#1276 地獄魔神アスタロト討伐戦、中編
外にいる俺たちからは城を破壊し、姿を変えながら巨大化する魔神の姿をはっきり捉えていた。
地獄魔神女帝アシュトレト?
? ? ?
その姿は全体的にはスリムなのだが、赤褐色の竜鱗に覆われており、女の魔神であることから胸もある。悪魔の翼は六枚あり、翼角の部分は黒で翼部分は赤褐色の悪魔らしい翼を持っていた。尻尾は通常時と同じくドラゴンの尻尾だ。
ここでみんなが壊れた城から外に出て来る。安心しているとディアボロス・アシュトレトが俺のほうを見ると翼を広げて来た。
「魔神技! ディアボロスフレア!」
全ての翼から赤褐色の破滅の波動が放たれる。
「竜化!」
これに対してリリーが竜化して受け止めた。
『タクトには手出しさせないよ』
そして外で待機していた召喚師たちの一斉攻撃が放たれるがアシュトレトの翼の羽ばたきで吹き飛ばされる。そんな中、シルフィのドラゴンたちが中心となり、アシュトレトに襲い掛かる。
「さぁ、来なさい。私の忠実な僕」
地面から巨大なドラゴンの尻尾が現れ、ドラゴンたちが吹っ飛ばされる。そして俺たちがよく知るドラゴンが地面から現れた。
アスタロトドラゴン?
? ? ?
体感だがどちらも無人島の時より大きいな。
「さぁ、思う存分戦いましょう!」
この時の俺は何故俺に向かって来るのか分かっていません。タゲられるのはいつもの事だと思っています。アシュトレトとアスタロトドラゴンが一緒に向かって来たがこれは俺たちにとっては好都合だ。
竜化したリリーがアシュトレトを迎え撃つ。
『ドラゴンクロー!』
『デモンクラッシャー!』
二つの技の激突の衝撃波で町が壊れる。そしてリリーはアシュトレトに競り負けるとリリーは地面を蹴り、空に上がる。これをアシュトレトは追撃に出てくれた。これで俺たちのこの戦闘での目的は果たせそうだ。
「竜化!」
イオンが竜化してアスタロトドラゴンに挑む。
『ドラゴンダイブ!』
イオンの突撃をアスタロトドラゴンは受け止めようとするが流石に押されて、アスタロトの町の外周の城壁まで押し込めた。しかしイオンはアスタロトドラゴンの手に捕まってしまうがこれを天氷装甲でガードし、ゼロ距離でお互いのドラゴンブレスが激突する。
それを見ていたアシュトレトにリリーのドラゴンクローと王撃の強烈な一撃が炸裂し、アシュトレトは墜落する。
『これはあの時やられたお返しだよ! あぁ~。すっきりした』
そういうとリリーは吹っ飛んだイオンと合流し、アスタロトドラゴンと相対する。俺の根に持つ性格はリリーたちにも継承されていることが作戦を決める時に判明して、リリーからどうしても一発攻撃させて欲しいと頼まれていたのだ。
ここでドラゴニュートの部隊とシルフィのドラゴンたちが合流する訳だが、みんなが怒っていた。アスタロトドラゴンはアスタロトのドラゴンだから普通のドラゴンからすると裏切り者か何かに該当しているみたいだな。
そしてシルフィのゴルゴーンが俺たちとアシュトレトの間に封鎖スキルを使い、満月さんたちがアシュトレトとアスタロトドラゴンの間に封鎖スキルを使用する。これで分断完了だ。これを見たアシュトレトは怒る。
「あくまで私と戦うつもりはないわけね…いいわ! あなたの遊び相手は用意してあげるわよ! 悪魔召喚!」
俺たち側に召喚の魔方陣が現れる。封鎖スキルも完璧なスキルじゃないのね。現れのはこちら。
ゲヘナエヴィルクイーンLv80
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
以前月輝夜がゴッドオーガになった後に戦ったスネードロニンゲンにそっくりな敵が現れた。スネードロニンゲンは雪の女王だったけど、こちらはどうやら木の女王みたいだな。これを見たセチアが俺に言う。
「タクト様。ここは夕凪さんと私に任せて下さい」
「シャー!」
「グォー!」
夕凪もやる気らしい。ずっと我慢させたからね。みんなもこちらには手出し出来ないし、誰かが相手しないといけないなら俺たちかシルフィがするしかない。そう思っているとダークエルフたちが夕凪のところに転移して来た。
