#1199 ギャラクシータロスとセフィロトの精霊
楽しい土曜日の朝です。それもそのはずで予定では今日の朝にギャラクシータロスが開発完了しているはずなのだ。
朝食を済ませて、準備を終えるとゲームにログインする。すると目の前にはシルフィの寝顔があった。反対ではセチアが寝ている。我ながら随分なリア充になったものだ。さて、普通に起こすのは勿体ない気がする。
「ぷにぷにぷにぷに!」
「「痛いです!」」
二人の頬を連続で突いたら、二人からビンタされた。まぁ、普通の起こし方をしなかった俺が悪い。
「タクトは普通に女性を起こせないんですか?」
「いや、そんなことはないぞ。な?」
「はい。普通に起こすと恋人や夫婦感がないので、タクト様なりに考えているのではないでしょうか?」
今までリリーたちとは散々寝て来たからな。結婚の最初は緊張して新鮮だったけど、馴れてしまうと違いが分からなくなる気持ちは確かにある。ただこの起こし方も夫婦というより好きな女の子に悪戯したいという子供心な気がしている。
「そんなことはないと思いますけど…どうなんでしょう?」
「じゃあ、明日やってみますか」
「それは出来ないと思いますよ。今日寝るのは恋火ですから。タクト様が何かしないはずがありません」
そう言われるとする気を無くす俺である。セチアはそれを理解してたぶん言ったな。ここでシルフィがセチアと寝た俺の感想を言う。
「うーん…リリーちゃんたちとセチアさんとではちょっとタクトの反応が違う気がしますね」
「タクト様は子供には甘く、同世代には容赦がなく、年上には弱いですからね。私に弱いのは当然なんです」
「え?」
「私が年上というところに疑問を持ちましたね? タクト様」
セチアの笑顔が怖いが俺には俺の言い分がある。
「セチアは年上というかお嬢様な感じがするんだよな」
「あ、それは分かります。お上品ですよね。セチアさんは」
「む…お上品なのは大人である証拠だと思うんですが」
「それは違うな」
難しい所だけどセチアを見ていると大人っぽさとは無縁であることがよく分かる。大人っぽさとは何かを聞かれるとまだ高校生の俺には答えられない。大人になったら、答えられる日がくるのかな?
今日の午前にアーレイと決闘の約束をしている。その前にお城でご飯を食べてからヘーパイストスが待っている火山島に向かう。ここでギャラクシータロスの開発がされていたのだ。
みんなで向かうと鍛冶場に入るとそこには鋼鉄の巨人がそびえたっていた。その隣には巨大なキャノン砲と剣があった。
「これがギャラクシータロスかぁ。黒鉄の二倍くらい大きいか?」
ここでコックピットが開いて、ヘーパイストスとパンドラが顔を出した。
「完成しましたよ! タクトさん!」
「おじ様! 早く運転したい!」
「はいはい…」
パンドラからもはや俺に運転される気がないことがよくわかった。下手に外で動かすとアザトースにバレる可能性もあるから聖域の島でテストしよう。
装備を持ったギャラクシータロスを転移で運ぶ。まずは動作テスト。モンスターが出るエリアで動いて貰う。
「魔導核エンジン! 起動!」
ギャラクシータロスの目に光が宿る。そして動き出した。
「動きがゆっくりすぎ~!」
パンドラはそういうが腕の動きは巨体の割に結構速い。これだけでも結構強そうだ。
「それは仕方ないよ。パンドラ。次は武装展開テストに入ります」
両足の肩が開いて多連装ミサイルポットが展開される。どれだけミサイルを摘んでいるんだよ。更に飛行するためのバックパックからキャノン砲が現れ、肩に担ぐ形で構えられる。更にを真っ直ぐに伸ばすと手首が回転し、ドリルのようになる。それが終わると指が引っ込むとキャノン砲が現れたり、神バリアを展開したりなど武装満載だ。
これを見た俺はオリハルコンゴーレムが心配になる。出来れば超えるか同等レベルになって欲しいが難しいかな?それを決定づけるように大型のキャノン砲と大剣を構えるテストをして、武装展開テストは終わる。
「問題無し。次に飛行テストに入ります。パンドラ」
「任せて! ウイング展開! 魔導ジェット! 噴射!」
バックパックから翼が展開されると翼とバックパック、足から轟音を立てて、ギャラクシータロスが宙に浮かぶ。あれだけの質量を浮かべるのにどれだけのエネルギーが必要なのか分からないがスペースシャトルの打ち上げのような光景だった。そしてギャラクシータロスが飛んでいるとセチアが怒りの形相でやって来た。
「五月蠅いですよ! 二人とも! 新しい子が怯えてしまったじゃないですか!」
「「えぇ!?」」
「ん? 新しい子?」
「説明は後で。とにかく今すぐそれを止めて下さい! さもないと撃ち落としますよ!」
