#1362 子フェンリル軍団戦、後編
ファリーダとハーベラス、ダーレーは俺の予想通り大苦戦を強いられていた。
「本当にタクトの予想通り、私ばかり狙って来るわね! この! イフリータストンプ!」
噛まれそうになったファリーダのイフリータストンプでフェンリルの口は防げたがあまりダメージは効いていない。
「グルル…ガァアア!」
「「「ワン!」」」
「ガ! ワオーン!」
「俺の後ろに下がれ! おらぁあああ! 暴風壁!」
ファリーダは攻撃されるが避けたところにハーベラスが火山弾で援護する。しかしフェンリルは爪で火山弾を破壊すると毛針を使用してきた。ファリーダは当たれば終わり、ハーベラスは身体が大きいので、回避するのが難しい。
そんな状況でダーレーが霸王戟を振るうと暴風壁を発動して、毛針を弾き飛ばした。さっきからダーレーは二人のフォロー役のような立ち位置で自分が攻めるタイミングを計っている状況だ。攻めるタイミングを間違えれば味方が死ぬ可能性があるので、ダーレーが慎重になるのはしょうがない。
しかしダーレーは攻めに参加させたいところだ。何故ならダーレーの発勁がフェンリルには相当いいダメージを出している。逆に言うとフェンリルも自分の防御スキルを無視してダメージを与えて来た発勁を使うダーレーを警戒しているからファリーダとハーベラスは攻めたいところだ。それをするとさっきのようにフェンリルに攻撃されるという鼬ごっこのようになっている。
「ち…与えたダメージを回復してやがるな」
「あれぐらいの魔獣になるとちょっとのダメージなんてすぐ回復するのは当然よ。他のみんなみたいに大技で一気に攻め立てないと倒せないわ」
「ワオーン!」
「猛吹雪が私に通用するなんて思っているんじゃないわよ! 熱波!」
熱波と猛吹雪が激突すると猛吹雪はファリーダたちのところに届かない。それを見たフェンリルは金剛爪で襲い掛かって来るとハーベラスは獄炎爪で向かう打つ。すると押し負けてバランスを崩してしまう。
「やらせないわよ! デモンクラッシャー! っ!?」
フェンリルがハーベラスを爪で引っ掻こうとしたのを阻止するためにファリーダはデモンクラッシャーを使うがこれを回避されてしまう。そしてフェンリルは狙いをファリーダに代える。
「覇撃! ぐぅううう!?」
「ガァアア!」
ダーレーの霸王戟とフェンリルの爪が激突するとダーレーは押し負ける。それでもフェンリルの爪を防げたのは大きかった。
「シャー!」
「はぁあああ! 核撃!」
「「「ワオーン!」」」
ハーベラスの尻尾の蛇が神魔毒ブレスをフェンリルの顔に掛けると上に逃げたファリーダがフェンリルの頭に核撃を叩きつけた。更にハーベラスの三つの頭から暗黒ブレスが放たれて、なんとかダーレーとの距離を離す事に成功した。それでも優牙と同じ氷属性のフェンリルはまだぴんぴんしている。
「危なかったわ…助かっちゃったわね。ダーレー」
「本当だぜ…それにしても本当にすげーパワーだな。直にぶつかり合ってやばさを再認識したぞ」
「そうね…ハーベラス。タクトが言っていることだけど、私たちには私たちにしか出来ない戦闘スタイルがある。パワーで負けてもレベルで負けても必ずどこかに負けていない所があるわ。それを忘れちゃダメよ」
「「「ワン!」」」
ここから更に三人の戦闘が激化する。その要因となったがハーベラスだ。ハーベラスがフェンリルに勝っている最たるものが連続攻撃の多さだ。首が三つと尻尾の蛇がいるハーベラスは色々な遠距離攻撃でフェンリルに挑みかかった。
最初は躱していたフェンリルだが、躱した隙をダーレーとファリーダが狙ったことで迎え撃ったり、防御を高めるような動きをして、攻撃を受けたところに攻めに出たダーレーとファリーダに対してもカウンターを狙って来た。
ファリーダとダーレーはフェンリルの多乱刃を防ぎきれずにダメージを受けてしまうがフェンリルのほうが遥かにダメージを受けている状態となった。こうなるとお互いに止めを刺す読み合い状態だ。
「さて…どう決めようかしら? 基本的には虎徹の攻め方をした方が良さそうだけど」
「だな…ただ俺もハーベラスも本気を出して、二人掛かりでもあいつを止めれるとは思えないぜ」
