#1173 シルフィの結婚式
今日で連続更新は終わりです。次回からはいつも通りの更新に戻らせて貰います。
俺たちはまずお城に帰ると俺とリリーたちはシルフィ姫様の前で正座させられる。ボコボコにしたことを怒られた。
『お姫様もわたしたちをボコボコにして来たと思うのだが?』
『某も思いました』
『タクトさんも正当防衛と思ってましたよね?』
『あぁ…ただ今は負けたばかりだからさ。大目に見て上げてくれ』
何せ俺たちの完全勝利だからな。さぞかし悔しいだろう。たぶん本来のシルフィ姫様は武器や防具について、とやかく言う性格ではない。そんなの問題にしないくらいどの召喚獣も強い事がはっきりわかったからな。
それが今回、ここまで感情をむき出しになったのは、負けたからこそだろう。現役の時代から病気に伏せてしまう時間がどれほどかは知らないけど、しばらく負けていないのは間違いないからね。それが反則級の装備の数々で連敗したら、文句を言いたくもなるだろう。少なくとも俺がシルフィ姫様の立場なら文句を言う。
シルフィ姫様が落ち着いてから俺たちの竜化で何が起きたのか教えられた。
「そんなことになっていたんですね」
「ドラゴニュートのマリッジバーストからの竜化は確認されているけど、創星龍になった記録はないはずなんだ。心当たりはあるかな?」
「最近星の大精霊と契約したことと二柱の上級神と契約したことが関係していると思います」
「ルーナちゃんの星の力はそのせいですか…神の力は恐らく関係無いですね。最大の要因はノワちゃんの無限の能力だと思います。タクト様はもう気がついていますよね?」
「はい。ただ気が付いたのは最近ですけどね」
無限の文字がスキルに追加されたなら嫌でも気が付く。それに闇のドラゴニュートの中で影使いのノワが特殊なドラゴニュートであることはずっと前から分かっていたことだ。まさか無限属性に覚醒するとは思いもしなかったけどね。
「ノワ自身が何も言わないし、俺も武器でですが無限の力を使っていますから問題なしと判断していました」
俺の答えに獣魔ギルドの面々は笑顔になる。
「その判断でいいと思うわ。どんな力も正義か悪かは決めるのは使い手だもの。無限の力も例外ではないはずよ」
「一応聞いておきますが、身体に異常はありませんか?」
「…大丈夫。ただ知らない声が聞こえることがある。何を言っているかは分からないけど」
「十中八九ウロボロスドラゴンの声だろうね。現時点では大丈夫みたいだけど、なんとか出来るならした方がいいかも知れない」
カインさんたちが俺を見て来ると俺はノワの頭を撫でる。
「そいつがノワに危害を加えるというなら俺たちの敵です。どんな戦いになるかは分かりませんが戦う覚悟は決まってますよ」
俺の言葉にリリーたちも頷く。
「…みんな、ありがとう」
「あれ? ノワちゃん照れてる?」
「…照れてない」
「顔が赤いぞ? タクも見てくれ!」
俺と視線が合うとノワは俺の影に逃げ込んだ。そんなノワをみて、みんなが笑顔になる。今回の戦いで俺たちはもうフェンリル、オリハルコンゴーレム、ウロボロスの最強召喚獣の試練のレベルに到達していると確信出来た。テューポーンとの決戦にレベルの都合上間に合わないだろうが折を見て、挑まないと行けないだろう。
「ふふ。それでは私たちの結婚式をしましょうか。お父様」
「あぁ…準備をしてくれ」
「「「「は!」」」」
兵士たちが急いで結婚式の準備を始めるとすぐに準備が整う。この辺りはゲームだよな。普通全力バトルをした後に結婚式なんてしないって。
俺とシルフィ姫様は別室で準備をすると俺は特別な衣装を渡される。流石に王女との結婚だから普通の服装では確かに釣り合いが取れないだろう。とはいえ俺に王子のような服装はつくづく似合わないと思うんだよな。
「おぉ~! タクト! かっこいい!」
「これはその衣装で私たちの結婚式をやり直すしかありません」
「…イオン、しつこすぎ」
「しつこい女は嫌われるってギルドのみんなが言ってたの」
イオンが不安げに見て来たので、頭を撫でる。そういうしつこいところもイオンの良さでもある。恐らくリリーたちの中で一番の負けず嫌いはイオンだと思うからな。するとリリーが騒ぐ。
「あぁ~! イオンちゃんがタクトのその衣装最初のなでなでを取った! じゃあ、リリーは最初に抱きつく~!」
「おっと…おい。これは借り物の服なんだぞ」
「分かっているけど、タクトの一番は譲りたくないんだもん」
リリーがこんなことを言うようになりましたよ。そしてみんなもこれに続く。ここで俺はある疑問が浮かぶ。
「俺がみんなのことを愛している事は変わらないから安心してくれ。ただ俺たちの生活はどうなるんだろうな?」
お城で暮らすことになるんだろうか?島のオプションで城があったからフリーティア城で生活することになったとしても不思議じゃない。ただそうなると俺たちのホームがどうなるかが気になる。それと俺のギルドマスターの話もどうなるんだろう?立場上、王族となる訳だからギルドマスターなんてしてていいのかな?
