#1385 風のドラゴニュートの村
俺たちが近付くとアリナにだけ聞こえることが届く。
「アリナたちはあなたたちと敵対したいわけじゃないの! ただちょっとだけアリナの故郷を見ていたいだけで…お兄様、村に行くのはちょっと待って欲しいの。村長とどうするか相談するみたいなの」
「出来れば早めに決めて欲しいもんだな…」
俺がそういうわけは敵は待ってくれるような敵ではないからだ。ソニックソードワイバーンが次々やってきて、俺たちは迎撃するが地味に斬撃を受けている。多乱刃の効果もそうだが、すれ違い様に神鎌鼬を使われるとこちらも全ての攻撃を回避するのが難しい。
「竜魔法! エアリアルカースバインド! 今なの!」
「ガァアア!」
「シャー!」
「いけ! ヒクス!」
アリナがエアリアルカースバインドで発生した拘束する風が全てのソニックソードワイバーンに決まるとゲイルと蒼穹、ヒクスが襲い掛かって倒す。ここでようやく風のドラゴニュートの村に動きがあった。
「許可が下りたの。お兄様」
「そっか…よかったな。アリナ」
「本当によかったの」
ここで敵も一斉に引く。恐らく風のドラゴニュートから話が通されたのだろう。村での戦闘もあり得る可能性も考えていたがドラゴンたちにとっても風のドラゴニュートは仲間だ。流石に村での戦闘は無かったか。
俺たちが降りていくと銀髪のドラゴニュートと紫色の髪のドラゴニュートの二種類が見える。これが風のドラゴニュートの外見的特徴だ。
「ここがアリナの故郷なの?」
「その通りじゃ」
竜の装飾がされている木の杖を持っている年老いた銀髪のドラゴニュートが俺たちに前にやって来た。
「わしがこの村の村長じゃ…よくこの村まで辿り着いたのぅ…うむ」
年老いた銀髪のドラゴニュートが俺たちを見るとアリナは後ろに隠れてしまう。それだけ目の前のドラゴニュートの威厳が凄まじい。この世界で言うなら仙人とかの領域には到達しているだろう。
「よく育てられておる…とても大切にされたようじゃな? 良き召喚師に恵まれて良かったのぅ」
「は、はいなの! でも、そんなことが分かるの?」
「儂ぐらいの年を取ると分かるものじゃよ。まぁ、ちと服を買ったり、髪を研いだり、二人っきりの時間が少なかったりするところがマイナスといったところか」
「おぉ! 凄いの! 村長さん! もっと言ってあげてほしいの!」
何も反論出来ません。俺もそこが一番悪いところだと自覚しているからな。俺に出来ることがあるとするなら責任転換。のんびり時間をくれない運営が悪いと思います!
「ふぉっふぉ…まぁ、本人も分かっておるようじゃし、ここまでにしておくわい。付いて来なさい」
俺たちは村長の後ろを付いて行きながら村を見る。石造りの家でとても質素な感じがするけど、風のドラゴニュートたちは普通に生活しているようだ。なんかこういう村も結構好きだな。厳しい環境の中でも頑張っていることが伝わって来る。
「ここがわしの家じゃ。入って来なさい」
「「お邪魔します」」
俺たちが家の中に入ると遊牧民のような内装の家だった。こういう家も見たこと無いから普通に感動するし、独特の空気が俺は好きだ。
「さて、この村では召喚師が大切に育て上げられた風のドラゴニュートを連れて来た場合、お礼として風のドラゴニュートの専用装備を上げる仕来りがある。仕来りに従い、この中から好きな物を選びなさい」
用意された装備の種類は剣、レイピア、短剣、槍、弓、盾、楽器、鎧、靴でそれぞれ二種類ある。調べてみるとどれも軽く作られていて、風のドラゴニュートが装備しやすい設計になっていることが分かる。二種類ある理由は風特化なのか雷特化の武器があるからだ。それぞれ風竜解放、雷竜解放があるのが最大の特徴だろうね。
この中で面白いのが楽器だ。雷鼓や同じ作りの風の太鼓の他に笛や竪琴で音の効果範囲を伸ばす特殊な武器があった。しかし一緒に見ているアリナの反応は結構微妙だ。
「どの武器もいいと思うけど…うーん…なの」
