#1307 水牛の魔神マヒシャ戦
ボス部屋の中に入るとインド絨毯で座禅を組んでいるマヒシャの姿があった。姿は牛の角がある兜に黒のぶかぶかズボンだ。そしてマヒシャの第一声がこれだった。
「ふん。あの時散々俺を挑発した小僧が来ないとはな…その上、女を俺に向けるとはいよいよ持って、大した男ではないな」
メルが問答無用で斬りかかるとマヒシャはタルワールでガードする。
「礼儀がなっていないな…小娘」
「神拳!」
「ぐ!? っ!?」
「光速激突!」
メルは片手に装備していたプリドゥエンを手放して拳を叩きつけると足元に落としたプリドゥエンに片足を乗せ、マヒシャに向けて蹴ると光速激突でプリドゥエンがマヒシャの腹に炸裂する。そして帰還でプリドゥエンを手元に戻す。
「タクト君のことを何も知らない癖に馬鹿にするのはやめてくれないかな? お姉ちゃん、怒っちゃうから」
「く…俺様に攻撃を…よくもやってくれたな! 女! 王撃!」
「聖障壁!」
「そんな障壁で俺様を止められるか! おぉおおお!」
マヒシャは気力融合などでパワーを上げるがプリドゥエンの聖障壁はびくともしていない。無理もない。メルが装備しているのはホープエクスカリバーだ。勝利の加護をなんとかしない限り、どれだけ弱い障壁でも破られることはない。
「それで終わりでいいかな? はぁ!」
「く!? ッ!?」
「バスターカリバー!」
マヒシャはタルワールが弾かれ、バスターカリバーが直撃する。装備差が致命的にある。
「後、あなたは女性を下に見てるよね? 悪いけど、女性だって強い人は強いんだよ」
「は! 笑わせるな! 男が女に負けるかよ! 男は修行すればするほど強くなるが女には限界があるだろうが!」
はい。男女差別発言来ました。マヒシャが言いたいのは男女の肉体的な構造の話だとは思うけどね。確かに男性のほうが筋肉が付きやすいし、女性は男性よりも先に成長による筋肉の付き度合いが下がってしまう。
しかしそれが女が男より弱いということにはならない。スポーツ選手とか見ていると男よりも女の選手のほうが強いんじゃないか?と思う事は結構ある。それをマヒシャは知らないんだろう。そんなんだから男と神には負けない能力を望んでしまい、最後は女神ドゥルガーに負けてしまうんだ。
「私たちが教えてあげるよ。女性も頑張ればあなたより強くなれるって」
「言ったな? 餌の時間だ! 来い! 俺の水牛たちよ!」
マヒシャが自分の隣に白い巨大な水牛を二体召喚した。
マヒシャ・バッファローLv85
通常モンスター アクティブ 討伐対象
マヒシャは水牛の子として知られているアスラだ。因みに水牛は英語でウォーター・バッファローと言い、そこからバッファローの名前を選んだのだと思われる。
「やれ! 神獣としての力をあの女どもに見せつけてやれ!」
「「モオ―――!」」
二体のマヒシャ・バッファローが前足で地面を叩くと洪水が発生し、下で頑張っていたリサたちも巻き込んで庭園まで全員が流される。
「ぷは! 何事!?」
「…後ろからとは聞いてない。ずぶ濡れ」
「ごめん! 説明している時間は無さそう!」
宮殿を壊して二体のマヒシャ・バッファローが外に出ると空を浮かんだ状態でメルたちを見つけると突進してくる。
「任せて! 怪力!」
「もう一方は私がやるネ!」
リサとリサの友達の中国拳法のプレイヤーがマヒシャ・バッファローを両手で止めるが押し込まれる。
「うぎぎ~! 兄ちゃんが象を投げ飛ばしてんだから牛ぐらい投げ飛ばしてやる!」
俺が投げ飛ばしたのは普通の象がリサが相手しているのは巨大な水牛でしかも神獣である。比べるレベルが違いすぎるがリサはありったけの強化を発動されるとマヒシャ・バッファローを見事に投げ飛ばした。
「やった…」
「モ!」
しかし投げ飛ばしたマヒシャ・バッファローは華麗に着地を決めてしまう。そして鼻から雲を発生させて、雲海を作り出した。これでみんなの視界が失われる。しかしみんなも負けていない。風属性の武器など今ではありふれた武器だ。
「「「「暴風壁!」」」」
風で雲海が離れると既に目の前にマヒシャ・バッファローがいて、重戦士の女性プレイヤーたちが盾を使うが吹っ飛ばされる。防御無効だ。
