#1346 ラグナロク、イエローオッサ戦
リリーたちの戦っている頃、その戦いをイエローオッサから眺めている恋火と和狐の姿があった。もちろん恋火がただ見ているだけを耐えられるはずもなく、激しく尻尾を動かしている。
「…」
「戦いたかったら、あっちにいっても良かったんやよ? 恋火」
「い、いえ! タクトお兄ちゃんがこっちにも敵が来るかも知れないと言ったんですから、あたしがここにいないとダメです! もちろんお姉ちゃんを信じていないわけじゃないですけど」
「うちも含めてみんなが心配なんよね? 恋火は優しいどすな~」
和狐に頭を撫でられて、恋火は何も言えなくなる。しかしここで九尾がやって来る。
「どうやらお前らの予想が当たったみたいだぞ。溶岩の中にたくさんの生命体がいることを感知した」
「その中でアジ・ダハーカクラスの反応があったりしませんでしたか?」
「いや、ないな」
「そうですか…そこのタクトはんの予想は外れたみたいどすな」
もしかしたらスルトが嫁を倒された怒りからフリーティアを狙う可能性を考えていたがどうやらその予想は外れたらしい。スルトが来ないならシルフィのスルトがいるこちら側の勝利はほぼ確定したといっていい。
そして二人は九尾の案内で火口に向かう。そして火山が噴火するとムスペルの大軍勢が火口から現れるが火口付近には九尾に恋火、和狐をはじめ九尾配下の狐のセリアンビーストの巫女たちと狐の召喚獣たちが集結していた。
そして彼女たちの手によって、噴火によって発生したマグマは止められている。これだけでも恋火たちを送って警戒してもらった甲斐があった。もしマグマの被害を止めないといけない状況になったら、そこに人数を割かないといけなくなるからね。
「まさか本当に俺様の領域に土足で踏み込んで来るとはな。いい度胸しているじゃねーか。炎の巨人ども」
「「「「オォオオ!」」」」
巨人たちが襲い掛かって来たことで恋火たちが迎え撃とうした時だ。九尾が手で制した。
「お前らも近く空天狐に挑むんだろ? それなら今回、こいつらの出現を警告した報酬にいい物を見せてやるよ」
九尾が手を合わせ、唱える。
「因果の法よ。我が力に屈せよ! 因果消滅!」
かつてアジ・ダハーカに使用した九尾の切り札がムスペルたちに炸裂するとムスペルたちは問答無用で消滅する。それを恋火と和狐は目の前で見せたという事は恋火たちも使える可能性があり、逆に言うと空天狐もこれが使える事を意味している。
「今のはなんですか!?」
「因果律に干渉する九尾様の切り札どす…そうでした…これの対策を考えないと空天狐はんには絶対に勝てまへん」
「そういうことだ…この技は無限属性だろうが不死身だろうが問答無用で即死させることが出来る世界でも数少ない技の一つだ。それをどう耐えるかは自分たちで考えろ」
「はいな」
素直に返事を返す和狐に九尾は驚きの顔を見せる。そんな九尾の様子に和狐は首を傾げる。
「どないしたんどす?」
「いや、男が出来ると女は変わると人間は言っているがそれは真実だなと思っただけだ。ここにいた頃は人形のように返事を返すことしか出来なかった奴がここまで変わるものか」
「九尾様が高圧的な態度をしているから小さな子たちはみんな怯えてしまうんですよ」
「おいおい。俺様のどこが高圧的なんだよ? なぁ? 俺様は高圧的な態度なんて一度もしたことがないよね?」
今、和狐に返事を強要している姿が既に高圧的になっている自覚がない九尾である。これが高圧的でないなら他の行為も高圧的には思っていないだろうね。
「ふふ。そうどすな」
「む…なぜ笑う」
「九尾様はそれでこそ九尾様だと思っただけどす」
「ふふ。あなたもそんなことを言えるようになったんですね」
九尾の側近の狐のセリアンビーストたちも和狐の成長を微笑ましく見守っていた。するとまたムスペルが出て来る。
「後はお前たちに任せる。下みたいに数で押されることはねーから安心して戦え」
