#1309 シュムバとニシュムバ戦
ルークたちがボス部屋の中に入るとそこはお寺の中のような部屋だった。松明の火に照らされて、二人のアスラが映し出される。
シュムバ?
? ? ?
ニシュムバ?
? ? ?
この二人は腕が左右三つずつあるアスラだった。持っている武器は矛と剣、弓、独鈷杵で矛と剣が下で弓と独鈷杵が上の手で持ち、真ん中を何も装備していない異様な雰囲気を放っている。
「身の程知らずの大馬鹿者が沢山来たな。弟よ」
「そうだな。兄者」
「これは…ちょっと敵の強さを見誤った感じがしますね」
「だな…かなり強いぞ。この二人」
俺たちは会議の時にあることをこの二人についてある危惧していたのだが、中ボスレベルでそれがくるはずないと結論付けている。ただこの二人を前にしてその危惧があるかもしれないとみんなが思ってしまう。
「おーおー。勢いよくここに飛び込んで来た割には覇気が無くなっているぞ?」
「仕方あるまいよ。兄者。人間が我らに勝てるはずがないのだからな」
「なんだと! ルーク?」
「確かに僕たちだけじゃ、あなたたちには勝てないと思います。でも、僕たちは召喚師。獣や亜人、妖精、果ては悪魔や天使、神と一緒に戦う者です。逆に聞きますがそんな僕たちに勝てると思っているんですか?」
ルークは暗黒大陸の攻略を任されてかなり成長したな。サマエルの召喚が出来るようになったことも大きいんだろうけど、一番の変化は自分の召喚獣の強さと一緒に暗黒大陸の攻略をしたメンバーの強さを信じられるようになったところが大きそうだ。
「ビビっている割に言うじゃないか…そこまで言うならもはや戦いから逃れられんぞ」
「我ら兄弟の力、見せてやろうじゃないか」
二人が戦闘態勢になったことで花火ちゃんと堕天使ちゃんが二人に襲い掛かった。これは止められると二人は気合いで吹っ飛ばされる。これは衝撃放射だな。
そして二人が独鈷杵を突き出すとそこから神雷が放たれる。それを受け止めたのは錫杖を持つ天女たちだ。この錫杖は避雷針の効果があるらしい。
感心する二人に次々セリアンビーストたちが襲い掛かる。
「「「「閃影わん」」」」
刀を持った犬のセリアンビーストたちが襲い掛かるが矛と剣で止められる。
「「金剛拳!」」
「「獣技! ネコパンチにゃ!」」
犬のセリアンビーストにダイヤモンドと化した拳が放たれるがこれをグローブ装備の猫のセリアンビーストたちがぶつかり合って、止める。お互いに競り合うが軍配はシュムバとニシュムバに上がる。
「「覇撃!」」
「「「「スピリッツアロー!」」」」
二人はすぐさま武器を入れかえ、弓を構えると覇撃を放つ。これをエルフたちがスピリッツアローを連射して防いで見せた。一発で止めれないなら何発でも撃ち込む。見事な判断だ。しかし二人の攻撃は止まらない。
「「グランドサザンクロス!」」
「「キャッスルランパード!」」
剣と矛でグランドサザンクロスを使えるんだな。俺なら驚くところだが、ドワーフの最終進化であるデックアールヴたちが大盾でガードする。
ドヴェルクが最終進化だと思っていたんだけど、このゲームでは地上にいる妖精よりも精霊界にいる妖精のほうが格上設定らしく最終進化が闇の妖精を意味しているデックアールヴが最終進化になっている。
ドヴェルクの時は髭もじゃの頑固爺キャラなんだけど、デックアールヴになると背が急に伸びてお髭があるダンディーな男になったことで一部の女性召喚師が発狂したことがある。因みに女性は背丈が伸びて姉御肌のキャラになることが確認されて、一部の鍛冶師プレイヤーは結構デレデレだったりする。
グランドサザンクロスが放たれた時にグランドサザンクロスを掻い潜り、接近戦を挑んだのは狼のセリアンビーストたちだ。
「「獣技! ウルフクロー!」」
下から上に魔力で作られた巨大な爪の引っ掻き攻撃が放たれるが手首を掴まれると放り投げられる。そして神雷が放たれるが天井を蹴り、回避すると地面に着地を決める。
「ち…」
「腕が四つでも厄介なのに二つあるのは面倒臭いな」
「なるほど…それなりの戦闘経験はあるらしい」
「しかしこれは耐えられるか?」