更にメルたちも神格解放を使ったマヒシャに襲われる。変化したマヒシャはインドラジットと同じくらいの大きさになると腕が四つになり、上の腕に蛇の杖が二本、下の腕にタルワールを二本持っている。
更に上半身が黒い毛に覆われ、足が蹄に変わると牛の尻尾が生えた。完全に水牛としての本性を見せた形だが、こいつが強かった。
最初に狙われのは回復役のミライだ。二刀流のタルワールで攻撃されるがギリギリでメルが張り込み、剣と盾でガードしたが蹄の蹴りが放たれ、二人一緒に吹っ飛ばされると蛇の杖から神魔毒ブレスが放たれる。
ここでミランダとカグヅチの侍ちゃんが上の腕を斬り飛ばすが魔素解放と物質化で作られた魔素の腕に捕まると地面に叩きつけられ、踏みつぶされそうになる。
ここでトリスタンさんが覇撃の弓矢を上半身に毛に弾かれ、ユーコのレーヴァテインの斬撃は流石に神足通で攻撃を躱す。すると魔素の手が拳を握る。
「魔神技! デモンズラッシュ!」
「「「「キャッスルランパード! きゃあああああ!?」」」」
重戦士の盾持ちのプレイヤーたちが守ろうとしたがマヒシャは防御無効持ちで攻撃がみんなに炸裂し、フリーのマヒシャ・バッファローたちが大海波動で倒れているみんなを流し、宮殿にみんなを叩きつける。
「ははははは! 女では男には勝てないと思い知ったか!」
「さっきから…女だ男だと五月蠅いわね…絶対にモテたことないでしょ? あんた。今から倒してやるわよ」
「レーヴァテインを持ってから急に強気になったね。ユーコ」
「それはメルも同じでしょうが…その剣はあの子と一緒に取った剣なんだから、ここで勝たないと姉失格よ」
「言われなくても、分かっているよ~」
みんながそれぞれの武器の力を解放する。更にミライが切り札を切る。
「神聖魔術! ゴッドエンチャント! 回復魔術! ヒーリングハーベスト!」
みんなが武器と防具に神聖属性が付与され、みんなの体力が回復する。
「ありがと! ミライ! 牛はあたしたちに任せて! 躾けてやる!」
「いっちょアマゾネスから教わった必殺技をお見舞いしてやろうじゃないさ」
「じゃあ、私たちの相手はあいつだね」
「不快だし、さっさと決めるわよ!」
メルたちが襲い掛かるが魔素の腕に加えて溶接で斬られた腕を自らの剣で斬り落とすことで状態異常を解除したマヒシャは腕を復活させたマヒシャは楽な相手ではない。角の兜から黒雷を降らし、胸毛の毛針を飛ばして、女性陣を不快な思いにさせる。
蛇の杖から大海ブレスや死滅光線が放たれ、魔素の腕とタルワールがプレイヤーの接近を許さない。伝説の武器持ちのプレイヤーの攻撃を耐えるだけで大したものだ。その証拠にマヒシャ・バッファローにリサとの勝負は一瞬で決する。
マヒシャ・バッファローが逆鱗を発動させて、突っ込んで来るとリサも真っ向勝負を挑んだ。
「いっくよー! ヌアザ・アガートラーム! クラウ・アールガッド」
マヒシャ・バッファローの突進に巨大な銀の拳が激突すると大爆発する。大ダメージを受けたマヒシャ・バッファローだったが怯まず、リサに突進するが目の前にはリサはいなかった。リサは雷光でマヒシャ・バッファローの下に潜り込むと新たに手に入れたヤールングレイプルを構える。
「神技! テンペスト・トールナックル!」
「モブゥ!?」
雷で作られた巨大な拳がマヒシャ・バッファローの腹に炸裂するとマヒシャ・バッファローは空に振り上がり、無数の雷が降り注いでマヒシャ・バッファローを黒焦げにする。更にリサはマヒシャ・バッファローの上に回ると拳を構える。
ここでマヒシャ・バッファローは最後の悪足搔きで神撃を使うがリサは止まらない。
「聖魔爆裂拳! おりゃりゃりゃりゃりゃー! これで終わり! 神技! ゴッドクラッシャー!」
地面に落下した後もボコボコに殴られ続けて、最後は真上から神の拳が落下して来てマヒシャ・バッファローは倒れた。そしてもう一匹のほうも格闘家たちが仕掛ける。まず中国拳法の子がマヒシャ・バッファローに挑む。
「衝撃吸収! 寸勁!」
衝撃吸収で突進の勢いを止めると寸勁というワンインチパンチが放たれ、衝撃がマヒシャ・バッファローの体内で炸裂し、完全に突進が止めるとリサ同様に下に潜り込むと両手に光と闇の魔力が集まる。
