#1352 ラグナロク後半、東部の戦い
中央大陸の東部。即ちワントワークとゴネスではとんでもない光景が広がっていた。それを援軍として急行したチロルたちが目撃する。
「何これ…」
「港町だけじゃない…ゴネスとワントワークの土地の半分くらいが水没しているんじゃない?」
ヨルムンガンドの初手のとんでもない規模の津波をプレイヤーたちは止める手段を持っておらず、そのまま青い壁が港町とそれぞれの東部にある町を一瞬で呑み込んだのだ。この攻撃で呉は壊滅的な被害を受けた。
幸い周瑜たちが山に逃れてギリギリ助かっていた。
「危なかったな…」
「だが、俺たちの国が…」
「民が無事なんだ。建物くらいいくらでも作ればいいさ。違うか? 孫策?」
「そうだな…ありがとう。周瑜…周瑜!」
山に逃れた民たちに容赦ない大蛇の尻尾が襲い掛かり、山に逃れた人々が海に投げ込まれる。
「大変! 助けるよ! みんな!」
チロルたちが助けに入ろうとした時だった。海から巨大な海蛇ヨルムンガンドが現れる。海面からかなりの距離があるがヨルムンガンドの巨体はまっすぐチロルたちに向かう。
「そんな攻撃、当たらな」
次の瞬間、みんながヨルムンガンドに巻き付かれていた。
「「「「時間停止!?」」」」
そしてみんなは強烈な締め付けを受けながら海中に叩き込まれる。しかしチロルたちには水中戦が得意な召喚獣がいる。チロルたちは彼らを召喚するとヨルムンガンドの攻撃と孫策たちの救助を優先する。
ここで活躍したのがアスピドケロンだ。丸のみするだけで回収が可能だからね。ただ呑み込まれるほうは死を悟るだろうけど、そこは我慢しないといけないところだ。
何せチロルたちの召喚獣たちが攻撃してもヨルムンガンドはびくともせず、チロルたちを締め続けている。
「槍が通用しない!?」
「硬い鱗に弾力装甲って反則じゃない!?」
「このままじゃ、やばいよ。チロル!」
「ダメ! 私の召喚獣じゃ、無理!」
「お願い! カエル・ロイウ!」
ヴォジャノーイの進化先であるカエル・ロイウが蛙のステッキを振るとチロルたちは蛙に変化して、拘束から抜けることに成功する。カエル・ロイウはアーサー王の物語に登場する魔女でカエル・ロイウの魔女という名前で知られている。
カエルと書かれているが蛙とは恐らく無関係の魔女だが、このゲームではカエルとという名前が付いているだけでカエルのステッキを持っている老婆の魔女で召喚師の間では可哀想なキャラとして知られている。
ただ強さは結構あり、多種多様な魔法に妖術や変わった精霊魔法を使う。その変わった精霊魔法がさっき見せたチェンジリング・フロッグ。指定した者をカエルに変えてしまう魔法で本来は敵をカエルに変えて、ボコボコにする恐ろしい魔法だ。それを今回は味方に使用した訳だ。
「「「「…」」」」
「えーっと…このまま死ぬよりマシだと思って欲しい」
チロルたちだけでなく、拘束された召喚獣たちまで無言で睨まれて、流石にカエル・ロイウの魔女の召喚師は申し訳なく思ってしまうが、彼女がみんなを救ったのは事実だ。すぐに元の姿に戻れたことだし、チロルたちは戦闘に集中する。
「というかあの蛇をカエルに変えられないの?」
「やってみます! ダメ! 魔法が効かない!」
「ロキの子供ですから魔法耐性が高いのは当然と言えるかも知れません。状態異常も効きませんし」
スターヒュドラや蒼帝、ピュートーン、エインガナなどを相手にしても圧倒しているヨルムンガンドは滅茶苦茶なレベルであることは確定だ。恐らくはフェンリルクラスの強さはあるだろう。何せ伝説のヨルムンガンドはトールを散々苦しめた蛇でトールと相打ちになるほどの強さを誇る。
