#1337 ラグナロク、サンドウォール砂漠戦
場所は変わり、ここはサンドウォール砂漠。ここにも冥界はあるため、敵は沸くことになったが現れたのはみんなミイラとカーと言う名前の幽霊モンスターだ。
「おのれ! 我らの冥界を荒らすとは!」
「落ち着け。アヌビス」
「しかしオシリス! これでは我らのメンツが丸潰れだ! 何故戦わせてくれない!」
「お前は我らだけであれだけの軍勢に勝てると思っているのか? 奴らはここに無限に部隊を送り込んで来ることぐらい分かるだろう?」
アヌビスも冥界の神だ。オシリスの指摘通りで闇雲に戦い、自分が負けることなどあったりしたら、それこそメンツどころの騒ぎでなくなることを理解している。それでも戦いたいというアヌビスは自分たちの冥界を大切にしている神なのだろう。そんなアヌビスにオシリスは言う。
「それに奴らは何も分かっておらん。本当にあの魔神の娘の召喚師とラーは恐ろしい事を考えたものだ…それには我らには我らの役目がある。今日のところは彼女らに任せてみようではないか。地上の人間を信じるのも神の役目だぞ?」
「オシリス…分かった」
ミイラたちとカー、巨人たちは本来なら各町に襲い掛かるはずだったがヘルズゲートから出た彼らの前には二人の魔神の姿があった。イフリートとファリーダだ。
「娘と初めて共に戦う相手としてはかなり不服だが、数だけは多いな」
「冥界にいった魂が外に出て来たんだからこれくらいの数は当然でしょ? それに一応強い奴もいるはずだから気を付けて戦いましょう。お父様」
「イフリータが…お父様! 気を付けて! と言った…俺、感動」
「そんな可愛く言ってないし、発現が微妙に変わっているわよ!」
ファリーダはなんというかサンドウォール砂漠にいるとツッコミ役になりがちだな。さて、ここでまさかの親子の共闘が実現した。この提案をしたのは俺ではなくファリーダだった。
「イフリートを仲間にするのか?」
「仲間と言うか一緒に戦う感じね。私は魔神になってすぐに封印されたから実はお父様と一緒に戦ったことが無いのよ。だから私から一緒に戦いたいと言えばすぐに飛びつくと思うわ」
「そうなのか? まぁ、もしそうなれば助かるけど」
「任せて起きなさい。父親なんてちょろい生き物よ」
ファリーダのこの言葉が何故か俺にも突き刺さった気がする。そしてまんまとファリーダの提案に感極まってノリノリで乗せられているのがイフリートである。
そしてこの状況を知ったラーは冥界が攻められていることが分かるとファリーダたちにその情報をリークした。二人はあまり乗る気ではなかったがファリーダは俺からサンドウォール砂漠を任された身だ。
ファリーダからすると相手が沸く場所を抑えられるならそれが一番いい。イフリートも一秒でも早く一秒でも長く娘と一緒に戦いたいので、ラーの情報に乗った訳だ。しかし二人になって、ラーや砂漠の神に利用されるのは非常に腹立たしいことなので、機嫌はかなり悪い。
そんな二人のストレス発散にこれから付き合わされるミイラたちは事情を全く知らないまま、二人に向かって来る。
「「「「アァアアー!」」」」
「ふん。俺と娘の会話を邪魔するとはいい度胸だな? 大焦熱!」
俺が以前試練で味わった時のように砂漠が炎に包まれる。そしてミイラたちは全員が炎上する。炎に耐性がない彼らにとってはまさに地獄だな。これが桜花に出て来た妖怪たちなら耐性を持っていた。桜花の閻魔大王たちがいる地獄では大焦熱地獄という階層が存在しているからだ。
最も耐性があっても、神火などには弱いし、多少の耐性があっても火力で消し飛んでしまうんだけどね。そんな脆い彼らにとってはイフリートの大焦熱はまさに地獄のスキルだった。次々消し炭となって消えていく。空を浮かんでいるカーたちも問答無用だ。
「ははははは! どうした? 冥界のミイラどもよ! その様子では戦闘にすらならんぞ?」
『楽でいいわ~』
