#1308 シュムバのヴィマナ
メルたちが攻め込んでいる時、ルークたちもシュムバのヴィマナに庭園の制圧に成功していた。ここでのアスラたちは量が多い代わりにレベルが少し落ちるようだ。そのせいでリアンの一撃を受けてから庭園にアスラたちが集まるのが早かったため、制圧が少し遅れた。
しかし庭園での戦闘は召喚獣はかなり有利だ。一応空で邪魔はされはするが制空権の有利性はもう動かない状況だ。後は俺がしたとの同じようにヴィマナの兵器を潰して、制圧した。
ただここからが召喚師たちが苦戦するところだ。
「やっぱり建物の中の戦闘は獣系は無理っぽい~!」
チロルが言うように基本的に体が大きい召喚獣は一見すると廊下での戦闘などは有利に思えるが相手のアスラが一人一人それぞれの召喚獣を倒せる力がある場合は大型の召喚獣は一体ずつの戦闘を強いられ、味方の邪魔になってしまう。
「宮殿と地下の制圧は亜人種と廊下での戦闘が可能な召喚獣で挑みます!」
「ギルマスがいないなら先頭は俺たちだな」
「えぇ。がんばりましょう」
「地下の制圧は私がいくよ。でも大型召喚獣ばかりだから誰か助けて!」
宮殿の制圧は花火ちゃん率いるタクマとドラゴニュートの召喚に成功した召喚師たちとアロマ率いる天使や悪魔、セリアンビーストの召喚に成功した召喚師に加えてルークが率いる妖精系が支援する形で攻略を目指す。
一方地下ではマヤさんが土のドラゴニュートと共に指揮をとり、支援役には裂空さんが回る。こちらはボス戦ではないので、まだボス戦には自信がない人たちが参加する形となった。
ただどちらの戦闘も苦戦する流れとなった。理由は同じで数が圧倒的に多いアスラたちに押されている。そもそもアスラは武器や格闘戦を得意とする近接タイプだ。そこに加えて、不屈からのカウンターが結構決まっている。
「あぁー! もう! 倒しているのにぃ~! 次から次にやって来て押されちゃう! なんとかしてよ! タクマ!」
「俺に言われても…大技使おうとするとそこを狙って来るしな」
「止めようとしても不屈で何が何でも止めて来てますね…」
「防御無効があるので、天使たちもやり辛そうです」
ここでルークは一度態勢を整えることにした。
「ファウナ。お願い出来る?」
「はい。妖精技。フォレストランパード!」
アスラたちと召喚獣部隊を分かつように樹木が天井まで生えるとルークたちが一度庭園まで引くことに成功する。
ファウナはケサランパサランの第五進化。金髪で下半身が山羊、頭には山羊の角と花冠がある女の子召喚獣だ。基本的に優しい性格で男性プレイヤーには結構人気がある。能力的にはドライアドとあまり変わらないがドライアドと違って、空や崖を走ることが出来て、ドライアドより状態異常が豊富な支援タイプの召喚獣である。
何せ得息武器が楽器だからな。しかし演奏の支援役で可愛い見た目と思って襲い掛かると強烈な蹴りが飛んで来る結構怖い召喚獣だ。
神話では古代イタリアの豊穣神の息子ファウヌスの女性バージョンと名前として登場する。ギリシア神話のパーンやサテュロスと混合されることから豊穣の女神としてケサランパサランの最終進化に選ばれたのだろう。
そんな彼女の活躍もあり、話し合いをするとやはり四つの腕が亜人たちを苦しめている。その上、相手の戦術にイライラを募らせて、強引に攻めてしまう召喚獣も出てきて、それを助けようとした召喚獣が巻き込まれて、お互いに喧嘩しそうな雰囲気となり、召喚師たちが仲介に入った。
俺もリリーの突撃癖には悩まされているし、どの召喚師も抱えている問題は結構同じなんだよね。
「どうする? ルーク?」
「んん~…森でのタクトさんのティターニアの真似をしてますか」
ルークがそういうと一緒に暗黒大陸の攻略に参加している男性プレイヤーに声をかけた。そして俺がまだ知らない召喚獣が宮殿攻略の突破口となる。
「お願いします! 月光蝶!」
月の光を放つ蝶が姿を消すと廊下の上を気付かれずに飛び回ると鱗粉を廊下にばら撒く。するとアスラたちは同士討ちをし出したり、毒に侵され、病気で弱体化し、眠ることになる。
