#1302 ランカーの森
ログインすると夕凪の中の快適空間で目を醒ます。ここならみんなで一緒に寝ても十分なスペースがあるし、みんなから何も見えないので安心だ。しかしシルフィはサラ姫様たちと同じテントで寝ている。流石に王族だからここは特別視しないといけない所だ。
「絶対に夕凪さんの中が一番安全だと思うんですけど」
「同感だな」
「夫と一緒に入れないのは納得できません」
本人たちはそういうのが嫌みたいだけど、俺たちが説得した。流石に立派なテントを用意していてお姫様たちを守ろうとしている騎士たちがいるわけだからね。彼らが可哀想すぎた。
みんながご飯を食べて、軽く偵察部隊の報告を聞く。
「空はやっぱり駄目ですね。森で視界が悪い上に敵は木の上に登って弓矢で攻撃されるので、基本的には地上での勝負だと思います。空爆も試みましたが駄目でした」
「まぁ、前回簡単にはさせてくれなかったからな。今回はさせてくれるなんてことはないですよね。いつもありがとうございます。アルさん。その地上での勝負も木の上から狙撃や奇襲も受けることになりそうですね」
「そう言う事になりますね…こちらも木の上に登ることは出来ますが地の利は向こうにありそうです」
「木の上の奴らの事なら心配しなくていいぞ? 森での戦闘なら儂らが負けるはずがないからな」
猿のセリアンビーストなら確かに森での戦闘はラーシャナたちより上手だろうな。となると今回の先陣を切るのはプレイヤーからは盾役と基本的に森での戦闘に強い召喚師と狩人、ラーマ軍は木の上のカバーという事が決まった。
ラーマたちががんがん森をカバーしてくれるそうなので、プレイヤーの本隊は木の上の安全がある程度、保証された状態で地上の敵軍と激突することが決まった。ただ懸念点はやはり森に突撃するまでに弓矢で攻撃されるのがきつい。
「その突撃役は召喚師が請け負います」
「行けますか? かなりきつそうに戦闘してましたけど」
「相手の出方が分からなかったですからね。次はしっかり対策を講じるので大丈夫です」
その作戦は夕飯を食べながら考えてあるので、森への突撃は恐らくすぐに出来る。森の突撃が成功したなら、こっちのもんだ。森での戦闘で召喚獣を敵に回す恐怖を前回調子に乗ったあいつらに見せてやる。
これで俺たちの役割は先陣の突撃で森に入り、森の入り口を制圧するのが果たすべき役割となった。それが完了すると各自で暴れることになる。
「問題のインドラジットですが…本当にタクトさんが相手をする形で良いんですか?」
「えぇ。無敵のインドラジットには勝てはしないだろうけど、簡単に殺されるつもりはないし、そのための作戦も考えた。時間稼ぎぐらいはさせて貰うよ。ただ祭壇を潰すなら出来るだけ早くして欲しいというのが本音かな」
「それはそうでござろうな。森に入れたら、がんがん捜索するでござるよ」
「問題点を他に上げるなら俺たちだな。森での戦闘は通常職種はそこまで得意じゃない。俺たちは突っ込まず、レーンをキープして確実に戦線を上げていくことを意識しよう」
作戦会議が終わり、俺はリリーたちとシルフィたちに前回の反省点と敵の対処法、今回の動きをしっかり伝える。これで準備はオッケーだ。全軍の料理バフと通常のバフをかける際にルーナの新妖精技を見せて貰うことになった。
「フェアリーサークル!」
ルーナの足から光が発生すると円が描くように飛ぶと足から発生した光が円を描く。この中に入っている味方全てに全属性アップと魔法耐性を付与する技だ。魔法戦をかなり有利に運べる技と言える。
全員のバフの付与を確認してから出陣する。俺たちは慎重に進むと予想通り森から弓矢が放たれて来た。これをされると荒野よりも厳しいんだよな。何せ敵側には木という天然の遮蔽物がある状態だからね。前回よりも突撃ははっきり言って厳しい状況だが、同じ作戦を取った相手は攻略しやすい。
俺は飛行部隊とシルフィに指示を出す。そしていきなり切り札を使用する。
「いくぞ。セフォネ」
「うむ!」
「「マリッジバースト!」」
