#1299 イザナギの願いと生まれ変わる十拳剣
俺がやって来たのは黄泉の国の入り口。ここでスキアーを召喚して、暗転を使って貰う。これでここは夜だ。月読に言われたルールに抵触していない。それじゃあ、八雷神の屋敷に転移しよう。
俺が転移すると背後から首に剣を突きつけられる。もちろん剣を持っているのは月読だ。バレるの早すぎ。俺は両手を上げて、無抵抗の意志を見せる。
「…流石にこれはおいたがすぎる」
「いや、でも外は夜だよね? ルールは守っていると思うんだけど?」
「…確かにそう。でも、本来の時間は午前。暗転の効果が切れれば昼になる」
「夜に黄泉の国に入った状態で外が明るくなるならそれはルールに抵触していないんじゃない? 確か君の国に入れるのは夜だけって話だったよね?」
月読は苦虫を嚙み潰したような顔で月読は剣を引く。
「…そういう人の揚げ足を取る所とか強引に話の筋を通すとかスサノオに本当にそっくり。…むかつく」
完全に悪口を言われているけど、俺が悪い事をしている自覚はあるので、甘んじて受けよう。
「俺はイザナミに会いに行ってもいいのかな?」
「…勝手にすれば? …お母様と黄泉醜女にやられればいいのに」
最後にぼそりと言うと月読は消えた。かなり闇落ちしている女神様だな。とにかく許可を貰えたので、クエストを勧めよう。選んだメンバーは虎徹、コノハ、アラネア、伊雪、ルミだ。
俺たちは屋敷を出ると下に下る道に行くと川が流れており、洞窟を塞いでいる岩を見つけた。これがイザナギがイザナミたちから逃れる為に置いた大岩か。だとするならこの川がイザナギが禊を行った場所の設定なのかな?だとするならここが天照大神やスサノオたちが生まれた場所で本当の意味で日本の神話が始まった場所となる。
俺たちが大岩に近付くと背後からラーに匹敵する神の気配を現れる。虎徹たちが臨戦態勢となるが俺はみんなを制止する。現れたのは髭があるちょっと疲れた顔をしている日本人。服装は白の衣と帯、はかま姿だった。髪型はヤマトタケルノミコトに似ている。武器は背中にある十拳剣と手に持つ天逆鉾に似ている矛。ここまで揃っているなら識別しなくても分かるが一応しておく。
桜花創造神伊邪那岐?
? ? ?
まぁ、この場面で登場するのもイザナギしかあり合えないだろう。
「スサノオが言っていたイザナミに会いに行く召喚師というのはお前だな?」
「はい」
「そうか…あの大岩より先は桜花の冥界の最終地点。場所の名は底根國という。一切の回復と魔法、飛行が禁じられた我が妻が支配する原初の泥の世界だ。原初の泥は浴びている間、全てのスキルが使用不能となり、強化は消え、常時激痛が走ることになる。それでもお前は行くか?」
「はい」
俺とイザナギが真っ向から見つめ合うとイザナギが言う。
「どうやら行く覚悟は変わらないらしいな。それならば一つ頼みがある。聞いてくれないか?」
「なんでしょうか?」
「お前がイザナミに会えたなら私からの言葉を伝えて欲しい。お前の事を何も考えずに会いに行き、挙句の果てに逃げ出してしまってすまなかったと。伝えてくれたなら褒美にお前たちが持つ十拳剣を強化しよう」
ここでインフォが来る。
『特殊クエスト『伊邪那岐の願い』が発生しました』
特殊クエスト『伊邪那岐の願い』:難易度SSSS
報酬:十拳剣の強化
底根國に行き、伊邪那美に伊邪那岐の伝言を伝えよ。
本来なら自分が会いに行って直接伝えるべき言葉だと思うが会いに行くならとっくに行っているだろう。喧嘩別れした後の仲直りって難しいものだ。男同士でも難しいのにこれが夫婦での喧嘩別れだからね。俺が思っている以上に難しい事なのかもしれない。
「わかりました」
「…すまない。スサノオはいい契約者を見つけたな。この大岩は私が動かそう。すぐ閉じなければこの国が危なくなるのでな。出たい時は声を出してくれ」
「ありがとうございます」
