#1200 タクトVSアーレイ
決闘は俺のホームの地下の訓練場で行われる事にした。リリーたちも入ったり、聞いたりすることはきつく禁止して審判はシルフィが担当することになった。これはアーレイの希望だ。確かにこの決闘の見守り人としてシルフィが一番適任だろう。
サラ姫様には流石にアーレイも見られたくないだろうし、かといってアーレイの心理から言うと誰かにこの戦いを見て欲しい。流石に妹のアンリ姫様やグラン国王に頼むことが出来ないと考えるとシルフィと考えるのは結構自然だと思う。
アーレイが最初に決闘のルールを掲示する。一対一の決闘で勝敗はギブアップか撃破で決まる。装備の制限と時間制限はなしのガチ決闘だ。
俺たちが見合うとお互いに装備する。アーレイはオリハルコンの鎧にエクスカリバーとオリハルコンの炎の武器と思われる剣を装備していた。随分俺との決闘のために強化して来た物だ。
対する俺はいつもの装備に近衛に全ての魔導書を展開する。それを見たアーレイは不満そうだ。
「どうしたよ。それが全力の装備じゃないだろ? 真面目にやれよ」
「俺が一番得意な武器が刀であることは知っているだろ? これを見て、不真面目だと思うのはお前の勝手だが、俺は決闘を挑まれて、手を抜いたりはしない。安心して全力でかかって来いよ」
「へ…後悔すんなよ! タクト」
「えーっと…それじゃあ、決闘開始です!」
シルフィの合図でアーレイが飛び出して来た。対する俺は近衛を居合斬りの体勢で構える。そして俺は気配を消すとアーレイの視界から消える。だが、アーレイは側面からの俺の居合斬りを止めた。
「そのへんてこな技がいつまでも通用すると思うなよ! おらおらおら!」
色即是空は危険予知系のスキルで攻撃がどうしてもバレるからな。流石に対応されるか。まぁ、俺の本気度が少しはアーレイに伝わったと思うからよしとしよう。
俺はアーレイの連続攻撃を最小限の動きで捌く。それを見ていたシルフィは思う。
『感情的になっているアーレイさんと決闘で勝とうとしているタクトといった感じでしょうか。サラにあんなことを言われたら、そうなるのも無理はありませんがサラのためにタクトに勝ちたいならここは冷静にならないといけないところですよ。アーレイさん』
シルフィが言っている事件はテューポーンの前の午後に起きた。アーレイがサラ姫様との結婚クエストに挑んでいた時だった。アーレイは戦っている最中にサラ姫様を絶対に幸せにすると言ってしまう。その言葉を聞いたサラ姫様が本気となってアーレイは負け、倒れているアーレイにサラ姫様が言葉がこれだった。
「私はタクトのことが好きだった…お前が私を絶対に幸せにすると言うなら私からタクトを消し去るぐらい強くなってみろ」
この瞬間、アーレイは俺がどれだけサラ姫様を苦しめているのか知った。ただアーレイはシルフィ姫様と結婚した俺を否定することは出来なかった。
タクトとシルフィの結婚は知っている人間からはやっと結婚したかと思われるほどの事件だった。ただこれがサラ姫様とも結婚となるとだいぶ話が変わって来る。プレイヤーからするとそれだけ王族との結婚チャンスが無くなり、最悪の場合はタクトが姫をコンプリートする流れもあり得た。
そうなるとプレイヤーたちから不満が噴出するのは当然の流れであり、自分もその被害者になりえたからこそアーレイはタクトが一人の通常NPCのみ結婚する道を選んだことは正しいと思ったのだ。
ただ苦しそうなサラ姫様の様子を間近で見たアーレイはどうしてもタクトに対して納得いかない部分があり、タクトと決闘して一発殴れば自分が抱えている矛盾をスッキリ出来るとおもったのだった。話し合いとかそういうのを選ばなかったのはなんともアーレイらしいところだ。
喧嘩はいけないことだと俺は思う。だけど喧嘩の全てが悪だとは思っていない。このまま友達との仲がむしゃくしゃしたままでいるよりは喧嘩してすっきりさせたほうがいいことだってある。俺が両親の死で抱えきれない闇を背負った時に爺さんが戦ってくれたように今日は俺がアーレイの気持ちを受け止めるとしよう。
「俺は今日、お前に勝つ!」
「そうか…でも、そろそろこっちからもいくぞ!」
「っ!?」
俺の突きがエクスカリバーを捉える。しかしエクスカリバーを持っているアーレイは勝利の加護のせいで手から離すことが出来ず、大きくバランスを崩してしまう。
「星震!」
そこに俺の蹴りの星震が炸裂して、アーレイは壁に激突すると俺の手に星の輝きが集まるのを目撃する。
「マジかよ…くそ!」