今回はセフォネとのマリッジバーストを選択した。そして召喚師たちが森への突撃態勢を取る。俺はダーレーに乗るとぷよ助を前に置き、人の姿に化けたアラネアを後ろに乗せる。ここでシルフィのドラゴンたちと飛行部隊に弓矢が放たれる。
『召喚師部隊! 突撃! 俺に続け!』
「「「「おぉー!」」」」
俺たちが一斉に突撃すると当然弓矢が飛んで来るが当然数が少なくなる。そして俺たちの先陣を切るのが優牙とシルフィのフェンリルだ。弓矢に当たりながら強引に森に突撃する。森の入り口を盾装備のラークシャサで固めていたが優牙たちが盾持ちに大きな口で纏めて噛みつくことで森の中に入ることに成功する。
当然木の上のラークシャサたちが対応に動くが優牙の後ろから一緒に突撃していたリリーたちとチロルたちが続き、木の上の敵に襲い掛かった。
今回はリリーたちの指示はシルフィに任せた。俺たちをインドラジットに勝たせるためと聞くと喜んでスピード攻略側に参加してくれた。
一方俺はみんなとは別の所に突撃し、弓矢は全てぷよ助がガードしてくれると弓矢が消滅する。これが俺の弓矢対策だ。弓矢作戦、破れたり。
前回は壁や斥力場などを普通に貫通してきており、一撃で壁が撃っ飛ばされることで弓矢に対しての遮蔽物を作らせて貰えなかったのがきつかった。しかしこれを見た俺はぷよ助なら弓矢攻撃に対処できると確信した。
何せぷよ助は衝撃無効で弓矢の破壊力を消してしまうことで貫通の心配はない。ぷよ助の身体に刺さった弓矢など腐蝕と粒子分解で終わりだ。
俺たちは森に激突すると盾持ちを待ち構える。前回では超連携の突撃は盾持ちを何重も重ねる事で止められてしまった。なので俺は超連携は今回は使わない。俺はダーレーに足で合図を送るとダーレーは盾持ちを飛び越えて、木の上で弓矢を放っていた奴に竜角が腹に突き刺さると顔を上げた敵に俺は頭を貫き追加ダメージで倒す。
これで俺たちは森に入った。早速アラネアとぷよ助が本領発揮する。糸を木に伸ばすと隠れてていたラークシャサたちの足に糸が巻き付き、木から落とされる。
それを見ていた盾持ちのラークシャサが助けに入ろうとするがゲイル、ミライを乗せた白夜、千影、スピカに乗ったリースが盾持ちに襲い掛かる。これをガードするが背後にいる俺たちの事を忘れちゃいけません。
「操り糸」
アラネアの糸に捕まったラークシャサたちは万歳するとみんなにボコボコにされて、終わる。思った通りラークシャサにアラネアとぷよ助が滅茶苦茶刺さっているな。
「アラネア、ぷよ助。この調子で頼むぞ」
「任せて下さい。荒野では厳しかったんですが、森は私たちの領域です。あいつらに森の恐ろしさを教えてあげます。行きましょうか。ぷよ助さん」
二人が姿を消すと恋火たちの獲物を求めて散る。すると次々ラークシャサの悲鳴が聞こえて来た。
ぷよ助が分裂すると姿が消えると弓矢を放つのに夢中になっているラークシャサの背後から飛びつき、次々捕食していく。これも毒ダメージと同じで不屈では助かり様がない攻撃だ。
一方アラネアも次々鋼索でラークシャサの首を巻き付けるとアラネアが木から降りるとラークシャサたちは逆に吊り上がり、首つり自殺状態で窒息死する。
ここでアラネアにアスラが襲い掛かって来た。どうやら敵も総力戦の構えらしい。アスラの拳を飛んで躱し、枝にくっついたアラネアに更に追撃して来たアスラだが、アラネアの爪が伸び、拳を振り被っていた所だったので、腹に突き刺さり、逆に木に磔状態にした。そしてアスラの身体中に真っ赤な超鋼線が貫いて、息絶える。
一方リリーたちの方ではノワとリビナ、アリナが索敵役で正確な敵の位置を伝えて、リリーたちが次々倒していく。
そしてグレイがセチアとイクス、狩人たちを乗せて暴れている。グレイは優牙たちの突撃後、みんなから放たれた場所で神霧を発生させる。霧に包まれたことでラークシャサの狙撃の制度が落ちる。
そんな状況なのにセチアとイクス、狩人たちの容赦ない狙撃がラークシャサたちを襲い、木から落下する。そこにメルたちと倒せたグレイたちが襲い掛かり、倒していく。
みんなの活躍を空間索敵で確認した俺は最低限の任務が完了したのを確認するとラーマたちと本隊を呼ぶ。
「見事な突撃だったな」
