#1270 アスタロト領攻略会議
夕飯のグラタンとミートソーススパゲティを食べて、栄養全開でゲームにログインする。俺たちはギルドでお料理の手伝いをしてから作戦会議の時間に場所を提供してくれたパラディンロードに集結する。
そこでアスタロトの都市の構造と敵についての説明を受けた。
「アスタロトの都市構造はほぼいつも通りで城壁が円状にある形です。城壁の周囲は溶岩となっており、通常の進入路は入口と出口になる一か所の跳び橋と空中になると思います」
「規模は違うがサルガタナスイベントで攻略した跳び橋砦とほぼ同じな訳だな」
「そうです。ここで一つ注意点なのですが敵の数が今までの暗黒大陸で戦った拠点制圧戦より段違いに多いです。詳しくは偵察隊から報告をお願いします」
ここで敵の攻撃範囲外の空から偵察したアルさんが報告する。
「敵は編成は悪魔とデーモンが中心で中には見たことが無いデーモンがいましたがあまりの悪魔の量で上手く識別出来ませんでした。グレーターデーモンより巨大で装備がしっかりしているデーモンが目視確認で十六体。それぞれ城壁の方位を守るように配置されていたました。更に別個体が中心の城の四方を守るように配置されています」
「そいつらが門番と見て、大丈夫そうだな…いつもの流れだと何かしらのギミックがあるだろうな」
「ゲームでありがちなのだとそいつらを倒さないと先に勧めない感じっすかね?」
「あり得るわね。ただ相手はこのゲームの魔神としては四本の指に入るアスタロト。もっと色々仕掛けて来ることは間違いないわ。少なくとも地獄と関係があることはもう確定している。当然援軍は出して来ると思うわ」
ルインさんの意見には全員が賛成し、最悪のシナリオだと今まで戦った悪魔たちが全員パワーアップして参加してくることだった。これは俺も普通にあり得ると思ったけど、その場合、レヴィアタンとかまで復活することになるから難易度が崩壊する気がする。
これはみんなも同意見で一定レベル以下の名持ちの悪魔の蘇生はやって来るという結論に至った。後はこの蘇生がアスタロトの加護で敵部隊全てに付与される可能性が指摘された。俺もアスタロトレベルになるとそれぐらいの無茶苦茶はこのゲームの運営ならして来てもおかしくはない。何せもう不死殺しの武器は結構安価で手に入るらしいからね。
その上で今回の作戦と編成を決める。ぶっちゃけ今回は物量戦となる。間違いなく数ではアスタロトのほうが上でアスタロト側は防衛戦だ。悪魔だから兵糧攻めも出来はしない。津波で溶岩を潰し、水攻めする案も出たがアスタロトに通用するとは思えないので、この作戦案は却下された。
なので今回の戦闘はプレイヤーの実力がかなり明確に出る戦いになると思う。まずは城壁の突破をどれだけ早くに出来るかがポイントとなる。そうなるとやはり注目されるのは召喚師だ。ゴーレムや巨人などがいるからね。
作戦はいつものように体が大きい召喚獣が最前線に立ち、その護衛に重装歩兵の部隊が配置する形となった。それで会議が終了する。
「…」
「浮かない顔をしてますね? タクト」
「俺たちのこの陣形は必勝の陣形になっているからさ。暗黒大陸でこの陣形を毎回使っている以上、アスタロトは間違いなくこの陣形の対抗策を用意していると思うんだよな…それを分かっていてもこの陣形を取らざるおえない感じなのがどうにも嫌でね」
「まぁ、何かあれば私がなんとかしますから安心してみていて下さい」
今回の俺の狙いはアスタロトではなく、リリーとイオンがどうしてもアスタロトドラゴンとの再戦を熱望している事からアスタロトドラゴンの相手を担当する。最もこれはリリーとイオンに任せる予定で他の戦闘には基本的には口出ししない方針だ。なので編成は夕凪、セチア、恋火の六人パーティーで挑む。
シルフィはジルニトラ、ウェルシュドラゴン、タラスク、タンニーン、ゴルゴーンの重量級編成で俺がいる後方から空と地上を援護する手筈になっている。つまり俺たちは基本的に今回はみんなの戦闘を後ろから見学するポジションだ。
そして俺たちはアスタロトの領地の攻略の最前線に転移する。そこには黒と赤が悪魔っぽい雰囲気の街並みと城が存在していた。
「空を飛んでいるのは全部悪魔か…」
「物凄い量がいますね…」
「でも自分の城の周囲には展開しないんだな」
