#1353 ライヒ帝国最後の日
中央大陸の南部はライヒ帝国、ウィザードオーブ、ワントワークが南部に位置しているのだが、スルトとムスペルの軍勢の攻撃を受けたのがライヒのみだった。ワントワークはヨルムンガンドに襲われて、半分は水没していることもあり、スルトたちからすると攻める意味がない。
それならライヒを襲った後にユグドラシルを襲うほうが理にかなっている。一番いいのはユグドラシルに直接向かう事だが、ライヒを襲うように指示したのはロキだろうね。
そして今回のラグナロクでライヒ帝国は今までにないとんでもない被害が出る事になった。まず海上戦だが、ムスペルたちが放つ火山弾で防戦一方になると防御を固めていた艦隊にスルトの炎の斬撃が放たれ、戦艦などが真っ二つに斬られて溶接の効果で船が熔け、紅炎の効果で炎上する。
こうしてさす術なくライヒ帝国の海上戦力が全滅した。そしてスルトたちを乗せたナグルファルがライヒ帝国の沿岸部と港町に入る。
「全て破壊するんだよ! お前たち!」
「「「「オォオオオ!」」」」
スルトの軍勢の中にはシンモラの姿もあった。対するはマグラスさんを除くギルドメンバーと帝さんたち、シリウスさんたちを初めとしたライヒ帝国所属の全プレイヤーだ。
「町に入れるな!」
「ここで止めるぞ!」
「俺たちの手にも多くの伝説の武器やオリハルコンの武器がある! 恐れるな! 俺たちは強い!」
重戦士や重装歩兵、砲兵などが多いライヒ帝国プレイヤーは流石の守りを見せて、ムスペルたちが町の中に入るのを阻止する。
「獄炎! 溶断! 覇撃!」
「英雄技! インペリアルウォール!」
帝さんがスルトの炎の斬撃を止めるとみんなから歓声が上がるが帝さんは冷や汗をかいていた。
「かなりギリギリのガードだったぞ…レーヴァテインをもし持っていたら、今の一撃でプレイヤーと港町は全滅していたか」
「ほぅ…中々やる。だが、いつまで持つか見ものだな!」
スルトの攻撃を帝さんたち重装歩兵の上位プレイヤーたちがガードし続けているがここで俺たちが予想だにしていない動きがあった。
「た、大変です! 沿岸部に上陸したムスペルたちが炎の巨大な馬ムスペルグラ二に騎乗して、左右から接近中!」
グラ二は召喚獣にもいるがムスペルグラ二はムスペル専用の馬として登場した。実際の神話にもムスペルたちが馬に乗る話はあった。しかし今までムスペルたちは馬に乗っておらず、ムスペルヘイムにムスペルグラ二の姿は一切見かけなかったので、ただ数で押して来ると思っていた。
オーディンの話ではムスペルグラ二を隠していたのが巨大なナグルファルでオーディンの目から上手く逃れたらしい。しかもグラ二はオーディンの馬であるスレイプニルの血を継いでいる。その馬がムスペルたちの手に渡っているということはロキがグラ二かスレイプニルの血をムスペルヘイムに持ち込んだことを意味している。これもオーディンの失態だね。
「何!? シリウス! 俺たちはここから動けないぞ!」
「分かっている! 部隊を二手に分けるぞ! マグラスのギルドは左! 俺たちは右だ! 手が空いている帝のギルドメンバーは右側に来て欲しい」
「「「「了解!」」」」
みんなが急いで防衛に向かうがムスペルグラ二に乗ったムスペルたちは機動力が段違いだ。向かう頃には既に目の前に迫っていた。
「「町の中に入れるな!」」
「「「「ヒヒーン!」」」」
「「まずい!? 超連携だ! 全員、退避!」」
左右の港町の壁が破壊されてしまう。そしてそのままムスペルたちはライヒの港町の破壊し、火に包まれる。
「不味いぞ! 帝! このままだと全滅する!」
「全員、港町を放棄! 次の町の防衛も放棄する! 砦で向かい打つぞ!」
「おや? そんなに急いで帰らなくてもいいんじゃないかい?」
「「「「っ!?」」」」
帝さんたちがシンモラの鎖に拘束される。そしてスルトが手に炎の剣を作り出す。
「「「「帝さんたち! 断刀!」」」」
大剣装備の重戦士たちがシンモラの鎖を破壊するがそれから防御に回っても遅い。
「助かったぞ! 全員、全力で逃げろ! 防御が間に合わない! 各自の判断でここから逃げ出すんだ!」
「「「「はい!」」」」
スルトの斬撃が港町の地面を真っ二つに割るとそこからマグマが吹き出し、港町は壊滅する。そしてスルトの軍勢は次の町の破壊に向かっている頃、転移で逃げることに成功したみんなは砦に集結して、ここを守っている曹仁に面会すると信じられない光景が目に映る。
「何をしている?」
「見てわからんか? 囲碁だよ。今、いいところなんだ。話なら後にしろ」
帝さんは囲碁版を蹴る。流石に命かながら帰って来たところで自分たちの指揮官が遊んでいたら、それはぶちギレて当然だろう。
「貴様、何をすーーぐえ!?」
「「「「曹仁様!? 貴様!」」」」
「いいか? 良く聞け! 現在、ムスペルの大群の騎馬隊がここに向かって来ている! 急いで防衛の指揮を取れ! じゃないとライヒ帝国は壊滅するぞ!」
