#1174 リリーとリアンのオリハルコンの鎧
翌朝、ちょっと早めに起きた俺は学校に行く前にゲームにログインするとシルフィの寝顔がそこにはあった。今こそ昨日の結婚式の仕返しをする時だ。俺が簡単に水に流すと思ったら、大間違いなのだよ。
頬をつつくと身もだえしてからシルフィは目を醒ます。
「おはよう」
「おはようごらいます…タクト様」
「様はなしですよ」
「…そうれした…ふぇ? っ!?」
シルフィと見つめ合うとシルフィが飛び起きると顔を真っ赤にした。その顔を見たかった。
「え? え? どうして? いつものこの時間は夕方まで起きないはず」
やはりリリーたちと同じように俺の生活サイクルをシルフィも分かっていたんだな。それを見越しての完全な不意打ちに成功した。
「じゃ、俺はまた寝ますね」
「え? ちょっと!? タクト様! じゃなかった。タ、タクト…あ。き、昨日の結婚式の仕返しをしましたね!」
バレた。ログアウトボタンを押して、逃げた俺は意気揚々と学校に向かうのだった。そして学校では海斗たちがシルフィとの結婚を知っていた。どうやらフリーティアのプレイヤーには全員にインフォでお知らせが入ったみたいだ。
「俺もお前に続くぜ!」
「誰か狙っていたのか?」
「もちろんサラ姫様だよ。そうはいっても一度ぼろ負けしたけどな」
これは以外だ。でも、考えてみるとサラ姫様とアーレイはなんとなく合う気がする。それを伝えるとアーレイはドヤ顔で言う。
「だろ?」
「誠吾が言っているのはしっかり者の姫とダメな騎士だからバランスが取れていると言っているのよ」
「なぜわかった」
「私もそう思うから」
なら分かって当然だな。ここで姫委員長がここであることに気が付いて衝撃的な事実を言う。
「今気が付いたけど、もし海斗君がサラ姫様と結婚したら、海斗君は誠吾君の弟になるね」
「え…」
「ボールペンを落とすな! それにその顔なんだ! かつてないほど嫌な顔をするな!」
海斗のこともそうだがレッカもアンリ姫様との結婚を狙っているからこの二人が弟になることを考えてとんでもない嫌な顔をしてしまった。
「レッカ君ってそんなに嫌な人なの?」
「仲間思いのいい奴なんだが、海斗と結託して俺に何かせがんで来そう…」
まぁ、その時はその時で何か考えるか。毒や呪いの武器をあげるのはバレそうだから鑑定されても分からない新しい罠を考えよう。
そんな罠を考えて学校を終えた俺はスーパーで買い物してから家に帰って、ゲームにログインするとシルフィが笑顔で待っていた。
「やっと起きましたね!」
「顔に落書きでもしましたか?」
「…」
どうやら正解してしまったようだ。まぁ、寝ている時に出来る悪戯なんて少ないからね。
「はい。また俺の勝ち~」
「勝ちってなんですか! 勝負なんてしませんし! しかもまたまでつけましたね!」
シルフィに頭を叩かれるが可愛い物だ。新婚とは思えないが俺たちはなんというかこれでいいと思う。そして顔を洗った俺はせっかくなのでお城でご飯を頂く。俺だけでなくリリーたちの分まで無料だった。
これが権力というものだが、これが国民の税金だと考えると申し訳なさすぎるから食費はなるべく俺が負担しよう。それくらいの余裕はあるからね。しかもリリーたちは食べはするが俺の様子を伺っている。
「口に合いませんか?」
お城の料理長が不安げだ。リリーたちからすると俺の料理を食べたいからのリアクションなんだろうがここはフォローしよう。
「夜に大きな戦いがありますからどれだけ食べるべきか困っているんですよ」
「あぁ…料理バフですか。そういう事ならこちらも量など考えないといけませんね」