「「「「息を吸い込んだ! 逃げて!」」」」
「シャー!」
ヨルムンガンドの神魔毒ブレスを全員が回避する。このヨルムンガンドの毒がトールの死因だから流石にこれは喰らうわけにはいかない。その後、チロルたちの召喚獣との牽制合戦が続く。ヨルムンガンドは尻尾の先を扇風機のように振ると渦潮を発生させ、咆哮だけで海震を使って見せた。
ただそれらよりもみんなを苦しめたのがまずヨルムンガンドの体の長さと蛇独特の動きである。チロルたちは全長を把握できていないが津波が呑み込んだ中央大陸東部の沿岸部にはヨルムンガンドの体があり、それが海まで続けている。
大きさでは恐らくレヴィアタンを超えているだろう。その巨大があちこち動いて襲い掛かって来るのだ。普通なら斬ればいいなど考えるが圧倒的な生命力と回復スキル、そして弾力装甲と竜鱗装甲が立ち塞がっている。
「あっぶない! こんなのどうやって倒すの!? ケツァルコアトルで倒せるかな?」
「太陽の力で水はなんとかなりそうだけど、水を何とかして意味があるのかは疑問だよね」
「…あ、あの! 不確定な賭けに出るより、援軍を呼んで一気に高火力で倒した方がいいと思います」
この意見でチロルたちが時間稼ぎをしている間に戦力が集められることになった。
「来たよ! チロル!」
「切り札全投入の準備をして! ルーク! みんなの町を破壊したこいつだけは許しちゃダメ!」
「ていうかルークはこっちに来て良かったの? 戦力がやばいんじゃ」
「タクトさんたちがユグドラシルにいるのに戦力の話を必要?」
ルークの質問返しにみんなが必要ないという結論に至る。一応言っておくと戦力は凄く必要です。数の暴力だけは本当にどうしようもない。しかしユグドラシルにいた全員が援軍に向かったわけではない。しっかりメルたちと満月さんたち、竜騎士プレイヤーなどは現在もユグドラシルの防衛戦に参加している。
ただ現時点ではユグドラシルよりもヨルムンガンドの撃破は優先すべきという結論に至ったので、援軍の出すことが決定された。その決定がされた要因がヨルムンガンドによる被害だ。南のほうも大概だが、ヨルムンガンドを放置していたら、この中央大陸全てが海に沈没する危険性がある。もうこれ以上の被害は認められないというプレイヤー全会一致の結論だ。
ただ水中にいるヨルムンガンドも空に敵が集結してきているのを察する。そもそも初手でチロルたちに襲い掛かって来たからね。するとここでヨルムンガンドは海から顔をわざわざ出して来た。
空にいる人たちからすると格好の的だ。与一さんたちが狙い撃っているとヨルムンガンドは空に向けて叫ぶ。
「なんだ?」
「風? これは天変地異です! 皆さん、全力で範囲から逃げて下さい!」
ルークはサマエルが天変地異使えるからヨルムンガンドが使ったスキルをすぐに理解した。
「ダメです! 間に合いません!」
『こちらノアズアーク艦隊です! 避難可能! 急いでこちらに! 召喚獣は召喚石に戻してください!』
みんながいる空域全てに巨大な竜巻がいくつも発生し、特大の雷や岩サイズの雹が飛び交う。そんな状況の中、ノアズアークたちはシールドを展開して持ちこたえる。それでも乱れる強風で船のコントロールが奪われそうになったが乗組員のみんなの奮闘で持ちこたえた。
「「「「き、気持ち悪い…」」」」
船が散々揺れたダメージは受けたが天変地異でこれぐらいのダメージで済んだのはかなり良かった。
「シャー!」
「「「「うわああああ!?」」」」
