#1326 ゲブラーの神
編成は俺がヒクスとスキアーを変えて、糸が使えるアラネアと千影を選んだ。シルフィはロードガーゴイルはそのままでティターニア、夜叉、ムーンラビット、リッチを召喚する。するとすぐにティターニアがシルフィの異変に気が付いた
「何かありました? シルフィ」
「ゴルゴーンが暴走しちゃって…タクトたちにご迷惑を」
「仲間なんだし、迷惑なんかじゃないよ。ちゃんと敵は倒せたんだからさ。寧ろ今、知れて良かったと思っている。大きさな戦争の前だからさ」
「そうですね。そこは本当にそう思います」
「気持ちを切り替えて行こう。相手は神だ。甘い相手じゃないからみんなも気を引き締めてくれ」
全員が頷いて、状態を万全にしてから俺たちは神殿の中に入る。そこには手術台と思われる加工された長方形の岩が置かれている神殿だった。そして神殿の上から神が降臨する。
エロヒム・ギボール?
? ? ?
手術台に降り立ったのはバサバサのロングヘアーの赤毛に眼鏡を付けたシワだらけの白衣姿の女神だ。なんか毎日手術ばかりで家に帰れない外科医って感じだ。
「よく来たわね! あなたたち! 私の世界を選んでくれたことに心から感謝するわ!」
見かけによらずハイテンションだな。その理由がこちら。
「ここにいると神か天使か人ぐらいしか手術出来ないのよね…だからドラゴンになれる人間や魔神を手術出来る日が来るなんて最高の日だわ!」
「タク! この神様、やばいことを言っている気がするぞ!?」
「アウラさんと同じ気配を感じますね…」
「あぁ…ゲブラー・セラフィムの様子と似ていたのはアウラさんに捕まった時のリリーたちの顔か…」
俺の中で凄い納得がいった。一方でシルフィは納得が行かない様子だ。
「アウラさんと同じ気配ですか? 私はそうは思いませんが」
「「「「ふ…」」」」
俺たち全員の動きがシンクロしてしまった。シルフィは王族で王族の召喚獣には流石のアウラさんも手を出す事は無かったんだろう。俺たちの様子を一切気にせず、エロヒム・ギボールが言う。
「あなたたちも時間がないんでしょ? 早く手術を始めましょう?」
あくまで戦闘ではなく、手術と言い切る気か。まぁ、時間が無いのは事実だ。お要望にお答えするとしよう。俺たちが戦闘態勢になるとから仕掛けて来た。
「格納。メス」
エロヒム・ギボールの手に指に挟む形で四本のメスが出現する。両手で八本だ。それを振りかぶる。
「えい!」
「外科医の神様がメスを投げるな!」
外科医の神様とは思えない邪道行為を目撃した。こんな人には絶対に手術を担当して欲しくないと切に思う。
これは流石にロードガーゴイルとユウェルが防ぐ。するとどんどん投げて来た。完全に挑発してるな。こちらも魔法の遠距離攻撃でちょっかいをかけると先に相手が飽きる。
「こんな戦闘じゃ、ダメダメね。神域!」
「ユウェル!」
「領域無効だぞ!」
「あら? 神様の領域を消すなんていけない子ね。ふふふ」
ユウェルに寒気が入る中、エロヒム・ギボールが言う。
「神域を使えないんじゃ、しょうがないわね。武装創造!」
エロヒム・ギボールがそういうとエロヒム・ギボールの周囲に無数の注射器が出現する。注射器の中身がピンクや紫なんですけど!?絶対にやばい注射だ!
「武装射出!」
「武装創造! 武装射出だぞ!」
「あら? 同じスキルを使えるなんて相思相愛ね」
「タク? そうしそうあいってどういう意味だ?」
ユウェルでお互いに恋をして、愛し合っているという意味であることを教えてあげる。
「わたしが相思相愛なのはタクだけだぞ!」
「あら? 残念。じゃあ、そこの召喚師さんを殺せば相思相愛になるってことね」
なぜ矛先が俺の方に向くんだよ!