二人が中央の腕で印を結ぶと二人の頭上に俺がよく知る空間が出現する。
「「開け。強欲門。武器投擲!」」
「カカカ! させぬよ! 爆風波!」
無数の武器がみんなに放たれるが炎の翼を持つ天狗が団扇を振ると爆風波が発生し、武器を弾き飛ばした。彼は千影とは別ルートの天狗の最終進化である迦楼羅天。アルさんの召喚獣だ。
「いい風だ」
「しかしそれだけで我ら兄弟の攻撃は止められんぞ。電磁支配!」
独鈷杵から弾き飛ばされた武器たちに電気が流れると弾かれた武器たちが浮かび上がり、再びみんなに殺到する。それを風のドラゴニュートたちが電磁支配でぶつかり合うと急に二人は電磁支配を止めて、自分たちの武器を消す。
「もう十分遊んだな。弟よ」
「あぁ…そろそろ終わりにしようぜ。兄者」
「「狂戦士化! 逆鱗!」」
二人が本気になると二人の姿が消えて、六つの腕の攻撃で前線が一気に崩させる。ここでルークがエルフたちに狙撃を指示する。すると魔神障壁で弾かれる。
「あれがあの二人の力とみて、間違いないですね」
「狂戦士化や逆鱗状態でも防御スキルが使っているって事かよ」
「でも、これはチャンスです! 囲んで一気に仕留めましょう」
花火ちゃんたちが中心となり、時間稼ぎをしている間に召喚獣たちが二人を取り囲み、みんなが一斉に襲い掛かる。その瞬間、二人が当時に真ん中の手で叩く。
「「魔神技。晩鐘共振」」
鐘独特のゴーンという音が響くと聞こえたみんなが視界が歪むと次々鐘の音が聞こえて来て、みんなが倒れ込むと音が蓄積された部屋は遂に限界を迎えて、衝撃波の爆発で宮殿が吹っ飛び、ルークたちは外に飛ばされる。
しかし外にはチロルたちと大型の召喚獣たちがいる。
「おっと。ナイスキャッチ。大丈夫? ルーク」
「う…大丈夫…ありがとう。チロル。今のは鐘の音を増幅させて爆轟を発生させる技か…」
「音響兵器を味わうとあんな感じになるんだろうな。まだ視界が可笑しいぞ」
「「助けてんじゃねーよ!」」
二人がチロルたちに襲い掛かるが逆に神狼たちが襲い掛かり、追撃を阻止すると二人は武器を振り回して、素手からは溶波動や魔神波動で暴れ回る。
そんな彼らにゴッドオーガやゴーレムたちの攻撃が飛んで来て、二人は同時に後ろに下がる。
「数が多すぎるな。兄者」
「あぁ…ならばこちらはあいつを呼ぶとしようか。号令! こい! 我らが軍の指揮官! ラクタヴィージャ!」
召喚されたのは赤のマントに黒い鎧を着た白髪の四つ腕のアスラだ。
ラクタヴィージャ?
? ? ?
この名前を知っているプレイヤーたちが一斉に攻撃を指示するがラクタヴィージャを自らの腕を短剣で突き刺すと血流操作で血液が地面に広がり、巨大な血晶で壁を作り上げた。
「お呼びですか? 王達よ」
「見ての通り敵が多くてな。お前の力が必要だ」
「なるほど。分かりました。ここはお任せください。魔神技! ラクタクローン!」
地面に広がった血液から次々ラクタヴィージャが現れる。ラクタヴィージャは血液から分身を作り出す能力で知られているアスラだ。シュムバとニシュムバと共に戦い、死んでしまったアスラでもある。
「タクトさんのセフォネさんみたいな能力ですね…」
「確かに似ていますが今ではフェンリルを召喚していますからね。どうやらあいつは自分しか作り出せないみたいですし、セフォネさんのほうがずっと強いと思いますよ」
「「「「違いない」」」」
みんな攻略中にいつも俺たちとボスを比べているらしい。それで指揮が上がるならいいけどさ。みんなが戦闘を開始するとみんなの予想通りラクタヴィージャはヴァンパイアに似ている能力であることが分かった。
ただヴァンパイアほどの血の能力はないらしい。使って来たのは血晶と血流操作、自動防御くらいのものでヴァンパイアより近接戦は得意といった感じだった。そうは言っても爆心、冥波動、溶波動、神魔毒ブレス、魔神系スキルは持っているので、弱い相手ではない。
ラクタクローンで作り出されたラクタヴィージャと戦闘をしていたでみんながラクタヴィージャの能力の詳細を見抜く。
「ラクタヴィージャより弱いですね」
「能力は同じみたいだが、生命力は少ないな」
