#1364 ロキ戦
一方こちらはユグドラシルから近いウィザードオーブの近海。ここでは俺とセチア、ルーナ、ミール、ルミ、スピカ、リースがロキとロキが召喚した大量のヨルムンリングとの戦闘が始まった。
「なるほどね…君がヨルムンリング対策として考えたのがこれか…酷い事を考えるな」
呪滅コンボは倒した者に発動する。よって、妖精たちが倒すことでセチアたちへの呪滅コンボが発動することはない。ただロキが言うように変わりに妖精たちが呪滅コンボを受ける事になるので、あまり褒められた対策とは言えない。
「ヨルムンリングなんてものを作った奴に言われたくはないな!」
「ぎゃあああ!? なんてね」
俺はロキを斬ったが身代わりスキルで攻撃を無力化された。しかもそれがヨルムンリングで呪滅コンボを受ける結果となる。
「残念でした~。それにしても人を斬る事に全然躊躇してないね。これだから人斬りは怖い怖い」
「へ~。お前は神ではなく人だったのか? 道理で弱いわけだな。俺が契約した神たちはどちらも凄く強かったからおかしいと思ってたよ」
「あははは! 中々面白いことを言うね。雑魚の分際で」
「ウケたなら少しは笑顔を見せたほうがいいぜ? 人間様からのアドバイスだ」
俺とロキの間で戦闘とは全く違う子供のような言論戦争が勃発した。恐らくこれがロキの戦闘スタイルなんだろう。言葉で人を苛立たせて、ペースを崩して来る。それならこの言い合いにも負けるわけにはいかない。必死に戦っているセチアたちには申し訳ないけどね。
「そろそろ子どものような言い合いはやめにしようか。ボクからの誘いを断った報いを受けて貰うよ。神技! トリックスカル!」
ロキの周囲に新たに紫色のオーラに赤い目をした謎の空飛ぶ髑髏が出現した。
「いけ」
ロキがそういうとスピカに乗ったリースに髑髏たちが殺到する。完全にリースを狙ってやがる。
「こんなもの!」
「リース! やめろ! 攻撃するんじゃない!」
「爆風波! え?」
遅かった…リースが爆風波を髑髏に放つと髑髏たちの目の色がそれぞれ変化して爆ぜる。するとリースとスピカに色々な液体が降りかかると呪滅で発動するダメージが二人を襲った。
「あ…くぅうう!」
「ヒヒーン!?」
二人の体から煙が発生して、二人が苦しそうな様子を見せる。俺がステータスを確認すると神魔毒、腐蝕、やけど、封印、呪いと一つだけ知らない謎の状態異常になっていた。
「リース! スピカ! ちょっと待ってください。リフレッシュ!」
セチアが状態異常回復魔法を使うが効果がない。
「状態異常回復無効か」
「正解。珍しい状態異常だろ?」
これが神の中でも指折りのトリックスターの戦闘スタイルと見ていいだろう。つまり状態異常特化タイプ。ヨルムンリングも召喚するし、俺たちのメンバーで例えるならノワが一番近いな。
「消滅弾! 無限連射!」
ロキは指をピストルのように構えると消滅弾を連射して来た。セチアが星矢で迎え撃つとロキは更に空間歪曲を使って、正面以外からも消滅弾を放ってきた。そして先程の髑髏も飛ばして来る。
「く…攻撃するわけには…でも」
「…大丈夫」
「ルミ? わかりました。全部撃ち落としますよ!」
「…うん。運勢操作!」
セチアが弓矢で髑髏を全部撃ち落とすと破壊された髑髏の目が全部白になる。その結果、セチアが回復する。
「なるほど…ランダム性がある攻撃なのか」
「そうとも。何が出るかはお楽しみのトリックスカルさ。それを運勢操作で当たりしか出ないようにするなんていかさまなんてレベルじゃない。これだから妖精や精霊は嫌いなんだよ。ま、初見で僕の技を見切った事は評価するけどね」
確かにあの攻撃の中でルミは回復という当たりの効果もあることを見つけたのは純粋に凄い。そしてそれは自分の能力で対処できると考えたルミは偉いね。しかしロキの狙いは成功している。
「でも、彼女の融合、譲渡、恩恵スキルは封じた。時間経過で状態異常は治るけど、それまで耐えてみる? それともエンゲージバーストを使うかい? それで僕に勝てるかな? ま、そもそも簡単に使わせたりはしないけどね!」
こっちの事情をよく分析している。それはロキとの戦闘からの伺えた。
「ゲイミストルティン! 死針!」
「虚無壁! これでもヨルムンリングを作り出した神だよ? 少しは無限属性を扱えるさ」
「はぁあああ!」
「ルーンウェポン。その聖剣は厄介だから封じさせて貰おうか」