「これはもしやギルドマスターを遂に引退か?」
「残念だけど、結婚してもギルドマスターは引退出来ないよ」
カインさんが扉から現れて教えられた。
「王族との結婚でもですか?」
「そうだよ。そもそもギルドマスターを引退するかはギルドで決めることだからさ。やめようと思えば止めれることはしっているでしょ?」
「やめさせて貰えないんですけどね…」
もうみんな強くなってきているから俺が引退してもいいと思うんだが、もうリープリングは俺がギルドマスターをしているギルドで攻略組の最強戦力に数えられている。ここで俺が止めるとサタンとの攻略に変な影響が発生しかねないから現状のままで行くしかなさそうだ。
「それはそうだろうさ。それにしても君と出会ったのがつい最近のようだけど、あっという間に抜かれてしまったね」
「そうですね。俺たちが強くなれたのは獣魔ギルドのお陰です。色々ありがとうございました」
「よしてくれよ。君たちを強くするのが僕たちの仕事さ。お礼を言われる事じゃないよ」
「それでもグレイたちと契約し、イオンたちを召喚したのは獣魔ギルドですから進化クエストもたくさん受けましたし、お礼の一つぐらい言いたくなっちゃいますよ」
「結婚式の前と言うのは結婚に至るまでの道のりを不思議と思い出させるものなのかも知れないね。おっと準備が出来たようだ。君たちは最前列でみることが出来るから行っておいで」
「「「「はーい!」」」」
リリーたちが出て行くとここで俺は重要なことに気が付いた。
「あの…結婚指輪を準備していないのですが」
「あれ? シルフィ姫様から聞いていないのかい? 指輪ならフリーティアドラゴンから新郎新婦に贈られるから必要無いんだよ」
「初耳です…焦った~」
「顔が真っ青になっていたからね。気持ちは分からないでもないけど」
準備を完了させてから結婚指輪買ってませんでした。式はキャンセルでお願いします。なんて言えるわけがない。下手したら、結婚取り消しになるレベルの大失態だ。リリーたちに見られなくてよかった。
「それじゃあ、式場に行こうか」
「はい」
カインさんに案内されて、俺がお城の式場で待っているとそこにはアーサー王などの各国の王たちや俺と付き合いがある面々が勢ぞろいしていた。この中にモッチさんや包丁をくれた人がいることが凄いことだな。
流石にプレイヤーの姿はない。急に集まれと言われてもみんな、強くなるために頑張っている最中なので、まぁ、参加は出来はしないだろう。
そして式が始まる。司会はフリーティアの第一騎士団長を勤めているガルーさんがした。
「あぁー…それではこれよりフリーティア第一王女シルフィ・フリーティアとフリーティアの英雄タクトとの結婚式を執り行う!」
オーケストラたちが演奏をする。凄い演出だな。自分の場違い感が半端じゃないです。
「それでは新婦シルフィ・フリーティアの入場です。皆さま、拍手でお迎えください」
扉が開いてウェディングドレスに身を包んだシルフィ姫様が姿を見せた。その姿を見た誰もが拍手しないほどに見惚れていた。そして父親であるグラン国王に引かれて、俺の所に歩き出す。それをみていた俺はもし両親が生きていたら、今の俺をどう見ているのか気になった。
いや、生きていて恐らくこの式も見ているんだけどさ。その証拠に爺さんが紛れ込んでいることに気が付いた。しかもわざとらしくタキシードを着て、カメラで撮影までしている。するとカメラを下した爺さんの顔はとても穏やかな顔をしていた。きっと死ぬ前に俺の結婚式を見て見たかったのだろう。この気持ちは恐らく両親が一番強いはずだ。だからどこかに紛れ込んでいても不思議じゃない。
ただここで下手に探してきょろきょろしていたら、リリーたちのように醜態を晒すことになる。大人しくシルフィ姫様のみ見つめてその姿を目に焼き付ける事にした。そしてグラン国王が俺に言う。
「娘を幸せにしてやってくれ」
「はい」
正直全く自信がない。何せ世界終焉のタイムリミットが迫る中で言われる事じゃないからな。それでも最善を尽くすことを俺はグラン国王様に誓う。その後はいつも通りの流れで進んで指輪の交換のところからいつもと違った。
「我が国を守りし、守護竜フリーティアドラゴンから贈られし、指輪の交換です」
最初に俺からシルフィ姫様に指輪を付けられてから俺も付けると衝撃的な言葉を聞く。
「それでは最後に誓いの抱擁から熱く口づけをしてください」
「へ?」
これって抱きしめて口にキスしろってことだよね?こんなの聞いてない。
「ふふ」
シルフィ姫様が悪戯成功といわんばかりに笑う。完全に隠してたな。そんなんだから結婚指輪の話とか忘れるんだよ!俺のポカンとした様子を見たリリーたちはタッチで喜び合っていた。これはミスと言うか完全に罠にはめただろう!
