#1259 メデューサの姉妹
俺たちが下に降りると目の前に湖が広がっており、その中心にある隆起した岩場に二柱の怪物になった女神がいた。
ステンノー?
? ? ?
エウリュアレー?
? ? ?
まぁ、この二柱の女神は出て来るよな。ステンノーとエウリュアレーはメデューサの姉で長女がステンノーだ。メデューサがアテナに怪物に変えられた時にステンノーとエウリュアレーはメデューサを庇った結果、女神全員が怪物の姿になったと言われている。
このゲームでもそれは採用されているようで姿は髪の毛がそれぞれ蛇になっていた。ステンノーが白蛇でエウリュアレーが緑色の蛇だ。ただこの二柱の女神はメデューサのように下半身は蛇化していない。ただ肌の一部が蛇の鱗のようになっている。
「何かここに御用かしら? アテナの契約者」
おぉ…敵意を隠す気なしだな。ならこちらも応じよう。
「俺はアテナからこの島にいる魔神を倒すように言われてここに来ました」
「そう…ならわたしくたちの敵ってことね」
二柱の女神が岩場に立ち上がるとそれぞれ弓矢を構える。ステンノーが銀の弓矢でエウリュアレーはピンクの弓矢。ピンク色の弓矢は激しく嫌な予感がするな。
俺たちも臨戦態勢になると早速弓の連射が開始される。最初はガード出来たが、俺たちの様子を見た女神たちはここで念動力と空間歪曲を使って、弓矢の変則攻撃を仕掛けて来た。
ここで何人か矢の餌食になる。まず銀の弓矢が命中したロードガーゴイルはシルフィの命令無しに超覚醒を発動させ、更に逆鱗状態になる。そしてムーンラビットにピンク色の弓矢が命中するとムーンラビットの目がハートマークになる。シルフィが弓矢の正体を言い当てる。
「月の弓矢に魅了の弓矢ですか…リフレッシュ」
「えぇ…そうよ。あたしくたちはオリュンポス山の神たちよりも古い女神。こんな姿にされなければあいつらより強い女神なのよ」
「言っておきますけど、この姿になったことに後悔はしていないわ。それでもオリュンポス山の神、特にアテナだけは絶対に許さないけどね。その契約者であるあなたとそれに味方するあなたもよ。さぁ、月の兎ちゃん。頭をなでなでして欲しかったら、そこの人間の首を切断しなさい」
「きゅ!」
魅了解除されているのに滅茶苦茶いい声で返事をした。
「ムーンラビット!? 私たち、友達ですよね?」
「友達ですって…可哀想に。わたくしはあなたを愛して、この膝で一生なでなでしてあげますよ」
「きゅ~」
「何を悩んでいるんですか!? ムーンラビット!」
完全にシルフィは女性勝負で負けたな。それでも悩んでいるムーンラビットは寧ろ主への忠義心をまだ見せているほうだと俺は思う。ここでエウリュアレーの狙いは俺に向く。
「そこのあなたも望むならあーんなことやこーんなことをしてあげますよ」
「俺の妻たちにやって貰うから結構だ。雷光!」
「星光刃!」
俺がエウリュアレーに斬りかかると弓矢に星光刃を展開させたステンノーに攻撃が止められる。
「妹の誘惑によく勝てますね。そこにいる生娘たちじゃ、欲求不満でしょうに」
「そこの良さが分からないなんて可哀想な女神だな。それに」
俺が力任せに弾くとステンノーはエウリュアレーと一緒に後ろに下がる。
「俺たちの夫婦関係は俺たちが決める。神や女神がどれだけえらいか知らないが指図してくんなよ。邪魔なだけだ」
「言ってくれるわね…ふられたら、自分のせいにせずに神や女神のせいにする人間風情が」
「わたくしたちよりあなたたちのほうがずっと汚れているとどうして気付かないのかしら?」
「俺はふられたら、自分に魅力が無かったと思うし、自分が汚れていると思っているぞ? ただ人間が自己中心的でご都合主義なのは認めてやるよ。だからこそ俺は俺のために武器を持ち、こうしてお前たちと戦うことが出来るんだよ!」
俺が襲い掛かろうとすると弓矢の連射が放たれて、俺は回避に動くと恋火たちが助けに入ってくれた。あっぶな…ピンクの弓矢が当たっていたら、たぶん俺は魅了状態になって、色々言った事が滅茶苦茶になって、物凄い恥をかくところだったぜ。
「一人で戦ったら、ダメですよ。タクトお兄ちゃん」
「惚気て突出しないで欲しいわ。防御が大変でしょ?」
「主様には後でお仕置きですね」
「ごもっとも」
