#1227 白蔵主リベンジ戦
ギルドで結果報告をした後、手に入ったアイテムを売りに出した。ルインさんによるとオリハルコンの鎧に手が届かない勇者たちなら買ってくれる可能性がある装備らしい。
そしてギルドの俺の部屋に勇者の像を設置して、自分に強化が発生している事を確認して、ギルドのメンバーにも通知した。これで俺の仕事は一先ず、終わり。帰ってちょっとだけ休憩する。流石にヴァルキリーたちの戦闘の疲労が凄い。
「焼き鳥! 唐揚げ! いい天気~!」
「外は雪ですよ。リリー」
「…リリーの頭の中では焼き鳥と唐揚げが降ってきているに違いない」
「炬燵で寝ながら言うノワお姉様は流石なの…というか普通にお兄様に作って欲しいだけだと思うの」
アリナの言うことが正しいだろうな。ただ俺としてはもう少し休みたい。なのでゲームを提案した。俺がリリーの頭の上にみかんを五個乗せて、一分間落とさなかったら、料理を作ることにした。スキルや手足などは使うのは禁止だ。
「それじゃあ、行くぞ。リリー」
「こーい! 成長したリリーの実力見せちゃうよ! お? おお? おおおおお?」
思いっきりフラフラしている。しかしみかんはまだ落ちない。
「動きすぎですよ。リリー」
「むしろよく落とさないでいるの…」
「お肉への執念がなせる技ね」
「頑張って下さい! リリーお姉ちゃん」
「任せて! あ!?」
リリーが炬燵で寝ているノワを踏みつけ、ノワが起き上がったことでリリーはバランスを崩してしまう。そして顔面が炬燵の机の角に直撃した。
「「「「ぷ」」」」
「大丈夫か!? リリー!?」
「痛い…みんな! 笑うなんて酷いよー!」
ヒールで回復を受けながら抗議するリリーを見ると最初の頃を思い出してしまう。後、食材で遊ぶのはやっぱりいけない事だね。
「ゲームは?」
「十秒足りなかったな」
「そんなー…」
「そんな残念そうな顔をしても結果は結果。焼き鳥と唐揚げはお昼まで我慢な」
和んだところで次は恋火たちのリベンジだ。俺が戦闘参加しないし、休憩するのに丁度いい。それを聞いた恋火と和狐は耳がピンとなり、急に緊張し出しだ。
「が、頑張ります!」
「次こそは!」
「ぴよーん」
「「ひゃあああああ!?」」
俺がピンとなった耳を摘まんで伸ばすと二人は絶叫し、俺から距離を取る。
「な、何をするんですか! タクトお兄ちゃん!」
「今のはあきまへん!」
「そうかもしれないが二人共、緊張しすぎだ。少しは取れただろ?」
俺の問いに二人は全く取れないと答える。そんな二人に俺は言う。
「二人共、気負い過ぎだよ。別に何度でも挑んでいいんだ。試練って言うのはその試練を超えて強くなることが目的なんだからな」
「でもそれは…」
「これ以上、みなはんに迷惑をかけるわけには…」
「迷惑かけていいんだよ。俺たちは家族なんだからな」
「「「「うんうん」」」」
俺の言葉にリリーたちが頷く。そんな俺たちを見た恋火と和狐はお互いに顔を見合い、頷くといつもの戦闘と同じ二人の顔になる。
「「勝てないかも知れませんが頑張って来ます!」」
「「「「いってらっしゃい!」」」」
なんとも二人らしい言葉だ。まぁ、これならたぶんいい勝負が出来るだろう。俺たちが伏見稲荷大社に転移すると白蔵主が現れる。
「来たか…しっかり訓練して来たかの?」
「はい!」
「この前みたいにはいきまへん!」
「どれ。それは試練で確認させて貰うとするかの。来なさい」
恋火と和狐が武器を構えると飛び込まず、白蔵主の動きをしっかり見る。
「自然採気! すぅ…」
「ほぅ…確かに訓練して来たようじゃな。しかし」
「させまへん!」
