#1202 ホークマンの神ガルダ
俺たちが誰が行くか話し合っていると遺跡からウェルシュゴールドの翼を持つ人間が現れて、俺たちのほうに歩いて来た。
「「「「あ、あれ?」」」」
みんなが疑問に思うのも無理はない。現れたのは少年の姿をした鳥人族だったのだ。一応識別してみる。
鳥人神ガルダ?
? ? ?
どうやら間違いないらしい。
「僕の名前はガルダ。この山の神をしているものだ。何用でここに来た? 人間たちよ」
「俺たちはインドラとラーマの依頼を受けて、この山の頂上にいる邪竜を討伐にやってきました。あなたたちと敵対するつもりはありません」
「なるほど。確かにあいつが水を塞き止めていて、地上は大変みたいだね。さて、どうしたものか…インドラとは永遠の友情の誓いを結んでいるが僕はヴィシュヌのヴァーハナ。ヴィシュヌの意志が優先される。ここまで登って来て悪いけど、お引き取り願おうか」
「それってヴィシュヌが今のこの状況をいいと考えているってことですか?」
ラーマはヴィシュヌの化身だと言われている。なのでヴィシュヌの意志が優先されるならラーマの願いが優先されると思うのが普通だ。
「それは僕にはわからないがこの山をヴィシュヌから与えれた僕は君たちをこれ以上先に進める訳にはいかないんだよ」
「邪竜が先にいるようなんですが?」
「あれの排除はインドラの仕事だ。そして僕の仕事はこの山を守る事。これ以上、話すことはない。早々に立ち去らないなら実力で君たちを地上に叩き落させてもらう」
これはラーマを呼んでこないといけない流れだな。それでラーマがいなくなった村をプレイヤーが守る必要が出て来るわけだ。
つまり俺たちには二つの道が用意されている。このまま押し通してラーマが村にいる状態で村の防衛をするか。ラーマを連れて来て、ガルダを説得し、村の護衛をプレイヤーが結構負担することになる。
後者なら安牌だろう。もしかしたらガルダが味方になってくれるかも知れないし、恐らくどれだけ数を揃えても村を襲う敵よりガルダのほうが圧倒的に強いと思われる。
「どうする?」
「普通ならラーマを連れて来る流れだけど、ラーマを連れて来てなんとかなる保証もないんだよね…」
「ここでラーマを連れて来るインフォが流れてくれれば確定なんだが…それをしないのがこのゲームだな」
プレイヤーを悩まして来る運営さんですね。わかります。ここでアルさんが聞いて来る。
「タクトさんはヴリトラの進化を狙っているんですよね?」
「まぁ、進化素材が出ればいいなとは思ってます」
「では、ガルダの相手は私がします。その間にタクトさんは上に行ってください」
アルさん、やる気だ。
「ちょっと待って! ガルダと敵対するの!?」
「それは不味いと思うよ?」
メルとシフォンがそう言う気持ちは分かるけど、俺の意見を言う。
「ここで戦って敵対することになるのかな?」
「え? なるんじゃないの?」
「ガルダは邪竜討伐について理解を示していたし、こっちにはインドラの依頼と言う大義名分がある。もし関係が崩れたとしてもラーマを連れてこれば結果は同じなような気がするんだけど…どう思う」
「…兄様の理論は正しいと思う。もしラーマを連れて来て、解決しないならラーマを先に連れて来ても登らせてくれないということになる」
ミライの意見にみんなが納得を示した。そして俺たちには残り時間が少ない。ここで時間を浪費するより、自分たちの力を信じてみるのもいいだろう。全員が決意を決めたことで俺を除く、みんながガルダに挑むことになった。
「俺が攻略失敗することを少しは考えるべきだと思うんだが?」
「シルフィ姫様に勝っているんだから大丈夫だよ」
その信頼がプレッシャーになっているんだよ。メル。
「話は決まったようにですね。皆さんのことが心配なら私もここに残ります。タクトは気にせず、ヴリトラと戦って来てください」
「あれ? シルフィ姫様は一緒に行くんじゃないんですか?」
「夫の邪竜討伐を邪魔するのは無粋だと思います」
『『『『さらっと妻アピールした!?』』』』