「行くぞ!」
イザナギが大岩を動かしてくれて、俺たちが洞窟の中に入ると松明の準備をした。そして出口が閉じられる。どうやら暫く下っていくようだ。
「コノハ、アラネア先行して見に行ってくれ」
「ホー!」
「お任せください。空虚」
コノハとアラネアは姿を消して、偵察に向かってくれた。
「シンクロビジョン。それじゃあ、冥界の底に行こうか」
俺たちが進んでいると先にコノハとアラネアが敵を確認した。洞窟の階段を大量の逆鱗状態の黄泉醜女がアスリート走りで駆け上がっていた。確かにこの光景を一人で見たら、逃げ出したくなるな。
『アラネアは粘着糸の罠設置。コノハは先制攻撃を仕掛けてくれていいぞ』
「ホー!」
アラネアが使役で粘着蜘蛛を呼び出した蜘蛛たちと主に粘着糸の罠を展開している間、コノハは影分身を使い上から仕掛けた。
「「「「ホー!」」」」
「「「「アァ―!」」」」
黄泉醜女たちがコノハの影分身の一斉の日光を受けると反撃で口から泥を吐き出した。これが付いた影分身は赤雷が発生すると分身が消える。イザナギが言っていた原初の泥をここにいる黄泉醜女は吐き出せるのか。厄介だな。
「ホ!? ホ~!?」
更にコノハから衝撃的な映像が映る。黄泉醜女は洞窟の壁に手を掛けるとアラネアのように登って来た。そして姿が消えているコノハに跳びかかって来た。これを間一髪で回避したコノハはその場から逃げ出す。アラネアはしっかりコノハが抜けれる穴を用意しているのは流石の配慮だ。
そして黄泉醜女たちがアラネアの粘着糸に引っ掛かる。そしてアラネアとコノハは攻撃を加えるとここで黄泉醜女の口から腐蝕ブレスが放たれ、粘着糸が腐って崩れ落ちる。
「…逃げましょうか?」
「ホー!」
二人が逃げ出すとそれを黄泉醜女は猛スピードで追いかけて来る。これに対してアラネアは地雷蜘蛛を出して、黄泉醜女たちが爆発するが爆発で止まるような彼女たちでは無かった。吹き飛んだ足を復活させて、襲い掛かって来る。
「来るぞ」
「ガウ!」
虎徹が俺を見て来る。十拳剣の持つ主として俺がやると言っている気がする。
「分かった。前衛はお前に任せるよ。俺たちは虎徹が捌けない奴を倒す。ルミはアラネアとコノハと一緒に上を頼む」
「…了解」
俺は旭光近衛を抜くと衝撃的な映像が映る。結構高さと横幅もある洞窟だったんだけど、洞窟一面の黄泉醜女がこちらに押し寄せていた。もう別の化け物に見えるぞ。
「烈日!」
「「「「アァ―!? アァ―!!」」」」
アンデッドモンスターなのに烈日耐えるんだな。というか完全に肉壁になっているわ。
「ガァ!」
虎徹が覇撃でぶっ飛ばすとぶっ飛ばされる直前に黄泉醜女たちは一斉に原初の泥を吐いて来た。
「躱せ! 虎徹?」
俺たちが躱す中、虎徹は真っ向から浴びた。
「グゥ!? …ガウ」
虎徹は原初の泥を浴びた状態で前に進んでいき、黄泉醜女を次々斬り捨てる。俺は虎徹の男の覚悟を見た。確かにちまちま下がって撃退していては埒が明かない。原初の泥や黄泉醜女にビビっていては過去のイザナギと同じだ。イザナミにこれから会いに行く俺たちはイザナミに別の姿を見せないといけない。
「目が覚めたよ。虎徹。俺も付き合うよ」
「ガウ!」
「みんなは援護を頼む。全員蹴散らして、一気に原初の泥があるところまで行くぞ!」
俺たちは原初の泥や腐蝕を受けながら強引に下に下っていく。こうなったら、もう生命力を失う前に最下層に辿り着くしかない。
「おらおら! 邪魔だ! どけ!」
「ガオ~ン!」
「なんだかお二人共、変なスイッチが入っちゃいましたね」
「…どろんこで遊んでいる子供みたい」
物騒な刀を持っているし、全身に激痛が走っているけどね。そんな俺たちだが、無事に出口に辿り着いた。そして俺たちの前に原初の泥沼が広がる。
「…凍らせるね? ふぅ~」
ルミが原初の泥を凍らせようとするが原初の泥だけ凍らない。