白蔵主が消えると自然採気中の恋火に襲い掛かると和狐が大天狗の錫杖で白蔵主の錫杖を止めた。するとすぐさま白蔵主は鍔迫り合いを避け、和狐と連打戦になる。これに和狐は押されるがギリギリで耐えると大きく後ろに跳び上がると恋火が代わりに白蔵主に襲い掛かる。
以前は個々で戦い合っていたが今回は連携取れているみたいで安心した。
「やぁあああああ!」
「ぬぅううううう!」
恋火の二刀流の攻撃を白蔵主は対応するが流石に苦しそうだ。
「かぁああ!」
「う…!?」
恋火は至近距離から白蔵主が吐いた火炎を受ける。恋火が怯んだ隙に白蔵主は距離を取り、錫杖で地面を叩く。
「大地支配! はぁ!」
地面から巨大な岩が浮かびあがるとそれを恋火に向けて投げ飛ばした。それを見た和狐が恋火の前に立ち、手を翳すと岩が止まり、念動力がぶつかり合った結果、岩が耐えきれずに壊れてしまう。
「狐稲爆!」
「ぬぅううう! 狐稲爆!」
和狐の狐稲爆を白蔵主は錫杖を回転させて、弾き飛ばすと周囲に爆発が発生し、反撃に白蔵主が狐稲爆を放つと今度は和狐が錫杖を構える。
「遮断結界!」
「ならば! 樹海操作!」
遮断結界の下から木の根が発生したが恋火と和狐は二人で後ろに下がると木の根は追尾して来たが二人同時の獄炎で木の根を焼き払った。
「うむ…この前とは動きが別人じゃな。感心感心」
「閃影!」
「ふ。ぬぅええ!」
恋火の閃影は止められ、白蔵主がカウンターの回し蹴りを放つ。これに対して恋火は止めるのではなく、後ろに下がりながら突きの構えを取る。これは上手いな。回し蹴りをしたせいで逃げられないぞ。
「攻撃を止めよ!」
「やめません! 剣突!」
恋火は着地と同時に強く踏み込むと銃弾のような突きが白蔵主に放たれ、白蔵主は心眼で回避するしかなかった。そして二人と白蔵主は仕切り直す。今ので恋火は自信を持てたな。言霊も弾けたし、いい感じだ。白蔵主も評価する。
「あまりにも短時間で来た物じゃから中途半端な訓練をして来たと思うておったが、いやはやよくこの短時間でここまで成長したものじゃ。そこの召喚師に随分大切にされておるようじゃな」
「え!? そこは…まぁ…」
「そう…思います」
戦闘中に照れないでくれませんか?俺まで恥ずかしくなるんですけど。
「ふぉっふぉ。若いのぅ。それも良しじゃ。では、そろそろ本気で行くかの…自然採気! ぬぅえい!」
「っ!? や!」
自然採気を使った白蔵主はなんといきなり錫杖を恋火に投げつけて来た。それを恋火は弾くと目の前に白蔵主が現れる。
「連続蹴り! かぁあつ!」
前足一本からの連続蹴りからの回転してからの裏拳が恋火の顔に決まる。そして弾き飛ばされた錫杖を手に戻すと恋火の追撃に出る。吹っ飛ばされた恋火だったが踏みとどまると目の前に白蔵主が現れ、恋火は迎え撃つがパワーに押される。
「(まだあたしの力がこの人に届いていない…)」
パワーで負けてしまった恋火に心の隙が生まれて、その隙を白蔵主は見逃さなかった。
「甘いわ! 発勁!」
「かは!?」
「神拳!」
「きゃあああああ!? あ…あぅ…」
恋火の腹に発勁が決まり、怯んだ所に顔面に神の気が宿った拳が決まると伏見稲荷大社の鳥居に激突し、地面に倒れてしまう。
「恋火!? っ!」
「はぁ!」
恋火をダウンさせた白蔵主が和狐に襲い掛かり、和狐は錫杖の一撃を錫杖でガードするが力に押されて、後ろに下がるが踏みとどまる。
「くぅうう…は!」
「甘い! ぬ!?」
和狐はフェイントを使い、白蔵主に一撃を与えるが白蔵主は気にせず、和狐に錫杖の一撃をお見合いして、吹っ飛ばす。
「ぐ…まだ…うちは…強くならなあきまへんのや!」
「人間に闇を与えられた狐の巫女よ。お主は一体何のために戦っている?」
