#1223 オーディンの直轄部隊
光の柱から漆黒の馬に乗った半神たちと歴戦の老騎士の一団が現れると俺たちを見下ろす形で止まる。
ヴァルキリー?
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ワイルドハント?
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スレイプニル?
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ヴァルキリーは全員女性でワイルドハントが全員男性だった。ヴァルキリーの装備はまず武器は槍か剣でこれに加えてバックラーと呼ばれる小さい円形の盾を装備している。鎧は青と銀で共通されているがヘアースタイルや髪の色はばらけており、最大の特徴は兜にある羽飾りだ。
美しいヴァルキリーと対局のような漆黒の鎧なのがワイルドハント。武器は黒い旗がある槍持ちや剣、弓持ちがいる。姿は白髪の老騎士姿で眼光が鋭く歴戦の狩人の威厳を感じる。ぼろい黒マントが特徴的な敵だ。
みんなの話では鎧や装飾品も含めて普通の武器ではないらしい。武器は色である程度、属性を判別出来るらしいがいかんせん滅茶苦茶強いらしいのだ。
俺たちの前に現れたのはヴァルキリーが九人、ワイルドハントが九人だった。全員がダークホースの第五進化である漆黒の馬スレイプニルに乗っている。スレイプニルにも紫色の馬鎧でしっかり武装されていた。
スレイプニルはオーディンの馬で軍馬としての性質を持っている。スレイプニルが使う属性は風、火、光、闇、時空属性が確認されており、とにかく騎乗戦闘が凄く強い。その代償として玉龍のように個人戦闘は得意じゃない馬だ。
同じタイプで玉龍と分岐していたブケファロスがいるがこちらは王の加護がある影響で味方全員強化タイプらしい。かなり微妙なラインらしいけどね。普通に戦うとスレイプニルのほうが強いということになっている。
「おぉ! ヴァルキリー様とワイルドハント! ははははは! 結局は私の勝ちだ!」
「…黙りなさい」
「いいえ! 黙りません! 私は」
エインヘリヤルの首にヴァルキリーの一人が槍の切っ先が付きつけられる。情報通り速いな。
「聞こえなかったのか? 私たちは黙れと言ったんだぞ?」
「す、すみません」
「あなたは下がって、私たちを見ていなさい」
ここで最初にエインヘリヤルに黙れと言ったヴァルキリーが俺たちの前にやって来る。
「まずは彼の非礼をお詫びいたします。ごめんなさい。私たちの監督不行き届きです。そして彼らに訓練の大切さを教えて頂いたことに感謝を述べさせていただきます」
しっかりしているな。まぁ、彼女たちはオーディンの直轄や愛と豊穣の女神フレイヤの従者とされている存在だ。ここでエインヘリヤルたちと同じことを言われなくてホッとした。彼女たちの言葉だとオーディンのイメージをかなり疑ってしまっていた。更にヴァルキリーは続ける。
「また彼の発言を修正させて頂きます。確かに召喚獣のエインヘリヤルたちは私たちが選んだエインヘリヤルではありません。そこは事実です。しかし過去に勇敢に戦った勇者であることに変わりはなく、私たちもオーディン様もエインヘリヤルやエインフェリアに違いはないと考えています」
「それを聞けて安心しました。グラムを俺に託してくれた神と敵対はしたくありませんから」
「それは我々も思っていることですよ。しかしこのヴァルハラやアースガルズに行くというなら試練を与えなければなりません。それがオーディン様より命じられた任務の一つですから」
ここでインフォが来る。
特殊イベント『ヴァルハラの試練』:難易度SSSSS
報酬:称号『アースガルズの到達者』
参加者:ヴァルハラに到着したプレイヤー
オーディンの部隊を撃破せよ。
戦闘は避けられないよね。
「試練だと言うなら俺たちも引けませんね」
「よい覚悟です。ドラゴニュートに愛された英雄と一国の姫の力、試させて貰いましょう」
俺とシルフィがスピカとスプリームペガサスに乗り込み。ヴァルキリーとワイルドハントの軍団と相対する。
「行きます」
「「「「光分身!」」」」
槍持ちのヴァルキリーたちが光分身を使うとスレイプニルまで増える。