「時間がないですよ? タクト様。それとも私からしましょうか?」
「そんな格好悪いことさせられるわけないでしょ…」
俺が抱き寄せるとシルフィ姫様が目を瞑ってくれて、俺はシルフィ姫様の口にそっとキスをした。たぶんファーストキスです。
「ん」
「ん」
お互いに顔を離すと皆から盛大な拍手が贈られているなか、リリーたちが口をポカンと開けているのが印象的だった。恐らくキスなんて初めて見ただろうからこれから荒れそうな気がする。ここでインフォが来る。
『特殊クエスト『シルフィ姫の結婚式』をクリアしました』
『称号『王族との結婚者』を獲得しました』
称号『王族との結婚者』
効果:王が使えるスキルの解放、全ステータス+50
王族と結婚した者に贈られる称号。
王が使えるスキルの解放というのは王撃や魔王技と同系統の王技というものがあるらしい。まぁ、これは現時点では取る気はない。ぶっちゃけ神撃や神技のほうが強いからだ。
こうして無事に結婚式が終わり、披露宴パーティーが開かれて、アーサー王たちから祝いの言葉を貰う。残念ながら結婚祝い品は無し。たくさん財宝持っているのにケチだよね。
リリーたちは披露宴パーティーの準備中に俺とシルフィ姫様に詰め寄って来た。
「「「「どうして口に出来たの!?」」」」
「えーっと…誓いのキスのことでしょうか?」
「そうだよ! リリーたちが何度もしようとしていたのにいつも変な壁に邪魔されていて、シルフィ姫様だけタクトと出来るなんてズルい~!」
キスや胸を揉むとかはセキュリティーで禁止されているから俺も今回のキスには驚いた。結婚式の時の様に同意の上ならセキュリティーは解除されるようだ。この情報、知らなかったからシャローさんも俺と同じ目にあっていただろうな。
リリーたちの言い分は理解出来たが気になることを言ったな。
「何度もしようとしたというのはどういうことだ? 記憶にないぞ」
「それは…むぐ!?」
「なんでもありませんよ? それよりも話を逸らそうとしないでください。タクトさん」
「話を逸らそうとしているのはそっちだろう。俺が寝ている間に何をしているんだよ。怖くなったぞ」
リリーたちが俺に気付かれずに何かする隙はそこにしかない。これは俺が知らないことだが、謎の壁に邪魔されたリリーたちはなんとか壊そうと俺の顔面に尻尾などで攻撃していた。家の中なので保護されていたがイオンたちは俺にこのことを知られるわけにはいかなかった。ほぼ間違いなく俺からの反撃があるからだ。
その後、同意の上でも召喚獣とのキスは禁止されていることが判明し、リリーたちは披露宴パーティーの料理やウェディングケーキをやけ食いして機嫌を直す。召喚獣たち用の巨大ウェディングケーキは圧巻でした。
こうして披露宴パーティーは終わるのだが、ここで表に出さなかった結婚式での怒りが爆発する。
「えーっと…タクト? リリーは怒っているタクトを見たくないな~」
「俺は全然怒っていないぞ? リリー。ただもう料理を作りたく無くなっただけだ。城で暮らすなら俺が作る必要は無いもんな」
「「「「めちゃくちゃ怒っている…」」」」
ここでサラ姫様が言う。
「確かにこれから城暮らしをしてもらうことになるがタクトが料理しても別に問題は」
「裏切ったサラ姫様は黙ってて貰います? その剣、壊しても良かったんですよ?」
俺の容赦ない言葉にサラ姫様は撃沈した。事実、サラ姫様が使っているフリーティアの宝剣は宝剣止まりだ。創星龍状態の俺たちなら一撃で粉々にしようと思えば出来たのだが、流石にそれを見たサラ姫様やフリーティアの王族の面々にとんでもない精神的ダメージを与える事になるから止めた。
「あぁ…結婚後の話はしっかりするんだぞ。シルフィ」
「新婚さんの邪魔はしてはいけませんからね」
グラン国王たちはいち早くその場から逃げ出した。流石に経験値が違うね。
「そうですね。では、私も」