流石は王たちの健康を支えてきた料理長だ。すぐに理解して、どうするべきか答えを出すのが速いのは凄いね。ここで一緒に食べていたシルフィたちが聞いて来る。
「一応国民には避難警報を出すことでいいんですよね?」
「はい。特に海岸に近い場所を中心に避難させてください。ただ他の場所が安全だとは限りませんけどね」
「今回の戦いは魔王同盟は動かないんですよね?」
「テューポーンは魔王でも魔神でもありませんからね。それでも参戦してくれる人はたくさんいますから大丈夫ですよ」
国として動かなくてもプレイヤーからするとレベル上げのチャンスだから参加したい人はたくさんいる。というかここでテューポーン討伐をフリーティア勢力だけで討伐したら、レベル差はもう目が付けられないものになると考えられている。
因みにフリーティア勢力の中に俺たちは含まれていない。それだけ俺たちとメルたちの間にレベル差があることを意味していた。アテナとスサノオとの戦いにシルフィとのクエストで完全に置き去りにした形だ。
今回の戦いでは国として参戦するのはフリーティアのみ。ただエリクサーラピスとワントワークはこの後のアザトース戦の準備をしてもらっている。エリクサーラピスは武器と爆薬の生産にワントワークは宇宙戦闘用のノアズ・アークの艦隊を生産しているから彼らに援軍は頼めない。
桜花はティアマト戦でのダメージがまだ癒えておらず参戦出来ない。そして他の国はライヒと魏を警戒している。諸葛亮の話ではサタンの混乱に乗じて動いて来ても不思議ではないそうだ。そんな状況で国が部隊を出せば、その隙を狙われる。ただこれは諸葛亮の計略の可能性もある。自分たちが参加しない理由作りにライヒと曹操を利用した可能性もあるからだ。
まぁ、国は国同士で睨み合ってくれていればいい。テューポーンで被害を受けたフリーティアを狙うというならサタンを潰す前に喧嘩を売った国は即刻潰させて貰う。人間同士で戦っている時間など俺たちにはないのだ。
そんな中、パラディンロードからは俺たちと関わりが深いランスロットとモルドレッドに加えて、ガラハッドとケイが参戦してくれるそうだ。ガウェインは戦いが夜な上に嵐の具現とも言えるテューポーン相手では恐らく役立たずになるだろう。自分とトリスタンとマーリンはパラディンロードの防衛で動かせなかったんだろうね。それでも特に強い円卓の騎士四人を参戦させてくれたことに感謝したい。
ウィザードオーブからはスカアハ師匠が参戦してくれる。なまった身体を動かしたいとか言っているようだけど、妹が心配なんだろう。クーフーリンは参戦したがっていたらしいが部隊長なので却下された。
フリーティアからはオイフェとレギン、ジャンヌにフリーティアの三姫とガルーさんを除く戦力が集結する。こうなるとフリーティアは手薄になりそうだが、ダルタニャンたちに声掛けして警戒して貰う手筈になっている。
「「「「ご馳走様でした!」」」」
リリーたちがちゃんとそう言うと料理長は嬉しそうだ。騎士とか忙しくてそういうことを言ってくれないらしい。
「それはいけませんね。ちょっと訓練を」
「昨日の事を根に持っていますよね!?」
「そんなことよりもタク。新しい防具がむぐ!?」
「ちょっと失礼しまーす」
俺の肩に手を置かれる。振り返ると笑顔のシルフィがいた。
「妻に秘密はダメですよ? 新しい装備が出来たなら一緒に見るべきです」
そんなわけでシルフィも一緒に防具を確認することになった。俺は今、バイト先の店長たちが言っていた結婚したら、自由がないという言葉を思い出している。しかしここで負けてはニヤニヤしているリリーたちにまで悪影響が出てしまう。日本男子の心意気見せてやるぜ!