安心したところにヨルムンガンドの尻尾と体の体当たりで何隻も吹っ飛ばされる。そしてここでヨルムンガンドが雄叫びを上げると凄まじい引き潮が発生する。
「最初のやつをまたやる気だ!」
「次、さっきと同じ規模の津波が来たら、東部の国が全滅するぞ!」
「大丈夫です。僕らのギルドマスターが大津波対策の人たちを援軍として呼んでいます。それに合わせて、総攻撃でヨルムンガンドを倒します。孫策さんたちもお手伝いお願います」
「わ、わかった」
みんなが次々切り札を発動させて、封印石召喚でケツァルコアトルとサマエルが降臨する。更には各属性の大精霊に天使たちも召喚された。そして全員が大技の溜めに入ると大津波がやって来る。
「行きますよ! 皆さん!」
雫ちゃんが率いる同じ杖を持つプレイヤーが一斉に杖を構える。
「「「「アロンの杖! 伝説解放! 聖杖技! ドケッ・イシュア!」」」」
モーゼの奇跡が発動すると大津波が割れて、そこに大津波が流れ込んでいく。水は流れるものだ。海流支配でなら流れを操ることも出来るのだろうがモーゼの奇跡はそれを許さない。ドケッ・イシュアには範囲内にいる敵のスキルの封印効果がある。よってヨルムンガンドはスキルを発動出来ない。
ここにきて自分の巨体が完全に仇となってしまった形だ。
「今ですよ! 皆さん!」
「「「「タスラム! 発射!」」」」
「光球!」
「アァアアアアア!」
与一さんたちからタスラムの一斉攻撃やケツァルコアトルの八つの太陽をぶつかる技とサマエルの神撃、大精霊たちの精霊波動、天使たちの天使魔法セイント・スタウロス、この他にも各召喚獣の核撃クラスの大技スキル、孫策たちを初め、伝説の武器を持つプレイヤーたちの大技まで遠慮なくぶっ放された。
「シャアアアアア~!?」
「「「「ど、どう?」」」」
ヨルムンガンドは倒れ込む。生命力も全損しており、スキルを封じているから蘇生もあり得るはずがない。そう思ってたが、ここでヨルムンガンドの体が発光する。
「あれって…」
「アイテムによる蘇生!?」
「…大丈夫です。ドケッ・イシュアが決まった時点で私たちの勝ちですから」
アイテムの光が消滅したがヨルムンガンドが蘇生することはなかった。ドケッ・イシュアは範囲内にあるアイテムも封印する。雫ちゃんの言う通りで技が発動した時点でヨルムンガンドの負けは決定していた。いや、援軍を呼ぶことを女性召喚師が提案した時が勝敗の分かれ道だっただろう。とにかくヨルムンガンドはみんなの手で倒された。
しかしながらかなりの切り札がここで使用されてしまった。それでもみんなが切り札を使ったのは俺たちへの信頼とこれ以上の町の破壊は許さないという意志があるからこそだ。
「はぁ…はぁ…そういえばウートガルザ・ロキの状況はどうですか?」
「ワントワークではブルーフリーダムを中心にした部隊が戦闘中。苦戦はしているみたいですがワントワークの都への侵入は許していません。ただ蜀の方では都への侵入を許して、かなりの被害が出ている模様です」
蜀のほうでは諸葛亮が指揮を取っているがウートガルザ・ロキと諸葛亮の相性が最悪だった。諸葛亮の策の悉くが通用しなかったのだ。そのせいで蜀の軍勢で関羽、張飛、黄忠、龐統が倒された報告が来ている。
「流石の強さですね…では、僕たちはユグドラシルに戻りましょう」
ルークは提案にプレイヤーは聞いて来る。
「切り札を使ったのにですか?」
「切り札を使っても雑魚を倒すことぐらいは出来ますよ」
「だね…みんな! ギルマスたちを助けに戻るよ! 私たちでガルムとか倒して援護しよう!」
こうしてすぐに迎えるメンバーはユグドラシルに急行するのだった。