「念のために転移の指輪をここに置かせて貰っていた。お前たちはよく狙われると聞いていたからな。あの魔女の相手には私たちも参加しよう」
俺はセチアを見ると視線を逸らした。わざと俺に報告しなかったな。いや、ダークエルフたちに協力したと思うべきか。怒らないでおいてあげよう。
「それじゃあ、俺は引かせて貰うな」
俺はシルフィのタラスクの上に移動すると夕凪が身体を引っ込めて、回転しながらゲヘナエヴィルクイーンに激突する。明らかに魔法使いタイプの敵にこれは止められないな。外周の外壁に叩きつけれたゲヘナエヴィルクイーンに夕凪が身体を引っ込めた瞬間に跳び上がったセチアとダークエルフたちが宝石の鏃の矢を放つとゲヘナエヴィルクイーンに大量に突き刺さる。
「「「「宝石解放」」」」
そして大爆発した。まだ攻撃は終わっていない。ゲヘナエヴィルクイーンを壁に激突された後も回転し続けている夕凪がUターンし、再びゲヘナエヴィルクイーンに激突を狙うが地面に潜られた。
その瞬間、夕凪は身体を出して、尻尾の蛇が地面に潜るとゲヘナエヴィルクイーンに噛み付いて取られると地面の外に引きずり出した。
「アァアア~!」
夕凪に茨の蔓が大量に襲い掛かるが夕凪も樹海操作で木を生やし、茨の蔓をガードする。そして夕凪の蛇はゲヘナエヴィルクイーンを地面に叩きつける。
「「「「サウザンドレイン!」」」」
ゲヘナエヴィルクイーンに宝石の鏃の矢の雨が降り注ぐ。容赦ないな。
「「「「宝石解放!」」」」
「グォ―!」
「シャー!」
最後は宝石解放と夕凪の亀の口から特大の神ブレスと流星群で倒された。もっと色々な能力を持っていて、強いだろうに…初手の夕凪の攻撃とセチアたちが容赦なさ過ぎた。相手が杖を持っていたから魔法戦を敢えて挑まず、魔法使いが一番苦手とする物理遠距離攻撃を選んだ時点で勝負が付いていたな。
楽勝の勝利となったセチアたちと違っているのはアシュトレトと戦いているプレイヤーたちとアスタロトドラゴンと戦っているリリーたちだった。
まぁ、この二人は簡単には倒せはしないだろう。アシュトレトは巨大化したことで一発の攻撃が上位プレイヤーでも即死級の威力になっており、更に広範囲でアシュトレトにはスリムな体故に速さもある。それでもプレイヤーたちは切り札を投入して必死に食らいついていた。
どれだけ速くてもあの巨体で全ての攻撃を回避するのは不可能だ。だからこそダメージはでているのだが、威力が桁違いの火山雷や黒雷に加えて、黒星や核撃を多用して来た。近付くと熱風と死風、電弧放電が使用されるので、基本的にはやはり大技で攻撃を当てるのがメインとなっている。
俺はそんなアシュトレトの戦闘に違和感を感じた。滅茶苦茶強いし、次々プレイヤーがやられていって、ルインさんたちが涙目状態なのだが、力でごり押し過ぎている気がしたのだ。これならまだレビィアタンのほうが強く感じる。レビィアタンのように姿の変化を気にしている時だった。アシュトレトの生命力が半分になったところで俺の背後に危険が知らせられる。
「シルフィ!」
俺はシルフィを突き飛ばすとタラスクの結界を破壊して、俺は棍棒の一撃で吹っ飛ばされる。その乱入者を俺たちは知っていた。
「バアル」
「ボクの妻を虐められて、黙っているはずがないだろう? 人間ども」
そう言えばこいつも一応は生きている設定だったな。わざわざアシュトレトというバアルの妻の名前を使った時点で参戦を疑うべきだった。
「お前たちはボクを怒らせた。今日は本気の神の力を見せてあげるよ! 魔軍! 神軍!」
魔王バエルの四形態が四方に召喚され、空からはバアル戦で戦った天使と堕天使の軍団が参戦する。
「タクト!? 大丈夫ですか!?」
「神であるボクを無視するなよ…女。む!」
俺はバアルに蹴りをお見舞いするが止められる。それでも距離を取らせるには十分だった。
「自分で言っておいて、人の妻を虐めるなよ」