「アンリは一緒に説明してくれますよね? サラもストップです!」
アンリ姫様は止められ、こっそり逃げようとしたサラ姫様も引き留められた。ここは姉妹を引き留める場面ではないと思うのだが、それほどシルフィ姫様にとっては姉妹に助けを求めるほどな状況となっている。ここでリリーたちに助けを求められたファリーダが来る。
「いい加減に機嫌を直したら? いい子してあげるから」
「砂漠の神殿、攻略するかどうかは俺次第だぞ? ファリーダ」
「…ダメね。勝ち目がないわ」
「情けないのぅ。ここは妾がガツンと言ってやるのじゃ!」
「来ると言うなら新しい装備を没収するからな」
「…うむ。勝ち目がないのじゃ」
怒らした俺を誰も止められないと証明される。まぁ、真っ向勝負を出来るのはメルたちくらいだろう。その場合は酷い暴露大会になって、お互いに傷付く事になるからしないけどね。打つ手なしの状況に観念したリリーたちとシルフィ姫様は謝罪して、俺も今回の事は水に流すことにした。
そしてサラ姫様たちは解放されて、結婚について説明されるのだが、その前に二人で話し合うことになった。
「まずは呼び方を変えるところから始めましょうか」
「ですね。では、シルフィでいいですか?」
「はい! それではタ、タクトで…な、なんですか? みなさん」
「「「「別に~」」」」
これはイオンたちが一度通って、断念した道だ。でも、流石に結婚したのにシルフィ姫様、タクト様呼びは変過ぎる。頑張るしかないだろう。
「こ、こほん! それでは王族との結婚について説明しますね」
「はい。あれ? 黒板は出さないんですか?」
「今回は無しで説明します」
ここでシルフィ姫様のティターニアが耳打ちしてくる。
「あなたと結婚した絵を描くことが出来なかったんですよ。一度は描いていたんですけど、慌てて消したと思ったら、枕で顔を隠してベッドで悶えていました」
「見ていたんですか!? ティターニア!? というかそんなにも事細かく説明する必要はないですよね!?」
「私がいるのにあんなことをしていたのはシルフィの方ですよ? それにシルフィの魅力を彼に伝えるのが召喚獣としての私の役目なんです」
「なるほど」
やばいくらいにニヤニヤが止まらない。リリーたちもずっとそうだから俺だけがやばい訳ではないはずだ。シルフィ姫様が顔を真っ赤にして、誤魔化すように説明を開始する。
「ほ、ほら! 説明しますよ! まずタクトには私の部屋の隣の部屋が与えられます」
「へ? 隣の部屋ってサラ姫様の部屋じゃなかったんですか?」
「違ったのです。王族はいつか結婚を迫られますからね。最初から伴侶となる方の部屋を隣にしているんですよ。そのせいで私が襲われた時に護衛などが来るのが遅れたんですけどね」
確かに隣にサラ姫様などがいたら、完全な不意打ちに対処できたかも知れない。ただいざ結婚相手を迎えたとしても隣が誰か使っていた部屋だとするとそれはそれで問題になる。難しい問題だよね。
「基本的にはこの部屋を使って欲しいのですが、タ、タクトたちの家も使えますので安心してください」
「あぁ~…それなら夜はこっちで寝る事にします」
流石に結婚したのに夜もホームで寝ていては問題有りだろう。これを聞いていたリリーが不安げに言う。
「夜はタクトともう寝れないの?」
「大丈夫ですよ。ここで寝れますからね。ただ圧倒的に私のほうがタクトと寝る時間が短いですから少しだけ独占させてくれると嬉しいです」
「いいよ。リリーたちは大人だからね!」
「ふふ。ありがとうございます。偉いですね~」
そしてシルフィ姫様が俺との結婚を急かしていた理由が明らかになる。
「後、タクトたちの冒険に私たちもついて行くことになります」
「そうですか…それは心強いって、ちょっと待ってください! どういうことですか!?」