「「は、はい」」
杖を構える本気のセチアを前にして二人は着陸した。取り敢えず飛行も問題なし。残すは実戦テストだが、それはどうやらここでは出来そうに無い。というか二人はギャラクシータロスから降ろされて、セチアが説教している。
「セフィロトの木はとっても敏感な木なんです! やっと成長してくれたのに、枯れてしまったら、どう責任を取るんですか!」
「「…」」
二人が俺を見て来る。確かにここをテストの場所に選んだのは俺だな。というか一番肝心の戦闘テストが出来ていない。セチアの様子からアーレイの決闘の後に行うとするか。
「聞いているんですか! 二人とも!」
「「は、はい!」」
怒れるセチアを止められない情けない夫を許してくれ。というか怒っている妻を夫が止められないのは万国共通な気がしている俺である。しかしこのままだと時間が来てしまう。
「あぁ…セチア? セフィロトの木が成長したのか?」
「あ、はい。さっき確認したら、知恵の木と一緒に成長してました。先程の悪影響がなければ明日には実を付けてくれると思います」
セチアの攻撃はまだ続いていた。それだけ迷惑をかけたということだ。これは反省しないとな。
「それは良かった。それで新しい子というのは精霊か?」
「はい! セフィロトの木に新しい精霊が生まれましたよ! 来てください! タクト様!」
木が育って、いきなり精霊が生まれたのか。凄いな。セチアに連れて行かれると後ろでヘーパイストスたちが息を吐いていた。助ける事が出来て、何よりだ。
俺がセフィロトの木の前に行くと先にいたミールがいた。そしてセチアがセフィロトの木に行く。
「もう大丈夫ですよ。私の夫に紹介したいので、出てきてくれませんか?」
セチアが優しく話しかけるとセフィロトの木から緑色の髪をした小さな天使のような精霊が顔を出してくれた。天使と違うのは天使の輪がなく、羽が緑色に発光している所だ。非常に可愛らしい。
現れたセフィロトの木の精霊は俺の周りをぐるぐる回って、見渡すと匂いを嗅ぎ、俺の両肩に座った後に頭に乗っかり、そこから動くことが無くなった。
「やっぱりそこに落ち着くのか」
「コノハさんから代々受け継がれている場所ですからね。あら?」
セチアがそういうとセチアの頭に移動した。
「俺より気に入られたみたいだぞ」
「これはタクト様の頭のせいですよ」
自分の頭そのものに責任追及されたのは人生初だ。恐らく滅多にこんなことを言われる人はいないだろうな。
「最初の頃のブランみたいだな」
「えぇ!? ブランお姉様はこんな感じだったんですか!?」
「違います。主…変なことを言わないで下さい」
ブランとリースに呟きが聞かれて、怒られた。
「ふふ。さて、私と契約してくれますか? セフィロトの木の精霊様」
セチアが聞くとセチアの頭の上でセフィロトの木の精霊が頷き、セチアとミールにインフォが来る。
『セチアがセフィロトの木の精霊と契約しました』
『瞬間再生、魔力吸収、領域操作、回帰、楽園の加護を取得しました』
『セチアが大精霊召喚【セフィロトの精霊】を取得しました』
『ミールがセフィロトの木の精霊と契約しました』
『魔力回復、領域操作、回帰、楽園の加護を取得しました』
『ミールが植物召喚【セフィロトの木】を取得しました』
無事に契約出来たことでセチアとミールが感謝を言うとセフィロトの木の精霊はセフィロトの木に笑顔で帰った。
領域操作は領域支配の下位スキルだ。領域系のスキルの完全な妨害までは出来ないが拡大する領域を遅らせる力があるらしい。今まで上書きする以外に対処法がなかったスキルだからこれは結構いい兆しな気がする。マリッジバーストを使えば領域支配になる可能性もあるからね。
そんなことを考えていた俺だったが召喚されるセフィロトの精霊とセフィロトの木の効果が領域支配だった。しかも自分を中心にした周囲を安全エリアにしてしまうというチート級の能力であることが判明する。
これでセフィロトの精霊がいる周囲とセフィロトの木がある周囲では攻撃のダメージが通らず、一方的な攻撃が可能になった。弱点は召喚時間の短さだったが半分周囲にいる者を無敵化状態にするようなスキルなので時間の短さはしょうがない制限だろう。
ここで時間を確認するともうすぐアーレイとの約束の時間なのでウォーミングアップとしてダーレーと千影、リース、ブラン、ルーナの順番で戦ってインフォが来る。
『ブランの二刀流のレベルが20に到達しました。二刀流【デュアルスプラッシュ】を取得しました』
『ダーレーの蹴り技のレベルが30に到達しました。蹴り技【踵落とし】を取得しました』
『ルーナの二刀流のレベルが15に到達しました。二刀流【カウンタークロス】を取得しました』
