#1230 トリプラースラの計略
いけいけモードだった俺たちだったがここでリリーから報告が来る。
『タクト! 首輪を付けたお猿さんたちが襲って来たよ!? どうなっているの!? 味方じゃなかったの!?』
リリーにシンクロビジョンを使うと味方のはずの猿のセリアンビーストがリリーに攻撃をしている所だった。そしてリリーが戦っている猿のセリアンビーストの首には俺が良く知る首輪が装備されていた。
「また奴隷の首輪かよ」
サンドウォール砂漠で散々見たアイテムだ。アスラたちの手まで渡っているとは思って無かったがブラッティウォーズとサタナキアが繋がっていた時点で暗黒大陸に奴隷の首輪が入ることは想定するべきだった。
しかし俺の手にはもう対処法はある。ただ家に取りに行かないといけないので、それまでの時間稼ぎを指示して、俺は奴隷解放装置を取りにホームに戻る。
そんな中、奴隷の首輪を付けた猿のセリアンビーストたちはラーマ軍の猿のセリアンビーストたちと戦闘が始まってしまう。
「な!? どうしたお前たち!? なぜアスラの味方をしているんじゃ!?」
「すまない…けど、俺たちにはこうすることしか出来ないんだよ!」
「この!」
「やめるんじゃ! こ奴らはわしらの仲間じゃ!」
「分かっているけど、攻撃して来るぞ!」
プレイヤーの言葉にスグリーヴァが何も言い返せない。そしてラーマにも危機が訪れる。ラーマの元に現れたのは人間だった。
「兄上…」
「ラクシュマナ! 無事だったか! 途中ではぐれて心配したぞ。お前がこの戦場に来てくれて嬉しく思う。皆はどうした?」
「っ! すまない! 神拳!」
ラクシュマナの拳がラーマの腹に決まるとラーマは木に叩きつけられた。
「がは!? ど、どうしたラクシュマナ!? 何故俺を攻撃する!?」
「俺からは何も言えないんだ!」
ラクシュマナはラーマの弟の一人でインドラジットを倒す英雄だ。その彼もまた奴隷の首輪を装備させられていた。自分からは何も言えない彼だが、プレイヤーが奴隷の首輪の事をラーマに伝える。
「そういうことか…なんて卑劣な事をしてくれるんだ!」
「他のみんなも同じ状態だ。頼む! 兄上! 兄上の手で俺を殺してくれ!」
「そんなこと出来るわけがないだろう! いいか? お前は全力で俺と戦え。お前やみんなは必ず助かる! 俺やスグリーヴァ、ハヌマーンを救った戦友が必ずその首輪からお前たちを解放してくれる! 俺を信じろ!」
「兄上…わかりました。兄上がそこまで信じる者を私も信じてみます」
前代未聞の兄弟喧嘩が森で勃発している時だった。困惑し、隙を見せたスグリーヴァにアスラが迫るとアスラに鞭が巻き付き、地面に縛り上げるとリビナが現れる。
「す、すまぬ」
「タクトから事情は聞いているよ。ここはボクに任せてちょっと離れてて。ボクの近くにいると巻き込んじゃうからね」
「「分かった!」」
味方の猿のセリアンビーストとプレイヤーたちが一斉にリビナから距離を取る。
「行かせるか!」
「君たちの相手はボクだよ。夢幻回廊!」
奴隷の首輪を装備した猿のセリアンビーストたちが眠りに落ちる。
「いい夢見てね。目が覚めたら、仲間と戦う悪夢からきっと救われているからさ」
それを見ていた奴がいた。
「役立たず共が…そのまま寝ているならいっそのこと死ぬがいい!」
そいつがリモコンのボタンを押すがリモコンは発動しない。サフィたちによる妨害波と電磁支配でリモコンの妨害を指示していた。砂漠の時の俺たちには自力でどうにか出来なかったが、今ではリモコンの電波信号くらい妨害して見せるさ。
「見つけたの! お城の下! 燎刃!」
「はい! ブレイブサラマンドラ!」
「っ!?」
燎刃が城の瓦礫に飛び込むと地下に隠れていた敵が燎刃の火炎で照らしだされる。その地下は黄金で作られていた。
「流石アリナ殿。貴殿が諸悪の根源ですね?」
「やれやれ。どいつもこいつも使えねーな!」
地上にボスが飛び出すとみんなが識別する。
ターラカークシャLv75
ボスモンスター 討伐対象 アクティブ
ターラカークシャは黄金の身体を持つアスラだった。
「逃がしません!」
燎刃も外に出て、みんなが武器を構えるとターラカークシャが嫌な笑みを浮かべる。すると地下から一斉に危険の知らせが入ると砦の内側に入り込んでいたみんなに無数の光線が地下から襲い掛かった。しかもそれが絶え間なく撃たれ続ける。
「な、なにこれ!?」
「ははははは! 残念だったな! お前ら! わざわざ地下に俺様の都市を移動させておいて正解だったぜ!」
地面がひび割れ、鋼鉄の町が崩壊するとその地下から黄金の町が姿を見せる。
「地下から黄金の町!?」
「なにこれ! 凄い! しかも浮き出したよ!?」
