#1186 黄泉の国
出雲大社に転移した俺はクシナダヒメに要件を伝えると黄泉の国の入り口に案内して貰えた。
「ここが黄泉穴と呼ばれている洞窟です。この奧に常世の門があり、そこから先は桜花の冥界となります」
「道案内ありがとうございます」
「いえいえ。ご武運を」
桜花の冥界に挑むメンバーはリビナ、和狐、伊雪、ハーベラス、リースにした。するとリースは不安そうだ。
「初めての冥界なんですよね? 私でいいんでしょうか?」
「俺が選んだんだから良いんだよ。それに行く前にこれをリースに託すことにするよ。俺がジークフリードさんに託され、オーディンに復活させて貰った剣だ」
「神剣グラム…本当にいいんですか?」
「あぁ…俺の戦いを長い間支えてくれた大切な剣だ。きっとリースの力になってくれるはずだよ」
「そこは疑いませんけど…頑張って使いこなして見ます!」
不安は無くなったみたいだけど、今度はプレッシャーを感じているな。オーディンの剣だからそれも当然かも知れない。すると伊雪が言う。
「私がフォローについてもいいですか? お父さん」
「そうだな。頼む。先頭はハーベラス。中堅はリビナ、伊吹、リース。後衛は俺と和狐で行こう」
洞窟に入ると道を塞ぐ門が現れた。常世の鍵を使って、門を開くと下に降りる階段があった。ここからが桜花の冥界、黄泉の国だ。俺たちは長い階段を降りて行くと平らな地面の場所に出た。するとハーベラスが唸り声を出し、敵の出現を知らせてくれる。
黄泉軍Lv70
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
イザナギを追いかけました悪霊たちだ。このゲームでは鬼らしいが普通の鬼と違って、身体がドロドロに溶けている鬼だった。レベルによって、大きさが違っており、見える範囲の最大の大きさの敵のレベルがこれだった。
「「「ガァアアアア!」」」
最初にハーベラスが彼らに噛み付くとハーベラスの口から煙が発生する。
「「「キャウン!?」」」
ハーベラスが引くと顔の周りは焼きただれており、腐蝕と呪い、火傷の状態異常になっていた。
「「「「アァアアアアア~!」」」」
うん。見た目はゾンビ化した鬼だな。これ。
「あぁ…これはボクは相性悪いかも…魔法で支援に回るね」
「それじゃあ、俺が交代するか。頼むな。伊雪、リース」
「「はい!」」
俺と伊雪が前線で戦うとこいつらの弱点がよくわかった。恐らく破邪が物凄く突き刺さっている。やはり天逆鉾を装備させた伊雪を選んで良かった。イザナミとイザナギの武器だからね。こいつらに突き刺さるのは当然と言えた。
だが黄泉軍も普通では無かった。
「「「「アァ…アァアアアアアー!」」」」
「跳んだ!? リース! リビナ! ハーベラス!」
「神波動!」
「効いてよ! ソニックブーム!」
「「「ガァアアア!」」」
リースたちがなんとか黄泉軍を吹き飛ばして追い払ってくれた。こいつらは今、完全に和狐を狙っていた。自分たちの天敵がよくわかっているようだ。
俺たちが警戒していると目から死滅光線を撃って来た。俺はハーベラスが身体で守ってくれて、伊雪はリースがガードに回る。うん、心配無さそうだな。伊雪もリースの防御を信用して天の披帛を伸ばすと黄泉軍を捕まえて、持ち上げると黄泉軍に叩きつける。この一瞬で攻撃が止む。
「伸びよ! 太くなれ! 天逆鉾! はぁあああ!」
長く巨大化した天逆鉾が横に振られて、黄泉軍の大群が纏めて吹っ飛ばそうとしたが巨大な黄泉軍は攻撃を止めた。
「やりますね。でも甘いですよ。縮め! そして伸びよ! 天逆鉾! 神波動!」