「ここからは儂らの出番じゃ。皆の者! 荒野での戦いの借りを倒すぞ! 夜までにこの森を制圧するのじゃ!」
「「「「ウッキー!」」」」
森に猿のセリアンビーストたちが解き放たれると本領発揮する。木から木に次々飛び移り、木の上にいるラークシャサたちを次々蹴り落としていく。落とされたラークシャサたちにプレイヤーたちが次々襲い掛かり、撃破していった。
これで森の戦線が上がっていくので、ここから大型の召喚獣たちと支援部隊が動き出す。そのタイミングで空間索敵に物凄いスピードで攻める存在を確認した。しかし向かっているのは俺たちの方ではなく本隊に向かっている。これはヴィビーシャナが危惧した通りか。インドラジットはこの戦いでの勝利を優先した結果、本隊を潰す決断をしたという事だな。しかし事前に教えて貰っていたので、その対策もばっちりです。
「ラーマ。後から参戦してくれ。行くぞ! セフォネ!」
『うむ! 闇転移!』
森での戦闘なので影なんていくらでもある。インドラジットの前の影から現れた俺たちは旭光近衛で激突する。
「てめぇから来るかよ」
「当たり前だろ? 前の戦闘での決着がついていないんだ。ここでどっちが強いか決めようぜ?」
「は! 今の俺様に勝てるって言うのかよ!」
インドラジットからは七色のオーラが発生している。あれが切れた時が勝機なわけだ。それまでは耐える戦いとなるがせっかくなので、無敵のインドラジットとどこまで戦えるのか試したい。こちらの狙いに気付かれるのも面倒だし、本気で戦わせて貰おう。
「おらおらおら!」
前の戦いと同様で腕の多さから来る連続攻撃に苦戦を強いられる。しかし相手のパワーアップはそこまで感じない。俺もセフォネとマリッジバーストをしているから互角で済んでいるとみるべきだな。
「どうした! そんなもんか!」
『炎ブレスなのじゃ!』
「お! はっはー! そんな炎、通用しねーな!」
「常闇!」
インドラジットの視界が暗闇に包まれる。
「下らねーことしてんじゃねーぞ!」
インドラジットが謎の宝珠を取り出すとその宝珠に常闇が吸収される。その結果、晴れるが目の前に蝙蝠の群れが来て、インドラジットは爆発に包まれる。そして俺は斬りかかるが七色のオーラに斬撃が止められる。
「残念だったな…雷拳!」
俺たちの腹をインドラジットの拳がぶち抜く。
「はっはー! は?」
俺たちの左手に魔方陣が出現する。遅延魔法をくらえ。
『エクリプス』
バフ解除魔法のエクリプスならインドラジットの無敵バフを解除出来ると思ったが一瞬弱まったように見えたが元に戻る。ダメか。しかしワンチャンあるんじゃないかと試した作戦だ。本命は別にある。
「俺様の無敵効果は常時発生するものだ。一度解除されたら、どうにかなるものじゃねーんだよ! おら!」
「ぐ…らあ!」
俺は蹴り飛ばされるとすぐさま反撃する。流石のインドラジットもお腹に穴が開いている人間に攻撃されたのは初めてらしい。
「あん!? おいおい…ふざけるなよ。腹に風穴を開けたはずだぞ! っ!?」
お腹に空いた穴に血が集まると元のお腹に戻る。どうやら俺の読み通りらしい。
「生憎こっちは不死身でね。お前の無敵は敵からの攻撃に対して無敵なだけだろ?」
「ふざけんな! ちゃんと勝利の加護もある!」
「いくらでも勝てばいいさ。ただしこっちは不死身だけどな。無敵が強いか不死身が強いか試してみようぜ」
俺がセフォネを選んだのはこれが理由だ。不死身のセフォネに時間が稼げないなら誰を使っても無理だろう。悪いが俺たちのマリッジバーストが切れるまで、時間稼ぎをさせて貰おう。
「タクトが戦闘始めっちゃった! 急がないと!」
「…こいつら、役立たずすぎ。誰も何も知らないみたい。…アリナ?」
「雑音が多すぎて祭壇の場所の声だけ聞くのは厳しいの」
「頑張ってください。アリナ。私たちはタクトさんとシルフィの指示通りどんどん奥に行きましょう。コノハ、お願いしますね」
「ホー!」
リリーたちの方では一番活躍しているのがコノハたち、梟の召喚獣だった。弓使いが一番警戒しないといけないのが暗殺なんだね。気付かれずに接近戦をされるのが一番きつい。それを一番可能にするのが森の忍者である梟たちだ。