「魔神障壁の硬さもだいぶ違ったぜ?」
「作り出したばかりだからスキルレベルが低いってことかな?」
その代わりに倒しても血に戻るだけなので、うざい技ではある。しかしここでシュムバとニシュムバが予想外の行動に出た。
「退屈だな。兄者」
「そうだな。あの大きな奴らは邪魔だし、さっさと倒しておくか。弟よ」
「「巨大化!」」
二人はビル五階くらいの大きさになると大型召喚獣たちに戦いを挑んで来た。その二人の魔神の動きにラクタヴィージャも合わせて、強引に前に出て来た。
「おらおらおら!」
「そんな動く金属くらいで止められる俺たち魔神兄弟じゃねーよ!」
ゴールドゴーレム、アダマンタイトゴーレム、ミスリルゴーレム、アイスゴーレム系の最終進化であるダイヤモンドゴーレム、ウッドゴーレムの第三進化であるフォレストゴーレムたちが拳と蹴り、武器の連続攻撃で強引に突破される。
ここでガネーシャが二人に強烈な鼻の一撃を放つがシュムバが受け止めるとなんとガネーシャに一本背負いを決めた。
間違いなく強いのは認めるがその判断は致命的だ。みんなもラッキーという顔をしている。折角数の有利を挽回したのに二人が突っ込んだら、何の意味もない。
「プルートケルベロス! 封鎖!」
「「「ワン!」」」
チロルのプルートケルベロスが封鎖スキルで二人とラクタヴィージャ軍団を分ける。更にジャバウォックの召喚師がシュムバとニシュムバに追い打ちをかける。
「ジャバウォック! 魔獣技! ワンダーランドミスト!」
「グオォオオオー!」
「あん? なんだ? この霧?」
「ははははは! ん? どうした? 弟よ。弟?」
暴れていたシュムバがニシュムバのほうを向くとそこにはニシュムバの姿が消えていた。一方霧に包まれたニシュムバは霧が晴れるとそこには遊園地の光景が広がる。
「なんじゃこりゃ」
「ここはジャバウォックが作り出す幻想世界だよ。そしてお前の墓場の世界でもある」
「なんだと! っ!?」
声がする方を見るとそこにはたくさんの召喚獣を連れた召喚師の姿があった。ワンダーランドミストは霧に包んだ者全てを幻想世界に送り込む必殺技だ。つまり相手を強制的に孤立させ、自分たちの数的有利を作り出すことが出来る。
「は! 兄者がいないなら俺に勝てると思っているのかよ!」
「グォオオオ!」
ニシュムバのタルワールとジャバウォックのドリルがぶつかり合うとタルワールが弾かれる。
「何!?」
「グォオオオオ!」
「俺のジャバウォックもパワー自慢でな。この世界の強化もあるし、かなり強いぜ?」
ドリルで身体を抉られたニシュムバが怒りの目を向けて、ジャバウォックと激突する。お互いに身体が斬られ合うとジャバウォックは強化復活で元に戻し、ニシュムバは魔素解放からの魔素支配と物質化で魔素の手を作り出して、激しい戦闘が続く。
「強欲門! くじ刺しになりやがれぇえええええ!」
ジャバウォックの身体に無数の武器が突き刺さる。
「ははははは! でかい図体は不利だよな!」
「何勝った気に気なっているんだよ。俺のジャバウォックがいつ切り札を使ったんだ?」
「何?」
「お前の本当の姿を見せてやれ! ジャバウォック! 竜化!」
怪物ジャバウォックの姿が竜の姿に変貌する。降臨したのはいかつい怪物ジャバウォックとは無縁に思えるガリガリの二足歩行の紫色の鱗を持つドラゴンだった。
「は! そんなドラゴンになったからって何が出来るんだよ!」
ジャバウォックに矛を投げつけるとジャバウォックの姿が消えるとドラゴンクローでぶっ飛ばされる。
「あん!? 覇撃!」
弓矢の覇撃を放つが夢幻で消える。
「ギャオオオオオ!」
「ぐわ!? なんだ!? こいつ! へへへ! 掴んだぜ! おら!」
踏みつぶされたニシュムバはジャバウォックの足を掴んで地面に叩きつけようとしたがジャバウォックの足が消えるとドラゴンテイルでぶっ飛ばされる。
「なんなんだよ! こいつは!」
「幻想邪竜ジャバウォック。お前を倒すドラゴンの名さ。覚えて幻想の世界で死んでくれ」
その後、ニシュムバはジャバウォックにダメージを与えることが出来ないまま、他の召喚獣たちも戦いに参加して、ボコボコにされて、倒されるのだった。