「どういうことどす?」
「お前らの主はもう気付いているから話すが奴らは蘇生して無限に押し寄せている。無数の死んだ巨人を無限に蘇らせる。そんなことが出来るのは冥界の神だけだ。その冥界の神でも存在が消滅した者を蘇らせることは出来はしない。なぜなら蘇らせる対象がこの世からいないわけだからな。いない存在を蘇らせることなど出来るはずがない」
九尾の話が事実なら九尾はセフォネの天敵って事になるな。とにかく九尾が消し去った大量のムスペルが蘇生して復活することがなくなった以上、イエローオッサはかなり楽になった。それこそ九尾が配下に後は任せれるほどにね。
もっと考えると案外九尾はみんなにレベルアップをして欲しいのかも知れない。普段はそんな様子は見せないが九尾もここの王として君臨している。みんなをなるべく安全にかつ成長を促すためにある程度の危険がある戦闘をさせたいのかも知れない。
そんな九尾の思惑を見事に破壊するのが恋火と和狐だ。
「狐炎之舞!」
「オォオオ!」
「炎化しても無駄です! 魔力切断! グランドサザンクロス!」
ムスペルが恋火に斬り刻まれると炎化で逃げようとしたが恋火はその炎すら斬り裂くと元の体に戻ったムスペルを縦と横に真っ二つにした。その後も恋火の動きは止めらない。大振りの攻撃しかないムスペルたちと速さと技術で勝負する恋火は相性最悪だ。
一方和狐も負けていない。
「荷重操作! 重力操作! はぁ! やぁ! 太極ブレス!」
白蔵主の錫杖でムスペルの棍棒を横から叩いて、攻撃を逸らすと接近して回転するとムスペルのすねに強烈な一撃を叩き込んだ。流石にこれは痛いらしく、怯むと跳び上がり、至近距離からの太極ブレスで見事に倒した。
そして和狐は倒れるムスペルを蹴ると空を飛びながら距離を取ると狐稲爆を使用して追撃に出ていたムスペルたちにダメージを与えた。そんな和狐の様子を見て、九尾が感想を言う。
「おいおい…あいつは術タイプだろうが…何しているんだ?」
「契約している白蔵主さんに色々もまれたみたいですね」
「あぁ~…あいつのせいか…納得した…ん? なんだ? あの鉄の扇子! かっこいいじゃねーか! おい! 今度、神降ろしを使われた時に絶対に使ってやる」
「聞こえてますからね! お二人とも!」
やはりイエローオッサにいる和狐はいつも以上にいじられキャラになるな。この辺りはファリーダとそっくりだ。というか召喚獣が故郷に行くとやはりそこに元々住んでいる人たちには頭が上がらないようになっているんだと思う。もちろん召喚獣の性格や故郷にいる者たちの態度で色々変化するとは思うけどね。
それとは無縁で次々ムスペルを斬り刻んでいるのが恋火だ。ただ長くムスペルと戦っていると恋火にも色々思う所が出て来てしまう。
「…」
「他の属性の太刀や刀が欲しくなったって顔どすな?」
「なんで分かってたんですか!? お姉ちゃん」
「恋火が分かり安すぎるんどす」
じっと自分の武器を見ていれば嫌でも新しい武器が欲しがっているように見えてしまうだろう。
「この戦いが終わったら、タクトはんに相談してみたら、どうどすか?」
「えーっと…それは…」
「たぶんタクトはんは恋火の新しい太刀のことは考えてくれていると思いますよ? ドラゴニックマウンテンに挑む気満々やからね」
「あ」
ドラゴニックマウンテンでは竜石が結構手に入ることになるだろう。そうなると当然今まで作って来たように刀と竜石を組み合わせることは十分出て来る。そう言う意味でもドラゴニックマウンテンには挑む価値が大きいのだ。
「タクトはんも心が読める訳や無いから欲しい物があるなら直接伝えやな伝わらへんよ」
「うぅ…わかりました。言ってます。でもそのことはお姉ちゃんだけには言われなくなかったです」
恋火の指摘に和狐は苦笑いで返す。自分がおねだりとか苦手なのは和狐自身が一番理解しているところだ。そして二人は仲間と共にムスペルの軍勢を抑え込み続けるのだった。