みんなが苦笑いを浮かべる。俺としてはシルフィにこう言われるともう引き下がれない。
「はぁ…それじゃあ、行ってくる。気を付けてね?」
「はい。タクトも頑張ってください」
俺たちがイチャイチャしているとアルさんがガルダの前に進む。
「私はたくさんのホークマンやハーピーと契約している召喚師のアル。彼らの神であるあなたに挑ませて貰います。レギオン召喚!」
アルさんがありったけの召喚獣を召喚する。
「確かに鳥系の召喚獣ばかりか。だけど僕には勝てないよ」
「負けると分かっていても自分たちの神の強さを知ることは成長に繋がる。違いますか?」
「なるほど…絶望する可能性もあるけど、あなたはしないと考えているわけだ。なら僕も全力で戦わないといけないけど、あいにく戦いになっても上に昇らせはしないよ」
アルさんたちが戦闘開始すると同時に俺たちは最速で上に昇ると目の前にガルダが現れた。滅茶苦茶速い!光化を発動していなかったのにスピードはそれと同等くらいに感じたぞ。
「神拳!」
「く…!」
俺は嫌な予感を感じて鋭く放たれた光の拳を手で弾いて攻撃を逸らそうとした。
「爆心!」
俺の手が拳に触れた瞬間、爆発した。エアリーから強制的に落とされた俺だがロコモコの身体で受け止めてくれた。そしてロコモコは上に行く。
「僕の拳に反応し、召喚獣も召喚師のフォローに入るのが早い。インドラが彼を選んだ理由が少しわかった気がするよ」
「はぁああ!」
「ぜぇやあああ!」
ホークマンの第五進化であるガルーダが襲い掛かる。ガルーダはガルダの別名だが、このゲームではホークマンの第五進化の名前となっていた。
それぞれ槍と剣で襲い掛かったがガルダはその攻撃を両手で掴んで止めてしまった。そして二人は一瞬で蹴飛ばされると遥か遠くまでぶっ飛ばされる。
俺もさっきの拳を受けていたら、あれ以上の事態になっていたわけだ。あの一瞬に感じた嫌な予感を正しかった。そして次々アルさんの召喚獣が襲い掛かる。
「大気ブレス!」
「遅いよ! お」
ハーピーの第五進化であるアエローが大気ブレスを放つが躱されて背後からガルダの拳が放たれると霊化で姿を消してガルダの背後から足の爪で襲い掛かる。
アエローはギリシャ神話のアルゴー船に登場するハルピュイアというハーピー三姉妹の長女の名前だ。ハーピーは特殊で第五進化が他の姉妹であるオーキュペテーとケライノーに分岐しており、アルさんは三人とも進化させており、結婚済みだ。
俺ばかり悪目立ちしているが他の召喚師も少しは結婚について注目して欲しい。みんな結婚しているんだから俺だけ幼女サモナーとか呼ばれるのは可笑しいと思う訳ですよ。
「上手いけど、まだまだ」
アエローの爪もガルダに掴まれてしまい、振り回されると下の歩ける雲に墜落した。
「「お姉様!? よくも!」」
オーキュペテーとケライノーがガルダに挑む。アエロ―は風属性の遠距離特化でオーキュペテーは雷属性のスピード特化、ケライノーは闇属性の呪い特化だ。
ケライノーが呪歌を歌うとオーキュペテーが雷化でガルダに襲い掛かる。しかし雷化で攻撃しているオーキュペテーが超加速の効果でどんどん早くなってもガルダは一歩も動くことなく攻撃を素手で防いでいた。
「僕は不快な歌は嫌いだよ。圧空拳!」
「がは!?」
ガルダが空に拳を放つと歌っていたケライノーの腹に高速の圧縮された空気の拳がめり込み、破裂すると凄まじい衝撃波でケライノーをぶっ飛ばした。ここでケライノーの呪滅封印が発動するがガルダの身体が輝くと無力化される。
「この! 荷電爪!」
「感情的な攻撃は読まれやすいからやめたほうがいい」
怒りに任せたオーキュペテーの爪の攻撃にカウンターの拳が決まり、ぶっ飛ばされる。これで全くガルダは本気を出していないことがはっきりとわかる。
そして再び抜けようとした俺がガルダに狙われる。
「鳥人技! レールブロー!」
