#1211 ロキの勧誘
仕事から解放されて、ウキウキ気分のシルフィと合流するとシルフィの案内でウィザードオーブの森にやって来た。位置を確認するとどうやらスカアハ師匠の屋敷がある森を奥に進んだ場所みたいだ。森の隣にはファフニールがいた山が見えている。
「この森がシルフィがフェンリルと戦った森なんだ?」
「はい。正確には精霊界で出会いましたがこの森にももちろん来たことがあってとっても懐かしいです」
シルフィは手を閉じて、たっぷり深呼吸をする。本当に懐かしそうだ。
「オォオオオー!」
懐かしいフォモールが現れた。
「五月蠅いですよ。折角懐かしい気分に浸っているのに邪魔しないで下さい! 神波動!」
杖から神波動が放たれて、フォモールは消し飛んだ。レベルが違い過ぎて可哀想すぎる。しかし可哀想な事にフォモールが俺たちの周りに沸く。
「私が相手をしていいですか?」
「どうぞ」
フェンリルの相手に誰を選ぶかな。精霊界に行くためにまずセチアは必要でフェンリルとの対戦経験にフェンリル装備があるブランも確定。ここからが難しい。フェンリルにするつもりの優牙にはやはり自分の進化に関わる勝負には関わって欲しいな。後はリーダーであるグレイとリオーネで行こう。
俺がメンバーを選んでいる間に流星群の落下音やレーザー音の後にフォモールの悲鳴が聞こえ来たわけだが、無視しておこう。
「よし、出番だぞ。みんな!」
「はい! …えーっと。森が消し飛んでいるんですが? タクト様?」
「何でも俺のせいにしないでくれ。シルフィが暴れたんだよ」
「なるほど」
「確かに暴れたのは私ですが納得はしないでください! セチアちゃん! 私は自然を愛するお姫様なんですよ」
そういうことは周りを見てから言って欲しいものだ。俺たちってもしかして環境破壊夫婦なのかもしれない。いや、星レベルで破壊しているか。俺たちがいる星の頑丈さと生命力の高さには感謝しないとな。
ここでシルフィが確認してくる。
「精霊界のモンスターはフェンリル以外は私たちが相手をしていいんですよね?」
「はい。スターペガサスもレベル上げも兼ねて相手をしてくれると助かります。俺たちの狙いはフェンリルのみでその相手は俺たちにさせて下さい」
「わかりました」
ここでシルフィがフェンリル、ティターニア、スターペガサス、スルト、ラードーンを選ぶ。このメンバーを見ると精霊界の危険度が分かるな。
さて、準備も出来たことだし、早速フェンリル探しに行くとしますか。
「精霊門!」
俺たちはセチアの精霊門を通って、精霊界に入る。するといつもと違う感じがした。
「あれ? こんなに精霊界って暗かったっけ?」
「いえ。もっと綺麗な場所だったはずです」
「あ」
シルフィが完全に忘れていたリアクションをした。シルフィが答える前にティターニアが答える。
「そういえばここの森は彼らの縄張りでしたね」
「あ…あのぅ…タクト? 精霊の相手を交代とかしてくれませんか?」
「嫌です」
「こ、ここは夫として引き受けて欲しいところですよ!?」
どうやらこの森の精霊界にはシルフィとティターニアが相手にしたくない敵がいるようだ。女の子に嫌われる敵って大体パターンが決まっていると最近気付くようになりました。
「こっちにもセチアがいるんですよ。敵の事も知っているんですから頑張ってくださいよ」
「そ、それはそうですが」
「頑張ってください。シルフィ姫。タクト様の隣で応援させて貰います」
「むぐぐ~…」
セチアがご機嫌でシルフィは悔しそうだ。ここで俺の精霊眼が反応する。
「シルフィ、諦めて下さい。来ましたよ」
「もうですか!?」
「精霊界では人間は完全な異物だと前に説明しましたよね? 入った時点で感知されるのは当然のことなんですよ」
「そういうことっす」
木の幹から黒い赤ん坊サイズの精霊が出て来た。
デックパックLv55
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
やはり精霊界の敵はそこそこ強いな。こいつはパックの亜種か?パックは一応スケープゴートの二つある進化先の一つで第三進化に当たる。見た目は同じ子供の精霊なのだが、わんぱくな召喚獣として有名だ。そのためかなり人気がない。