「タクは殺させない!」
「ふふ。いい顔ね。それじゃあ、そろそろ本気を出して行こうかしら!」
エロヒム・ギボールの姿が消えるとシルフィの横に現れ、蹴飛ばした。話の流れから俺を狙って来ると思って、俺もシルフィも油断した。ここでムーンラビットが月輪を使うが手に持っているメスで月輪が斬られるとムーンラビットにメスが迫るがこれは脱出で難を逃れる。
そして夜叉と千影が同時攻撃をするがこれは空に逃げて躱される。しかし二人は追撃する。
「「はぁあああ!」」
「神技。アンプタ」
「「っ!?」」
夜叉と千影の手足が切断される。今のはなんだ?メスを振っていなかったぞ。斬撃らしい斬撃もなかった。
「神火! 神拳!」
夜叉と千影に炎の拳が炸裂して、地面に激突し、こちらまで転がって来た。
「ふふふ。外科医の神が炎を使うのは意外かしら? 火傷で傷口を止血する方法もあるのよ」
あぁ…アニメや医療ドラマとかで応急処置として使っていたりするね。思いっきり攻撃手段に使っているところは問題じゃないんだろうか。
それよりも先程の技だ。千影に聞くと手足の復活が封じられているらしい。俺がそれを認識したのを理解したのかエロヒム・ギボールが言って来る。
「外科医の神が切断した手足を元に戻せると思っているのかしら? 治療出来るのは同じ外科医の神だけよ。後、言っておくと蘇生や奇跡とかも私は許可しないからそのつまりでかかって来るといいわ」
「蘇生の理由はなんとなく分かるけど、奇跡まで否定するのか?」
「奇跡の全てを否定するわけじゃないわ。これでも神様ですもの。神様から奇跡が無くなったら、何も残らないからね。ただ死んだ命を奇跡で蘇らせることは全力で否定するわ。私の神としての奇跡は助かる可能性が限りなく低いけど、助かる可能性がゼロじゃない時に助かる奇跡を起こす。それが外科医の神としての私の奇跡よ」
絶対にありえない奇跡を否定して、起こりえる奇跡を認めている形か。エデンの神様としてはどうなのかと思うけど、言い分は理解出来た。医学の神は学問の神とも言える。だからこそ蘇生の奇跡には学術的に可能な奇跡でなければならない。
医療ドラマで言う所の彼女の奇跡は心肺停止状態で心臓マッサージによる蘇生を試みた時に心臓が動き出すシーンが該当しているんだと思う。あれは医学的に心臓を動かす根拠があって、している行動だ。
ただそれで蘇生出来るかは外科医の腕だけでは決定しない。ドラマでも何か別の力があるように描かれている。手術を受けている人の生きたいという強い思いだったり、作品によって違うがどんな形であれ止まった心臓が再び動き出すのは奇跡といっていいだろう。
俺は訳が分からない奇跡よりも彼女が言うような奇跡のほうが好感が持てる。俺はどれだけ神様にお願いしても叶わなかった現実を知っているからね。彼女の様に起きない奇跡は起こるはずがないと言って貰った方が俺はいい。
ここで手足を失った千影が通信を送って来る。
『お館様』
『分かってる』
俺と千影の通信を聞いたブランとファリーダが聞いて来る。
「さぁ? どうするのかしら?」
「どうしますか? 主」
「…暫く遠距離攻撃だ。協力してくれ」
ここで接近戦を挑んでも得体が知らない攻撃を受けて戦闘不能状態にさせられるだけだ。まずさっきの技について知らないとどうしようもない。
俺たちが遠距離攻撃をしていると向こうもメスを投げつけたり、神雨などで反撃してくる。その様子を俺が見ているとエロヒム・ギボールは流石に不快感を出す。
「気に入られないわね…その目!」
ここで俺に向かって、糸がレーザー用に伸びて来るがこれはアラネアがガードした。
「そっちにも糸使いがいたのね…今の攻撃に対応するなんて中々よ」
俺が自分の考えを試そうとするとブランに手を握られ、ファリーダに行く手を阻まれる。
「自分の考えは自分だけで試せばいいとか考えるのはタクトのいけないところよ。この天界の階層昇りはブランの試練のようなものでしょ? 二人で挑みなさい」
「ファリーダ…そうだな。俺の考えが正しいのかそれにあいつの攻撃が躱せるのか分からないけど、一緒に戦ってくれるか? ブラン」