ミールのゲイミストルティンの死針は虚無壁で消されて、ルーナのエクスカリバーはルーンウェポンの武器封印効果で手から弾かれる。完全にこちらの手の内を見透かされている感じだ。更にロキは新たな神魔法を披露して来た。
「神魔法。ソーサリーフリップ!」
「っ!?」
「あははは! どうかしたのかな? スピードが落ちているよ! 黒星!」
「…パーパはやらせない! 星核! 雪だるまさん」
斬りかかった俺のスピードが激減するとそこにロキが黒星を放ってきた。ここでルミが助けに入ってくれて、ロキの黒星と星核が激突し、それでも防御しきれないと判断したルミは雪だるまさんたちは壁にして防いでくれた。
俺がステータスを確認すると俊敏性が激減していた。アクセラレーションの重ね掛けしている状態でこれだけのマイナスはあり得ない。そもそも技名から能力は大体予想出来る。
「バフの効果をデバフに変える技か…ルミ、一旦引いてくれ」
「…うん」
「逃がさないよ! っ!」
「樹海支配! 植物召喚! ホウセンカ!」
海にいるミールは普通なら植物召喚は使えない。しかしミールは破壊したナグルファルの木の破片から木の根を作り出し、木の根を利用して、植物召喚を実現された。更にセチアとルーナの援護が来たことでロキは追撃に失敗した。
「やれやれ…それじゃあ君たちに残酷なことを教えてあげよう。君たちが父と慕っている彼は本当の父親じゃないんだよ。そもそも君たちには父と呼べるような存在はいない。妖精や精霊は自然発生するものだからね」
人が言えないことをズバズバ言う奴だな。しかしルミは言う。
「…そんなことは知っている。それでもパーパはルミのパーパ。パーパがルミのパーパになり続けてくれるならパーパはずっとルミのパーパ。それを否定はさせない」
俺は今、養子の子に父親と認められた時のような感動を味わっている。ルミもルーナもミールもみんないい子だよ。自慢の娘です。
「ふーん…反吐が出る話だね」
「自分が気に入らない話を聞くのがそんなに嫌か?」
「大嫌いだね。世界は神が中心となって動いている。その神が気に入らない話なんて世界には不必要としか言えないだろ?」
出たよ。自分が世界の中心理論。確かに神話によっては神が人や生き物、星を作った話になっている。だから神こそが人間や生き物、星を管理する者や上位存在とされているがこのゲームの設定では俺は神が世界の中心にはなっていないと断言できる。
「人の信仰の強さで神の力が決定しているのによくそんなことが言えたもんだな」
「確かにそこが神の悩みの種でもあるけど、それだけさ。神の絶対的有利性は揺るがない」
なんかあまり信仰されていない神の僻みのような言葉に聞こえて来た。ロキの場合は間違いなく悪評での信仰が圧倒的に多いだろうからね。
「異を唱えたい顔をしているね?」
「まぁな。俺からすると世界は広すぎる。とてもじゃないが管理出来るなんて物じゃない。それに神でも手を焼く存在をこの目で見て来た。あんなのを見てるなとてもじゃないが自分が世界の中心なんていなくなると思うぞ」
事実として宇宙空間に対してこの星の神は基本的には不干渉を貫いている。そしてウロボロスドラゴンやアポカリプスビーストを見てしまったからね。正直あいつらの強さはラーを間違いなく超えている。そしてエデンの神が手出し出来ない存在であることはもう話で聞いている。それなのに神が世界の中心というのは納得が行くはずがない。
「なるほど…でも、この世界が有限であることは君たちは知っているはずだ。そしてこの世界が管理されている世界であることもね」
急にこのゲームの運営の話になったな。
「自分の話からそれているぞ? それとも自分たちはお前が言うこの世界を管理している神と同列だとでも言いたいのか?」
「まぁね。何せ僕はこの世界を壊す事を許された神だ。他の神とは格が違う」
「いいように使われているだけじゃん」
俺のボヤキがロキの急所にクリティカルヒットした。我ながら酷いことを言ってしまった。この発言は全てのNPCに刺さる言葉だろうからね。ただ俺はこのゲームに関して言えばNPCに刺さらない可能性があると思っている。
「言ってくれるね…君たちもそこにいる彼女たちもいいように利用されているだけだと言うのに」
「そうかも知れないな…だけど、俺もみんなも自分の意志を持っている。自分の意志で未来を選択している。お前はどうなんだ? その神様に命令でもされたのか?」