「「「「ヒヒーン!」」」」
「「「「超連携!」」」」
分身たちが捨て身の一撃を発動されて、突っ込んで来た。これがプレイヤーたちを苦しめたヴァルキリーとスレイプニルのコンボ技だ。
「ブラン!」
「ロードガーゴイル! お願いします!」
「キャッスルガード!」
ブランとロードガーゴイルが盾を構えて、受け止めに掛かるがいくら最強の盾の武技でも超連携に捨て身の一撃の突撃攻撃には耐えられはしない。しかし破壊するまでに時間はかかる。俺たちが狙うのはそこだ。
「リリー!」
「任せて! タクト! 拡散光線! 変光!」
リリーが放った拡散光線が動いて、光分身のヴァルキリーたちの側面や上下から貫くと消える。ヴァルキリーのこのコンボは捨て身の一撃のリスクと突撃するリスクを無くすことが出来るが分身なので攻撃を受けると消えてしまうのが弱点だ。
「流石ですね。しかし…呪滅撃! 呪滅封印!」
「いた!?」
「消した代償は払って頂きます」
呪滅コンボを持っていたのか。ヴァルキリーはいい話だけではないからな。死した勇敢な戦士の魂を戦場からすくい上げる行為は見方を変えると死神のようにも考えられる。だから呪滅コンボを持っているんだろう。
まぁ、どちらを選ぶか考えた場合、断然呪滅コンボを選択する。ましてや今のリリーには呪滅コンボはそこまでの脅威じゃないからね。問題ない。
ここでワイルドハントたちが動く。怪しいオーラが発生している弓矢が雨のように降り注ぐ。
「躱せ!」
みんなが逃げる。この弓矢は透過と即死の効果に加えて、加護無効と耐性無効が確認されている。追尾効果はないので、避けるのが最善手だ。この情報を知らないプレイヤーたちは初手で重戦士たちがやられる結果になったらしい。完全に初見殺しのような武器だからどうしようもないだろう。
そして俺たちの背後にワイルドハントが霊化で現れると俺たちは剣を避ける。この剣も弓矢と同じ効果がある。逆に俺たちが反撃するがこれに反応したスレイプニルが後ろに下がるとヴァルキリーたちが動く。
「「「「光分身! 雷光!」」」」
「行くぞ! スピカ! リリー、ブラン、千影、リース! 」
「ヒヒーン!」
「夜叉! お願いします!」
「あぁ!」
俺とスピカ、リリー、ブラン、千影、リース、夜叉が光分身や影分身を使ってヴァルキリーたちとぶつかり合う。両者の分身が消えるといよいよ本体同士の戦いとなった。
「やぁああああ! っ!?」
「重いいい攻撃です。しかしいなされては無意味! スクリューランサー!」
「ヒヒーン!」
ヴァルキリーはバックラーで簡単にリリーのアルカディオンの攻撃をいなしてしまった。バックラーは小さい盾だからこそ小回りは普通の盾より効く。その代償として耐久値と防御力は低い。それ故にバックラーは防御の盾というよりカウンターや攻撃に特化している盾というイメージだ。
「うぎぎぎぎ! はぁ!」
リリーはヴァルキリーのスクリューランサーとその動きに合わせたスレイプニルの突撃を受けたがスクリューランサーはレガメファミリアでぎりぎりで受け止め、いなされたアルカディオンで槍を弾くとスレイプニルが空を蹴り、上に上がると背後から別のヴァルキリーが超連携で突っ込んで来た。
「光化! やぁ!」
リリーが消えると上に逃げたヴァルキリーの上からまた攻撃を仕掛けた。
「光化!」
今度はヴァルキリーたちが消えるとお返しに上から突撃してくるとリリーはそれを躱して、逆さま状態で息を吸い込む。
「ドラゴンブレス!」
「天障壁!」
「ヒヒーン!」
ヴァルキリーの天障壁とスレイプニルの空間装甲が放たれ、ドラゴンブレスはそれらを破壊したが本体にはダメージが届かなかった。
「惜しい…っ!?」
「バスターカリバー!」
別のヴァルキリーがリリーに襲い掛かるが察知したリリーは翼を羽ばたかせて回避した。
「危ない…ふぇ!?」
そこにワイルドハントの狙撃が来て、リリーは慌てながらも飛行して、回避する。それを見たさっきまで戦っていたヴァルキリーがリリーの追撃に出る。
「超連携!」
「マジックバスター!」
「く…」
シルフィのマジックバスターが超連携中のヴァルキリーの横から直撃した。