一応ルークが精霊召喚師なので召喚していたがまぁ、チロルや仲間のエルフたちにちょっかいばかり出して、チロルに召喚しないでと言われた話を聞いている。
「多いな…空間索敵」
「へぇ…男の癖に精霊眼と厄介な索敵スキルを持っているっすね」
「全部で二十。フェンリルの姿はなしか」
「俺っちを無視するとはいい度胸っすね」
デックパックが俺に手を向けるが俺の殺気を諸に浴びる。
「どうした? 俺に何かするつもりじゃなかったのか?」
「そ、そのつもりだったっすけど、今日は可愛い人間のお姫様がいるからこっちの相手をさせて貰うっすよ」
シルフィが俺を睨んで俺に追い払ってくださいとジャスチャーで伝えて来る。そんなことをしている間に他のデックパックは距離を詰めて来ていた。
「何しているんですか! シルフィ! 真面目にやって」
「妖精技! フルヌードっす!」
フルヌードってやばくない?俺がそう思っているとデックパックの手から謎のビームがシルフィに向けて放たれる。
「へ? い、いやぁあああ」
「シルフィ!」
「ティターニア!?」
シルフィを庇ったティターニアが技を受けると紫色の煙に包まれる。それが晴れると全て初期装備になってしまった。まぁ、流石に裸には出来ないよな。ただ武器封印を受けてしまい、装備が出来なくなってしまった。
「…やってくれましたね」
まぁ、妖精の女王としては屈辱的な技を受けてしまった形にはなるだろうな。
「怒ったっすか? でも、俺っちの相手をしている余裕なんてあるんすかね?」
一斉にデックパックたちが現れた。狙いはシルフィだ。デックパックはある間違いをしている。もちろんティターニアは怒っているがもう一人怒っている人物に気が付いていなかった。
「…こいつら、殺してください。フェンリル、スターペガサス、スルト、ラードーン」
やばい…シルフィの殺気に震え上がったぞ。シルフィの命令を受けて、全員が動いた。襲い掛かって来ていたデックパックたちはフェンリルに潰され、スルトに握られると燃え上げると消し炭となる。更に残りのデックパックはスターペガサスに貫かれると後はティターニアの前にいる奴だけ残してラードーンに食べられてしまった。
「え…」
「残っているのはあなただけですね」
やばい迫力で言ってます。シルフィを本気で怒らすとこうなるんだな。
「ちょっと待…ほんの出来心」
「ニュークリアエクスプロージョン!」
「ぎゃあああああー!?」
「ふん!」
オーバーキルだが、何も言うまい。下手に何か言うと俺にまで飛び火しそうだ。鉄心さんが怒っている妻には近づかないほうがいいって夫婦円満の秘訣を教えてくれたし、ここはそれに習おう。
「もうここの敵は全滅させますよ!」
「ちょっと待ってください」
「どうして止めるんですか! セチアちゃん! 女の子ならこの気持ちが理解出来るでしょ!」
「もちろん出来ますし、シルフィ姫を止めるつもりはありません。ただ気になることがありまして、タクト様。ご自身のステータスを確認してくれませんか?」
「あぁ…ん? 加護が封印されているぞ」
俺のステータスには加護スキルの封印がされていた。
「やっぱりそうでしたか…」
「ここの特殊効果か? よく気が付いたな」
「神の剣を持つティターニアがあっさり状態異常を受けましたから。変だなと思いまして」
確かに変だ。俺はパラス・アテナの槍を確認するとやはり加護スキルの封印が発動されていた。どうやらここの精霊界では発生している全ての加護スキルは封印されるみたいだな。
「一応確認のために聞くが精霊界で加護スキルの封印なんて普通は発生しないよな?」
「はい。普通はありえません」
これでほぼこのフィールドの特殊効果であることは確定した。ここで俺はある木の上を見る。
「そこに隠れているお前、何か知ってないか?」
「あら? バレちゃってた? これでも隠密には神の中でもかなり自信がある方なんだけどな」
空虚スキルが解除されて、現れたのはサタンの宣戦布告の際に登場した神だった。
ロキ?
? ? ?
