#1245 イタカ戦
イタカと戦っていたイオンたちはジェル状の宇宙生物イタクアに大苦戦していた。こいつの守りの攻略法が全然見つからないのだ。何せイタクアは斬撃まで食べてしまっている。優牙とリアンたちが神槍カリュブトライデントを使い、吸引勝負をしたが結果は互角。いや、お互いの吸引で寧ろ他の皆が持ちそうになく、取りやめになった。
しかも優牙が襲い掛かろうとした時に攻撃を途中で止めている。この事からフェンリルの爪でもイタクアに触れることは危険であることが分かる。
かといって遠くから見ていてはイタカの巨大氷山や水爆、イタクアの口から放射熱線が飛んで来る。ここまでの戦いで確信したがクトゥグアとイタカがぶっちぎりに強い。クトゥグアは攻撃特化でイタカは防御特化としてかなりのレベルだ。
残念ながらロイゴルは強いけど、スピードでみんなを圧倒するほどの強さは見せなかった。寧ろその場にとどまっていたから超加速の効果をあまり得られず、逃げ回っていたみんなにスピードでの有利性が働かない結果となった。ロイゴルの数押し戦術も皆を十分苦しめたから単純比較は出来ないけどね。
「どうしますか? イオンお姉様」
「うーん…ぷよ助さんの上位モンスターのような敵ですからね…どの属性も効いている感じはしませんし、どこから攻撃しても防御される。本当にどうしましょうか」
まずイタカとまともな戦闘をするためにはイタクアを何とかしないと何も始まらない。ここでシルフィが叢雲の次元封鎖の案を出した。確かにこれならイタカとイタクアを取り敢えず引き離すことは出来そうだ。
早速やってみるが次元封鎖を悉く躱される。むきなった叢雲が次元歪曲や次元圧縮で攻撃するがその全てが完璧に回避された。そして叢雲の目の前にイタカとイタクアが現れると叢雲を呑み込もうとする。
「やらせません! 津波!」
拡大したイタクアに津波がぶつかり合うことで時間稼ぎが出き、叢雲は難を逃れる。
「うむ…とっさの判断。見事ですね」
ここでイタクアがイタカに何か話しかける。
「そうですか…いいですよ。イタクア」
イタクアはここで分裂するとジェル状の身体が人型になる。目玉は血走っているし、口は鮫のようになっているけどね。そしてこのイタクアがどんどん増えていく。
「イオンお姉様…これって…」
「非常に不味いです…来ますよ! 皆さん!」
ジェル人間のイタクアたちが一斉にイオンたちに襲い掛かる。身体に触れたら、即終わりを利用して腕を伸ばして攻撃して来た。身体そのものが必殺の武器というのは厄介なものだ。みんなはとにかく逃げ回るしかない。
幸いなことにスピードはそこまで速くない。ただ倒す手段もない。一応イタカに攻撃してみるも本体のイタクアが球体となり、イタカを包むことで攻撃をガードする。完全に人型が攻撃、ジェルの本体はイタカのガードという役割にシフトしたな。そして最悪のことはどんどんジェル人間のイタクアが増え続けていることだ。
このままじゃあ、動きが遅い艦隊や重戦士たちが全滅する。ここでシルフィと背後で敵艦隊の相手をしていたセチアたちがイオンたちの戦いに加わる。
「どんな属性も物理攻撃も効果がないのなら、やはり次元封鎖を使うしかないと思います」
「でも、一体だけなんですよね?」
「はい…しかし分裂したということは本体に戻すことも可能なんです。ぷよ助さんもそうではないですか?」
「そういえば戦闘が終わった後に分裂したスライムとくっついていますね」
分裂したぷよ助が野生化したら、色々な意味でやばい。俺は飼い主としての責任問題になるだろうな。
「その理論が正しいなら本体とくっつけることが出来れば分裂体は本体に吸収されるということになりますね」
「問題はどうやってするかです…誘導してくっついてくれる相手とは思えません」
ジェル人間のイタクアの動きはそれぞれ別個体のように動いており、規則性がない。これをどうにかくっつける方法が思いつかないでいるとセフォネが食べられそうになる。
「ぬわぁあああ!? こいつに喰われて死ぬだけは絶対に嫌じゃあああー! 斥力操作! どっか行くのじゃ!」