「はい!」
「「マリッジバースト!」」
天使となった俺が降臨すると神鎧と神障壁を展開して突撃する。防御スキルを使っていても突撃する俺たちは相手からすると完全に鴨だ。
「お馬鹿さんたち。神技! エクセーション!」
来る!俺は後ろに仰け反り、攻撃を躱す。実感はまるでないが痛みが発生していないということは回避に成功したということだ。
「私の神技を躱した!? く!? でも、まだまだよ! 神技! アンプタ!」
『手足攻撃! 急降下!』
『はい!』
翼を羽ばたかせてまたしても攻撃を躱す。更にまたエクセーションという技が放たれるが俺たちは攻撃を躱してみせた。
『技名で攻撃を判断しただけじゃないわね…エクセーションで切れるのは一か所のみ。首と右手を狙ったけど、完全に攻撃してくる場所を理解して躱す動作をしていた』
「私の技を理解したみたいね?」
「あぁ…最初の戦闘で遠距離攻撃を選択したのはミスだったな」
「ふふふ。その言葉が出て来るなら本当に理解しているようね」
このゲームでは斬られる原因は様々ある。水圧で斬れたり、熱で斬れたり、鎌鼬や乱刃のように斬撃を飛ばすなどがあるが一つ一つずつ可能性を俺は潰していった。
まず水圧には水が必要で熱で斬られると斬り口が通常の斬撃とは違い、熱を帯びる。千影の手足は綺麗に斬られているので、これはない。鎌鼬や乱刃も目視で確認出来なかった。精霊眼での魔力反応もない。
こうなるとやはり武器を使った技である可能性が極めて高くなった。エロヒム・ギボールが使う斬れる武器はメスと糸がある。このどちらかもしくは両方か発動条件になっているかが分からなかった。
千影が斬られた時には糸を使っているようには見えなかったが、透明化や極細の糸で俺が見逃していた可能性があったからね。
俺が技の正体の仮説を立てるきっかけとなったのはエロヒム・ギボールが遠距離攻撃で何故か頻繁にメスを投げていたからだ。攻撃手段としては脅威だし、普通なら違和感を持たないが効かない攻撃を続けられると流石に違和感を感じてしまう。
しかしまだ糸が技の範囲に含まれるかが分からない。しかしそれを試すのは技を出させるしかなかった。
実際に自分の仮説を試して、エロヒム・ギボールの技がどういう物かある程度理解した。エロヒム・ギボールの技は武器が斬った場所というか通った場所を指定してその場所にある物を斬る技だ。
現時点ではその通った場所からどれくらいの範囲が斬られるのか分からないし、斬撃の向きにメスの刃の向きや糸の薙ぎ払い方向などが関係しているかが分からない。ただ場所指定の技なので、相手の視線と殺気で攻撃を予測できる。
回避行動をした後はかなり肝を冷やしているけどね。何せ本当に相手は一切手や体を動かすことなく、斬撃を放ってくるのだ。本当に嫌な相手だよ。
更に言うとエロヒム・ギボール相手に盾や鎧は滅茶苦茶相性が悪い。空間指定の技なので、鎧の中から斬られたり、盾を持つ手を斬られたら、意味がない。実際にこっちが防御スキルを使ってもお構いなしだったから防御無効とかの効果も相手の技に含まれているのかも知れない。
なので俺は武器を神槍リープリングアテナと旭光近衛にして戦闘を続行する。エロヒム・ギボールは飛び回る俺たちに向かって神技を連発してきた。
メスで遠距離攻撃をさせ続けたせいでこの空間はエロヒム・ギボールの神技の攻撃範囲となっている。これが俺が言った選択ミス。序盤から接近戦を挑んでいればこんなことにはならなかった。まぁ、手ひどいカウンターを喰らいそうではあるけどね。
攻撃をされっぱなしの俺たちだったがそろそろ反撃開始させて貰うとしよう。
『ここだ! ブラン!』
『はい! 光速激突! 電子分解! 溶断!』
「おら!」
「な!? く…!?」
俺たちが神槍リープリングアテナを投げるとここで初めてエロヒム・ギボールは攻撃を回避した。反撃に糸で攻撃してくるがこれを回避して、神槍リープリングアテナを手元に戻す。
「一度使った攻撃のラインは使えないみたいだな?」
「さぁ? どうかしらね!」