「妻に歯向かわないことが夫婦円満の秘訣だぞ」
「…はい」
グラン国王に滅茶苦茶しみじみ言われたら、新婚の俺にはどうすることも出来なかった。そんなわけで初めて城で新作の装備をお披露目する。
「こんな大勢の前で出すのか!?」
「ユウェルがシルフィの前で新しい防具の話をしたからだ。我慢してくれ。師匠も連帯責任だ」
「緊張しますが…大丈夫です! 自信作ですから!」
最初に自信満々のヘーパイストスが出したのが一発の巨大な砲弾だった。
ケラウノス・キャノンボール:レア度10 通常アイテム 品質S+
攻撃力:30000 使用回数1回
効果:大物殺し、不死殺し、万物貫通、透過、炎上、封殺、電磁場、大雷霆、核爆、防御無効、耐久無効、加護無効
ウラン鉱石と爆心石の効果で敵に命中した瞬間、核爆発と共に電磁場が発生することで敵の動きを封じながら特大の無数の雷で感電死させる怪物専用の殲滅兵器。砲弾の中にはサマエルの封印釘とダマスカス鋼、アダマントの破片も仕込まれており、核爆発の衝撃で飛び出す仕組みになっている。
これがヘーパイストスたちが考えた現状で一番効果があると考えた兵器か。説明からどれだけ非人道的兵器なのかわかるな。
「これをノアズ・スクナの主砲に装填して撃ち出します。どこまでの効果があるかは分かりませんがやれるだけの事はやったつもりです」
「あぁ…ありがとな。後はこれをどうやって当てるかだな」
「はい…躱されても外しても終わりですし、撃ち落とされたら、最悪味方にも被害が出ます。後は制御が非常に難しいので、僕が船に乗る事になります」
完全にテューポーンに狙われるフラグだ。
「そこら辺の安全対策も考えないとな。どの破片も核爆発の勢いで飛んで来たら、即死しかねない」
実際に原子爆発の衝撃でガラスが体に刺さってしまった人がいたらしいからこの兵器はその再現になってしまうだろう。絶対に人に被害を出してはいけない。普通に考えるなら洞窟や地面に逃げるしかないな。この辺りの作戦はルインさんたちに任せよう。
ヘーパイストスにサバ缶さんたちのところに送り届けることを頼むといよいよユウェルとパンドラの防具を出す。
「こ、これです!」
「です?」
「う、五月蠅いぞ! タク!」
ユウェルがリリーの鎧を出すとみんなから感嘆の声が上がるとユウェルは俺の後ろに隠れて丸くなる。強くなってもこういうのは苦手らしい。
「じゃーん!」
逆に人に物怖じしないのはパンドラだった。性格でここまで違うのは面白いね。それじゃあ、二人の鎧を鑑定した結果がこちら。
神鎧エリザベスコスモス:レア度10 魔法鎧 品質S+
重さ:10 耐久値:10000 防御力:5000
魔法鎧効果:ドラゴンの防御力アップ(究)、全属性耐性、星間行動、半減、神気、竜気、神障壁、黄金障壁、神鎧、堅固、衝撃無効、絶対防御、神バリア、多重障壁、光吸収、後光、聖療、全反射、乱反射、瞬間再生、復活、烈日、陽光、光化、全滑走、精霊結界、環境無効、武器破壊、妨害無効、魔法無効、原初の加護、神の加護、地竜の加護
宝玉効果:全属性アップ(究)、魔法再時間短縮(究)、魔力超回復、天候支配、炎熱支配、物理支配、海流支配、粒子支配、魔素支配、時空支配、宝玉解放、宝玉全解放
刻印効果:無限のルーン、超加速、格納
オリハルコンとドラゴンメタル、原初の砂の合金と胸には守護精石を中心に最高級の宝石が装飾されており、内側にはゴッドウールで作られた究極の魔法鎧。全てのダメージを半減させてしまう能力があり、魔法に対しては攻撃を受け付けない。更に地竜の力で武器に対しても圧倒的な防御力を誇っている。
神鎧アステリズムオーシャン:レア度10 魔法鎧 品質S+
重さ:10 耐久値:10000 防御力:5000
魔法鎧効果:回転角、全属性耐性、星間行動、半減、神気、神障壁、黄金障壁、神鎧、堅固、衝撃無効、絶対防御、神バリア、多重障壁、光吸収、後光、聖療、全反射、乱反射、倍反射、拡散光線、星虹、瞬間再生、復活、烈日、陽光、光化、全滑走、土潜伏、精霊結界、環境無効、妨害無効、魔法無効、起死回生、原初の加護、神の加護
宝玉効果:全属性アップ(究)、魔法再時間短縮(究)、魔力超回復、天候支配、炎熱支配、物理支配、海流支配、粒子支配、魔素支配、時空支配、宝玉解放、宝玉全解放