「え…でもこれは変…あ…みんな! 逃げてー!」
メルがこの状況の異常さにいち早く気が付いた。トリプラの三都市は金の都市が天界、銀の都市が空、鉄の都市が地上にあると言われている。金の都市が鉄の都市の地下にあることが異常なのだ。
メルが警告した瞬間、上空からも危険の知らせが入ると空から無数の光線が放たれ、プレイヤーたちは上下から光線に襲われることになる。シルフィがメルに言う。
「この状況では無理です! 一度態勢を立て直しましょう!」
「そうだね…全軍一時撤退!」
みんなが一度前線基地に転移すると丁度俺が帰って来た所だった。
「何があったんだ?」
「金の町が現れてね! タクト! 光線が地面からビュービュー! 空からもビュービュー!」
「意味が分からない。取り敢えずリリーは落ち着こうな。メル、説明してくれ」
俺はメルから状況を聞き、トリプラースラの罠に見事にハマったことを知った。地上の鉄の町はヴィドゥユンマーリンの都市だ。これを囮に使って、ヴィドゥユンマーリンの町の地下に自分の都市をターラカークシャは移動させて、地上の都市に攻め込んで来た敵を上下から挟む罠を考えた訳だね。
そしてみんなを空から撃った銀の都市も姿を見せていた。どうやらあの浮かぶ都市は光学迷彩と魔力飛行が出来るらしい。そして金と銀の浮かぶ都市が並ぶと俺は異変に気が付く。
「ん? あれまだ攻撃が続いていないか?」
「え? ちょっと待て!? たくさんまだ残っているよ!?」
『タクト! 助けて! 猿の人たち、融通が利かなすぎるよ! 仲間を見捨てて逃げれないって動かない!』
そこまで考えて、彼らを奴隷にして、戦わせたのか!
「ふはははは! 馬鹿な奴らめ! 弟を殺した報いは受けて貰うぞ!」
黄金の都市の下から砲台が現れると都市から稲妻が発生し、砲台にエネルギーが集まる。
「ダーレー!」
「任せろ!」
「消し飛べ! 魔王技! トリプラストラ!」
しかし砲台がエネルギーが放たれることはなく、砲台が電熱で斬られ、爆発しながら落下する。
「間に合った! っ!?」
物凄い速度が出たぞ。これが旭光近衛の力か。しかし俺の腕に激痛も走ったがここで魔力吸収が発動し、旭光近衛が砲台のエネルギーを吸収し、俺に還元すると魔力のステータスが爆上がりする。これ、やばくない?俺が引いている中、この現象を見たターラカークシャは大混乱だ。
「なんだ!? 何が起きた!? 今の稲妻の閃光はなんだ!?」
「落ち着け。兄貴。どうやら技を止められたみたいだな。だが、気にする必要は無い。このまま下の奴らをなぶり殺しにして、奴が現れた所を消し飛ばせはいいだけだ」
そう言った銀の都市の城の屋上にボスの姿を捉えた。
カマラークシャLv72
ボスモンスター 討伐対象 アクティブ
カマラークシャは銀の身体を持つアスラだった。
「そ、そうだな。カマラークシャ」
今度は銀の都市の側面に巨大な砲台が現れる。俺たちもミスしたが彼らも肝心なことを忘れている。トリプラは三つの都市があってこそ神話が成り立つ。一つ失った時点で彼らがブラフマーから与えられた物はもう崩壊している。
その証拠に彼らの都市にはバリアは発生しておらず、俺の攻撃は砲台に通じた。故に俺はみんなに再度の総攻撃を指示し、俺は俺の仕事をすることにした。
それを聞いたシルフィとトリスタンさんが砲台に突撃するとそのまま都市を貫通して砲台を破壊する。
「何!?」
「馬鹿な!? 俺たちが苦労の果てに手に入れたこの都市は無敵でいずれ全世界を支配する都市になるはずだ! っ!?」
「残念だったね。その計画はあなたたちの弟の都市が潰れた時点で破綻しているんだよ」
黄金の都市に次々プレイヤーたちが転移してくる。しっかりメルたちは黄金の都市が地面から現れた時に光線を受けながらもちゃんと触れて、転移を出来るようにしていた。
「舐めるなよ…猿共が! 魔王軍!」
黄金の都市にアスラたちが現れる。
「さっきやられた借りは返させて貰うよ」
みんなが黄金の家から放たれる光線に対処しながら次々アスラを倒していく。その中で光線を全て弾いて、アスラを倒しているサラ姫様の姿があった。フェンリルの鎧と光線は相性最高だろうな。
「どうした! アーレイ! 私の方が敵を倒しているぞ!」
「そんな鎧を着ているせいだろ!? なんてもの渡してくれたんだよ! シルフィ姫!」
元凶は俺です。すまんな。アーレイ。でも、俺はこのことを言えないんだ。頑張ってフェンリルの鎧を超えてくれ。
「何をしているだ! 兄貴! ぐ!?」
銀の都市にはリリーたち召喚獣の一撃が降り注いで都市のあちこちが爆散する。
「あなたの相手は私たちがしましょう。みんな、あなたのお兄さんに傷付けられて、怒ってますから気を付けて下さいね」