受けていた天逆鉾が急に縮まり、黄泉軍の手から逃れるとまた伸びて槍が突き刺さった。そして天逆鉾から神波動が放たれて、でかぶつを倒した。上手いね。
ここで伊雪に道連れが発動すると伊雪の仏の加護がこれを打ち消した。
「そこまで強くないけど…」
「あぁ。やばいな」
リビナが指摘してくれたように周囲や崖まで黄泉軍に囲まれていた。これはイザナギが逃げたくなる気持ちもわかるな。
「結界で時間稼ぎするしかないな。伊雪、リース」
「はい。遮断結界!」
「わかりました! 守護結界!」
二重で結界を貼ると黄泉軍が結界に触れるとその結界の部分が溶ける。
「お父さん! この鬼たち、やばすぎます! どうやら結界に強くて神の天敵みたいです」
二柱の神と契約している俺、大ピンチ。
「結界を維持してくれ。火力で押し切るぞ! リビナ! ハーベラス!」
「オッケー!」
「「「ワン!」」」
俺たちの魔法が降り注ぐと黄泉軍の全員が起き上がる。
「あはは…タクト。こいつら、魔法効かないみたいだよ」
「禁呪を使う時間もない…とにかくスキルで吹っ飛ばして、時間を稼ぐしかないな」
「りょーかい!」
しかし魔法が封じられた俺たちは徐々に黄泉軍との距離が縮まって来た。ここで和狐の準備が整った。
「お待たせしました! 大祓い!」
和狐の大祓いが発動すると次々黄泉軍が消滅していく。極端に霊に対する攻撃に弱いことは間違いない無さそうだな。
「はぁ~…なんとかなりました。皆さんはいつもこんな冒険をしているんですか?」
「今回は結構ピンチだった部類だよ」
「そうだね。でも、タクトとの冒険はピンチあり、強敵ありが普通だと考えた方がいいよ」
「…皆さんが強い理由が少しだけ分かった気がします」
リースにはやはりきつかったかな?そう思っているとハーベラスが唸り出した。また黄泉軍が湧き出したのだ。
「えーっと…どうする? タクト」
「先に進むか。一度態勢を整えるかだな。とはいえ引き返してもそこまで状況が変わるとも思えない」
「それじゃあ、前で決まりかな?」
「だな…走って強行突破するぞ! ハーベラスは前の敵を頼む! 俺たちは走りながら、側面の敵を相手する。後ろは無視していい!」
俺たちがダッシュで黄泉の国を走っていくとどんどん黄泉軍が現れる。とんでもない世界に来てしまったものだ。その後は立ち止まっては和狐を中心に方円陣で守っては大祓いで全滅させては前に進むのを繰り返す。
「ん? タクト! あれ! あれって、建物じゃない?」
リビナが見つけたのは巨大な丸太が何本も刺さっている砦のようだった。
「冥界にこんなものがあるなんて怪しさ満点だが、行くしかなさそうだな。和狐、もう少し頑張れるか?」
「もちろんどす」
俺たちが謎の砦に近付くと黄泉軍の大群が急に近づいてこなくなった。ここで戦闘終了のインフォが来た。しんどい戦闘が終わってくれたのはありがたい気持ちだが、疑惑が残っている。
「なんだ?」
「ここには近づけない感じみたいだね」
「冥界に安全な場所があるなんて聞いたことが無いんだけどな…えーっと…向こうにも道があって、ここが合流地点になっているかんじなのか」
恐らくこの別ルートはツクヨミのルートだな。
「一応ここにワープポイントを設置してくれ」
「はーいっと。出来たよ」
「ここだけ調べて終わりだな。ごめんくださ~い。誰かいますか?」
俺がそういうと門が開いたが返事もなければ人影も無い。
「なんかさ。滅茶苦茶怪しくない?」
「はい…彼らがここに近付かないことも気になります」
「戦闘があると思って、行くしかないな」
中に入ると木造の家がいくつかあった。リビナが堂々と家の中を探るが何もなかったらしい。そして砦の最奥には大きな平屋のお屋敷みたいな家があった。さて、何が来るかな?