月光蝶はグリーンキャラピラーの第五進化。その能力は鱗粉特化でデバフ要員だ。ルーナも使うけど、鱗粉スキルの多さでは月光蝶には敵わない。
ルークが言っていた森でのルーナの戦闘もミールにおびき寄せて貰ってからの鱗粉スキルでアスラたちを苦しめていた。ルーナはそれだけでなく、妖精たちと一緒に森中を姿を消して飛び回り、鱗粉をばら撒いていたからその戦術をルークは真似る事にしたわけだ。結果はぶっささりしている。
ただこれだけ状態異常が刺さっても結局は大乱闘になってしまう。混乱をさせてもこちらが攻撃したら、当然反撃して来るし、毒や病気になったとしてもそれで戦いを止めるアスラじゃない。
「なんというかこうしてみるとリリーさんたちの指示って結構効いているんだなぁ…って思っちゃいますよね」
「攻める指示もいいし、最近は結構引かせる指示も多いよな?」
「アリナさんの状況収集能力が凄いですからね。そこにやっぱり激戦の場数の経験が活かされているんだと思いますよ。後は召喚獣たちの信頼でしょうか?」
「結構みんな、リリーさんたちの指示聞いてますもんね…まだまだ課題が山盛りだな」
こう言っているルークたちだが、逆に言うと召喚獣たちの指示に課題を見つけるレベルにまでなってきているってことだ。その証拠に徐々に第五進化勢が力を見せ始める。
「ほわ! ほわ! ほわ! わちゃちゃちゃ! ほわ~…パンダ―!」
愛用の竹槍と見事なカンフーが売りのカンフーパンダ―が竹槍をくるくる回して、相手を吹き飛ばしながら前に出ると群がって来た左右のアスラの腹にパンダパンチを喰らわせると前のアスラの顔に回し蹴りをすると一回の跳躍で後ろに下がり太極波動でアスラを消し飛ばした。
思いっきり喋っているかなりネタの召喚獣なんだけど、強いのがまたネタなんだよな。因みに戦闘するとすぐお腹が減って、召喚した人は頭を抱えるらしい。それでも愛くるしさとギャグさについ笑顔になってしまうと自慢されています。
因みにワントワークにある竹林エリアのボスモンスターでもあるらしい。数々の格闘家を返り討ちにしたけど、リサの友達の中国拳法の子に負けてしまったそうだ。彼女の感想はまさかパンダに修行させる日が来るとは思って無かったネと言ってました。
次に活躍を見せたのが髑髏に蝙蝠の羽がある召喚獣だ。
「キー――――!」
セイズバットが大声を出すとアスラたちが気絶する。更にその蝙蝠はご機嫌に歌うとアスラたちにダメージが発生する。この蝙蝠がスクリームバットの進化であるセイズバットだ。全召喚獣の中で最も範囲が広い呪歌を持ち、音波攻撃が売りの召喚獣だ。
戦闘スタイルは実にうざい者で音波で敵を発見、呪歌でダメージ、距離を詰めて来たら脱出で逃げ出すと実にシンプルな戦術を取る。その上、倒したら見た目通り呪滅コンボや道連れを発動させるので、相手にはしたくないタイプの敵だ。
次は白い毛並みの九尾が見せる。
「狐技! ナインテイル!」
アスラの腹に尻尾が突き刺さると浄炎で燃やして倒す。彼女が天狐の進化である空狐だ。ほぼ九尾と変わらないがこちらの方が術特化で光属性を使うのが最大の特徴。
この他にも俺たちが戦ったことがある酒呑童子やサウィンリッパー、バフォメット、アークデーモン、アポカリプスリッパー、レジェンドデュラハン、牛魔王などが中心となり、ボス部屋の前に到達する。
亜人種たちも最終進化に到達した人が結構いるし、これだけ第五進化が揃って来たからこそルークたちの目標がまたどんどん高くなってきているんだろう。これはいい傾向だし、俺としては抜かれないように頑張らないといけないところだね。
「思った以上に時間掛かっちゃいましたね…」
「まぁ、チロルたちの話の通りならここからのほうが楽だろう。待ちきれずにヴィマナを破壊しようとしたみたいだしよ」
外で待っているチロルたちはヴィマナを破壊すれば外で戦闘できるんじゃないかと考えて試したが当然そんなことを許してくれる運営じゃない。そもそもそれが出来るならリアンの一撃で全てのヴィマナが落ちているはずだ。
チロルたちの暴挙に苦笑いを浮かべたルークたちは召喚獣たちを万全の状態にして、チロルたちにも連絡を入れて、ボス戦に挑むのだった。