俺たちもただ逃げ回ってばかりいたわけじゃない。相手の攻撃のラインの数とどこにあるか分からない状態なので同じ場所を何度も飛び回り、相手の技が来ない場所を意図的に作り出させて貰った。
俺たちは戦闘しながらみんなに俺たちが得ている情報を共有していく。しかし流石にエロヒム・ギボールもメスを追加で投げて来る。しかもご丁寧に俺たちがいるところとは全く関係がない場所に投げだした。もう技の絡繰りを隠す必要が無くなったと判断したんだろう。
俺たちはエロヒム・ギボールの神技を掻い潜り、接近戦を挑もうとしたが糸に阻まれる。糸が武器ではなく突撃する俺たちを狙って来るから下手に突撃技を使うと身体がバラバラにされてしまう。
しかしここで糸の攻撃のラインはないと判断しする。糸の攻撃のラインに入っても技を使って来ない。後、放たれる斬撃はエロヒム・ギボールの意志で決定しているみたいだ。斬撃の長さはそこまで大きくはない。片手や片足、首が斬れるぐらいの攻撃範囲だ。一度の技で胴体や両手足を切断するぐらいの長さはないことは確実と見ていいだろう。
『そこそこ仕掛けるぞ。みんな』
俺たちが再度突撃する。
「懲りないわね!」
俺たちに糸が迫るとアラネアの糸が俺たちの攻撃を防ぐと同時に糸を上手に操り、エロヒム・ギボールへの道を開けてくれる。
「ブラン!」
『テンペストペネトレイター!』
「く…!」
「っ!?」
突撃する俺たちに対してエロヒム・ギボールは自分の腕をメスで斬り、血が流れる。やばい!?止まれない!
「血流支配。血晶!」
血の結晶に俺たちが激突してしまう。
「血飛沫!」
俺たちに血の弾丸が飛んで来る。俺は物凄く嫌な予感を感じて回避を選択した。
「ふふ。逃げて正解よ。医学の神が血なんて受けるものじゃないわ」
操られるか自分たちの血の支配権を取られるか何かだろう。いずれにしても受けなかったことは正しい判断だと認められた。
「さて、またやり直しーーっ!?」
エロヒム・ギボールの背後から原初海竜の太刀とシルフィの夜叉が持つ宵練が貫いていた。
「俺たちに止めを刺さなかったのはミスだったな…手足を失えば戦えなくなるとでも思っていたのか?」
「斬られた手足ぐらい念動力で操れでありますよ」
千影と夜叉は斬られた手が地面にずっと転がっていたのがその間も自分の武器を手放すことはなかった。斬られた後に千影が俺にまだ戦える意志を伝えて来たことでこの攻撃を狙っていることは分かっていた。
「だから何よ! こんな攻撃で」
「水牢!」
原初海竜の太刀から水が吹き出し、エロヒム・ギボールを水で包み込んだ。
「水圧支配!」
エロヒム・ギボールが水圧で潰される。エロヒム・ギボールは血流支配を使い、水の支配権を強引に取ろうとしたがもう手遅れだ。
『光速激突! 電子分解! 溶断!』
「これで終わりだ!」
『「巨大化!」』
俺たちが投げた神槍リープリングアテナは巨大化し、エロヒム・ギボールに直撃する。普通に考えれば死ぬ一撃だが、壁にぶっ刺さっている所から煙が発生すると神槍リープリングアテナが地面に落ち、神槍リープリングアテナが刺さっていた場所からボロボロの姿のエロヒム・ギボールが現れた。
「まさかミルラを使うことになるなんてね」
ミルラは没薬とも呼ばれているもので色々な樹木から分泌される植物性のゴム樹脂の事だ。一説ではミイラの語源になったとされている。日本では線香に使われていることがあるといえば馴染み深いだろう。
聖書ではイエス・キリストが誕生した際に拝んだとされる東方の三博士がイエス・キリストに捧げた三つの贈り物の中の一つとして登場している。またイエス・キリストを埋葬する際にも没薬を含む香料が入れられたそうだ。
現代では殺菌作用があり、鎮静剤などに使用される。この効果か聖書に登場することからか分からないが起死回生と同じ効果が発動したらしい。
「ふふ…ゲブラーの神として最後の試練をあなたたちに与えてあげるわ。血醒!」
エロヒム・ギボールから血に包まれて、血が湧き出して建物を破壊する。
「タクト!」
「どうやら外で戦うらしい。全員、外へ!」
俺たちは外に出るとそこには血で作られた巨大な神とはとても言えない怪物の姿がそこにあるのだった。