「そんなの世界のために決まってます!」
「本当にそうか?」
白蔵主の鋭い眼光を受けて、和狐は同じ答えを繰り返すことが出来なかった。そして自分が戦う理由がいつの間にかあやふやになっていることに気が付く。
「…違います。うちは助けられたタクトはんや妹のために戦ってました。でも、今はうちが愛している人とうちの事を愛してくれている人のために戦っています!」
「そうか…では、その強さ。儂に証明してみるがいい!」
「「ハーミットテイル!」」
二人が激しい尻尾の攻撃の応酬をしている一方で倒れた恋火が言う。
「あたし…あの人に勝てない…」
弱音を出してしまう恋火はここで恋白を見る。そこには情けない顔をしている自分の姿が映る。それを見た恋火に闘志が湧き上がって来る。
「情けない…こんな顔をしている人がタクトお兄ちゃんの召喚獣を名乗っちゃいけませんよね? タクトお兄ちゃん! うわぁあああああ!」
恋火から炎が巻き上がると恋火は立ち上がる。
「ぬ? ほぅ…立つか」
「あたしは恋火! タクトお兄ちゃんに鍛えられた剣の巫女! こんなところで立ち止まるわけにはいかないんです!」
「よい気迫じゃ。来るが良い! 狐の剣の巫女よ!」
「行きます!」
恋火が飛び出すと白蔵主と激突し、白蔵主と戦っていた和狐が距離を取る。
「はぁあああああ!」
「ぬぅうう! 気迫が籠ったいい攻撃じゃ。しかし!」
白蔵主が恋火の二刀流の攻撃を弾いて、カウンターの拳が来る。それを恋火はしゃがんで躱す。
「怒りで冷静さを無くしていると思ったら、大間違いです! 火炎車!」
「ぐ…!? 甘いわ!」
「雷撃の護符!」
「ぐわぁあああ!?」
和狐は白蔵主から離れる際に白蔵主が恋火を見ている事を知った上で地面に雷撃の護符を設置して、離れていた。恋火もそれを見ていたから体当たりという選択をした、全ては和狐の雷撃の護符の上に白蔵主を立たせるためだ。そして離れた和狐は装備を芭蕉扇に変えている。
「狐炎之舞!」
「火焚演舞!」
白蔵主を挟んだ二人は炎の演武による連続攻撃が白蔵主に決まる。これは完全に勝負ありだと思ったが二人の技終わりの一瞬の隙を白蔵主は見逃さなかった。
「放射衝撃! かー!」
「「う!? ゴッドブレス!」」
「仙郷移動!」
「「仙郷移動!」」
白蔵主が仙郷移動でゴッドブレスを回避すると恋火と和狐も仙郷移動で追跡する。ここからは俺が見れない戦いだ。見ようと思えば見えるけど、何となく見るべきじゃない気がする。二人の勝ちを信じるとしよう。
「よくぞ儂をここまで追い詰めた。まずは褒めてやるわい。しかしまだ試練は終わっておらぬ。お主たちに最後の試練を与えるとするわい。獣化!」
銀色の毛首には数珠を装備した九尾の狐が降臨する。これを見た恋火と和狐も獣化を使用する。
『この世界では遠慮は無用じゃ! お主たちの全力を見せてみい! 煉獄!』
『『煉獄!』』
『『『溶岩流!』』』
灼熱地獄にお互いの溶岩がぶつかり合い、魔法も飛び交う。ここで二人に発揮されたのがシルフィの訓練だった。魔法のコントロール訓練が炎熱支配のコントロールにも作用して白蔵主の支配やコントロールに負けることはなかった。
そして二人が爪と牙、尻尾で白蔵主に戦いを挑むと白蔵主もそれに答えて、応戦する。その結果、白蔵主と恋火は正面から爪でぶつかり合うとお互いに噛みつき、白蔵主の四つの尻尾は恋火が八本の尻尾でガードし、残った一本が白蔵主の胴体に突き刺さる。
一方背後から襲い掛かった和狐は白蔵主の五つの尻尾を両手と口、尻尾の四つで止めると残りの五つの尻尾が白蔵主の後ろの胴体に突き刺さった。