「いや、それはされてないけど…」
やはりそうだろうな…恐らくある程度現実の神話の通りの流れをロキは経験しているはずだ。その結果は限りなくラグナロクを起こす可能性はあるけど、起こさない可能性も用意されている。例えば捕まったロキをプレイヤーが助けるルートとかあったはずなのだ。
それにこのユグドラシルのイベントも別に起こさなくてもゲーム全体の話としては別に何も支障はない。北欧神話の武器が欲しいなら契約のクエストとかやればいいだけどの話だし、フェンリルの素材とかも野生で手に入るはずだ。なので運営からすると別にイベントを起こす必要はないけど、条件がそろったのでイベントを発生させたにすぎないと思う。
「だろうな。お前にこれだけははっきり教えといてやる。お前が言う神様は俺たちの意志には一切干渉していないはずだ。俺たちの意思決定を見る事はしていると思うけどな。だからこの世界を動かしているのは彼らじゃない。この世界で生きている俺たちが世界を動かしている。彼らはそんな俺たちのことを見ながら世界を維持しているだけなんだよ」
このゲームのAIの事を聞いている俺だからこそ言える言葉だ。運営の目的がAIの成長を見守る事ならAIが選択したことに口を出すのはご法度となる。なぜならそこに自分たちが干渉したらAIの成長に悪影響が出ることは目に見えているからだ。それこそAIが運営を神と認識して、神の言う事は絶対とかの信仰心が出てしまっては父さんや社長が望んだAIの成長とはほぼ遠い結果に終わってしまったはずだ。だから俺はこれに関しては断言出来た。
俺の言葉を聞いたロキが急に笑い出した。
「はは…あははははは! そうかい! このオーディンたちを殺して世界をぶっ壊したいと思っているこの気持ちは僕だけのものか! それを聞けて良かったよ。そういう事なら僕は自分の意志で世界を終焉させてあげるよ!」
「させるかよ。俺には守らないといけない大切な約束があるんだ。それにいいのか? 状態異常が解けてるぜ!」
俺が斬りかかるのにスピカに騎乗したリースとルーナが合わせてくれるがロキに全て攻撃を躱された。
「確かに時間をかけ過ぎたのは僕のミスだね。それでも収穫はあったから良かったよ。ここからは思いっきりやらせて貰う!」
「こいよ! 返り討ちにしてやる!」
俺たちの戦闘が再開される。ロキはルーン魔術や黒雷、暗黒魔法に爆魔法を多用して来た。ただ厄介なのはロキの回避能力だ。ただ回避するのが上手なところはあるが身代わりスキルや心眼スキルでのらりくらりと攻撃を回避してきた。
もちろんエンゲージバーストや融合スキルを使おうとした場面はいくつもあったけど、ヨルムンリングの奇襲やロキの邪魔が入り、発動させることが出来ない。その上、マジックドレインで地味に魔力を削って来た。本当にこちらが嫌なところを的確に付いて来る。
「ほらほら! もっと頑張らないと。スルトの方は大変みたいだよ? エルフの森まで炎が言っているみたいだ」
「大変なのは確実にそうなんだろうけどな。心配なんてしてねーよ!」
「ふふ。君ならそう言って斬りかかって来ると思っていたよ! 神技! ナイトメアヘイム!」
ロキの手から黒いオーラが広がる。そんな攻撃が当たるはずがないだろ。そう思った瞬間、ロキの手に装備されていた指輪から赤い光が発生した瞬間、俺は黒いオーラに包みこまれてしまった。そして黒いオーラは球体になるとロキの手に握れるサイズになる。その結果、俺は暗黒の世界に放り込まれてしまった。
「ミスった…今のは時間停止か? でも、クロノスクロックの効果があるのはず…そうか…加護無効と時空支配でクロノスクロックの効果を消して来たのか」
とんでもない大ポカだ。これじゃあ、リリーのことを強く言えない。
「時空切断! 次元震! 神域! …ダメか」
色々試したが全部不発に終わる。途方に暮れていると俺の目の前にリリーが現れた。
「タクト!」
「リリー! どうやってここに」
「大っ嫌い!」
なるほど…こういう技ね。確かにこれはナイトメア…悪夢としては十分な攻撃だ。しかしこの程度の精神攻撃ならどうにかなる。俺は座禅を組むと目を閉じて精神を集中する。そして耳から聞こえて来る雑音をシャットダウンした。かなり危険な行為だが、ロキの気配がないため、技が解除されれば分かるはずだ。俺はセチアたちを信じて待つことにした。