「太極波動!」
「モブゥ!?」
こちらも空に上げるとアマゾネスたちと仲良くしているプレイヤーたちが彼女たちの必殺技を決める。マヒシャ・バッファローの背中の肉を掴むと空中で回転する。
「英雄技! ローリング・アマゾネスバスター!」
プロセス技のローリング・スパイン・バスターの縦回転技が炸裂するとマヒシャ・バッファローから何かが砕けた音が聞こえた。恐らく背骨と脊髄が終わったな。息はあるのに動けないみたいだ。最悪の部位破損だな。
「さぁ。これで動けないだろ? 躾の時間だよ」
「モ…モ~」
神獣とは思えないほど、弱弱しい声が聞こえたが助かるはずがなかった。
「マヒシャ・バッファロー!? おのれ! 女ども! 魔神域!」
マヒシャを中心に魔神域が広がるが領域技は先に使った方が負けだ。
「ミライちゃん!」
「聖杖アンブローズ。伝説解放! 英雄技! フラワーアヴァロン・ガーデン!」
ミライがマーリンの杖を使う。アンブローズはマーリンのフルネームや別名として知られている言葉だ。このゲームではマーリンの杖の名前として使用されている。そして英雄技が発動するとミライを中心に花畑が広がり、マヒシャの魔神域を上書きする。
「チッ! あの娘! 逆鱗!」
マヒシャがミライに襲い掛かるが斬ったミライの姿が幻となって消える。これは英雄技としての効果ではなく、聖杖アンブローズが持つ夢幻スキルによる効果だ。フラワーアヴァロン・ガーデンの効果は状態異常回復、回復スキルの効果上昇、解放スキルの持続時間アップなのだが、この回復スキルの効果上昇がとんでもなく高い。流石はアヴァロンの庭を関するだけはある技だ。
「…神撃!」
「ぐ!? おぉおおおー! 舐めるな! 刑罰!」
みんなに刑罰が発動してダメージを受けるがみるみる回復していく。これはもうほぼ不死身といっていいほどの回復速度だ。ただマヒシャにもヴィマナの能力は健在でこのままでは長期戦となる。しかし伝説の武器シリーズには俺たちも持っている回復を封じる武器がある。
メルたちがマヒシャと戦闘している銀たちが狙いを定める。
「「「「フラガラッハ!」」」」
一斉にフラガラッハが放たれると流石に全てを撃ち落とすのは不可能でマヒシャはかすり傷をおう。
「当たった! 今だよん!」
「聖剣技」
「やらせるか!」
メルが必殺技の体制になると強引に距離を詰めて蹴りを放つとメルがギリギリでガードするが吹っ飛ばされる。ミランダとトリスタンさんも必殺技の体制になっていたが蛇の杖が伸びて、思いっきり蛇として噛みついてきたことで二人は回避を選択する。
そしてカグヅチの侍ちゃんとユーコが襲い掛かるがタルワールで止められ、二人はタルワールを破壊するが魔素の腕が殴りかかって来たことで回避を選択して、マヒシャは新たなタルワールを取り出す。
紅炎などの効果は魔素で作られた腕には効果がない。物質化しているなら燃えはするが解除されたら、ただの魔素だ。その瞬間に効果は失われる。レーヴァテインの弱点を見抜くとはレベルの高さが伺える。
しかし逆鱗の代償が高く付く。
「神技! アルテミス・アローレイン!」
トリスタンさんが夜空に月光の弓矢を放つと弓矢が波紋と共に消える。次の瞬間、マヒシャの上に波紋が現れると月光の弓矢の雨が降り注ぐ。逆鱗で防御出来ないマヒシャには最悪の攻撃だ。刺さった弓矢が浄化の力でマヒシャを痛めつける。
そして弓矢の攻撃から逃れようとメルから距離を取ってしまう。この隙をメルが逃すはずがなかった。
「パラディヌス・コールブランド!」
「ぐ…王撃! 覇撃!」
マヒシャがタルワール二本から王撃と覇撃を連続使用してメルの光の斬撃と激突するが軍配は勝利の加護があるメルに上がる。
「馬鹿な! どうして俺様が女なんかに負けないといけねーんだよぉおおお!」
マヒシャが一刀両断されると他のみんなもこれに必殺技を合わせて終わる。
「はぁ…はぁ…勝てた…良かったぁ~」
メルが緊張から解放されて、座り込む。
「折角勝ったのに色々台無しね」
「ユーコが姉失格とか言うからでしょ! 滅茶苦茶プレッシャーだったんだからね」
メルの様子に戦いに参加したプレイヤーたちが笑顔を浮かべて、改めてみんなで勝利を祝うのだった。