刻印効果:無限のルーン、超加速、格納
オリハルコンと原初の砂の合金と胸には守護精石を中心に最高級の宝石が装飾されており、内側にはゴッドウールで作られた人魚専用に作られた究極の魔法鎧。鎧の兜には海神馬の角があり、地中に潜ることも可能になっている。守護精霊が宿っている鎧で魔法や属性のスキルを倍にして相手に反射する能力がある。
エリザベスはエリザベス女王を意識する人が多いと思うのが実はエリザベスの愛称で呼ぶときに使われる言葉がリリーだったりする。これはリリーの名前を付けた後に知った事だが、リリーの最高の装備が出て来た時にいつか使おうと思っていた。
リアンの鎧に使ったアステリズムは星群という宇宙用語だ。俺も星座との違いについては専門的過ぎて上手く説明出来ないがおおぐま座が星群に入ることは知っている。
装備した自分の姿を確信してから聞いて来る。
「どう? タクト?」
「どうですか? 先輩」
「二人共更に綺麗で凛々しくなったな。召喚師として鼻が高いぞ」
「「えへへー」」
二人のご満悦な笑顔を見てから素早く話題を変えようと考えていたが先手を取られる。
「とても素敵な鎧ですね。タクト」
「あぁ。これがあればさぞかし我々の命の安全は飛躍的に上がるんだろうな」
アーレイやレッカの前にシルフィとサラ姫を警戒するべきだったか。完全に狙っている。そしてグラン国王たちは助けてくれることはない。騎士たちに至っては自分たちも装備出来るかもしれないという期待の眼差しで見ている。
「えーっと…まだ俺の召喚獣たちの装備があるので」
「リリーちゃんたちは既に防具があるのに貰ってますよね?」
「いえ、チェスとかはなくてですね」
「私は貰えるならいつでも構わないがシルフィお姉様はお前の冒険に同行するんだ。そこら辺を考えてくれ」
サラ姫にそんなことを言われたら、考えるしかない。というわけでシルフィの鎧はパンドラが担当する。サラ姫様の分はふってしまった俺が上げるのは未練があるようでなんか嫌だ。アーレイが本当にサラ姫様と結婚するというならさぞ立派なオリハルコンの鎧をプレゼントするはずなので本当に悪いと思うがスルーしよう。
「任せて! でも、一つお願いがあるんだよ」
「なんですか?」
「さっきお父さんが言っていた船にパンドラも乗りたい!」
これは予想外のお願いが来た。理由を聞いてみた。
「凄く嫌な予感がするとしか言えない…でもでも! パンドラはこの船に乗らないと行けない気が凄くしているの! だからお願い! おじ様!」
ヘーパイストスの命の危機を感じ取っているんだろうな。その目には確かな覚悟があった。ヘーパイストスは反対するだろうがなんとか説得するか。
「分かった。お父さんに一緒に話してみようか。パンドラ」
「いいの!? ありがとう! おじ様!」
「いいんですか?」
「今回はパンドラの気持ちを尊重することにしました。パンドラはあまり我儘を言いません。そのパンドラがあそこまで決意を持って、懇願して来たら、無下には出来ませんよ」
それにこれはきっと何かのフラグだろう。それを加味して作戦を考え直さないと行けない。パンドラの発言からして、まず間違いなくヘーパイストスが狙われる。それならノアズ・スクナの守りには俺が付こう。仲間を殺させたくはないし、これならヘーパイストスも納得して貰えると思いたい。
ただ俺たちの最大の切り札である竜化は暫く使えない。あの時は仲間の力を信じて使ってしまったがヘーパイストスとパンドラの命に関わる状況になった今では後悔してしまう判断だな。いや、俺は召喚師だ。仲間の力を信じるとしよう。
決意を固めたところで残りの依頼をする。チェスの鎧をユウェルたちに頼んでヘーパイストスにはタロスの完成を頼んだ。ここで結婚した者と行ける範囲について質問する。
「どこにでも行けるはずですよ」
「それは天界などにもですか? 試練があったりするはずですが」
「結婚した相手が突破しているなら受けずにいいはずです」
結婚したNPCにはゆるゆるの運営だな。しかしそういう事ならアラネアと伊雪にシルフィのコートを頼んだ。エデンに行けるなら攻略を手伝って貰おう。その為には寒さ対策が必要だ。
さて、次は生産作業と出来るだけのテューポーン対策と昨日分の成長と新しい魔法の確認をするとしよう。




