔王としてのボクの最後の切り札だ! 魔神化!」
リビナは次の成長で完全に魔王から卒業することを感じているようだな。そして魔神としてのリビナが降臨する。しかし盲目状態であることに変わりはない。
「まずは君からお仕置きしようか」
「ギャオオオー!」
アシッドドラゴンが封滅の陣を尻尾で薙ぎ払うと挑発されたリビナに襲い掛かる。するとリビナにまた両肩から硫酸が発射された。
「「シャ!」」
「爆風波!」
リビナの両腕の白蛇たちがリビナに状況を教えて、リビナは硫酸ごと爆風波で吹き飛ばした。氷の地面に叩きつけられたアシッドドラゴンの周囲をアダルトリリィウィップが叩くと苗木スキルが発動する。
「ギャオオオ! ギャオ!?」
これを見たアシッドドラゴンが叫ぶが苗木が生えて、襲い掛かるのが速かった。これで麻痺毒などの毒スキルが発動する。耐性無効で逃れる術はないがここで雨が降って来ると苗木スキルが枯れてしまう。酸性雨だな。魔法にもアシッドレインがあるからスキルで使えても不思議ではない。
苗木に叩かれる前にしっかりスキルの発動は間に合っていたんだな。最もリビナは暴風壁でしっかり守り、天候支配で一瞬で酸性雨を止めてしまった。
「覚悟はいいかな? 苗木!」
リビナは再び苗木を発生させると苗木がアシッドドラゴンをタコ殴りにして、倒してしまった。魅了毒と麻痺毒の効果で逃げれなかったな。このコンボがえげつないわ。
「さぁ。次は君の番だね」
「ギャオオオ―――!」
本来ならデッドリーポイズンドラゴンが助けに入ることもあっただろうがリビナはアシッドドラゴンと戦いながらとリビナの白蛇の一匹がしっかりデッドリーポイズンドラゴンを見ていた。それだけでなく、リビナの迫力がデッドリーポイズンドラゴンの動きを止めていた。下手に動くと倒されるのは自分のほうだとデッドリーポイズンドラゴンは本能で感じ取ったのだろう。
そしてリビナとデッドリーポイズンドラゴンとの戦いが始まった。最初は即死毒が放たれる。これをリビナはノーガードで受ける。するとリビナの白蛇が即死毒を吸収する。
「ご馳走様」
「ギャオオオ―――!」
「「シャ!」」
「暴風壁! 天候支配!」
デッドリーポイズンドラゴンが叫ぶと黒い雨が降り注ぐ。これをリビナは風でガードすると天候支配で黒雨スキルを止める。
「危ないなぁ。もう!」
リビナの姿が消えるとリビナはデッドリーポイズンドラゴンの身体中を鞭で叩きまくる。びくともしていないように見えるがそれは痛覚無効のせいだ。出血スキルの効果でダメージは確実に蓄積されている。
「ギャオ!」
「シャ!」
「おっと! 危ない!」
「ギャオオオ―――!」
リビナにドラゴンテイルが飛んで来るとこれをリビナはギリギリで回避するとデッドリーポイズンドラゴンは全身から死滅光線を発射した。これをリビナはギリギリで回避する。白蛇たちがフォローしているがやはり一歩反応が遅れているな。
「お返しだよ! 魔神波動!」
「「シャー!」」
リビナが魔神波動、白蛇たちが冥ブレスを放つとデッドリーポイズンドラゴンの身体が毒になることで回避されると更にその巨大な毒の塊から無数の毒のドラゴンの首が現れると一斉に俺たち全員に襲い掛かって来た。
「躱せ!」
「ストラ! 逃げるんだ! わたしたちがいるとリビナの邪魔になる!」
「「「シャー!」」」
「よく分かっているんじゃん。ユウェル。君の相手は今はボクでしょうが! タクトたちに手を出すんじゃない! 氷雷!」
青い雷が毒のドラゴンの首に降り注ぐと凍り付き、俺たちへの攻撃を阻止した。すると毒のドラゴンから毒の棘が発生して氷を貫いた。水流支配と物質化の合わせ技だろうな。そしてデッドリーポイズンドラゴンは毒の姿のままリビナに襲い掛かると直前で元の体に戻る。
そしてリビナを噛み付こうとした。
「君は魔神であるボクを怒らせてしまったことが敗因だよ。夢幻回廊」
デッドリーポイズンドラゴンは眠りに落ちて、リビナを食べて後に俺たち全員を倒し、仲間から称賛され、メスのドラゴンたちにモテモテになる甘い夢を見る。毒にどれだけ強くても甘い夢には勝てなかったな。
「色欲。魅了吸収。苗木。ボクの夫と家族を虐めた大罪。その命で支払って貰うよ」
痛覚無効でボコボコにされていることに気付かないまま、眠った状態でデッドリーポイズンドラゴンは倒れた。本来なら相手もドラゴンフォースや逆鱗、竜魔法などの切り札があっただろうに…リビナを怒らせたせいでデッドリーポイズンドラゴンは本気を出せないまま封殺された。
一方その裏でヴェノムサーペントは電気網から逃げることが出来ないまま感電死している。つまりこれで戦闘終了だ。リビナが元に戻ると俺たちと合流する。
「任務完了かな? 悪いけど、状態異常治してくれる? タクト」
「もちろん。お疲れ様。リビナ。武器の修復もしたいがまずはこの場所を抜けることを優先しよう」
「確かにそれが良さそうだね。また毒のドラゴンに絡まれるのも嫌だし、そうしよう」
リビナの治療をしてから俺たちは歩き出すと枯れ木のエリアを抜けた。そして俺たちはここで武器の修復を行う。一生懸命虎徹の武器を修復しているユウェルにリビナが言う。
「次はユウェルの番だよ。頑張ってね」
「うん! さっきはかっこよかったぞ! リビナ!」
「あはは…かっこよかったか。サキュバスとしては妖艶だったとか欲しいけど、ユウェルからそんな感想出て来るはずがないか」
妖艶さがあっただろうか?怖さが圧倒的に勝っていた気がする。
「タクト? 今、何か思わなかった?」
「何も思ってないぞ」
「タクトがそういう時は大体思っているんだよ!」
「ヨウエンデシタ」
「片言!」
怒っているリビナに叩かれながらも改めてリビナに感謝する。デッドリーポイズンドラゴンは耐性無効は黒鉄にも有効だ。つまりあのドラゴンは間違いなく俺たちを全滅させるほどの力を有していた。それを圧倒的な強さで勝ってくれたリビナには頭が上がらないよ。
そんなリビナにしてやられることはまずこのクエストをクリアすることだ。もう山頂が見えている。ゴールまで残り僅かだ。絶対にクリアしてやる。