「舐めるな。俺たちは弟のようには行かんぞ」
「それを聞けて安心したぞ」
「よくも同胞同士の殺し合いなどふざけた真似をしてくれたな」
銀の都市にハヌマーンとスグリーヴァが仲間と共に降り立つ。
「な!? お前たちは奴隷の首輪を付けた」
「そうだよ。今までよくもこき使ってくれたな」
「しかも仲間同士で殺し合えなどと…絶対に許さないぞ。お前たち」
「「「「逆鱗!」」」」
俺は奴隷解放装置で次々奴隷の首輪を解除して彼らを助けていた。
「待たせたな。ラーマ」
「あぁ! 待ちくたびれたぞ!」
奴隷解放装置を起動させるとラクシュマナの奴隷の首輪も外れた。
「外れた…助かったのか?」
「あぁ! そうだ! お前を縛る物はもはやない! 俺たちが殺し合う理由ももうないんだ」
「兄上!」
いい話だ。弟いないからこういうの見ると弟っていいなと思ってしまう。ここでラクシュマナが重要な事を話す。
「こうしてはいられない! シャトルグナとバラタも捕まっていて、この戦場の何処かにいるはずだ」
「彼らはもう先に解放して、地上で暴れてるよ」
バラタは鉄心さん、シャトルグナはブルーフリーダムのリーダーと戦闘していた。奴隷の首輪を瞬時に理解し、強者の止めに入る二人は流石の判断力と強さだ。他にも強い猿のセリアンビーストが確認したけど、帝さんとマグラスさんが相手をしてくれていた。お陰で奴隷の首輪の被害は最小限だ。
「そうか…良かった」
「まさかまた四兄弟が揃うとはな」
「出来ればこんな形で出会いたくはなかったですね」
「それは俺も思った。さて、こんなことをされて俺も黙っているわけにはいかなくなったな」
「私も同じ気持ちです。兄上」
俺は二人に提案する。
「ハヌマーンとスグリーヴァが銀の都市の方に行きましたからお二人は金の方をお願い出来ますか?」
「任せてくれ。すまないな。タクトも暴れたいだろう?」
「否定はしませんがもう遅そうだし、ここを代わりに守っていますよ」
「感謝する…行くぞ! ラクシュマナ!」
「はい! 兄上!」
二人が金の都市に向かったことでもう勝利は確定だろう。じっくりみんなの戦闘を観察しよう。
メルたちとリリーたちは先に町を破壊していく。まずは至る所から飛んで来る光線と魔王軍で召喚されたアスラたちを潰すのが先という判断だ。
そうは言ってもターラカークシャとカマラークシャは城の上から金と銀の強弓による覇撃を放ってきた。しかしこの攻撃は最初は与一さんやシリウスさんたちが対処してくれており、この後に参戦したラーマたちが変わって、対処してくれる。
こうして町の建物全てを破壊し、アスラたちを全滅させたみんなはいよいよボス戦に突入する。ターラカークシャとカマラークシャは腕を増やして、カマラークシャは黄金の剣や斧、メイス、鎌を取り出し、カマラークシャは銀の同じ武器を取り出した。
プレイヤーたちとリリーたちが激突するが力でメルたちは負けていない。もちろんリリーたちも負けておらず、あっさり弾かれて折角増やした腕が斬れてしまう。
「「ぐ…まだだ! 金属支配!」」
黄金の町の地面から黄金の武器や銀の武器が次々発生し、みんなに襲い掛かる。
「面倒臭いね!」
「はぁあああ!」
風で武器を吹き飛ばしてしまうシフォンと武器が通用しないサラ姫様がターラカークシャに向かう。
「来るな! 黄金ー-ごぶ!?」
「「「「遅い」」」」
ターラカークシャが黄金の壁を作るよりも早くにラーマとラーマの四兄弟の弓矢がターラカークシャの腹に突き刺さった。そして突っ込んだ二人がターラカークシャをバツの字で両断した。
一方リリーたちも決めに入る。
「ヒクスさん! 超連携、行きます!」
「ピィ!」
リースとヒクスの超連携で竜巻を発生させながらヒクスが突撃すると竜巻に銀の武器たちが弾かれて、突撃が決まる。
「ぐ…あ」
城に押し付けられたカマラークシャは全員からのブレスを受ける。
「流石にあれは死んだな」
ここで空を飛んでいた二つの都市で爆発が次々発生すると落下が始まる。
「ちょっと待て。墜落するのかよ!? あの都市!」
俺は地上部隊全てに撤退を指示する。あの場にいたら、墜落してくる都市に押しつぶされて即死だ。そして都市にいるみんなはターラカークシャとカマラークシャから都市の中央部に都市を浮かせる装置があり、それを暴走状態にして、大爆発すると教えられる。
この結果、全軍が森まで撤退し、二つの宙に浮く都市が地上に落下し、大爆発するのを見送った。
「終わったな」
ラーマはそう言うが戦闘終了を知らせるインフォがまだ来ない。ここで森に地震が発生する。やはりまだこの戦闘は終わってはいないのだった。