アーレイが防御を固めようとした瞬間、転瞬で俺はアーレイの前に現れる。
「星核!」
至近距離からの星核が大爆発する。だが、ぶっ飛んだのは俺の方だった。
「はぁ…はぁ…どうだ。一発当てたぜ」
星核を絶対防御でガードして、カウンターで斬られた俺は爆心と紅炎の効果を受けた。
「良かったな」
俺の魔導書たちから一斉に魔方陣が展開される。
「させねーよ!」
アーレイが取り出したのは魔術殺しの魔導書だった。これで俺の魔法は封じられた。これはもうシフォンたちがアーレイを応援しているのは明白だな。シフォンたちの聖杯はパーティーでの管理となっているはずだ。プレイヤー一人で聖杯を使うとすぐに強化が済んでしまうからほどんどの聖杯はギルドかパーティーが管理している。
まぁ、俺もサラ姫様に酷いことをした自覚はある。シルフィとサラ姫様との決闘の話は俺にも伝わっており、散々弄られたからだ。そこで二人との結婚がプレイヤーたちに与える影響を知ってしまった。
リリーたちは俺との結婚しか出来ないシステムになっているからみんなと結婚しても誰も文句は言わなかったがシルフィとサラ姫様の場合は違うと知ってしまったのだ。
形としてサラ姫様をふってしまった俺にはサラ姫様のことでとても重い責任がある。だからこそアーレイの決闘を受けた。アーレイにはアーレイなりの事情があるんだろうが俺も責任を少しでも果たさなければいけない。
「これで魔法はもう使えないぜ!」
「雷光! ふん!」
俺は近衛を投げると雷速の近衛が魔術殺しの魔導書を貫いた。
「な!?」
その瞬間、アーレイは魔術殺しの魔導書を見てしまう。決闘中の人間から視線を逸らすのは致命的なミスだ。
「ジョルト!」
「ぐぅ!?」
俺の全体重を乗せた捻るパンチがアーレイの顔に決まる。
「調子に乗り過ぎだ」
「ぺ…だが、武器はもうねーだろう!」
「収集。神鎌鼬!」
マモングリモワールの効果で近衛を手元に戻して、攻撃する。この攻撃に辛うじて反応したアーレイはなんとか止めると後ろに下がり、オリハルコンの剣を俺に向ける。
「溶波動!」
「大海波動!」
レヴィアタングリモワールから大海波動が放たれ、溶岩と水がぶつかり合ったことで大量の水蒸気が決闘場を覆う。
「嫉妬門!」
決闘場が暗黒の世界になるとアーレイが呪いの手に拘束される。
「なるほど…確かに本気も本気だな。頼むぜ。アポロン! 神域!」
アーレイがアポロンと契約したのか。道理で炎属性の剣な訳だ。暗黒の世界がオリハルコンの剣から放たれた太陽の光によって照らされる。
「どうだ!」
「強欲門!」
「いぃ!?」
アーレイに武装創造で作られたオリハルコンの剣が降り注いだ。
「お前はギルガメシュか! はぁあああはは!」
アーレイはそれを必死に弾き飛ばしていく。こうなると隙だからだ。
「霹靂閃電!」
俺の一撃がアーレイの腕を斬り飛ばし、剣を一本失ったアーレイにオリハルコンの剣の雨が降り注ぎ、ダウンするとアーレイの身体が光となって消えると蘇生する。奇跡で蘇生したか。
「神威解放! 聖剣解放!」
アーレイが両方の剣の力を解放する。それなら俺も答えよう。
「神刀解放! 神威解放!」
決闘場で炎と雷が激突する。
「いくぞぉおお! タクト!」
「来やがれ! アーレイ!」
「炎化!」
「雷化!」
お互いの剣が激しくぶつかり合う。炎が効かない俺のほうが有利かと思ったが炎を斬った俺だが、炎が光となって、消える。光化による奇襲を受けて、攻撃を止めて、反撃するとまた光化で消える。
光化は通常連続使用が出来ない。つまりこれがアポロンの力か。厄介な能力だ。しかし俺は光化で現れるアーレイの攻撃を悉くガードする。精霊眼のお陰で光化したアーレイを視認出来ているお陰だ。それでも物凄く速いから防ぐので手一杯だ。
そして俺の雷化とアーレイの炎化が同時に切れる。
「ヒーロードライブ!」
「逆鱗!」
俺たちがまた激しくぶつかり合うと近衛が限界を迎える。
「食らいやがれ! タクト! これはサラ姫様の分だ! 伝説解放! 聖剣技! ウェルシュ・コールブランド!」
アーレイのエクスカリバーの斬撃を俺は止められず、近衛が粉々になると俺は消し飛ぶ。
「ぜぇ…ぜぇ…やった…やったぞ! お」
この瞬間、アーレイの時間が止まる。奇跡の効果で蘇生した俺はクロノスクロックで時間を止めたのだ。そして俺の手にインフィニット・エクスカリバーが現れると天に掲げる。
「伝説解放…聖剣技! インフィニット・コールブランド!」
この瞬間、時間が進む。