「そうね…それにあいつが優牙と同じフェンリルなら絶対防御を持っているはずよ。出来れば勝負に出る前になんとか使わせたいわね…いえ…ハーベラス、一つだけ聞きたいことがあるのわ。もしあなたが超覚醒でこのスキルを使えるようになっているならフェンリルを絶対防御なしで一瞬で倒せるかも知れないわ」
「「「ワン!」」」
ファリーダの問いかけに頷いたハーベラスが前に出て来た。それを見たフェンリルは息を吸い込むとゴッドブレスを使って来た。これは予想しておらずハーベラスを空を蹴って、上に躱すと息を吸い込むと火砕流を発動される。
この結果、フェンリルは火砕流に呑み込まれて、視界を失う。
「グルル…ワオーン!」
フェンリルが叫ぶと天候が悪化し、巨大竜巻が発生したことで火砕流が巻き込まれると天変地異から逃げ遅れて巻き込まれたハーベラスをフェンリルは見つける。そしてハーベラスの体にフェンリルの爪が突き刺さった。
確かな手ごたえを感じたフェンリルだったが次の瞬間、ハーベラスの噛みつかれて、体もフェンリルを拘束しようと動いた。これを見たフェンリルは強引にハーベラスの噛みつきから逃げるとハーベラスを蹴り飛ばして、上に行くと息を吸い込む。
これを見たハーベラスも息を吸い込み、炎ブレスと極寒ブレスが激突し、炎ブレスのほうが押されていく。しかしこちらはハーベラスだけで戦っているわけじゃない。
「踵落とし! 発勁!」
「ブレッシングブレイク! シャイターン・ラッシュ!」
ダーレーの発勁で怯むとファリーダのブレッシングブレイクの拳が決まってから炎の拳の連打がフェンリルを襲う。ファリーダの攻撃を見たフェンリルは逃げを選択すると口を開けると黒い星が作り出さて行く。それを見たファリーダを構えを取るとお互いに黒星が激闘して爆ぜた。
そして瀕死のハーベラスがここで超覚醒を発動されるとフェンリルに突撃する。するとフェンリルに首と首の間を噛まれてしまう。ハーベラスは負けじとフェンリルに噛みつくが不屈で耐えられず噛み負けてしまう。
しかし以前のハーベラスの超覚醒を使った時とはわけが違う。フェンリルの呪滅コンボが発動すると更にフェンリルの下に黒い渦が発生すると巨大な手がフェンリルを掴む。道連れスキルだ。ここでフェンリルは自分の致命的なミスに気が付いた。
ファリーダのブレッシングブレイクの効果でロキの加護などの道連れ対策を失われていた。フェンリルは慌てて絶対防御を使うが絶対防御で有効なのは攻撃に対してものみ。状態異常だけを付与する攻撃は防げない。道連れスキルは自分の死をトリガーに自分を倒した敵に即死を付与するスキルだ。よって、フェンリルは即死するしかない。
そしてハーベラスは蘇生する。本来はフェンリルも不死スキルで発動するはずだが、呪滅封陣で不死スキルを封印していた。ファリーダの助けがあってが見事なまでに自分の強さを信じ抜いたいい勝負だった。
「「「ワオーン!」」」
「シャー!」
よほど嬉しいのか勝利の雄叫びを上げるハーベラスを見ながらファリーダは頭を抱える。それを見たダーレーが声をかけた。
「どうしたんだ?」
「いえ、ハーベラスにああ言ったから私らしくない勝ち方をしたなと思っただけよ」
「はは! 確かにこの勝ち方はどちらかというとあいつの勝ち方だな!」
「そうね…タクトのせいということにしておきましょ」
自分が選んだ勝ち方なのに勝手に人のせいにされました!納得いきません!確かに俺が考えるような勝ち方なのは否定しないけどね。だって、即死で倒せるならお得じゃん。
一方で優牙とシルフィのフェンリルはプライドバトルを続行中。相手にしているのは神狼からの進化をしたフェンリルだ。こいつが今回のフェンリルバトルでは一番強いフェンリルだった。
何故なら神狼は自分の仲間がいればいるほど強くなる狼だ。それがフェンリルに付与されている状況で周囲には同族が溢れている。そのため、とんでもない強化が発生していた。しかも神狼はバランスタイプだ。そこに強化が発生しているから始末が悪い。
優牙とシルフィのフェンリルはステータスでは完全に負けている状況だ。それでも互角の戦闘をしているのは優牙とシルフィのフェンリルの戦闘経験の差が出ていることを意味している。
