#1288 ミョルニル奪還クエスト
俺は北欧の天界アースガルズにやって来るとオーディンのカラスに雷鎚ミョルニルのクエストを受ける事を伝える。
「受けてくれるか! 感謝するぞい。ところでフレイヤ役は後ろの召喚獣がすることで良いかの?」
俺の後ろにはイクス、リビナ、和狐、スピカ、リースがいた。
「いいえ。俺がこの薬でフレイヤ様に変装します」
「ほぉっほぉっほぉ…結婚相手やエンゲージリングを贈った者にフレイヤ役はさせたくないと言った所か」
「無粋ですわよ? オーディン」
突然女神フレイヤが現れた。この女神、確かに綺麗なんだけど、底知れない怖さを感じるんだよね。そんな女神に俺は変身して、イクスたちをシャドールームで影の中に入れるとクエストをスタートする。
オーディンのカラスが飛び立つとオーディンがやって来て、フレイヤを帰らせる。入れ替わるようにやって来たのはガリガリの老人だった。もしかしてと識別すると予想通りの名前が表示される。
雷神トール?
? ? ?
これは酷い…トールは北欧神話の神の中でも主要な神の一柱で北欧神話の神の敵である巨人をたくさん倒す勇敢な戦神だ。それがこんな老人のはずがない。これがミョルニルを盗まれた影響か。
「儂が雷神トールじゃ…うぉっほん! お主がミョルニルを取り返してくれる人間か?」
「はい」
「そうか…頼むぞい。ごぉっほん! 奴らの城の外まで持ち出してくれたなら後は…はぁ…はぁ…儂がなんとかして見せるわい」
大丈夫か?雷神トール。俺がそう思っていると氷のチャリオットに乗った氷の巨人がやって来る。識別する。
フリームスルスLv50
召喚モンスター 討伐対象 アクティブ
フリームスルスは第三進化だからこんなレベルだろうな。
「スリュム様の指示で女神フレイヤを迎えに来た…そこの女神がそうか?」
「そうじゃ」
「なるほど…確かに絶世の女神よ。では、女神フレイヤよ。早くチャリオットに乗れ」
あなたの目の前にいるのは男です。そんな脳内で言いたい言葉をこらえて、俺は頷くとチャリオットに乗る。
「では、女神フレイヤは確かに頂いて行くぞ」
そういうと俺は首輪と足枷を装備させられて、封印と拘束の状態異常となる。こんな趣味は無いんだけどな。リリーたちがこんな目に会う事を考えると
「待つんじゃ! ミョルニルを返す約束のはず! 返さないならばフレイヤは渡せんぞ!」
「それは俺ではなくスリュム様が決める事だ。は!」
そういうとチャリオットは出発するとユグドラシルを下に下っていく。そして俺たちが知らないユグドラシルの下に入る。雪の冥界ヨトゥンヘイム、山の冥界ニザヴェッリル、暗闇の冥界スヴァルトアールヴァヘイムを通り、目的地である氷の冥界ニヴルヘイムに到達すると山頂に氷の城が立っていた。どうやらあそこがスリュムの住処らしい。
「こっちだ。さっさと降りろ」
「…」
話したら、バレるので無言で頷くとそれが気に入らないフリームスルスに背中を押されて、俺は初めての格好なので、バランスを崩すと倒れるとゲスの声で笑われる。
「…」
『こいつの事はボクに任せて。タクトにボコボコにされる悪夢を見せてあげるさ』
『頼む。他の巨人も頼むな』
『りょーかい。それじゃあ、行ってくれるね。影移動』
リビナのお陰で俺は冷静さを取り戻す。それでもフリームスルスのにやついた顔は男の俺でも引くレベルだった。
その後、俺は城の中に連れていかれると城の中も氷の城で装飾なども全て氷で作られており、非常に美術が苦手な俺でも芸術性を感じる城だった。ただ城が綺麗なのと城に住んでいる人の心の綺麗さは同じにならないことを俺は知ることになる。