機嫌がいい父親と父親を利用して楽をする娘の図です。その後もイフリートの圧倒的な力は止まらない。ヨトゥンにとっては相性最悪の魔神といってもいいだろう。何せ氷属性の攻撃が全てイフリートに当たる前に蒸発しているのだ。
ただ流石のイフリートも暴れ過ぎたことで限界を迎える。
「流石に…暴れ過ぎたか…」
「全く世話が焼けるわね。ここからは私たちが相手をしてあげるから休憩してきていいわよ」
「ぬぅ…それはありがたいが頑張った父親に対して、もう少し優しい言葉をかけてくれていいのではないか?」
「娘を助けることが出来なかった父親にそんな権利あると思っているのかしら?」
イフリートは黙って、後ろに下がった。これを言われるとこのゲームのイフリートは何も言えなくなってしまうんだよな。因みに現時点で各地を襲っている巨人や冥界の軍勢の倍以上の数をイフリートは一人で倒している。
ここからは娘にバトンタッチする。しかしファリーダは沸いて来るミイラたちに対して、動かない。
「そろそろいいかしら? 魔神魔法! シャイターン・アイン!」
炎の目から光線が放たれると砂漠にいるミイラたちを一閃すると光線が通った地面が大爆発してミイラたちが消し飛ぶ。その砂漠の一体を大爆発させた攻撃の中からムスペルたちがファリーダに突撃して来た。
炎の巨人であるムスペルたちはイフリートの炎を受けても中々倒れなかったほど、炎に強い。そんな彼らに対してイフリートは格闘戦で圧倒して見せたのだが、ファリーダはどうするかな?
「ふふ…魔神魔法! アフマル・シムーン!」
灼熱の巨大砂嵐がムスペルたちを襲うが流石に飛ばされることはなく、また炎ダメージに対してもあまり効果はない。それぐらいはファリーダもイフリートの戦闘を見て、理解している。ファリーダの狙いは目潰しだ。
「黒星!」
ムスペルたちにゼロ距離からの黒星で次々当てて吹っ飛ばしていく。このゲームでは一応ムスペルたちが住んでいるムスペルヘイムは冥界の立ち位置に入っているがしかし彼らは闇属性に対する耐性は持っていなかった。
これは北欧神話の設定が反映されているだと思われる。北欧神話の巨人たちは死者ではない。どちらかと精霊や神に近い存在として描かれている。そしてムスペルヘイムが炎の世界であるように北欧神話にはちゃんと死者の世界がある。
それがユグドラシルの最下層にある世界ヘルヘイムだ。この世界はヴァルハラに行けなかった魂がいく世界で本当の意味での北欧神話の冥界はこの世界だと言える。そのため、この世界にいる巨人が闇属性となっているのだ。
「死滅光線! 拡散光線!」
ファリーダの全身から死滅光線の拡散光線が放たれるとムスペルたちはこれをガードする。それを見たファリーダは距離を詰めるとこれに対してムスペルたちは攻撃のチャンスと思い、棍棒で覇撃を使う。
それを見たファリーダは砂漠を蹴ると空に上げって回避した。
「黒雷! 炎熱支配! 物質化!」
黒雷で防御不可能のダメージを与えるとイフリートの炎を操り、ムスペルたちを掴めるほどの巨大な炎の腕でムスペルたちの動きを封じた。
「彗星!」
最後は巨大な隕石に潰されて、ムスペルたちは倒される。
「流石に時間をかけちゃったわね…」
この隙にミイラやカーが逃げ出してしまっていた。
「まぁ、ヒクスとスキアーにあいつもいるんだし、大丈夫ね…私はここで出来るだけあなたたちの数を減らせて貰うわよ。魔神域!」
ファリーダが漏らした敵は砂漠を歩き、人がいるオアシスと町に向かう。しかし夜空を飛行しているカーたちに光を放つ何が光速で突撃すると太陽の輝きがカーたちに炸裂する。現れたのはヒクスだ。
「ピィ!」
ヒクスは夜空を飛び回り、星虹と空振でカーたちを消し飛ばしていく。カーは憑依を使う厄介なモンスターなんだけど、ヒクスに近付けないのは意味がない。
ヒクスが凄いのはやはり空間転移による多方面の敵の殲滅能力だ。しかし流石のヒクスも全部に突撃だけで対処するのは難しい。そこで天雨と敵の塊に対してはゴッドブレスで消し飛ばした。
一方砂漠では、ミイラたちが流砂に捕まるとスキアーが砂漠の中から現れる。
「シャー!」