ジェル人間のイタクアが吹っ飛ばされる。これを見たみんなは同じことを考えた。斥力が効くと言う事は引力も当然効くだろう。これならくっつけることが出来る。しかしイタカは甘くなかった。
「バレましたか…ならば戦術を変えましょう」
ジェル人間のイタクアが球体になる。そして本体のイタクアから破壊光線が放たれると球体のイタクアに命中した瞬間、破壊光線は二つに分かれるとまた別のイタクアに当たり、次々破壊光線が増えていく。
その結果、斥力と引力でイタクアを合体させよう接近したみんなが予想だにしない方向から破壊光線に撃ち抜かれて、爆発する。
「「「「く…あ」」」」
イタカが連続で破壊光線を放ちまくり、次々みんなに命中する。しかしこの程度なら今のイオンたちなら躱せそうな物だが、躱した方向に必ず破壊光線が飛んできている状況だ。
「ここで戦術を変えて来ますか…」
「あの魔神…間違いないです。未来予知の能力がずば抜けています。恐らくここにいる誰よりも未来を知っているかと」
わざわざ自分から未来予知の能力を暴露するほどだ。かなりのレベルだとは思ったがどうやら俺たちが知っている未来予知系のスキルとはレベルが違うらしい。リアンの説明通りとするとみんなが躱す未来を予知して、躱したほうに破壊光線を飛ばしていると考えるべきか。
「そんな出鱈目な…で、でも反射神経で咄嗟に躱した動きまで予知できるものなんですか? リアン」
「普通は無理です。でも、あの人はそれをしています。最低でも一人につき、二つ以上の未来を見ているとしか彼女の全く隙が無い動きの説明がつきません」
リアンの説明の通りならリアンたちが攻撃が当たる未来を見て、攻撃を躱している。イタカはリアンたちが見ている未来に加えて、リアンたちが攻撃を躱した未来を更に見て、攻撃を当てているという話だ。
それを全員分見るとなると俺ならもう何が何だが分からなくなると思う。これはとんでもない敵が来たぞ…沢山見える未来を見て、その全てに判断を下していることが凄い。
「とにかくあの水玉を一つに纏めましょう!」
みんなが引力と斥力で水玉のイタクアをイタカに集めようと動く。その間、イタカは水爆を投げて来るだけだった。この姿にみんなが嫌な予感を感じているが試すしかない。分裂したイタクアが一つに集まるとイタカとイタクアを引力と斥力でお互いに離す。
「今です! 叢雲さん!」
次元封鎖が発動する。
「やられましたか」
「これで残すはあなただけです」
「それはどうでしょうか?」
次元にひび割れするとイタクアが現れる。次元の壁まで食べやがったのか。これは空間捕食の上位スキルだな。なんて敵だよ。
「さて、次はどうしますか? 封印? 時空の彼方に飛ばしますか? どれでも構いませんよ」
未来を見えて余裕な感じだな。これはもう切り札を切るしかない。どれだけ未来が見えても防げない攻撃というのはある。
幸いイタクア自体の速度は遅い。それならこれで終わるはずだ。俺はブランに許可を出すとブランはイタカの戦場に急行する。
「神盾アイギス! 伝説解放!」
「なるほど…確実な方法を選びましたか。流石の分析力と判断能力です。すみません。イタクア。私を守ってくれますか?」
イタクアはイタカを守るように包み込む。
「世界よ! 石化せよ! 伝説技! アルゴル・ノヴァ!」
神盾アイギスから放たれる光を浴びたイタクアが石化する。フェンリルでも石化させた技だ。流石に耐えられなかったみたいだな。ここで石化したイタクアが爆発で吹き飛ぶ。
「イタクアがやられてしまった以上、私も本気を出さないといけませんね…水爆!」
ブランに水爆が投げられ、ブランは防御態勢になる。
「破裂」
そういうとブランがガードする手前で水爆が爆発し、ブランは爆発に巻き込まれてしまった。恐らくは球体を投げつけるスキルを破裂されることで攻撃範囲を拡大するスキルだろうな。ブランの様子を見るとどうやら通常の水爆より威力が弱くなっている。これがこのスキルの弱点と見るべきだろう。攻撃範囲が広がる分、威力が下がる訳だ。
「水爆。水爆。水爆。水爆」