城壁の周囲の陸地には守る悪魔は存在してしない。作り的には日本の外堀があるお城のような作りなのだが、余計に護衛がいないのが気になる。
「こちらが攻め込んで来たら、召喚するつもりでしょうか?」
「たぶんね…それじゃあ、俺たちはポジションにつこうか。恋火、頼むぞ」
「はい!」
俺たちはそれぞれ作戦で決めたポジションにつくとエステルイベントで知り合ったヴァインとヴィオレのドラゴニュート姉弟が声を掛けてくれた。
「よぉ…」
「お久しぶりです」
「あぁ~! 二人とも元気だった?」
「お久しぶりです。よく私たちがいる事がわかりましたね」
「そりゃあ、こんな亀がいたら誰でもわかるだろう」
夕凪は圧倒的な存在感を放っているから確かにバレバレだろう。アスタロトとはエステルとクロウ・クルワッハ、ダークエルフたちが敵対関係にあるので、この戦いには彼らと他の国々から騎士団が派遣されている。
アスタロトの討伐に成功したら、大戦果となるから各地の国は積極的に動いた形だ。各国の思惑が交差してしまうのはしょうがない事かも知れないけど、そういう裏事情は出来れば知りたくない。気持ちよく戦えないからね。
ヴァインたちの事はリリーたちに任せて、作戦開始時間まで俺は夕凪の中で錬金スキルを使った銃弾の作製をする。使う素材はミスリルだ。
「ミスリルを形状変化で銃弾の形に変えて、先端に火薬と火のルーンを仕込んだ紙をセット。形状変化で蓋をして、ミールの神水をたっぷり入れて、形状変化で蓋をして、火薬と電管。これでよしっと。後はこれを繰り返す地味な作業だな」
折角なので、ユウェルの分も作ってあげようと作業に集中しているとリリーたちからヴァインたちが自分たちの動きについて、相談を受ける。こんな相談をわざわざ俺に聞いて来るってことはやはりどこもアスタロトの動きを警戒しているんだな。
『俺たちの動きに合わせるよりもアスタロトの軍の動きを見てから動いた方がいいと思うと伝えてくれ』
『わかった!』
『リリーじゃなくて、私が伝えておきますね』
『なんでリリーの役を取るの!? イオンちゃん!』
『リリーが言うとお二人が信用しないからです。セチア、ダークエルフの人たちにもこの事を一応伝えて来てください』
容赦がないイオンの言葉にリリーは唸るだけだった。イオンのほうが説得力があるとリリーも自覚しているみたいだね。そして俺が言うまでもなくダークエルフにもこのことを伝えるように指示するイオンはやはり指揮官向きだな。
そんなことをしていると作戦開始時間となり、俺たちは料理バフを掛ける。俺の夕飯と同じスパゲティだが、リリーと恋火はハンバーグ、イオンは魚肉ソーセージ、セチアは野菜たっぷりのスパゲティとなっている。夕凪には星鯨の肉をあげた。
「ぐるぐるぐるぐる~! あぁ~む! んん~!」
リリーはハンバーグを綺麗に切るとスパゲティをフォークを回転させて、大きな塊にすると大きな口で一気に食べて、幸せそうだ。それを見ているイオンとセチアからは冷たい視線だ。
「はしたないですよ。リリー」
「もっと上品に食べたら、どうですか? タクト様からも何か言って上げて下さい」
「んん~。これが結構微妙な所なんだよな。上品に食べてはいないが気持ちよく食べてくれるから料理人からすると嬉しさもあるんだよ。まぁ、机や服を汚すのだけはやめて欲しいけどな」
「んんん~(この食べ方じゃ無理~)! んぐ!?」
どうやらスパゲティを一気に呑み込んだことで喉につっかえたらしい。
「んん~!? んんん~(イオンちゃん~)! んん(水)! んん(水)!」
「なんですか? リリー? 私のスパゲティはあげませんよ」
「んんんん~(違うよ~)!? んんっんんんん(わかってるよね)!? んんん(早く)! んん(お水)! ん!?」
イオンを必死に叩いていたリリーの手が止まり、顔が青くなっていく。
「イオン、そろそろ限界みたいだから助けてやってくれ」
「しょうがないですね」
イオンがリリーの顔に大量の水を流し込んだ。
「助かった…でもずぶ濡れだよ。イオンちゃん」
「汚れた服が濡れて良かったですね。早く戦闘服に着替えて、汚さないように食べて下さい」
そんなことはあったが料理バフは無事に完了。いよいよアスタロト領地の攻略作戦が開始されるのだった。