強い武器を持っている弊害だな。折角の専用装備が弱く見えてしまっている。これはもうどうしようもないだろう。
「お兄様はどれがいいと思うの?」
「俺が選ぶならこの盾だな。説明を見てわかるが空に浮かんでガードしてくれる盾っぽいし、もし攻撃を喰らった時のための保険があったほうが安心感があるだろ? それに攻撃にも使えるみたいだし、いい盾だと思う」
「なるほどなの。それじゃあ、この盾が欲しいの」
本当に分かって決めているのか心配になるがそれだけ俺の武器選択の判断を信じてくれていると思うとしよう。そんなわけでアリナが手に入れた専用装備はこちら。
疾風竜人族の盾:レア度10 専用装備 品質S+
重さ:10 耐久値:8000 防御力:2500
効果:風のドラゴニュート全ステータス+50、堅固、浮遊、大気壁、気圧支配、天候支配、大気波動、暴風刃、神鎌鼬、自動攻撃、自動防御、絶対防御、起死回生、風竜解放、音無効、疾翔龍王の加護
風のドラゴンの紋章に風のドラゴンの翼が付いた盾。持ち主の周囲を飛行し、攻撃と防御双方を行う盾で風の竜が宿っていることで攻撃力も十分ある。ただし攻撃している間、防御は手薄になるので攻守のタイミングが難しい盾となっている。
これでアリナの弱点である防御面が鎧に加えて更に強化されることになった。攻撃にも使えるからアリナの戦闘スタイルがそこまで変化することはないだろうが盾でガードして隙を突く戦術も出来るようになったのは大きそう。
レイピアとアリナの筋力では攻撃を弾くことは厳しいからな。盾と言う明確なガード手段を手に入れてアリナがどんな戦闘を見せるか楽しみだ。
これでここでのイベントは恐らく終わりだけど、一応サタンのことを聞いてみた。
「もちろんわしらは知っておる。わしらはこの星の音を聴く者じゃ。故にこの星の事ならなんでも知っておる。もちろんお主がアリナを召喚したこともアリナがどんな冒険をしてきたかもこの耳で全て知っておるのじゃ。若い者はまだ無理で少しお主たちを試させて貰ったがのぅ」
これが風のドラゴニュートの村長の力か。この星の音を全て聴くということはこの星の情報を掌握していることになるかもしれない。恐らく心の声まで聴けるだろうしな。しかしこれが事実なら是非とも協力して欲しいものだが、やはりそんな簡単な話ではなかった。
「わしらが動く時は疾翔龍王様か創星龍神様が命令した時のみじゃ。それ以外で動く訳にはいかん」
「そうですよね…すみません。ダメもとで聞きました」
「分かっておるよ。一応お主が心で思っておる疑問にも答えておこうかのぅ。わしらがお主たちを攻撃しなかった理由はお主がアリナを大切に育てたからじゃ。逆にお主がアリナを苦しめて追ったのならわしらは容赦なく戦いに参加しておったよ。ただこれはわしらが事前に知れたからこその判断基準じゃ。他のドラゴニュートの村がどうするかはわしには分からん」
「ご丁寧に教えて下さり、ありがとうございます」
俺は風のドラゴニュートの村長に頭を下げるとちゃっかり回復をさせて貰ってからアリナと一緒に村を出る。ここでアリナはじっと遠のいていく村を見ていた
「寂しいか?」
「違うの…村は今まで冒険で見て来た村より寂れているのにアリナの目にはとてもいい村に見えて、それを少しでも長く見ておこうと思ったの」
「それが故郷というものなのかもしれないな…全ての決着が付いたら、みんなに自慢でもしに行くか?」
「それはとってもいい考えなの! お兄様!」
一瞬きょとんとされてしまったが満面の笑顔で返してくれた。やっぱりアリナには笑顔が一番似合う。いや、悪戯した時かも知れないか。
「お兄様?」
「何も考えてないぞ」
「風のドラゴニュートには秘密は通用しないの!」
「いたい、いたい。って、ほらお待ちかねみたいだぞ」
俺たちの前にドラゴンの大群がいた。
「邪魔なの! 爆轟! お兄様!」
「あぁ! 行こう!」
俺たちは元気よくドラゴンの大群に突撃していくのだった。