強行でミイラたちの行動を強制することで地面の目を見させると即死の魔眼でミイラたちは倒れ込み、流砂に呑み込まれて終わる。ミイラとアポピスでは流石にレベルが違い過ぎる。スキアーは次々ミイラを倒していくがヒクスように多方面をカバーできる能力はない。
しかしスキアーが守っているオアシスへの道とは別方向の町の場所にはこのサンドウォール砂漠にいるもう一人の魔神がいた。
「ようやく来たね」
「あぁ」
アラジンとジンだ。今回の戦いは彼らにとっては千載一遇のチャンスと言える。自分たちが砂漠の王として相応しいかどうか町の人たちに民を守る力と意志があるのか示せるからだ。
「頼むよ。ジン」
「任せておけ。あの親子にだけいい顔はさせねーよ」
アラジンとジンが町を守ってくれるならプレイヤーもいるしここは大丈夫だ。こうなると問題はスキアーとヒクスの休憩タイミングだが、休憩を終えたイフリートがファリーダと一緒に戦う為に敵の全てを焼き滅ぶしながら突撃していくので、休憩する時間を手に入れるには十分だ。
アラジンたちとプレイヤーたちがオアシスに補給部隊を設置してくれているので、非常に助かっている。因みにイフリートは離れた場所でプレイヤーたちがテントを設置して補給をしています。流石にイフリートの姿は砂漠の人たちには見せられない。
あくまで今回の一件は神と人が協力して解決した形が望ましいのだ。イフリートも魔神として砂漠の人たちに恐怖の象徴として信仰を集めている。今更人を助ける神として信仰を集めるつもりは本人にはないので、ちょうどいい形だ。
「あら? もう休憩はいいのかしら? お父様」
「っ! あ、あぁ! 万全な状態だ!」
ファリーダは聞いているだけなのだが、イフリートには自分のことを心配してくれているように聞こえており、イフリートのやる気が急上昇した。
「そう。なら私も休憩させて貰おうかしら?」
そういうとファリーダは両手を天に掲げると巨大な魔方陣を展開する。
「魔神魔法! レッドシャイアント!」
天に赤色巨星が作り出される。赤色巨星とは太陽の八倍くらいの質量を持つ星だ。もちろん太陽よりもずっと大きい星なのでそのどれもが一等星である。有名なところでは、くじら座のミラとかうしかい座のアークトゥルスが赤色巨星に当てはまる。
そんな巨大な赤い星をファリーダは敵軍に落下される。必死にヨトゥンたちが攻撃を加えるがイフリートの休憩時間を考えて、ムスペルを優先して倒していたファリーダの勝ちだ。
レッドシャイアントが敵軍に落ちると白い閃光が発生すると超新星爆発より少し弱いくらいの超爆発が発生する。もちろんそんな攻撃を受けた敵軍は壊滅だ。
「ふぅ…それじゃあ、休ませて貰うわね」
「お、おい…」
「休憩が終わったら、ちゃんと一緒に戦ってあげるわよ。約束してあげるわ」
「その約束が信用ならないんだが?」
イフリートの主張は最もな意見だろう。しかしファリーダははっきり言う。
「あのね…私の夫は約束をとても大切にしているの。もし私が約束を反故にしたら、嫌われちゃうでしょ? これでも信用にならないかしら?」
「むぅ…そこまで言うなら信じるが…」
この後、休憩をして前線に戻ったファリーダはちゃんと約束を守って、増えて来た巨人たちをイフリートと一緒にボコボコにしました。
一方砂漠の冥界ではアヌビスとオシリスが肝を冷やしていた。
「あの娘…俺が守っていなかったら、ヘルズゲートが消し飛んでいたぞ」
「しっかり守れて、偉いぞ。アヌビス」
「はぁ…オシリスが言っていた役目の一つか?」
「そうだ。我らは冥界の門を守らねばならない。冥界の門の開閉の権利を有するのは我々と鍵を持つ者だけだからな。それに敵が送り込まれている転送魔方陣を破壊するのも我らの役目だ。最もこれは敵の転送が止まってからでないと動けんがな」
冥界神は冥界を管理する神だ。それ故に冥界で起きた不祥事には対処する義務がある。それはどこの冥界神でも同じで各地の冥界神は自分の役目を果たすその時を待ち続けているのだった。