「れ! はぁ!? ちょ、ま!?」
咄嗟に攻撃を受けようとしたアーレイが俺の怒りの斬撃を受けて消し飛ぶ。俺がインフィニットエクスカリバーを振るとシルフィが苦笑いでコールする。
「えーっと…勝者! タクトです!」
決闘が終わると大の字で倒れているアーレイが姿を見せた。
「ちょっと待てよ。今のは酷すぎだろうが」
「お前が最初に真面目にやれと言ったんだろうが。それに俺が奇跡持ちであることも知っていたはずだし、勝者のコールも聞いていないのに喜ぶからこうなるんだよ」
「確かにそれはそうだが…なんか納得いかねー」
俺もあそこでアーレイに勝ちを譲っても良かったがそれをすると手加減になる。それにこういうのは隠すと逆に禍根になってしまう。俺としてはあそこでの全力のインフィニットエクスカリバーは正解だと思っている。それが正解だったのかアーレイの口から聞いてみよう。
「それで? スッキリしたか?」
「あぁ…なんか自分の中で色々整理が付いた気がするよ。結局俺が頑張らないといけないんだろうな」
そういうアーレイはいい顔していた。俺もシルフィとの結婚のために頑張っていた時はこんな顔していたのかな?いや、たぶんしていないな。そう思った時にこんな顔が出来るアーレイを羨ましく思った。
「ほら。この後、暗黒大陸で邪竜退治があるんだぞ」
「あぁ…そうだったな。わりぃ」
俺の手を握るとアーレイが起き上げる。それを見たシルフィが言う。
「これが男同士の友情と言う物ですか! いい物ですね~」
「おい…シルフィが変なことに目覚めそうだぞ。どうしてくれるんだよ」
「俺のせいかよ!?」
「シルフィを誘ったのはお前だろうが!」
結局決闘をした後も喧嘩する俺たちだった。シルフィがリリーたちを呼んだことで喧嘩が終わるとアーレイは準備のためにシフォンたちの元に向かう。俺がアーレイに斬られたことを知ったら、リリーたちは絶対に本気でアーレイをボコボコにするだろうから逃げて正解だ。そして決闘の話をした結果、やはり総出でアーレイをボコる案が出た。流石にこれは俺が止めました。ここでシルフィが俺に聞いていく。
「最後の一撃、物凄く本気で放ったのはなぜですか? 正直、怖いほどでした」
「近衛を壊されちゃいましたからね。流石に黙ってはいられませんでした」
「「「「えぇえええ~!?」」」」
俺と同じようにリリーたちが驚く。それだけ近衛は俺たちにとって、重要な武器だった。ここでシルフィが指摘してくれる。
「あ、でも、決闘で失った武器は元に戻りますよ」
「俺は今回、近衛を元に戻すつもりはありません」
「それはどうしてですか?」
「俺とアーレイが本気で戦った結果ですから。それを無かった事にしたくないので、これで良いんですよ」
近衛を狙っていた恋火たちには悪いけどね。俺なりの一つのけじめの取り方にさせて貰おう。
「うーん…タクトがそれでいいなら私からはこれ以上何も言えませんが、大丈夫ですか?」
「全然大丈夫じゃないですね…正直、今日はもうずっと寝ていたいです」
「ダメだよ! タクト! それじゃあ、ノワちゃんみたいになっちゃうよ!」
「そうですよ! しっかりしてください! タクトさん」
リリーとイオンにそう言われるが精神的に結構ダメージを受けたのは事実でインフィニットエクスカリバーの使用とでダブルパンチだ。
その後、シルフィはこの決闘のことをサラ姫様に報告に行った。俺は残った近衛の柄を持って、聖域の島に向かうと水樹の前に近衛のお墓を作ることにした。
「これでよしっと…許可してくれてありがとうな。水樹の精霊」
笑顔で水樹の精霊は答えてくれる。優しい精霊さんだ。そして手を叩いて供養する。
「今まで俺と一緒に戦ってくれてありがとうな」
俺はリリーたちが生産作業を終わるまでの間、温泉に入って、目を閉じる。思い出すのは近衛と戦って来た戦いの歴史。そして俺は新たに作ることになる刀を想像する。恐らく次に作る刀は俺が父さんと母さんと戦う武器になる。
リリーたちのために負けるわけにはいかず、また両親に成長した自分の姿を見せないといけない。だからこそ最強の刀をイメージしないといけない。
「うーん…ブクブクブクブク」
「沈んでいるよ!? タクト!? イ、イオンちゃーん! タクトが温泉で溺れているよー!? 助けて~!」
「えぇ!? ど、どういう状況ですか!?」
考えすぎて、水没していた。死にはしないが当然イオンには怒られました。生産が終わり、シルフィと合流した俺はギルドに向かい、暗黒大陸のタクシャカ遺跡に転移するのだった。