「随分強くなったね。あの一撃でも死なず、ボクを引かせるなんてさ。でも、いいのかな? あの時の二人とは離れているみたいだけど?」
「リリーたちにはリリーたちの目的がある。その望みを叶えてこその召喚師さ。それにあの時よりも俺の味方は多いぜ? 勝てると思っているのか?」
「もちろん。一応お父様たちから君たちのことは聞いたからね。今日は神々の王として戦ってあげるよ」
そういうとバアルはあの時よりもずっと強い神気を発生させる。それを見た俺は神剣エスカトンリープリングと神剣天羽々斬を構えて、バアルと激突すると空で大嵐と雷轟がぶつかり合う。召喚された天使と堕天使が巻き込まれる形となってから俺たちのアスタロトの領地での空中戦闘が発生した。
その間にサバ缶さんたちの司令部は部隊の再配置を行う。いくらずっと前のイベントとはいえ魔王バエルの四形態を放置するのは得策ではない。俺とバアルの戦闘を見ればバアルが強くなっていることもサバ缶さんたちにはわかり、当然魔王バエルの四形態も強くなっているだろう。
『召喚師の皆さんと空中戦力の皆さんは魔王バエルの四形態討伐に当たって下さい』
サバ缶さんの指示にみんながすぐに答える。
『了解! 猫が相手なら私たちの出番! いくよ! みんな!』
『蜘蛛の相手は俺たちがする! 火属性に自身がある奴と糸を切断できる奴は参戦してくれ!』
『蛙の相手なら私だけで十分! 象が蛙に負けるはずがない!』
『じゃあ、残りで三体合体の奴だな』
みんなが別れる訳だが、そのためには封鎖を解除する必要があった。メルたちはアスタロトを一斉攻撃で足止めしている隙にみんなが外に出て、戦闘を開始して再度封鎖スキルを使った瞬間だった。アスタロトドラゴンが飛び込んで来て封鎖スキルの遮断を巨体で遮った。
『この!』
『あなたの相手はリリーたち!』
ドラゴンたちが一斉にアスタロトドラゴンに噛み付いて、燃えながらアスタロトドラゴンをなんとかどかす。そしてリリーはシルフィのドラゴンたちをシルフィの元に行かせた。これを見たアスタロトドラゴンはシルフィのドラゴンたちに特大のドラゴンブレスを放とうとイオンが遮る。
『水鏡!』
そしてドラゴンブレスが反射されて、アスタロトドラゴンに直撃した。
『さっすがイオンちゃん!』
『いいから畳みかけますよ! タクトさんに我儘を聞いて貰ったんですからここでこいつを倒せなかったら、みんなに何を言われるか分かりません』
リリーの脳内で二人で正座してみんなからぼろくそに迫られる映像が過った。
『絶対に倒さないと! 姉としての威厳が全然なくなっちゃうよ! イオンちゃん!』
『ですから本気で戦ってください! ほら! 畳みかけますよ!』
『うん!』
リリーたちの全力戦闘でなおも押せるアスタロトドラゴンもかなり強い。アスタロトドラゴンは火属性で大噴火や火山弾などを多用して来て、リリーたちとヴァインたち闇属性のドラゴンたちを苦しめていた。
逆にアスタロトドラゴンを抑えているのは水属性であるイオンと後輩である水のドラゴニュートたちと俺が進化素材を上げたことで参戦しているタンニーンだ。彼らがいないとかなり苦戦を強いられていただろう。逆に言うと狙われる訳だが、イオンはそれを上手く利用している。
アスタロトドラゴンの攻撃を自慢のスピードと動体視力で攻撃を躱し、アスタロトドラゴンが攻撃を受けて注意を逸らすと水爆をぶつけて攻撃を自分に向けさせる。時間はかかるだろうがこれなら問題なく倒せそうだ。
一方深刻なのはアシュトレトと戦っているプレイヤーたちだ。
「常闇」
全てのプレイヤーの視界が真っ暗になる。
「魔神技! デモンラッシュ!」
暗闇の中、アシュトレトの無数の魔力の拳がプレイヤーたちを襲い、一気にプレイヤーの数が減る。
「くぅ…真昼!」
メルが真昼を発動されると周囲の暗闇が晴れる。真昼は常闇にも効果があったんだな。知らなかった。しかしメルの周囲には倒れて消えていくプレイヤーが沢山いた。
本格的にまずい状況の中、アシュトレトが追い打ちをかけて来た。