無駄に長く広い廊下を通ると巨大な門があり、それが開くと玉座の間だ。廊下にもたくさんいたがフリームスルスの数が半端じゃないな。しかも全員が不快な視線と笑みを浮かべていた。なんかいうか現実のアイドルとかこんな目にあっていないことを俺は切に願うとしよう。相当な精神的負担だぞ。
そんなことを思いながら俺は玉座の階段前まで歩くと玉座に座る王がいた。
霜巨人王スリュムLv70
ボスモンスター 討伐対象 アンアクティブ
ここで初めて口を開いた。
「お主が女神フレイヤか! なんという美しさだ! その胸! その尻! これから毎日お主のことを自由に出来ると思うと辛抱たまらんな!」
運営さん、ここにバン対象のNPCがいますよ。いくら女神フレイヤに向けた言葉だとしても大問題じゃないですからね?まぁ、自由に出来るという表現でセクハラを誤魔化そうとしている印象は受けた。それにしても初対面からセクハラ全開だな。そんな彼に言っておきたい。あなたがセクハラしているのは男です。この事実を突きつけると発狂しそうだな。
「スリュム様。オーディンどもがミョルニルの返還を要求していましたが?」
「そんなことは無視しておけ。どうせ儂がミョルニルを持っている限り、あいつは何も出来はせんのだからな」
「わかりました。女神フレイヤはどういたしますか?」
「牢屋に入れておけ。すぐに結婚式の準備を始めよ! 女神フレイヤは儂が後で迎えに行く」
そう言われると俺は牢屋にぶちこまれる。ここでイクスと和狐、リースが通信を送って来た。
『大丈夫ですか? マスター。脈拍数と心拍数と体温に異常を感知しましたが』
そんなの調べているの?どのスキルで調べているのか謎過ぎる。
『相当気持ち悪かっただけだから大丈夫だよ』
『うちも全身の毛が逆立ちそうでした…』
『召喚獣の皆さんはまともですのに…王が王なら部下も同じようになるということでしょうか?』
『そう言う事かも知れないな』
ここでリースが一番心配している事を聞いて来た。
『ところで先程結婚式の準備とか言っていましたが主様は…その…』
『するわけないだろ? 俺たちの今回の目的はミョルニルだ。流石に結婚式を挙げることになればスリュムはミョルニルを持ち出すしかない。今のスリュムにとっては一番の自慢がミョルニルだからな』
王様の結婚式ではやはり一番の宝物は登場させるものだ。それはティアラだったり、王冠など様々だ。因みにフリーティアではフリーティアドラゴンの封印杖が登場していた。やはりフリーティアにとってはあの杖が一番の宝物という事だろう。
『つまり結婚式で登場するミョルニルを奪って、マスターの結婚式を壊せばいいわけですね?』
『そう言う事だけど、ちょっと声が弾んでいないか? イクス?』
『そんなことはありません。どう壊すかシミュレーションしているだけです』
本当に俺に似すぎて来て困ってます。一応再度作戦の確認をしているとスリュムがやって来る。
「いよいよお楽しみの時間だ」
「わかりました」
「がっはっは! 素直で可愛らしい妻よ!」
こいつ、ボコボコにしたい。俺は演技とかせず普通に言ったのに女の声判定してやがる。俺はすっかり結婚式用に装飾された玉座の間に入る。すると玉座に黄金のハンマーが置かれていた。あれがトール最強の武器雷鎚ミョルニルか。
俺とスリュムがヴァージンロードを歩いていると背後から突然声をかけられた。ここでロキの登場だ。
「やぁ。スリュム」
「ロキ…何の用だ? 今は結婚式の真っ最中だぞ」
「だから参加しに来たじゃないか。僕にはその権利があると思うけど?」
「確かに雷鎚ミョルニルを盗み出すことに協力してくれたことは感謝している…まぁ、いいだろう。客席で儂が女神フレイヤと結婚する瞬間を見てるがいい」