水爆を作っては投げつけるを繰り返す。これを見たみんなは爆発を警戒して逃げ回るが水爆は追尾してくる。そして上手くプレイヤーたちを水爆で挟み込むと爆発される。
「くそ! どうしてこっちに来たんだよ!」
「それはこっちの台詞だ! お前たちは向こうにいけよ!」
「水爆」
「「あ」」
喧嘩し出したプレイヤーの隙をイタカが逃すはずはなかった。
「く…はぁあああ!」
イオンが斬りかかるとイタカはイオンの攻撃をあっさり躱して、氷爆でイオンを吹っ飛ばす。そしてリアンも襲い掛かると初撃で突いた槍を手で掴まれて、投げ飛ばされるとリアンの次に攻撃に参加したオーケアニスとセイレーンが至近距離からの水爆でぶっ飛ばされる。
これを見た伊雪たちも戦いに参加するが悉くカウンターを喰らう状態だ。その中にはブルーフリーダムのメンバーもいた。
「僕たちの動きでもダメか」
「器用値には結構自信があったんだけどな。自信無くすぜ。ギルマス」
「氷山」
吹っ飛ばされた人たちに巨大氷山が次々投げ込まれる。単体でも滅茶苦茶強い。だが、一見すると無敵の能力に見える未来予知だが、俺は突破方法をイオンに伝える。
『絶え間なく攻撃をし続けるですか? でも全部の動きを見切られますよ』
戦っている人たちは精神的に勝てない気持ちにさせられている。これだけの精神的ダメージをみんなに与えるとは本当に恐ろしい敵だ。まずはその精神的ダメージをケアしないとな。
『それじゃあ聞くけど、イオンは未来が見えたとして無限に攻撃をされ続けられたら、全ての攻撃を躱せられるのか?』
『それは…体力的にきついかもしれませんけど、あの魔神に通用するとは思えません』
『そっか。ならイオンだけじゃなく、みんなで無限に攻撃し続けたとしたらどうだ?』
『まさか…タクトさん』
『未来予知の最大の弱点は恐らく変えられない未来が存在することだ。さっきの神盾アイギスの攻撃がそうであるようにな。それをここで戦っているみんなが連携することで作り出すんだ。幸いイタカのスピードは大したことない。必ず攻撃はいつか当たるはずだ』
イオンの目に闘志が宿り、他のみんなにも作戦が伝えられる。ここからはどれだけ連携出来るかだ。
「「はぁあああ!」」
「「やぁあああ!」」
イオン、リアン、伊雪、ルミがタイミングを合わせて、四人同時に襲い掛かった。しかしこちらの作戦がイタカに当然のようにバレている。
「猛吹雪!」
猛吹雪を発生されて、イオンたちが怯んだ隙に脱出し、動き回ることでみんなと常に距離を開ける戦法を選んだ。動いている敵に息があった連携攻撃をするのは滅茶苦茶きつい。それでもやるしかない。
「はぁあああ!」
「甘いですよ! 水爆!」
「くぅううううう!? はぁあああ!」
水爆を受けたイオンはそれでもすぐにイタカに斬りかかる。攻撃に怯んでいては連携がずれてしまう。だからダメージを受けても襲い掛かり続ける。イタカにダメージを与えるにはそれぐらいしないと届かない。
ここでイオンの斬撃がイタカの頬にかすり、ダメージを与える。
「やった! …くぅうう!?」
喜んだイオンが蹴り飛ばされる。
「かすり傷ぐらいで勝ったつもりですか?」
そういうイタカだが、イオンが攻撃を当てたことで頑張れば攻撃を当てることが出来る敵だと思われたことは自身の破滅の未来の入り口だと理解していた。それでもイタカは最善の手を尽くす。
どんどん良くなるみんなの連携に対して逆鱗を使い、逆にプレイヤーに攻撃を当てて、確実にこちらの戦力を削って来た。全ては自軍が勝つ可能性を高めるためだ。逆鱗が切れボロボロになったイタカに止めを刺そうとみんなが全方位から突撃する。
「液状化、沈殿」
「っ! 全員、武器を捨て、逃げろ!」
「もう遅いですよ! 自爆!」
イタカの最後はたくさんのプレイヤーを巻き込んだ自爆で決着する。最後まで自軍のために命と力を使い尽くしたイタカを俺は最後まで嫌いになれなかった。しかしまだ戦闘は終わっていない。この時点で結構なアブホースが落とされているが残りの掃除は回復した艦隊が引き受けて、激闘をしたみんなはその間に休憩をするのだった。