流石に二対一では勝ち目が無かったな。最もその分、白蔵主は強くなっているんだろうけどね。最終的にはやはり恋白の半減効果が大きい。それでも尻尾の一撃を二本使わないと止めれない事実は恐ろしい限りだ。
「見事じゃ。お主たちが伏見稲荷大社に入ることを許可しよう。くれぐれも慢心しないようにな。稲荷様はわしの様に甘くはないぞい」
「はい! 頑張ります!」
「ご教授して下さり、ありがとうございました」
二人がそう言うと白蔵主は満足そうな笑みを浮かべて銀色の光と共に消えるのだった。そして白蔵主が使っていた錫杖が落ちる。それを元に戻った和狐が拾う。
「タクトはんのところに帰ろっか。恋火」
「はい!」
二人が返って来ると恋火が抱きついて来た。
「おっと…」
「勝ちました! タクトお兄ちゃん! タクトお兄ちゃんのお陰です!」
「よく頑張ったな。恋火」
俺は恋火を褒めているとそれを見守る和狐の姿を見つけた俺は恋火に抱きつかれたまま、和狐の前に移動し、和狐を抱きしめる。
「和狐もお疲れ様」
「あ…はいな」
和狐は俺の胸に顔を押し付けて来た。それを横で見ていた恋火が言う。
「お姉ちゃん…」
「な、なんどす? 恋火」
「ううん。嬉しそうだな~って思っただけです」
「う、嬉しいんやから当たり前どす」
いい配慮が出てきてよかった。
一度こてんぱんに負けた相手との再戦は物凄いプレッシャーがかかる。自分が負けた姿が脳裏に浮かんで二人はそれとずっと戦っていた。それを自分たちの努力で乗り越えた二人はまた一つ物理的な力以上に精神的な強さが増したことを感じた。たぶんこの試練はそういうのも試していたのかも知れないね。
さて、和狐が手に入れた物を鑑定しよう。
白蔵主の錫杖:レア度9 錫杖 品質S-
重さ:80 耐久値:700 攻撃力:300
特殊効果:狐装備時、筋力アップ(究)
効果:破邪、仙気、念動力、大地操作、荷重操作、炎熱操作、重力操作、守護結界、鬼火、天罰、破壊の加護、神仏の加護
白蔵主が生前から使用していた錫杖。生前に出会った狐の力と彼の強い後悔の念が積もり積もって錫杖に狐と破壊の力を与えたと言われている。
白蔵主はこのゲームでは破戒僧に位置していたのかも知れないな。伝説ではそんな書き込みはないと思うが自分が大切にしていた狐を甥が殺してしまった事実を知った彼が荒れ狂う可能性は十分にある。
俺に置き換えると恋火か和狐、狐子を甥に殺された感じになる。俺は甥を許せるのかな?許せそうにないな。せめて自分がやったことの罪の重さをその身に少しでも教えてやらないと気が済みそうにない。
そう考えると白蔵主が強い理由も俺の中では変に納得がいった。そういう複雑な気持ちを乗り越えた者はやっぱり強いと思う訳ですよ。
この錫杖はそのまま和狐が装備することになった。そしてこのまま一気に伏見稲荷大社に行くと思っていたのだが、二人から空天狐と戦いになることが伝えられて、恋火と和狐は引き返す提案をして来た。
流石に今の状態で空天狐に勝てるとは思っていないようだ。まぁ、これが恋火と和狐の最終試練だろうからね。ここは二人の意志を尊重して、帰るとしよう。
帰った俺は午後からの決戦に向けて、早めにログアウトすることにした。今回は順番を変更して進化したばかりのリースと寝る。
「し、失礼します」
「一緒に部屋に入っているんだけどな」
「う…すみません。緊張して」
「進化したては大体そんな感じだよ。ブランも」
「主! 早く寝て下さい!」
俺とリースが顔を見合うと笑ってしまう。
「ブランに怒られたし、寝るか」
「はい…あの。主様。抱きしめて貰っていいですか?」
「いいよ。お休み。リース」
「はい。お休みなさい。主様」
こうして俺はログアウトした。