このゲームではロキがミョルニルを盗み出す協力をする話になっているらしい。実際の神話ではロキは盗み出した犯人を見つけて、ミョルニルを取り戻すのに協力する神なんだけどね。ロキとアース神族との関係が敵対関係になっているからこそこの設定にしているんだと思う。
「んん~…じゃあ、そうさせて貰おうかな?」
おい。お前。ここで暴露する流れだと聞いたぞ。今、正体が俺だと理解した上で結婚式を見る方に考え方を変えたよな?そっちが暴露しないならこっちから行かせて貰う。
『えーっと…主様?』
『作戦開始』
『了解です! 行きますよ! スピカさん!』
俺の影からスピカの騎乗したリースがロキに突進を仕掛けた。ロキはスピカの角に貫かれて、城の壁に激突する。
「やれやれ…折角黙っていてあげたのに酷い事するなぁ」
リースの背後にもう一人のロキが現れた。
「っ! は!」
「おっと…オーディンの剣か…危ない危ない」
「ヒヒーン!」
「魔素弾」
スピカが壁を蹴って退避する。するとスピカが貫いたロキが手から魔素の銃弾が放たれた。分身じゃないな。ロキの神技か。
「いい反応だね」
「どういうことだ! ロキ!」
「星震!」
「ぐぼぉ!?」
俺バージョンフレイヤの拳がスリュムに横腹にめり込むとぶっ飛ぶ。そして俺は玉座のミョルニルに手を伸ばす。
「全強奪! 残念でした。これはあげれないな」
わざわざ目の前で吸い込む辺り性格の悪さが出ているな。しかしこれは情報通りだ。
「いいや。悪いが奪わせて貰う。全強奪!」
マモングリモワールを取り出した俺は全強奪でミョルニルを俺の手元に戻した。
「強欲の魔神の力か…人間から英雄視されている人間が使う物じゃないな」
「俺は使える物は全部使う主義なんだよ。周りの声なんて知らないね。幻滅するなら寧ろして欲しいね」
「君は本当に面白い人間だね。本気でそう思っているから凄いと思うよ。契約出来なかったのが残念だ。さて、僕はお暇させて貰おうかな…僕は戦闘が嫌いだからね」
「待て! ロキ! 説明しろ!」
ロキが面倒くさそうに言う。
「まだ理解出来ないのかい? このフレイヤは偽物だよ。正体は人間でしかも男さ」
「な…何…?」
あーあー。事実付きつけちゃったよ…周りのフリームスルスまで絶句しているのは面白いな。俺がそう思っているとロキは指を鳴らすとキルケーの変身薬の効果が消される。アイテム効果を消す力もあるのか。本当にトリックスターって感じだな。
ここで複数のフリームスルスが笑いを我慢しきれない状態になるとスリュムの氷の顔が赤く染まる。
「貴様! 人間の分際で儂を誑かしたのか!」
「人の物を盗むからそういう目に合うんだよ。一応誤解がない様に言っておくが俺たちの狙いはミョルニルだ。間違ってもお前との結婚が目当てとか考えてくれるなよ。元々気色悪いのに更に気色悪くなるから」
「なんだと! ロキ! 手を貸せ! お前にとってもミョルニルとトールは邪魔な存在だろ!」
「そこは事実だね。でも、勝てない勝負に手を貸すほど馬鹿じゃない。フェンリルを呼んでも彼らを強くするだけだし、ミョルニルを条件にフレイヤを嫁にするなんて馬鹿な考えをした時点でお前は詰んでいたんだよ。じゃあね」
そう言うとロキは消えた。嫌がらせだけしてすぐに帰る。実にロキらしいな。
「く…儂を舐めるなよ! 人間! 儂の屋敷に入って無事に出れると思うな! 侵入者だ! こいつらを排除しろ!」
スリュムがそういうと扉が開く。ここで本来なら増援がたくさん来るのだが、増援が現れない。代わりに現れたのはリビナだ。
「誰だ!?」
「お前の仲間は全員悪夢の中でうなされているよ。というか君たち警戒心無さすぎでしょ」
巨人は基本的に探知能力とか無く、状態異常にとことん弱い。リビナに潜入を許した時点でここの城の無力化はほぼ確定していた。