そうは言っているがみんな嬉しそうだ。本当にピンクの弓矢が当たらなくてよかった。ちょっと冷や汗が出てるぞ。俺は後はみんなに任せてスピカに騎乗するとシルフィがやって来る。
「エウリュアレーの相手は私たちにさせてください」
「あたしたちはステンノーでいいですよ。タクトお兄ちゃんを誘惑しようとした罪の重さを分からせてあげます」
「そう簡単にいくかしら?」
「ここはわたしくたちの住処なのを忘れているのではなくて?」
そういうとフィールドにメデューサが沸き、襲い掛かって来る。
「じゃあ、こいつらの相手は俺たちがしようか…コノハ、スピカ」
「ホー!」
「ヒヒーン!」
俺たちがそれぞれ相手を決めて、それぞれの方法で女神たちと戦闘する。
恋火たちはクリュス、シルフィたちは強制的に切り札を発動されてしまったロードガーゴイルが前衛で突撃する。矢を受けても状態異常をすぐに治せば問題なし戦法だ。
「女神域」
エウリュアレーが女神域を発動されるとみんなのために下半身が大人の光でガードされた裸の俺の姿が大量に現れた。俺には今までのリリーたちに加えて、子供の頃のシルフィと今のシルフィが俺の名前を呼んできた。
「「「「えぇ~!?」」」」
『クリュス、女神域』
「え…えぇ…そうね。女神域」
この時、クリュスがなんで躊躇していたのか永遠の謎となる。クリュスの女神域で領域が上書きされたことで領域が変化する。こうなると当然領域合戦となる。
「女神」
「やらせません!」
恋火が距離を詰めて、攻撃したことでステアノ―の女神域を阻止した。しかし俺たちがエウリュアレーの女神域で止まった僅かな時間にステアノ―は女神技を使用していた。
天井に波紋が出現するとフィールド全体に緑色の光の矢が降り注ぐ。流石にこれは恋火も対処に動かないといけない。
「多乱刃! 魔力切断!」
「大地支配」
俺たちが対処していると隆起した地面が俺たちを貫こうと襲い掛かって来た。ここは洞窟。地面に囲まれている場所だ。逃げ場がないなら破壊して逃げ場を作るしかない。
隆起した地面に対処しているとクリュスの海に落下した弓矢から石化の領域が広がっていく。そう言えばアルゴル・ノヴァも世界を石化させていたな。あの必殺技の効果の中には領域スキルの破壊もしくは無効化が隠されていたのか。
「く…!」
クリュスもこうなると女神域の意味がなく、石化から逃れるために空に逃げる。
「シルフィ…」
「どうしたんですか? 夜叉?」
「エウリュアレーたんのために死んでくれ!」
「きゃ!? たんってなんですか! あ!? 何頭に矢を喰らっているんですか!」
どうやら地面と上からの矢に対処しているところを撃ち抜かれたらしい。シルフィはシルフィでカオスな戦いをしているな。その原因が女神二人の連携の上手さだな。流石姉妹なだけはある。ここで再び恋火がステンノーに襲い掛かる。
「やぁああ」
「無駄よ。神魔毒ブレス!」
「きゃぁあああ~!? ぶるぶる! 禊!」
恋火の斬撃が止められるとステンノーの髪の蛇たちから神魔毒ブレスが放たれ、至近距離での複数神魔毒ブレスは流石に避けれずにくらってしまう恋火だが、毒だけはすぐに解除する。しかしそこにまた矢が打たれて、距離が空いていく。
ここでクリュスが強引に突撃するがクリュスの攻撃は華麗に避けられる。
「そんな攻撃、当たらないわよ。バーストアロー!」
「く…」
ステンノーは恐らく神盾イージスの能力を知っているな。クリュスに大技を使う気配がない。この二人は恐らくメデューサとペルセウスの戦闘を知っている設定だと思う。なぜならペルセウスが死んだ設定になっているからだ。
因みに神話ではペルセウスはステンノーとエウリュアレーは不死身だったために見逃している神話となっている。この設定も恐らくあるだろう。ここでコノハが隣にやって来る。
「ホー?」
「俺たちが参加するのはメデューサたちを倒してからにしよう」
俺がそう言っていると今度はリースがステンノーに斬りかかると神剣グラムの斬撃は避けて、リースは蹴り飛ばされて、弓矢の狙撃が来るが、神剣グラムで弾いて、着地を決めると神剣グラムを構える。
「爆風波!」
「く…厄介な生娘ね」
「やぁあああ!」
「あなたもよ! 神拳! 伸縮! はぁあああ!」
「ふぇええええ~!? はぶ!?」
恋火は殴り飛ばされると恋火の足に髪の毛の蛇が絡みつくとそのまま振り回されて、頭から洞窟の壁に激突する。更にここで恋火との距離を自ら詰めて来た。