「機は熟したわ…魔神域!」
空がワインレッドに染まるとメルたちの目の前に次々悪魔の頭蓋骨をした謎のスケルトンが現れる。それは問題ないのだが、問題は数と装備だ。その謎のスケルトンたちは伝説の装備やオリハルコンの鎧を装備していた。これを見たメルはアシュトレトの魔神域の効果をすぐさま理解する。
「これって…神域!」
「領域支配! ダメよ。そんなことさせるはずがないでしょ? 折角死んでしまったあなたたちと同じスケルトンを召喚してあげたんだから楽しみなさい」
アシュトレトの魔神域の効果は戦闘している間に一度でも死んだ者を対象に同じステータス、同じ装備のスケルトンを召喚するという能力だった。
つまり倒れてから蘇生スキルなどで復活してもこの魔神域の効果対象になってしまうわけだ。故に今回の戦闘で道連れスキルや呪滅コンボが多かったのは全てこの魔神域の効果を最大限まで上げる為に仕込まれた作戦だった。
この魔神域はメルたちだけでなく全員に発動した。俺の周囲には召喚獣とそれに乗ったスケルトンの姿が現れる。最初の突撃やその後の空の戦いでも結構死者が出てしまったせいだ。
そして俺よりも危機的状況なのが移動要塞である。
「多数のエクスカリバーの解放を確認! 砲撃がゴーレム部隊が邪魔で出来ません!」
「ありったけの結界と障壁を展開してください!」
「やるけど、無理だよ! 勝利の加護があるんだぞ!?」
「あぁあああ~!? 来るぅ~!?」
エクスカリバーの必殺技が放たれる瞬間にシルフィのドラゴンたちが帰って来て、敵部隊を吹き飛ばしてくれた。
「「「「た、助かった…」」」」
「は!? ほっとしない! 砲撃支援を続行! ルインさん!」
「言われなくてもずっと蘇生アイテムを使っているわよ! 手が空いている人も手伝って! ありったけの蘇生アイテムを使って、一人でも多くプレイヤーを蘇生させるのよ! 私たちの働き次第で勝敗が決まるわ! 急いで!」
「「「「はい!」」」」
今回のアシュトレト攻略の鍵は今、ルインさんたちが握っていた。本当だったら、もっと上手く切り札が使える予定だったんだけど、アシュトレトの実力と作戦が予想以上にこちらに刺さってしまった。
そして絶望的な状況の中、メルは安心して言う。
「幸か不幸か…あなたとの戦争にタクト君たちをあまり戦闘に参加させない判断は正しかったみたいだね」
実際に俺の召喚獣が参加していたら、何体か死者は確実に出ていたと思う。それはつまり俺の召喚獣がみんなの敵に回ることを意味している。それを意図せず偶然回避できたのはメルたちにとってかなり幸運と思える事だった。メルたちにとって、リリーたちが敵に回るほうがずっと怖いと思っているからだ。
そして上位プレイヤーが起き上がるとその目には闘志に燃えていた。今、自分たちがするべきことは時間稼ぎだ。その為に上位プレイヤーたちはアシュトレトとスケルトンたちと対峙する。
一方、空では俺とバアルの戦闘が継続中だ。時々召喚獣の邪魔が入るが空を飛び回れるので、そこまで脅威に感じていない。というか俺とバアルとの戦闘に首を中々突っ込めない敵が続出している。見てばかりいるくらいなら移動要塞とか攻撃すればいいのにね。どれだけステータスや装備を真似ても所詮スケルトンだ。思考能力が全然ない。それじゃあ、対人戦では勝てませんよ。
ここで俺は剣を構えて、バアルは棍棒を構える。
「「大気震!」」
お互いに大気の震動がぶつかり合い、お互いに吹っ飛ぶと俺の横を通り過ぎる影がいた。
「ドラゴンクロー!」
「ぐ…ゴッドクラッシャー!」
「くぅうう!」
マリッジバーストしたシルフィだ。いつもの六体ドラゴンのマリッジバーストじゃないから本来の力は発揮されていないがそれでもバアルの攻撃を腕をクロスにしてガードした。
「ここからは一緒に戦いますよ! タクト!」
「あぁ!」
「ふん…いいだろう。二人纏めて相手をしてあげるよ!」
俺たちの戦闘が激化する中、いよいよこの戦闘も最終局面を迎えようとしていた。