「それでどうする? タクト」
「ん~…やっちゃうか」
「その言葉を待っていました。マスター。敵の殲滅を開始します」
「獣化!」
イクスと和狐が影から飛び出すと和狐はいきなり獣化して、スリュムを爪でぶっ飛ばすと九つの尻尾で周囲のフリームスルスを薙ぎ払った。
「おのれ! 氷戦斧!」
「エネルギーバスターキャノン。撃ちます」
「ぬぅううううう! ぐわぁ!」
エネルギーバスターキャノンを受け止めようとしたがエネルギーバスターキャノンの威力が高すぎてスリュムの氷戦斧が砕かれぶっ飛ばす。
「「「「スリュム様!」」」」
「魔王魔法。パフューム・ビウィチ!」
フリームスルスたちが寝るとリビナの魅了吸収で寝ながら死ぬことになった。
「儂は…死なんぞ!」
「マスター…」
「情報通り城の中では倒せないか…それじゃあ、外に出るか。和狐」
『はいな!』
和狐は嬉しそうに俺を乗せるとイクスとリビナも乗り、皆で外を目指す。
「な!? 逃がさん!」
今の戦闘で実力差も把握できないのか…なんかロキに同情するな。和狐が太極ブレスで城の扉を消し飛ばして、外に出る。これでクエストクリアだ。しかしまだイベントは続く。
「絶対に逃がさんぞ! お前たち! そのハンマーは儂の物だ」
「いいや。それは儂の物だ」
俺たちの前に特大の雷が落ちると俺の隣によぼよぼのトールが現れた。
「感謝するぞ。人間とその召喚獣たちよ。後は儂に任せよ」
トールは俺からミョルニルを受け取ると身体とミョルニルから稲妻が発生し、膨れ上がる筋肉と共に巨大化し、本来の姿になる。
「トール!?」
「よくも儂のミョルニルを奪ってくれたな…覚悟は出来ているな? ミョルニル! 神威解放!」
黄金のミョルニルが稲妻と共に真っ赤に染まる。
「く…覇撃!」
「神技! オスカ・イルスカ!」
トールがミョルニルを地面に叩きつけると直線上に無数の落雷が落ちて、覇撃と激突するとそのまま押してスリュムに落雷が直撃し、麻痺で身動きが取れない状態で稲妻に焼かれ続ける。そしてトールがジャンプするとミョルニルを巨大化させる。
「ぬん!」
スリュムはミョルニルに潰されて、これでイベント終了だ。俺たちはトールが呼んだチャリオットに乗って、アースガルズに戻るとイベントの報酬を受け取る訳だが、みんなにメギンギョルズが欲しいか聞くと全員拒否した。
理由はトールがメギンギョルズを装備している姿を見てしまったからである。そして俺がアリナとかに必死に説得していると言い返される。
「そんなに欲しいならお兄様が装備すればいいの」
「確かにマスターも雷属性の使い手ですね」
「いや、俺は召喚師だからな」
「「「「今更それを言うの?」」」」
というわけでヤールングレイプルを交換して、リリーにあげる。これもトールが装備しているんだけどな。籠手は良くて帯が嫌なのは女の子だからなのかそれともユウェルが使っているのを見ているから謎だ。
これでホームに帰って来た俺はセフォネを自室に呼ぶと予想外のリクエストが来た。
「後ろから抱きしめて寝るだけでいいのか?」
「うむ」
俺が言われた通りに後ろからセフォネを抱きしめるとセフォネが言う。
「これが一番落ち着くのじゃ…まるでお父様やお母様と一緒に寝ているようで…は!? 今のは違う! あう」
「いいんだよ。それは恥ずかしい事じゃない。寧ろ俺はセフォネにそんな風に思われて良かったと思うよ」
セフォネも俺と一緒で両親が突然いなくなる苦しさを知る者だ。それを俺が癒せるならこんなに嬉しい事はない。
「むぅ…夫婦関係としては微妙な所じゃが…今日の所はこれでよいか…お休みなのじゃ。タクト」
「お休み」
こうして俺はログアウトした。