実際に優牙とシルフィのフェンリルのほうが攻撃を当てていた。というか相手のほうが先に攻撃をして来るからそこにカウンターを決めている形だ。
これだけを見るととてもじゃないが神狼からの進化だとは思えない。神狼はとても冷静に知的に戦う召喚獣だ。これはグレイに限った事じゃない。チロルたちの神狼もグレイと同じような戦闘を好んでいる。それが失われているということは進化した時に稀に発生する強さに対しての傲慢さが影響しているんだろう。
それでも天変地異やゴッドブレスの撃ち合いにはステータス差で負けてしまうんだけどね。ある意味ではこれを見ているから自分たちのほうが強いことを疑わない状況になっているのかも知れない。
ここで優牙とフェンリルが次元潜伏で別次元の中で噛み合いになると元の次元に戻り、優牙はフェンリルを蹴り飛ばすと雪崩を発生させて、フェンリルは雪崩に呑み込まれる。フェンリルは強引に脱出すると優牙は狼の魔方陣を展開していた。
「ガァアア!」
それを見たシルフィのフェンリルが相手にしていたフェンリルが急にフォローに回る。自分たちも使える魔法だ。その魔法は自分たちも殺せる魔法であることをよく知っているので、阻止に向かうのは当然だ。
しかしここで優牙は狙いをシルフィのフェンリルに変更した。そしてギリギリのところで宇宙魔法フェンリールが発動する。狼の魔方陣から宇宙空間のような体を持つ巨大な狼が現れるとシルフィのフェンリルが相手にしていたフェンリルを呑み込むとフェンリルが消滅する。
宇宙空間フェンリールは追尾能力を持つ不死の神すら消滅させることが出来る宇宙魔法だった。まさに神殺しのフェンリルらしい能力の魔法だが、それが自分というか同族に対しても有効というところに俺は戒めの意味があるんじゃないかと推測してしまう。
自分は最強ではない。自分と同じフェンリルに殺される可能性があるから強さを求め続けないといけないとかね。まぁ、これは俺の勝手な想像だ。ただ神狼からの進化で変わってしまったフェンリルを見るとそう思いたくなくってしまうんだよね。
消されたフェンリルを見たフェンリルは逆鱗を発動させて優牙に襲い掛かるがここでシルフィのフェンリルも同じ魔方陣を展開した。慌てて阻止しようとするが優牙が襲い掛かり、妨害したことでフェンリールが発動する。逃げても追尾する宇宙のフェンリルに噛まれて、消滅した。
「「ワオーン!」」
二匹のフェンリルはお互いに頷き合うと勝利の雄叫びを自分たちのご主人様に捧げるのだった。
最後にセフォネだが、彼女が今回の戦闘の一番の功労者だ。何せ数匹のフェンリルを足止めしているんだからね。ただフェンリルは一匹も倒せていない。寧ろセフォネは何回も食べられては蘇生している。
「もうこんな戦闘、嫌じゃー!」
セフォネが発狂するぐらいのヤバい戦場だったがここでスコルとハティを倒したみんなとフェンリルを倒したみんながセフォネの援護に入り、形勢が逆転して、見事に通常のフェンリルの全滅に成功した。
「後はタクトさんたちとリリーたち、それにあの炎の巨人ですね」
「タクトのほうは問題ないわ。リリーたちも問題ないでしょ。私たちはスルトのほうに」
「大変なの! ウートガルザ・ロキの大群がユグドラシルの下から登って来てるって言っているの!」
「スルトとウートガルザ・ロキの二手に別れるしかないですね」
イオンたちがスルトとウートガルザ・ロキの二手に別れる。その場を離れるイオンはリリーが戦闘している上を見る。
「私たちはちゃんと任務を達成しましたからね。リリー。あなたが望んだ戦いです。負けたら許しませんから」
そういうイオンにアリナたちが集まる。
「大丈夫なの。イオンお姉様」
「えぇ…リリーお姉様の気合いの入りようは尋常ではありませんでした」
「…ん。にぃに信じられていると思っているリリーはものすごく強いから問題ない。寧ろノワたちのほうが問題だらけで心配」
「ふふ…そうですね。ここでもうひと頑張りしてタクトさんに一杯褒めて貰いましょうか!」
イオンがそういうとみんなが同意してそれぞれの戦場に向かうのだった。