最もラークシャサたちは奇襲を受けて木から落ちてもすぐに武器を変えて対処してくる。そこにリリーたちが襲い掛かる状態だ。そしてコノハたちは森の中の捜索もしていく。
一方俺側では千影がいきいきと無双していた。千影は木の上で敵を見つけると糸で木に縛り付けてから刀でしっかり倒している。
こうしてい見るとラークシャサの弱点が結構見えて来る。見た目や能力からみてもラークシャサは戦闘特化だ。故に索敵能力がかなり弱い。前回では地中の奇襲に対応していたが明らかに空中で空虚スキルで姿を消している敵には対応出来ていない。地中の振動を感知する俺が知らない能力か千里眼などで敵が地中に潜るのを見て、対応していたんだろう。
個人的には千里眼の可能性のほうが高いな。何せ前回は荒野での戦闘で遮蔽物が無かったから千里眼持ちなら全軍の動きを見る事が出来た。空虚で姿を消しても地中に潜る際の穴まで消す事は出来ないからな。こうしてみると前回のこちらの戦闘の反省点が結構出て来るね。
みんなが確実に攻略を進める中、俺たちはタイムアップを迎える。
「面倒臭い戦闘をさせやがって! だがこれで終わりだ!」
「ガルダ神より授かった技を見るがいい! 英雄技! ガルダストラ!」
俺に止めを刺そうとしたした時に炎の鳥の弓矢がインドラジットに命中すると空が爆炎に包まれる。インド神話の必殺技は派手だね。
「…てめぇ」
「これでも効かないか…タクト。戦えるか?」
「正直言って、かなりきついけど、どうやらその心配もないらしい」
俺の前にリリーたちが現れる。
「シルフィの指示で来たからね! タクト!」
「いつも無茶ばかりしている夫を助けに行って上げてくださいって言われてましたよ。タクトさん」
「ははは…返す言葉がないね」
俺たちが和んでいるとインドラジットが襲い掛かって来る。ファリーダが受けて立つと押されていた俺たちと違って、見事に耐えた。
「てめぇ…」
「勝利の加護を持っているそうね? でも、真の魔神は加護を殺すわ。それに」
リリー、イオン、恋火が同時に襲い掛かるとインドラジットは衝撃放射でリリーたちを吹き飛ばすがリアン、ブランのトリアンナとブリューナクの突撃を受けて、地面に墜落する。
「てめぇら! ずるいぞ! そんなに仲間を連れやがって!」
「無敵の奴に言われたくないな」
「全くだ。それに仲間の多さならお前たちのほうが多いだろうに」
ラーマの言葉にリリーたちは頷くがこの戦闘に参加出来るレベルにラークシャサたちが到達していないんだよな。だから実質多勢に無勢状態にはなっている。
怒りの顔でインドラジットは俺たちに襲い掛かろうとしたが先に森から現れた虎徹の奇襲を受ける。虎徹の初撃を防いだのは凄いだが手数では虎徹が上だ。虎徹の剣術に対応出来ず、連続で斬られたところでインドラジットは引く。
無敵でダメージはないが実質的には完全敗北だ。そして虎徹は完全に勝利したようにインドラジットに刀を向ける。
「それで勝った気になるな! 群れるしか脳がない弱者が! 逆鱗! 狂戦士化!」
怒れるインドラジットを見て、俺は冷静に状況を見る。確かに無敵状態なら逆鱗や狂戦士化の弱点である防御を気にする必要はないからいい事しかないだろうな。
ここからはラーマとリリーたちと一緒怒れるインドラジットと対戦する。俺たちはもう連携して足止めをするしかない。
ここで助かったのはミライの存在だ。しっかり回復してくれて、俺たちが安心して戦闘することが出来た。そのミライが狙われるがセチアと和狐、ユウェルが守りにつき、更にダーレーとルーナと伊雪、ミール、クリュス、リースが参戦してミライを守る。
「次々、次々増えんじゃねーよ! っ!?」
ここでインドラジットの無敵のオーラが一瞬消える。どうやらみんなが上手くやってくれだ。
「くそ! 雷化!」
インドラジットが祭壇に急行する。
「追撃するぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
俺たちはインドラジットの後を追うのだった。




