#1310 ナラカのヴィマナ
俺たちの部隊から見て、前の二つがボス戦をしている頃、後ろの二つはようやく庭園の制圧に成功していた。流石に前の二つと比べるとまだ戦力が沢山あり、時間がかかった形だ。
「ようやく制圧出来たな」
「地下は予定通り俺たちに任せて貰おうぞ」
「あぁ。頼む」
地下の制圧に向かうのは火影さんたちがライバル視している忍者ギルドだ。この忍者ギルドは武闘派集団なのが売りで忍術よりも武器での戦闘を得意としている。この人たちがまぁ、強い。
ステータスを器用値にガン振りしたことでブレイクダンスやパルクールのような動きを可能していて、忍者が元々持つ俊敏性の高さと隠密能力を活かした戦闘を得意としている。
具体的には靴に刃が仕込まれている特注の靴でブレイクダンスのジャイロという技を駆使して敵を次々踊りながら次々切り裂いていく。
「現実じゃ、どうしても出来ない技をゲームの世界なら出来る所がいいですよね」
これがこの人たちのゲームのモチベーションになっている。普通にプロを目指している人たちも現実ではまだ使えない技を擬似体験することが出来るのはかなりいい事らしい。この技をするのに現実の自分には何が足りていないのか分かるし、技が決まった時の快感を知るきっかけになるので、モチベーションの向上につながると忍者の人が言っていた。
他にもパルクールで壁蹴りで一回転して、追って来た敵を上から刀で突き刺すなど器用値の可能性を教えてくれているようなギルドだ。
「あんなにくるくる回って大丈夫なのかよ…」
「心配になりますが、かっこよくはありますよね」
「与一もあれに憧れているのか?」
「インドア派で現実の自分では絶対に出来ないことなので」
出来ない事ほど、かっこよく見えてやりたくなるのは何故なんだろうね。この忍者ギルドの他にもここには力を付けてきている男性プレイヤーたちが集結している。
「へへ。爆拳! 爆拳! 爆拳! よっと! 天波動!」
鉢巻がトレードマークの男の格闘家ギルドのリーダーがアスラの拳を全て爆発するパンチで撃退するとがら空きの腹に手を添えて、天波動を決める。その後に攻撃してくるアスラの攻撃も格闘術でしっかり対応対処している。
「今だ!」
「おぉーらぁー!」
「いくぜ! 全攻旋風!」
格闘家ギルドの人たちが粘ったことでアスラたちが集まり、そこに方天画戟を持った槍使いがアスラたちを吹っ飛ばすと別の所ではヘラクレスの棍棒を持っている大英雄プレイヤーが棍棒武技の最強技である全攻旋風を使うと自身を回転させながら敵陣に突っ込み、アスラたちをぶっ飛ばすと満月さんたちのところまでジャンプで戻る。
アスラたちは追撃に出るが、それは与一さんたちの格好の的だ。銃一発程度なら不屈で耐えられるがエクスマキナの武器が供給されたことでエネルギーマシンガンでハチの巣にされて、終わる。
この他にも伝説の装備を持った勇者や英雄に加えて竜騎士や精霊剣士たちもこの戦いに参加しているがこの戦いで目立っているのはマイナーな武器を使いこなしている人たちだ。
「おらおら! 俺の分銅鎖はいてーだろう?」
この人は重戦士で荷重支配を持っている分銅鎖を二つ持ち、次々分銅鎖を相手に叩きつける戦闘をしていた。かなり凶暴な戦闘だが、隙が生じやすいと思っていると念動力で鎖を操り、左右から襲い掛かって来た敵の腹に分銅をぶつけて対処している。
「孫策から教えられたトンファーを味わいたい奴はかかってこいよ!」
こちらはトンファー使いの格闘家。炎属性の使い手でトンファーの鉄壁の防御から出されるカウンターと格闘技で複数のアスラが相手でも攻め辛い状況を作っている。そして攻めてこないと見せかけて、一気に距離を詰めるとトンファーの連打攻撃をお見舞いしていた。
「はぁあああ! 矛もいいですけど、薙刀も捨てたものではないのですよ」
この人は神職のプレイヤー。袴姿で大人びれた人だけど、薙刀を実に見事に使いこなしている。本当に神社で見る舞のようだ。因みに彼が使っている武器は黒田官兵衛のクエストで手に入る薙刀だ。名を権藤鎮教という。
黒田官兵衛が朝鮮出兵の際に虎に襲われ、これを倒した部下が使っていた武器だ。物凄いマニアックだ。運営に黒田官兵衛ファンがいるに違いない。そしてこの人も相当な歴史ファンだと思われる。普通なら巴御前の薙刀を選ぶからね。
「しゃ! しゃ! 俺のヒュドラの毒の鉤爪は効くだろう?」
この人は忍者で鉤爪を使ったヒットアンドウェイ戦法を取っている。忍者ギルドの面々はこの他にも暗器や絡繰りの武器使いが多くいて、武器ファンの俺からすると見ていて面白い。
悲しい事だが、マイナー武器や絡繰り系の武器はスキルがあっても武技が使えないことが多い。だからこそプレイヤーの武器の練度がよりダイレクトに影響する。これらの武器を選んだ人たちは相当な訓練をして、今この場に立っている。こういう苦労をして、それを認められた人たちは顔付きがやっぱり違うものだよね。
しかしそんな彼らはボス部屋の前で最大の敵と遭遇することになる。
アプサラス?