「ふん…何を言っているんだか…ここの防衛は完璧だ。どれだけ大砲が配置されていると思っているんだ? まぁ、ムスペルとか言ったか? そんな弱い奴らに負けたお前たちでは理解出来ないだろうがな! がははは!」
これを聞いていたプレイヤーたちはライヒ帝国の壊滅的な被害はもう取り返しのつかない所に来ていると実感する。
「帝…」
「出来るだけのことをするしかない。貧乏くじを引かせて悪いが付き合ってくれるか?」
「「「「もちろん」」」」
プレイヤーたちはなんとかムスペルグラ二の攻略法について考える。帝さんたちの実力ならまずムスペルたちは止められる。問題なのはムスペルグラ二の大きさと機動力なのだ。強引に押し込まれたら、いくら守りが得意のライヒ帝国のプレイヤーたちでも守り切れない。
更に最悪の報告が来る。
「大変だ! 帝さん! シリウスさん! ウートガルザ・ロキに夏侯惇、夏侯淵、張遼、徐行がやられた! 現在、都がウートガルザ・ロキに襲われている!」
「なんだと!? 司馬懿は何をやっている!」
「それが…戦場に姿がありません」
「あいつ…まさかここで裏切るのか!? くそ! 最悪のタイミングだ!」
司馬懿はライヒ帝国の軍師だが、ライヒ帝国の味方じゃない。曹操が王の時点で司馬懿の裏切り行為があることはほぼ確定していた。しかし伝説では曹操に対して司馬懿は反旗を翻したわけではないので、このゲームであるかどうかはプレイヤーの中で判断が分かれていた。
今回の場合だと司馬懿はライヒ帝国の壊滅的な打撃を恐らく未来予知で事前に知り、ここで何も指揮しないことで未来を確定しようとしている。
「どうする? 帝?」
「報告! ムスペルの騎馬隊を確認しました! 凄いスピードで接近中!」
ただでさえ馬で早いのに巨大な馬なのだ。そりゃあ、普通の馬より移動が速いのは当たり前だ。一歩の距離が全然違うからね。
「く…ムスペルの騎馬隊を迎え撃つぞ!」
「わかった…どっちみちここでこいつらを止めないととんでもない被害が出る。帝さんの判断は間違ってませんよ。都にいる曹操たちの実力を信じましょう」
しかし現実は酷い物だ。帝さんたちは砦の外で守るが曹仁が自慢していた大砲の援護射撃が一向に来ない。大砲があっても、攻撃準備をしていなかったらしい。そんなことになっているとは思っていない帝さんたちはムスペルの騎馬隊を必死に食い止めている。
「くそ! あっちいな!」
「文句を言うなよ。熱対策の装備にしているんだ。そこまで熱くないだろ?」
「確かにそうだけど、燃やされたり、爆発に巻き込まれるとどうにもな」
「気持ちは分かる…ていうか早く援護攻撃来いよ。プレイヤーしか攻撃してないぞ」
帝さんは嫌な予感がもうしていた。そしてシリウスさんから連絡が来る。
『曹仁たちが逃げ出したぞ』
『そう来るよな…こっちもそろそろ持ちそうにない。都のほうはどうだ?』
『ウートガルザ・ロキが暴れているという報告しか来ない。ぶちギレしている曹操が戦ったらしいが安否不明らしい。少なくとも曹操の攻撃が現在は確認されていない』
『…狙いをウートガルザ・ロキに変更する。こいつだけでも倒さないと俺たちは他のみんなに示しがつかない。ユグドラシルでの攻防に切り札を使う余裕はもうない。全力でウートガルザ・ロキを倒すぞ!』
帝さんたちはライヒ帝国の都に転移すると町のあちこちで火の手が上がり、ウートガルザ・ロキと戦闘しているプレイヤーたちの姿があった。
そして帝さんたちは彼らと合流するとありったけの切り札を導入して、ウートガルザ・ロキの討伐に成功する。しかしそんな彼らのところにムスペルの騎馬隊が迫っていた。防衛しようにもウートガルザ・ロキに都の防衛能力のほとんどが破壊され、城まで跡形もなく消し飛んでいる状態だ。
「ライヒ帝国が…」
「俺たちのギルドが…家まで…こんなのありかよ…」
「俺たちが平和ボケしすぎたんだ。フリーティアでもギルドが燃える被害が出たがフリーティアのギルドたちは立て直した。次は俺たちがそれをする番ってだけの話さ」
「けど、もうゲームが終わるんだぜ!? それなのにこんなことってあるのかよ」
確かにゲーム終了間近でこの仕打ちはあんまりな結果だ。しかし帝さんたちは言う。
「お前は誤解しているな…言っておくがこれは防げた結果だ。つまりギルドが燃えたこともライヒ帝国を守れなかったのも俺たちのミスであることを忘れるな。それから目を離しているようではどんなゲームでも上達しないぞ」
今まで色々なゲームをして来たからこその言葉で帝さんから聞くことが出来た。
「ギルドを失っても、ギルドの登録は残っている。このままギルド無しで最後まで行くかギルドを建てて、最後を迎えるのかそれともゲームをここで辞めるかは後で決めればいい。今はユグドラシルで戦っているプレイヤーの助けになることが重要だ。急いで向かうぞ」
「ですね…どこまで役に立てるか分かりませんがそれでも戦力になってみせるとしましょう」
こうしてライヒ帝国のプレイヤーたちもユグドラシルに向かうのだった。