シルフィたちは後方支援をしてもらっているがヴァルキリーたちの魔法破壊で魔法が封じられている上にワイルドハントのスキルか装備の力で魔法が効かないらしい。杖の武技や遠距離スキルは効果があるので、シルフィはすぐさま援護にシフトした形だ。このチャンスをリリーは逃さない。
「バーストスラッシュ!」
「く! 絶対防御!」
「まだまだ! ミーティアエッジ!」
「くぅ…そこ!」
リリーが攻撃中にバックラーのカウンターがリリーの顔に決まるがリリーの顔を見たヴァルキリーはゾッとする。
「光閃!」
「神障壁!」
攻撃を受けた状態から放たれたリリーの斬撃をヴァルキリーの鎧にある神障壁で防ぐがそれではリリーを止められない。
「ドラゴンダイブ!」
「な!?」
「ヒヒーン!?」
至近距離からのドラゴンダイブを受けたヴァルキリーたちは雲の地面に激突する。
「この! シールドアタック」
「きゃ!? この!」
「っ! 受けて立ちましょう!」
リリーがアルカディオン、ヴァルキリーが槍を構えるとお互いの波動がぶつかり合うと互角に終わる。ここでリリーに別のヴァルキリーから拡散光線、ワイルドハントからサウザンドレインが飛んできたリリーは空で攻撃の回避に動いた。
何というか流石オーディンの直轄部隊にオーディンの猟師団と呼ばれるだけはある。とにかく味方のフォローが早い上にしっかりと連携が取れている。しかも戦場分析まで速く、動きが流動的だ。
俺とスピカは槍持ちのヴァルキリーとは相性が良かった。スピカの角に対してはヴァルキリーの槍で対応しないといけないので、俺の攻撃が普通に通りやすい。
ワイルドハントも相性はいいだろうが基本的にはヴァルキリーを遠距離で支援する役割なので、距離を潰しに掛かると距離を取りながら狙撃してくるので、下手に距離を潰せない。超連携で突撃したら、狙撃で終わるしね。厄介な弓矢だよ。
それを察知したヴァルキリーは剣持ちで俺とスピカを封じに掛かった。
超連携では俺とスピカが勝るので、遠距離の斬撃の飛ばし合いだ。これだと数で優るヴァルキリーたちが有利に戦える。対する俺は立ち止まると的なので、動き回りながら時々、接近戦を挑みちょっかいをかける。
そして戦場を誘導したところでラードーンのブレス攻撃がヴァルキリーたちに襲い掛かる。ヴァルキリーたちは回避したがブレス攻撃が終わったと思った瞬間、俺とスピカの超連携が炸裂し、そのまま倒せると思ったが光化で逃げられる。
俺が超連携を使ったので、すかさず他のヴァルキリーたちとワイルドハントが俺を狙おうとしたがみんなが察知して妨害してくれた。
そんな一進一退の勝負が続く中、リースも神剣グラムで必死に戦っていた。
「どうしました? 神剣解放を使わなければ勝てませんよ?」
「ヴァルキリー様も本気にならないと私たちには勝てないと思いますが?」
「ふ…それなら本気にさせてみて下さい」
「そのお言葉、返させて貰います!」
悩みを吹っ切れた人間は強いよね。しかもリースは別にハイになっているわけじゃなく、自分の戦いを貫いていた。守りに重きを置き、隙を付く。それはヴァルキリーの戦い方そのものだった。故に勝負は読みあいになるがリースは必死に対応して見せた。
そんな戦闘を見せられたエインヘリヤルは思わず呟く。
「なんだこの美しくも燃えるような熱い戦闘は…俺も…俺もこんな戦闘が出来るようになれるのだろうか?」
お互いに譲らない全身全霊の試合は人々を熱狂させる。そしてそれを見た人々は憧れる。俺もあの人の様になりたいと。こんな試合がしてみたいと思ってしまうのが人間だ。ヴァルキリーは知っていて、このエインヘリヤルに戦いを見るように言ったのかもしれない。
しかしこの攻防も長くは続かない奮闘しているリースの限界が近付いていた。流石に完全武装した自分の進化先が絶え間なく相手が変わる状況では神剣グラム持ちでもかなり厳しい。それにリースには足がない。そこで俺は決断する。
「スピカ、リースを助けてやってくれ」
「ヒヒン!」
スピカから降りた俺を見たヴァルキリーたちが盾を構えて、警戒する。
「馬を降りたんだけどな」
「それで警戒を解く程、私たちはあなたを過少評価してませんよ。二柱の神と契約している上に何よりオーディン様が自らの剣を復活させてまで託した人ですから」
「なるほど。それは光栄の極みですね」
俺とヴァルキリーが激突している頃、リースが限界を迎えた所で丁度スピカが助けに入った。