「…ふぅ~! ふぅ~! ふぅ~!」
「…あぁ~。気持ちは分かったから落ち着こう。ルミ。ありがとな。俺の為に凍らせようとしてくれて」
飛行は禁止されたことで雪だるまさんを土台にするとか色々試そうとしたが、原初の泥に触れた時点で雪だるまさんが汚染されてしまった。
「流石にこれ以上は無理だな…みんなは黄泉醜女を食い止めてくれ。帰りはみんなが頼りだ。頼むぞ」
「ガウ!」
「いいや。虎徹。イザナギから託された言葉を伝えないといけないから俺が行くよ」
俺は泥沼を進んでいくと奧に鳥居とその下にいるイザナギと似た格好の黒髪のロングヘアーの人影が見えた。
「あなたがイザナミ様ですか?」
「そうじゃ…よくもまぁ、人間がここまで来れたな」
「これでも創造神を倒しましたから」
「…なるほどな。それで何用でここに来た?」
「イザナギ様の伝言を伝えに来ました」
俺の言葉を聞いたイザナミは振り返るとその顔は焼きただれていた顔で怒りで目が血走っていた。
桜花創造女神伊邪那美?
? ? ?
イザナミが俺の肩を掴んで怒りをぶつけて来る。
「あいつの言葉など聞きたくもないわ! お前もあいつのように妾の顔を見て、おぞましさを感じていることは分かっておるぞ!」
「そうですね…でも、俺は逃げません。イザナギ様が逃げ出したことを後悔してましたから」
「なんじゃと?」
どうやら怒りが静まり、興味を持ってくれたみたいだ。ここで俺はイザナギからのメッセージを伝える。これで一応はクエストクリアのはず。後はイザナギに報告すればいいのだが、このクエスト、帰るまでの原初の泥でダメージ受け続けるよね?生命力、やばいんですけど。
「伊邪那岐がそんなことを…しかし今更そんなことを伝えられても妾たちは…」
「やり直すことは出来ないのかも知れませんがそれでも喧嘩別れをしたままより、お互いに許し合っていた方がずっといいんじゃないですか?」
「…そうじゃな。伊邪那岐に伝えてくれるか? 会いに来ることは許さぬがお主の事は許すと」
「それだけでいいんですか?」
「よい。あいつが本当に妾のことを今尚愛しているならばそれだけで通じるはずじゃ。さっさと帰るがいい。生命力が持たなくなるぞ」
回復とかダメージを止めてくれたりしてくれないんですね。創造神ならそれぐらいしてくれるじゃないかと希望を持った俺が馬鹿でした。わかりましたよ。ダッシュで帰るしかない。
俺が急いで戻ると召喚石が飛んできた。虎徹のだ。どうやら力尽きたらしい。
「虎徹ー!」
俺は叫びながら戻るとアラネアが待ってくれていた。
「お三方が帰り道を確保しています。行きましょう」
「助かるよ」
俺たちが合流すると伊雪とルミが黄泉醜女相手に無双していた。理由は天氷装甲と魔氷装甲だ。これで泥とか腐蝕を防いでいる。神障壁や気力装甲じゃ、防げなかったんだけどな。神障壁は恐らく原初の泥に隠された能力と見るべきか。原初と名が付くものは神に強いからね。気力装甲は相手が泥で物質だから防げなかったんだと思われる。
更に天逆鉾の破魔と後光、サリエルの鎌がぶっ刺さっている。
「はぁああああ! あなたたちの怨念を消して上げます! 後光!」
飛びついて来た黄泉醜女を伊雪は天逆鉾を上に回転させて、弾くと破魔の後光に照らされた黄泉醜女が消滅する。その隙にまた別の黄泉醜女が伊雪に襲い掛かるが天の披帛が黄泉醜女の腰に巻き付くと浄化の効果を受けて絶叫しながら消滅する。伊雪は本当にアンデッドモンスターに強くなったな。
ルミは凍らせて、サリエルの鎌の即死で敵を倒していた。死神の性質を持っているからアンデッドモンスターには負けられないよね。
「最初から二人に任せておけばよかったな」
「ホー」
コノハに反省しろよ。と言われた気がする。ここで背後から気配を感じて振り返ると黄泉醜女の大群が来ていた。
「ルミ! 後ろの敵をなんとかしてくれ」
「…任せて。雪崩!」