全員が警戒する中、ロキは地上に降りると俺は指摘する。
「どれだけスキルが優秀でも人の事はじろじろ見ていたら、嫌でも気が付くわ。それに俺が気が付いてもお前は気にしないだろ?」
「まぁ、そうだね。折角君がここに来てくれたわけだし、ちょっといいお話をしようと思ってね」
「タクトに何の用…う!?」
「たかが人間の王女の分際で僕と彼との会話に割り込んで来るなよ」
シルフィが強烈な念動力で締め上げられる。本来ならフェンリルやスルトが動くはずだが、動けないみたいだ。俺も念動力を発動して、威嚇する。
「彼女に手出しすると言うならお前の話を俺は聞かないが?」
「なるほど。それは困るな」
「けほけほ!?」
シルフィが解放されて、俺とロキが相対する。
「これで話を聞いて貰えるよね?」
「もちろん」
「僕は回りくどい話は嫌いでね。率直に言おう。僕らの仲間にならないかい? サタンやルシファーは君とずっと一緒にいることを望んでいるよ」
仲間に勧誘してくるのはなんとなく予想は出来ていたけど、サタンとルシファーの名前が出て来るとは思ってなかった。流石世界の神話の中でもトップクラスのトリックスターと言うべきか。でも、これで俺が仲間になると考えているのは甘々だな。俺は返答の代わりにパラス・アテナの槍を振る。ロキはそれを後ろに下がって躱す。
「危ない危ない。何で断るか理解できないな…彼らは本当に望んでいるよ」
「お前がそこまで言うなら俺はお前よりサタンとシルファーを理解していることになるな。いいか? よく聞けよ。サタンとシルファーが俺とずっと一緒にいたいと望んでいたとしても仲間にすることは絶対に望んじゃいない。俺と二人は敵対しないと行けないんだよ」
俺とずっとにいたいと望むのは死に別れた家族なら当然の欲求だろう。だけどそれが仲間に勧誘する口実にはなりえない。二人が見たいのはきっと俺の成長した姿だからだ。そして最後の決戦で自らが俺を試そうとしているんだと思っている。俺が両親がいない世界で立派に生きて行けるのかをね。
ロキが言うような事になったら、俺は仲間を裏切り、愛するシルフィを悲しませる男になる。そんな息子の姿を親が喜ぶとは俺は思えない。
「うーん…何か勘違いしたっぽいな。残念残念。でも、話せて楽しかったし、お土産をあげるよ」
ロキがそういうと指を鳴らす。するとロキの左右の空間がひび割れ、二体のフェンリルが現れた。更にロキの影から謎の自分の尻尾を噛んでいる蛇がたくさん現れ、空を自身を回転させながら飛び回った。
フェンリル?
? ? ?
ヨルムンリングLv62
通常モンスター アクティブ 討伐対象
ヨルムンリングは恐らくフェンリルの兄弟であるヨルムンガンドから来ている名前だと思うがかなり小さい敵だ。ただレベルが高い上にロキがこの場面で呼び出すようなモンスターだ。何かはあるだろう。
これを見たみんなが武器を構えるとロキは後ろを向くと自分の影に沈んでいく。俺はそんなロキに話しかける。
「素敵なお土産をありがとよ。遠慮なく狩らせて貰う。お礼に一つお前に言っていいか?」
「なんだい?」
俺は殺気を放って、ロキに怒りをぶつける。
「お前は俺の逆鱗に触れた。次会う時には消滅させてやるから覚悟しておけ」
「おぉ~。怖い怖い。何で怒らせたのか分からないけど、ユグドラシルの上にいる神々諸共殺してあげるよ」
そういうとロキが消えて、フェンリル二体が叫ぶ。
「シルフィ、戦える?」
「大丈夫です! フェンリルもスルトも行けます!」
「じゃあ、ヨルムンリングの相手をお願い。フェンリル二体は俺たちが倒そう」
予定よりかなりハードな狩りになってしまったが今の俺は激おこ状態です。何故ならロキの勧誘は俺からすると両親の侮辱に感じたからだ。本当にね。俺たちの家族のことを何も知らない癖に俺の両親を自分の都合のために利用するなよ。万死に値するね。
俺のやる気を感じ取ったセチアとブランが言う。
「タクト様がそう言うなら倒してみせますよ」
「はい。主を誑かそうとした神に私たちの力を見せてあげましょう!」
こうして俺たちはフェンリル二体との戦闘に入るのだった。