『千影の太刀のレベルが30に到達しました。太刀【燕飛】を取得しました』
訓練が終わったことでみんなが文句を言う。
「だー! 負けたー! 剣じゃくて槍で戦わせろよ!」
「うぅ…ごり押しされたであります…」
「はぁ…はぁ…やっぱり主様は強いです…」
「二刀流がまだ慣れていないのに容赦なさすぎです…主」
「ブランお姉様と同意見です」
この中で一番善戦したのはリースだった。神剣グラムと盾装備の組み合わせは非常にやりにくかった。さて、折角決闘したので、ちょっとだけアドバイスをしよう。
「ダーレーは剣装備だとちょっとぎこちなくなっていたな。武器は違っても戦闘スタイルまで変える必要は無いんだぞ。霸王戟を使う時の様にもっと荒々しく戦った方がいいんじゃないか?」
「う…確かに隙が無いように構えてたが…それが逆に消極的になっちまっていたのか。けどよ。大振りしていたら、斬られるだろ?」
「そうだな。槍と違って、剣の大振りはカウンターの格好の的だ。それでも大振りすると言うならダメージ覚悟で自分が受けたダメージよりももっと痛い攻撃をお前に与えてやると言う覚悟が必要になって来る。後は格闘戦での対処だな。ダーレーの場合だと両手持ちより片手持ちのほうがいいんじゃないかな? カウンターの剣を殴るとか普通に出来るだろう?」
これを聞いたダーレーは早速練習をする。片手で剣を回して跳びかかるアクションをしていた。こういう勉強熱心な所が誇らしく思えて来るんだよね。さて、次は千影の戦闘だ。
「千影はまだまだ全部の武器を使いこなせていない感じだな。いざという時に頼る武器をもっと明確にしておいた方がいいぞ。千影の場合だと原初海竜の太刀と如意金剛錫杖の扱いが手馴れている感じがしたかな?」
「相変わらず鋭いでありますね。この二つの武器を軸に戦闘を組み立てる…ぶつぶつぶつ」
考え込んでしまった。千影とはもっと訓練をしたほうがいいかも知れないな。次はリースに指摘をする。
「リースは守りの意識が強すぎだったな…俺が相手なのが原因なのかもしれないがもっと神剣グラムを信じてやってもいいんじゃないか?」
「信じているつもりなのですが」
「あぁ…ちょっと難しいけど、信じると頼るは違うからな?」
リースがギクッとした。リースの場合だと神剣グラムを持っているから大丈夫だと自分に言い聞かせているのが物凄く強く感じた。それは神剣グラムを信じているから来る安心なのだが、残念なことにそれは甘えでもある。
俺はリースの頭を撫でる。
「リースはこれだけ俺と戦えるほどに強いんだ。もっと自分の実力を信じて、神剣グラムと共に戦ってくれ」
「主様…頑張ってみます!」
「うん。いい返事だ」
リースにはちょっと早いとも思ったけど、リースの進化も恐らく近いからまだ進化してしない今のうちに指摘しておきたかった。こういう気持ちの面で強くなるのは弱いうちにしか出来ないことだからね。リースが進化を迎えた時が楽しみだ。
次のブランとルーナは剣の突きについて説明する。
「剣で突きが放たれた場合は後ろに下がって、攻撃範囲から逃げてからのカウンターか躱してカウンターが有効だ。何故だかわかるか?」
「次への攻撃がしにくいからでしょうか?」
「正解。性格にいうと次の攻撃をするためには必ず一拍遅れるのが突きという攻撃だ」
実演するとよくわかるが突きをすると必ず腕と剣が真っすぐな状態になる。この状態から連続攻撃するためには手首を使うしかない。そして手首のみの力で攻撃しても大した力は咥えることが出来ないのが突きが終わった体制だ。
その為、突きが終わった後は腕か身体か後ろに引くか前に出るかしないといけない。突きの攻撃する速度も重要だが、この引くか前に出る速さが突きを放った際の攻撃と防御の質を決める。
「ただこの話は剣が一本だった場合の話だ。二本あると俺がさっき見せたように片方が引いている間にもう一方で攻撃出来る。こうなると突きのカウンターを狙うのは難しくなる。じゃあ、どうすればいいと思う? ルーナ」
「えーっと…剣を一本にする?」
「合ってるぞ。放たれた突きを後ろに下がって、躱したところで剣を弾けば次の突きへのカウンターは成立する。ここで受けてしまうとずっと連続攻撃されて、さっきみたいに弾かれるから注意するようにな。後、自分が突きを放った側の場合は弾かれた時点で後ろに下がって、距離を取るように。剣を失うのは痛いがそこは冷静に考えるようにしてくれ」
「「「「わかりました」」」」
いつの間にかイオンたちまで生徒に加わっていたがみんな共通に言える事だし、共有しておいていいだろう。それじゃあ、アーレイとの約束の決闘に向かうとしますか。