「「「「アァ~!?」」」」
黄泉醜女が雪崩に巻き込まれて、階段の下まで流されてしまった。氷で道を塞ぐとばかり思っていたが確かに下りの階段に使うなら雪崩は最適だろうな。やばい…激痛でちょっといつもの判断が出来なくなっているかもしれない。
「…後ろは任せて」
「頼む。一気に行くぞ! 伊雪!」
「はい!」
俺たちは上から沸いた黄泉醜女を倒して、なんとか大岩の前に来た。生命力がやばい。
「イザナミ様に伝言を伝えました! 岩をどかしてください!」
「本当か! よし! 任せろ!」
「死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!」
「川に飛び込め! あの川に入れば原初の泥を洗い流すことができるはずだ!」
俺は飛び込むと激痛が和らいで消えていく。
「ふぅ…あ。やぺ」
俺は服を見るとボロボロになっていた。和狐に怒られるの…確定したかな?悪ノリしすぎた。とにかく俺はイザナギに改めて結果報告し、イザナミの伝言も伝えた。
「そうか…許してくれたか…伊邪那美。俺もいつかその世界に行く。その時はまた夫婦として共に過ごそうぞ」
こういう展開になるんだね。確かにイザナミが死ぬ以上、イザナギもいつか死ぬ可能性はあるのだろう。その際にやはりイザナミがいる死後の世界にはどうしても行くことになる。そこで再開した時に元の夫婦に戻れたら、良いね。そしてインフォが来た。
『特殊クエスト『伊邪那岐の願い』をクリアしました』
そしてイザナギから報酬について話される。
「感謝するぞ。約束の報酬を与えなければな」
「ちょっとお待ちください。リヴァイブ!」
虎徹を蘇生させて、十拳剣をイザナギに渡すと神剣グラムの時のようにイザナギが十拳剣に手を翳すと十拳剣に神の力が流れて、新たな剣に変化する。
神剣十拳剣:レア度10 片手剣 品質S+
重さ:100 耐久値:2500 攻撃力:4250
効果:逆鱗効果二倍、全属性アップ(究)、神殺し、神気、無我、戦闘高揚、肉体活性、万物切断、魔力切断、時空切断、無限乱刃、星光刃、多連撃、空振、後光、粒子分解、天候支配、時空支配、領域操作、神障壁、神波動、全波動、物質化、次元震、神剣解放、神格解放、耐性無効、奇跡、原初の加護、イザナギの加護
拳十個分の長さを誇る剣。桜花では原初の神剣とされており、この剣から数多くの桜花の神が誕生した伝説が残っている神産みの神剣。
やはりグラム同様にかなり強くなった。これが恐らくイザナギが背中に背負っている武器と同等の武器だろう。俺はイザナギに感謝を伝えて、ホームに帰ると和狐には速攻で防具を取られて、セチアには罰として薬の実験台にされた。
「全く…虎徹さんと大はしゃぎするなんてどうしたんですか? タクト様」
「自分でもよく分からないが虎徹を見たら、一緒に暴れたくなったんだよな」
「はぁ~…まだまだ子供ですね。タクト様」
「「「「子供~! きゃあああ~!」」」」
俺が睨むと便乗したリリーたちが逃げ出した。本当に隙あらば弄って来るんだから困ったものだ。朝のゲームタイムはこれで終わりだな。今日のログアウトはファリーダだ。俺はいつものようにリクエストを聞く。
「そうね…タクトは何もしなくていいわよ。いいえ。動くのを禁止にしようかしら」
「は? 変わったリクエストだな」
「そうでしょうね。はい。ぽーん」
「うお!?」
俺はファリーダに押されて、ベッドに倒れ込む。
「何する…い!?」
「ふふ。リクエスト。動いちゃダメよ。タクト」
ファリーダが俺に馬乗り状態で接近してくる。これは非常にまずい気がします!
「ちょっと待て! 話し合えばわかる!」
「そうね。たっぷり楽しみましょ? タクト」
「あ…あぁ…あぁあああああーーーーー!」
「「「「何事!?」」」」
土曜日の昼間に俺の悲鳴が響き渡り、リリーたちが大混乱するのだった。




