#1380 ビナーの神
ビナーの神に挑む前に俺は編成を変えることにした。エアリーとダーレーをファリーダとユウェルに変える。ユウェルは正直空を飛ぶ敵に対して相性が悪いがそこはシルフィと話したうえでユウェルを選択した。
準備が整い、俺たちが女神像に近付くとピンク色のオーロラが発生し、天から自身の身長以上の長さがある黒髪の成熟した女神が降臨した。
エロヒム?
? ? ?
女神であることは間違いないのだが、長すぎる黒髪を見るとどうしても不気味に感じてしまうのはなんでなんだろうか?神よりも魔女とかのイメージが強すぎるからかな?
武器はどうやらピンクパールの杖らしい。なんというか色々マッチしておらず、余計に不気味さが増している。いや、これもそうだが俺の脳に過去の記憶が重なる。ここでエロヒムは口を開く。
「ようこそ。ロンギヌスを求める子供たち。わたしくの名前はエロヒム。全ての女性の理解者であり、至高の母。この世界ビナーの神をしております」
「…どうも。タクトです」
「フリーティアの王女のシルフィです」
「自己紹介ありがとうございます。礼儀がいい子供は好きですよ。ふふ」
俺がエロヒムと視線を交わしているとみんなから攻撃を受けた。
「ちょ。見惚れていたとかそんなんじゃないって」
「「「何も言っていませんが?」」」
「何も言ってないわよ?」
「何も言っていないぞ?」
いや、明らかに怒って攻撃してきたよね?するとまさかのエロヒムから援護が来た。
「彼を攻めてはいけませんよ? 私の顔からルシファーを感じ取ってしまっただけですから」
「やはりそうですか…でもなぜ?」
「始まりの女性であるルシファーではない彼女と私の顔が似ることは必然なのですよ。私は至高の母ですから」
あぁ…納得した。つまりこのゲームで最初の男女が俺の両親になっている感じなのだろう。いやNPCが最初の可能性もあるけど、そこら辺は分からない。ただ一つだけ言えることは俺の両親がこの世界で最初のプレイヤーであることは間違いない。
そしてNPCたちに人の心を教えた最初の女性である母さんと至高の母を自称しているエロヒムが似るのは確かに必然といっていいのかも知れない。逆に言うと母さんがこの世界に与えた影響はそれほどまでに大きいということだ。それだけで誇らしげになる。
俺がそう思っているとエロヒムが俺に問いかけて来た。
「これはあなたに対する試練でもあります。あなたはわたくしと戦えますか?」
「もちろん戦えます」
「理由を聞いてもいいですか?」
「俺は仲間と一緒に成長した姿をルシファーに見せないといけない。そうしないときっとルシファーは安心できませんから。そして何より仲間との約束のために勝たないといけません。だから俺はルシファーと戦えます」
俺の強い決意を聞いたエロヒムは微笑む。
「なるほど。理解しました。では、あなたの覚悟を試させて頂きます」
「はい。いくぞ! みんな! 全員でエロヒムを倒して先に進む!」
俺たちが武器を構えると戦闘が始まる。
「女神技! ビナー・ペラヒーム!」
「女神技! ゴッドマザー・ソング!」
エロヒムの周囲に謎の花が展開されると同時にクリュスの歌声がエロヒムを襲う。すると周囲の花からピンクの光線が放たれてた。これをブランたちがガードに放つとエロヒムも遮断結界でゴッドマザー・ソングを無効化した。
そんなエロヒムにゴルゴーンのデモンズブレスが放たれると直撃したが遮断結界を突破出来ずに無傷だ。セチアたちも攻撃を加えるがびくともしない。
「樹海支配」
「タラスク!」
「ユウェル!」
「任せろ! タク! 樹海操作!」
みんなが木に拘束させそうになるがタラスクの樹海支配とユウェルの樹海操作でなんとか対抗するとエロヒムの姿が消える。
「あ…」
「セチア! この! っ!?」
セチアの前に現れたエロヒムに俺が攻撃するとセチアが俺の攻撃を止めた。目を見るとセチアの目が虚ろになっている。
「いい子ね」
「精神誘導か! っ!?」
「…自然波動」
セチアに放たれた自然波動を回避すると次は弓矢が飛んで来る。俺が対処しているとシルフィがセチアに突撃する。
「しっかりしてください! セチアちゃん! あなたが攻撃しているのは愛すべき夫なんですよ!」
「それもまた女性なのですよ」
「っ!?」
「ゴッドクラッシャー!」
シルフィがエロヒムに背後からぶっ飛ばされる。セチアが精神誘導を受けたこともそうだが、スクリームペガサスの突撃のスピードに完全にエロヒムは付いて行った…この女神、俺が思っているより滅茶苦茶強い。
「さぁ。もっと攻撃を続けてください」
「…星座魔法。アル」
「魔法破壊。俺がそんなことさせるはずがないだろ?」
「では、弓矢に無限に狙われるといいですよ」
セチアが弓矢を俺に構えるとここでファリーダが問答無用でセチアに渾身の魔拳をお見舞いする。セチアが殴り飛ばされたほうにエロヒムがいたが飛んできたセチアを杖で殴り飛ばした。
「魅了の魔眼」
「爆破の魔眼」
両者の魔眼が激突し、エロヒムは顔が爆発し、ファリーダはその場で崩れそうになる。
「なるほど…確かにこれは効くわね…」
『タクト。この女神、女性に強い特性を持っているわ。セチアがやられたのもこれが原因ね』
女性の理解者としての能力か…これは編成ミスったかな。しかし正直意味が分からない所がある。それはシルフィも同じだった。
「わたしくの能力に気が付いたようですね?」
「く…それもまた女性とはどういう意味でしょうか?」
「わたしくは全ての女性を理解します。夫に尽くす妻も夫に暴力を振るう妻も全て理解するのがわたしくです」
「理解するだけですか?」
「いいえ。理解してその行いが悪だとわたしくが考えるなら裁きを与えます」
おおう…言っていることが結構ヤバく感じるが普通でもあるのかな?女性が銃を持って人を撃つまでの感情など全てを理解します。でも殺人は悪い事なので裁きを与えますって感じか?