レイブンの第五進化であるグルルがレールガンの速度で放ったパンチがガルダを襲う。グルルはスリランカに登場するガルダでこちらのガルダは悪魔化されている。スリランカではインドに悪鬼ラクシャーサが住んでいると考えられており、その結果がガルダの悪魔化に繋がっているらしい。
この攻撃は流石にガルダも躱す。更にシフォン、メル、アーレイ、ミランダ、リサ、ブルーフリーダムのメンバーが続く。
「これはちょっと本気を出そうかな」
ガルダがそういうと全員の腹にガルダの拳が決まって、全員がほぼ同時にぶっ飛ばされる。
「がは…うそ…一撃でオリハルコンの鎧にひびが入っているよ!?」
こんなことは今までで経験したことがない。これがヴィシュヌが感動したとまで言われるガルダの実力。数多くのインド神話の神を打ち倒し、インドラの百倍強いと言われているだけはある。正直今まで戦って来た魔神や神の中では断トツに強く感じる。
そのガルダが再び俺を狙ってくる。
「封印石召喚! タクトを守って下さい! 麒麟!」
「任せよ!」
麒麟の障壁がガルダの拳を止めた。
「む…流石にこれを壊すのはちょっと大変かな?」
ちょっとなんだね。これでもアンラ・マンユの一撃を暫く止めていたほどの障壁だ。それをちょっとと言われるのは流石に麒麟もカチンと来る。
「言ってくるものだな。鳥人族の神ガルダよ」
「事実を言っているだけさ。君も僕に勝てないと分かっているはずだ」
「そうだな…だが、あの者たちを先に進めさせることぐらいは出来るつもりだ。お前にも事情があるのだろうが私にも四神の頂点としてのプライドがある。悪いが諦めて貰おうか」
麒麟がそう言っている間に俺たちは上へと昇っていく。正直現時点でガルダと敵対している限り、この山の何処にいても安全な場所はない。とにかく急いで頂上に到達して、任務を終えるしかない。
俺が大急ぎで上に昇っている中、ガルダは麒麟と激突する。みんなが大苦戦しているガルダの拳を何発も防いだ麒麟だったが遂に突破されるとガルダの拳が麒麟に迫る。
しかしこの攻撃は空振りに終わると麒麟の角の突進が上空からガルダに襲い掛かり、ガルダを雲に墜落させる。
「やりました! うそ…」
一度は喜んだシルフィだったが麒麟の角を掴んだ状態で雲に立っているガルダの姿に絶望する。いや、寧ろこれほど強いガルダを雲とはいえそこに立たせた麒麟の強さが伺える。
だが、角を掴まれてしまった麒麟は電弧放電を使用するがその状態のまま振り回されて、シルフィに向かって投げ飛ばされる。このガードにウェルシュドラゴンとジルニトラが動いた一瞬の隙にガルダはシルフィの目の前に現れる。
「あ…」
「終わりだ」
ガルダの拳が放たれるとタラスクの多重障壁がシルフィを守り、タラスクのドラゴンテイルが襲い掛かる。それをガルダは受け止めるとタラスクを尻尾を上に上げただけでタラスクの巨体が空高く飛んでしまう。
それを見たロードガーゴイルがドリルランスで攻撃するがこれも拳で止められるとロードガーゴイルの腹に蹴りが炸裂し、ぶっ飛ばされる。
シルフィのピンチを感じ取ったウェルシュドラゴンとジルニトラがガルダに襲い掛かろうとすると既にガルダは凶悪な拳を二人の方に向けていた。
「大気震!」
シルフィの召喚獣が一瞬の間にシルフィの前から姿を消してしまう。それでもシルフィは杖をガルダに構えるとガルダはシルフィに容赦なくパンチを放って、ぶっ飛ばすと麒麟の姿が消える。
「さて、どうしたものかな…今からでも彼の後を追って倒すべきか」
「「「「英雄技! ブレイブヒーロー!」」」」
「マリッジバースト!」
英雄の力を宿したメルたちとハルピュイア三姉妹と女性のガルーダとグルルのマリッジバーストを使用したボーナスが発生するマリッジバーストを使用したアルさんがガルダの前に立ち塞がる。
「悪いけど、私たちの相手をしてもらうよ」
「やれやれ。ここまでされると相手せざるを得ないかな?」
こうしてみんなとガルダの戦闘は更に激化するのだった。
全部書くか悩みましたが今回の戦闘はインドラの依頼を達成した時点で終了する戦闘になりますので、ここで終わらせて貰います。