「神波動!」
クリュスの守りを警戒してのゼロ距離神波動が炸裂するがそこには恋火の姿は無かった。仙郷移動でギリギリ逃げたようだ。仙郷で洞窟の壁から抜け出すことが出来た恋火はステンノーの背後から奇襲をしかけるが、髪の蛇たちが死滅光線を目から放って来て、奇襲は失敗する。
あの髪の蛇たちはかなり仕事しているな。弓使いとしての近距離戦のカバーに視野の広さをステンノーに与えている。ただ見た感じ、怪物よりも女神要素のほうが強い気がするな。
みんなが激闘をしている中、俺たちが先にメデューサを倒してしまった。ここで切り札を切るか。俺はスピカから降りる。
「リース! コノハに頼む」
「はい! 恩恵! 融合をコノハさんに!」
「ホー!」
「やらせないわ! く…!」
クリュスの尻尾と蛇たちがステンノーの攻撃を阻止してくれた。その結果、俺とコノハが融合する。すると俺の背中にコノハの翼が生えて、フクロウの兜が装備され、コノハの槍と盾が周囲に展開される。
「死滅光線! 石棘!」
融合した俺たちはステアノ―に接近する。ここでステアノ―は髪の毛の蛇から死滅光線、周囲に無数の石の棘が放ってきた。それに対してコノハが物凄いアクロバット飛行で回避する。このままだと俺は完全に目が回ってしまう。ここはコノハを信じよう。俺は目を閉じて、視覚情報と体感情報を可能な限りシャットダウンし、ステアノ―の気配を探ることに集中する。
幸い俺とコノハへの敵意と女神としての気配が強いので、見失う事はない。コノハも盾と槍を使い、器用にステンノーとの間合いを徐々に詰める。
「この! 来るんじゃないわよ!」
『ホー!』
「雷光。閃影!」
コノハの捨て身の一撃からの旭光近衛の一撃をステアノ―は弓矢でガードしたが流石に耐えきれず、弓矢が壊れると俺たちよりも早くに至近距離から神波動を使って来た。
「はぁ…はぁ…」
「閃影! あたしを忘れたら、ダメですよ」
物凄い死の気配から解放されたことで完全に油断したステアノ―は恋火に斬られて、恋白の半減の効果を受けてしまう。
「ドラゴンブレス! 神波動!」
クリュスの蛇たちからのドラゴンブレスにクリュス本体の手から放たれた神波動がステアノ―に炸裂する。
「超電磁! いけー!」
「ぐ…は!? が!?」
ステアノ―の胸にレールガンで飛来した旭光近衛が突き刺さる。これで不死身は封じた。
「超連携! 行きますよ! スピカさん!」
「ヒヒーン!」
「くぅ…大地支配!」
二人に隆起した地面が襲い掛かるが超連携で加速したスピカたちは隆起した地面をすり抜け、洞窟の壁に磔状態のステアノ―に超連携が炸裂して、ステアノ―は倒れる。
「お姉様!? よくも妹だけでなくお姉様まで…絶対に許さない! アテナの契約者!」
「スクリームペガサス! 超連携です!」
「きゃ!?」
シルフィが騎乗したスクリームペガサスの超連携の突撃が炸裂する。
「無駄よ…あんたたちじゃ、あたくしたちは倒せない」
「そうでもないですよ」
壁に激突したエウリュアレーの周囲に隆起した岩が出現するとエウリュアレーに封印の状態異常を付与した。ロードガーゴイルの神岩結界だ。
「あたしくたちの力を!? や、やめて」
「あなたのその可愛い子ぶる態度にはもう飽きました…さよならです」
シルフィが離れると魅了から解放された夜叉の魔神波動とティターニアの聖剣解放、ロードガーゴイルの槍が投げつけられたことでエウリュアレーも倒される。
「やりましたね。タクト。大丈夫でしたか?」
「あぁ…コノハの不死のおかげで助かったよ」
「そうでしたか。それにしてもホークマンみたいで格好いいですね。その姿」
「褒められたぞ。コノハ」
『ホー』
コノハは照れているみたいな声を出した。あくまで感覚的な話だけどね。しかしまだ今回の戦闘のインフォとクエスト完了のインフォが来ない。
「ふふ…馬鹿な人間たち…」
「これでわたしくたちをあるべき姿に戻れる。今こそ三姉妹で世界への悪意を示しましょう!」
二人がそういうと二柱の女神が紫色の光となって湖の中に入っていく。すると湖の水が毒に変化し、洞窟の崩壊が始まる。
「脱出だ! シルフィ!」
「みんな、集まって下さい! 行きますよ! テレポーテーション!」
俺たちは洞窟の外に転移するとこの島に眠っている魔神との戦いに挑む事になった。