「スピカさん! 主様は!?」
「ヒヒン」
「心配するだけ無駄ですか…私は騎乗戦闘は苦手ですが一緒に戦ってください!」
「ヒヒーン!」
これでまた戦況が変わるがヴァルキリーたちも流れを変える為に情報にはない切り札の一つを切る。
「「「「格納!」」」」
ヴァルキリーたちの鎧が赤と黄金の鎧に変える。その彼女たちに俺たちが攻撃を仕掛けるとその変化を実感した。さっきまで俺たちの攻撃に真っ向勝負を避けて来た彼女たちが急に俺たちの攻撃を止めた。
そして彼女たちの攻撃を受け取ると滅茶苦茶重く感じた。しかし先程までの速さは無くなっている。この事から鎧の装備変更が意味することが分かる。
「装備を変える事で戦闘スタイルを変えれるのか…」
「お前たちが相手ならこっちの姿の方がいいだろう? フレイヤ様より頂いた鎧の力、味わうがいい!」
フレイヤから貰った設定なのか。これは警戒が必要だな。
ヴァルキリーたちは戦闘スタイルだけでなく、攻撃に荒々しさが出て来た。これが逆にリリーやブランを苦しめる。その一方で千影や夜叉にはいい変化だと思っていたのだが、千影や夜叉は青鎧のヴァルキリーたちと対戦を強いられていた。
俺たちの戦闘をしっかり分析しているな。みんなが苦戦する理由が本当によくわかる。そもそもみんなは強い馬が普及しておらず、飛行戦闘もそこまで馴れていない。フライトで飛ぼうにも魔法破壊があるから相当厳しいだろう。
その上、空を飛び回る狙撃手付きだ。ヴァルキリーも危険だがやはり先に遠距離攻撃のワイルドハントから仕留めないといけないな。ラードーンとロードガーゴイルが援護し、リリーとブランがワイルドハントの撃破に向かう。
それを見たワイルドハントたちは旗持ちが掲げる。
「「号令!」」
ワイルドハントの周囲に武装した骸骨の軍団に黒い狼が現れる。こいつら全員が弓矢と同じ効果を持っているらしい。
「邪魔だよ!」
「はぁあああ!」
リリーとブランはアンデッドとの相性は最高だ。呪滅コンボは受けてしまうが一気に突破して、ワイルドハントたちに迫る。
「「聖剣解放!」」
能力からして完全に魔剣なのに聖剣なのはエインヘリヤルの進化先故かな?
「「はぁあああ!」」
「「ぬぅううう!」」
リリーたちがワイルドハントの剣を弾き、とどめを刺そうとした時だった。ワイルドハントが腰にある血塗られた肉切り包丁で攻撃して来て、危険を感じたリリーとブランが避けるがブランが肉切り包丁の能力を見抜く。
「範囲で魔力を吸収する武器ですか…」
「そうだ…我らは戦士であり、狩人。武器の多さが自慢なのだよ。強欲門、武器」
そう言うと空間から無数の武器が現れ、リリーとブランが襲われるがなんとか回避する。強欲門があるとなると接近戦に挑むのがかなり厳しくなった。
この拮抗状態を崩すには数を減らすしかないな。一番手っ取り早い手段を取ろう。
「リリー!」
「竜魔法!」
「無駄です! 魔法破壊!」
掛かった!竜魔法を展開しているリリーの前にはアイギスを構えたブランがいる。
「石化の魔眼!」
「しまっ!?」
魔法破壊を発動されるためにはどうしても魔法を視認しないといけない。そこに罠を貼らせて貰った。残念ながら竜魔法はアイギスの視認範囲から外れているヴァルキリーに破壊されたがまず数を減らした。
ここで一気に戦況が動く。
「ティターニア!」
「はい!」
「「エンゲージバースト!」」
妖精の羽を持つ女騎士姿になったシルフィが仲間を引き連れて、前に出る。
「グォオオオ!」
「旋風刃!」
ロードガーゴイルの槍から発生した旋風刃とヴァルキリーの槍から発生した旋風刃が激突していて、弾けたところに超連携したシルフィとスプリームペガサスが襲い掛かる。
「くぅうううう! がは!?」
流石に勝利の剣を持つシルフィの超連携にはヴァルキリーも対応出来なかった。しかし奇跡が発動し、ヴァルキリーとスレイプニルが蘇生する。そこにラードーンが襲い掛かるが上に逃げる。
「そちらが本気になったというならこちらも本気を見せましょう! 神格解放!」
「「「「神格解放!」」」」
「「「「ヒヒーン!」」」」
ヴァルキリーとワイルドハントとスレイプニルが本気になり、戦闘は更に激化することになるのだった。