? ? ?
水色髪にファリーダのようなお腹を出した踊りの子の衣装に伊雪が作った天の披帛の水色バージョンと言える装備した美女軍団が立ち塞がる。
「彼女たちと戦うのか?」
「そうらしいな…」
「「「「めっちゃ戦いにくいんだけど!」」」」
どんなに強い男でも美女には弱い者だ。そもそも美女を傷付けて、いい思いをする人はいないだろう。少なくともこの場にいるみんなは戦いたくないらしい。
「あぁ…君たち? 操られているなら退いてくれないか? 俺たちは君たちを助けに来たものだ」
格闘家ギルドのリーダーが穏便に事を済まそうとした。確かにアプサラスはナラカに誘拐された者たちだ。本来なら戦いを避けられる可能性は十分にある。すると一人のアプサラスが前に出てきて片手を差し出して来た。格闘家ギルドのリーダーは手を握ろうとした瞬間だった。
「神拳!」
「ごぼ!?」
アプサラスは踏み込んで強烈な腹パンをお見舞いして、格闘家ギルドのリーダーは悶絶すると蹴り上げられて、大海波動でぶっ飛ばされる。
「「「「リーダー!」」」」
「ひでぇ…」
「まぁ、ボス部屋の前で守るように陣取っている段階で敵なのは明白ですから不用意に近づいた彼の自業自得に思えますよ」
「そういうな。与一。美女と戦いを避けられるならそれが一番いいとお前の思うだろ?」
これでアプサラスが敵と確定したので、みんなが戦闘を開始するがアプサラスたちはかなり強かった。武器は矛か棒で天の披帛を使いながら格闘術まで組み合わせる戦闘スタイルでかなりレベルが高い戦闘を見せる。
「おらおらおら! くそ! 身体が柔らかくて当たらない! うお!? とっとっと! どわ!? うおおおおお! あっぶね」
トンファー使いの人が連続攻撃をすると全て受け流されると決まると思った渾身の一撃は上体反らしで躱される。そして天の披帛が鋭く飛んで来て、それを咄嗟にガードすると金属音が響いて、押されると態勢を戻したアプサラスに攻め込まれて、防御に徹していると今度は足を天の披帛で縛られ、転ばされるとトンファーで天の披帛を破壊して、転がって、攻撃を躱した。
「英雄波動!」
「水鏡!」
「シールドガード! やはり水鏡は使って来るか」
「ですね。これで遠距離スキル系は使い辛くなっちゃいましたね!」
満月さんが盾から英雄波動を放つと水鏡で返される。これを満月さんは見越して盾でガードする。それを分析した与一さんが狙撃をすると沈殿スキルで銃弾がアプサラスの体内に消える。これで物理系にも強いことが判明する。
戦闘を続けていると衝撃吸収で武器での攻撃が弱められていることも判明し、棒は如意棒のように伸縮をして来ることが判明した。何よりみんなを苦しめているのがこのアイテムだった。
「あの天の披帛が邪魔だな…」
「武器まで縛ってこられてるなんて汎用性高すぎですね…」
「格闘技は合気道に近い。合気道でこちらの攻撃をいなして発勁で確実にダメージを与える来るところが強いな」
「水や海の精と呼ばれるだけあって、水のスキルも強力ですしね。本気で戦わないとやばいですよ」
接近戦を諦めると洪水や鉄砲水が使用され、満月さんと与一さんたちがこれをガードした。なるべく罪悪感がないように直接攻撃は避けて、遠距離攻撃やカラミティカリバーや覇撃のような衝撃波や技の余波で相手にダメージを与える技でアプサラスたちを倒していく。
ただアプサラスたちもただで負ける相手じゃなかった。アーレイが至近距離から英雄波動をお見舞いしようとすると変化で姿がサラ姫様の寝間着姿に変わる。
「いぃ!?」
「堕落」
「やば!? 英雄波動!」
アーレイがサラ姫様の寝間着姿を消し飛ばした。
「「「「…」」」」
「いや! ちょっと待って! 今のは違うだろ! 普通にやばかったし! というかサラのあの姿を見んな」
「伸縮」
「ぐわ!?」
動揺したアーレイの背中に伸びた棒が直撃する。みんなが非難の視線を送るがもちろんアーレイだけに被害はとどまらない。
「お前…あんな巨乳のお色気お姉様を消し飛ばすとかマジか…」
「おい。鉢巻。どうしてアプサラスは体操着の変化をしたんだ?」
「そういうあんたはメイド服だっただろうが!」
「いつも買っているパン屋のお姉ちゃんを…俺は…俺は…責めるくらいなら殺してくれ!」
かなりカオスな状態となったがなんとか強敵を倒しきったがみんなの精神ダメージは相当なものだった。
「アプサラス…恐ろしい敵だったな」
「男の弱点をよくわかっている」
「修行中の人間を誘惑して堕落させる神話も持っていますからね。因みに人間と結婚することもあったはず」
「「「「それはもっと早く言え!」」」」
今回は敵として登場したが他の場所で出会えたら、結婚するチャンスもあるのかも知れないね。こうしてボス部屋に到着したみんなは主に精神的な疲れを癒してからナラカとの対決に挑むだった。