一方、弟がいなくなったシュムバは発狂している。
「てめぇら! 俺の弟をどこにやった!」
「さぁ? 知らねーな。ルーク知っているか?」
「知りませんね~」
「皆さん、タクトさんの影響受けすぎですよ」
「「見てるとやってみたくなるじゃん」」
俺の悪影響がリリーたちだけでなく、いつの間にかギルド全体に広がっていた。こんなギルマスでごめんなさい。
「…憤怒!」
シュムバは合掌すると顔が真っ赤に染まり、怒りの顔に変化になると紅のオーラが発生する。そしてシュムバがみんなに襲い掛かる。
「グォオオオ!」
「オォオオオ!」
ゴッドオーガと激突すると最初はゴッドオーガは負けていなかったが次の攻撃で押され、次の攻撃でぶっ飛ばされる。
「「「「大精霊召喚!」」」」
ルークのエルフたちが大精霊を呼び出し、一斉攻撃するが武器で攻撃を全て斬られると大精霊たちが次々ぶっ飛ばされる。
「これって、ファリーダさんが覚えたってタクトさんが言ってたスキル」
『ルーク、俺だ。ファリーダから憤怒スキルについて聞いたから今から教えるな』
憤怒スキルは発動している間、敵に攻撃する度に筋力が上がっていくスキルらしい。ダメージ判定ではなく、攻撃判定のため武器のぶつかり合いでも強化が発生するところが最大の特徴と言える。
倍化スキルに比べると可愛く思えるがこれがサウザンドレインが使い、腕自体が多いシュムバにしてみればかなり強いスキルだ。しかもここには攻撃対象となる召喚獣が多いことが強化に拍車をかけてしまっている。
「防御が上がらないなら戦いようはあるな」
「だね…火力をあいつに集中させて倒すよ!」
みんなが切り札を使用して総攻撃をかけるが攻撃を受けながら怒りのままにシュムバは突っ込んで来て、被害がどんどん拡大していく。ここでルークに決断が迫られる。
『このままじゃあ、被害は拡大する一方だし、チロルたちの戦闘にまで影響が出てしまう。ここでこいつだけは倒さないと』
「よし。みんな、援護をお願い。あいつを召喚するよ」
「「「「了解!」」」」
みんながちょっかいをかけながらルークの時間を稼ぐ。
「よし! 封印石召喚! 来い! サマエル!」
空に暗雲が発生するとそこから蛇の天使が地上に降臨する。
「なんだ? そんな奴に今の俺様が止められるかよ! 魔神技! デモンクラッシャー!」
サマエルの腹に拳が突き刺さるとサマエルは血反吐を吐いてぶっ飛ぶ。その血をシュムバは浴びてしまう。
「あん? ぐわぁあああああーーー!? なんじゃこりゃ!? 毒!? 禊! ダメだ! 取れねー!? なんだよ! この毒は!? どわ!?」
サマエルの毒は神にとっては最悪の毒だ。それは魔神であろうとも変わることはない。そしてもがき苦しんでいるシュムバの足にサマエルの尻尾が巻き付くと上空で振り回されて、地面に叩きつけられると神魔毒ドレスが放たれ、全身が毒まみれになる。
「ぐぅううう…おのれ! はあぁー…太極波動!」
「アァアアアー!」
太極波動とドラゴンブレスが激突し、太極波動が勝つとお互いの頭上に神撃が落ちる。
「サマエル!? っ!?」
「俺はまだ…死んじゃいねーぞ!」
マリッジバーストをしたルークに襲い掛かるとルークは弓矢を連射する。すると攻撃することなくルークを通り過ぎたシュムバはそのまま地面に落下して、動く事は無かった。
「あ、危なかった…」
『私たちの弓矢のお陰ですね』
「うん。感謝しているよ」
最後は弓矢のダメージと毒のダメージで不屈を破ったらしい。かなりギリギリの勝負だったけど、勝ちは勝ちだ。
「馬鹿な…憤怒状態の王が負けるなんて…っ!?」
「「「「超連携!」」」」
「これで残りはお前だけ! 決めちゃうよ! 超連携!」
「舐めるな! グランドサザンクロス!」
「そんな攻撃じゃ、私たちの召喚獣の突撃は止めれないよ! いっけーーー!」
チロルの突撃が決まり、ラクタヴィージャも倒される。不死身じゃないのがセフォネとの決定的なレベルの差だな。こうしてシュムバとニシュムバのヴィマナの攻略も無事に終わるのだった。