当たり前ではあるのだが、犯人の感情を全て理解した上で情状酌量の余地を与えないところに引っ掛かりを感じる。これは俺の甘さなんだろうけど、今武器を持っている者としてはそこら辺を考えて欲しく思ってしまう。そしてこれはシルフィも同じなようだ
「タクト…」
「これはちょっと余計に負けれなくなったね」
「はい! あ」
「今は戦闘中ですよ」
シルフィが俺に返事を返すとシルフィの前にエロヒムが現れる。しかしそれに反応した俺は蹴りでエロヒムをぶっ飛ばした。
「女神技。エロヒム・ブレイズ!」
エロヒムの長い黒髪が三つ編みになるとそれがドリルのように回転して俺たちに向かって来た。
「シルフィ!」
「はい! タクトを信じます!」
俺たちに向かって来たドリルの髪の毛を俺は旭光近衛で全て弾いた。その瞬間にシルフィは超連携でエロヒムに突撃して、ぶっ飛ばした。
「ヒヒーン!」
「え!? スクリームペガサス!?」
完全に決まった攻撃だったがシルフィのスクリームペガサスが攻撃をした瞬間に精神誘導を受けてしまった結果、シルフィを振り落として、シルフィに角が迫る。これをブランが助けに入り、難を逃れたがセチアの追撃の弓矢が飛んで来る。これを神盾アイギスでブランは耐える。
「スクリームペガサス…」
「気持ちをしっかり持ってください。シルフィ。主も同じ気持ちですから」
「そうですね…ありがとうございます。ブランちゃん」
「ヒヒーン!」
弓矢をガードしていたブランの上にスクリームペガサスが現れると大雷霆が使われる。しかし俺が割って入った。そして大雷霆を受けた俺はスサノオの加護で俺と旭光近衛にスクリームペガサスの大雷霆が宿る。
「本人の意志が反映させないのが弱点だな。雷光!」
「絶対防御! っ!?」
俺がエロヒムに襲い掛かるとエロヒムは絶対防御を使って来た。それを見た俺は寸止めする。
「閃影!」
「光化!」
「チッ!」
「…サウザンドレイン。宝石解放」
俺に千の弓矢が飛んでくるとその全てが宝石解放で大爆発する。しかし俺は転瞬でセチアの目の前に移動していた。
「抜打」
セチアの腹に抜打が決まるとセチアは倒れ込んだ。通常時のセチアならこんなあっさりといかない。精神誘導された者は精神誘導した者の命令通りにしか動けないという致命的な弱点がある。つまり攻撃を避けろと命令しないと回避行動を取ってくれないのだ。命令してから回避行動すると時間は戦闘においては致命的過ぎる。
最も敵からすると元々敵だった者だ。ダウンしても人数が減ることになるから指して問題はない。ただセチアを精神誘導を掛けて俺たちに攻撃させたことを許すわけにはいかない。
「女神技! ビナー・ペラヒーム!」
俺に花から光線が放たれるが躱して接近する。
「女神技! ビナー・ストーム! っ!?」
花びらの暴風が俺を襲う。花びらに俺は斬り刻まれるが暴風はスサノオの加護の領域だ。
「森羅万象!」
「女神技! ビナー・ポラン!」
エロヒムが謎の桃色の煙を発生させたが俺は気にせずエロヒムの首を飛ばして暴風の追撃でぶっ飛ばしたところにクリュスの蛇が身体で地面に叩き落すとユウェルがドラゴンホイールでエロヒムを引くと上からファリーダがデモングランドクラックで踏みつぶすとファリーダが退いたタイミングでゴルゴーンの魔神撃、ブランの神撃、シルフィのリッチとの融合魔法が炸裂した。
ここで奇跡でエロヒムは復活すると微笑みを浮かべる。
「愚かな子…でもそういう子も理解しましょう。さぁ、わたしくの虜となりなさい」
「タクト!?」
「さっきの霧の効果!? タクト!」
みんなが俺を呼ぶ中、俺は誰よりも先に自分の腹を旭光近衛で刺した。
「「「「な!?」」」」
俺の生命力が無くなったことで俺は死に奇跡が発動する。これで俺に付与させた精神誘導は解除させた。
「人間が何でも神の思い通りになると思ったら、大間違いだぜ?」
「自決による状態異常の強制解除…随分乱暴なことをしますね」
「こんなことをする俺を理解出来ますか?」
「もちろん理解しますよ。だからあなたは危険な存在として全力で排除いたしましょう! 神格解放!」
どうやら俺の自決の判断に相当頭に来ているらしい。まぁ、完全に操れると思っていたから自分の予想を超えられたことが腹立たしいんだろう。でも、怒っているのはこっちも同じだ。
「来いよ。セチアとシルフィのスクリームペガサスを精神誘導した罪。一回の死だけで償える物じゃないことを教えてやる」
こうしてエロヒムとの対決は更に激化していくのだった。