「どういう事も何も夫を支えるのが妻の役目ですから一緒に冒険について行くのは当然ではありませんか? 因みに連れて行ってくれないと口を聞きませんから絶対に連れて行ってくださいね」
「執務はどうするんですか?」
「お父様もお母様もいますから大丈夫ですよ。そもそも私が冒険していた頃でフリーティアはちゃんと回っていたんです。それなのに病気が治ってから結婚してもいい年ごろという理由で執務をさせられていたんですよ。酷いと思いませんか?」
それは恐らく後半の話だと思う。グラン国王様が倒れた期間は本当に国政の大ピンチだったんだと思うわけですよ。何せ女王様は国政に関わっていないみたいだし、娘三人も経験不足。何とか三人が協力して乗り越えたがグラン国王様にはこのままではいけないと思うのは自然な流れだと思う。
「それはそうですが…とにかく執務は冒険の合間にしますから大丈夫です!」
本当かな?一応システムのことを先に結婚したシャローさんに質問してみた。するとパーティーメンバーやレギオンとは別枠になっているらしい。しかも俺たちの経験値に影響はでないそうだ。
完全に冒険の助っ人キャラ的な立ち位置となり、結婚したNPCにも結婚したプレイヤーと同じ経験値が入るらしい。最も冒険に参加させるかはプレイヤーの決定に委ねられている。というのもこの結婚のシステムは本当にNPCなら誰でも発生しうるイベントなのだ。
ぶっちゃけるとモッチさんとも結婚イベントが発生する可能性がある。その場合、流石にモンスターが出るフィールドにはなかなか連れて行けないし、そもそも本人が嫌がるだろう。逆にアンドロメダさんやシルフィ姫様のように積極的について来たがる人もいる。
そして最大の注意点がこのゲームでは死んだNPCは蘇生アイテムなどを使わない限り、本当に死ぬという点だ。なので死んでほしくないならプレイヤーが冒険に参加させないという選択肢が用意されている。
これを教えられた俺は流石に心にダメージを受けた。心底両親の死がトラウマになっていると自覚させられる。それでも本人が譲らない以上、守るのが夫の務めということだろう。俺の場合は必要かちょっと疑問だけどね。
これで結婚の話は終わり。後は寝るだけの状況だと思っていたのだが、シルフィ姫様が顔を近づけて来た。
「キスですか?」
「ち、違います! きゃ!?」
動揺して後ろに下がったところで椅子にぶつかりこけてしまった。可愛いね。
「…念動力で助けるぐらいしてくださいよ。ってその話ではなく、夫婦になったんですからもう隠し事は無しでお願います!」
「「「「隠し事?」」」」
リリーたちと一緒に首を傾げる。
「誤魔化してもダメです! タクト様たちが家からいつもどこかに行っているのは確信しているんですからね! それにタクト様たちの装備や生産能力は明らかに異常です! 最初は畑を買ったこともあったようですが、最初だけで後はないですよね?」
よく知っているな。そう言えば昔、畑なんて買ったことがあったな。今ではルインさんたちに売っちゃってないけど。そしてシルフィ姫様が言っているのは島の事を言っているわけだ。確かに秘密にしてました。だって、覗かれているんだもん。そんなわけで初めてシルフィ姫様を俺が持っている島二つを見せた。
「わぁ~! いい島ですね!」
「当たり前です! 私たちが丹精込めて作り上げてきた島ですから」
「なるほど。エルフや妖精たちが作った島ならこうなるのも分かる気がします。召喚獣たちを召喚してもいいですか?」
「いいですよ。あ、でもドラゴンフルーツとか勝手に食べるとリリーたちが怒りますので注意してください」
シルフィ姫様たちの召喚獣が召喚されると各々が興味津々でシルフィ姫様が何か言う前に各々が勝手に動く。
「ちょっと!? みんな! えーっと、これはですね…久々のお外でテンションが上がっているといいますか…島の環境がいいからだと思います!」
「まぁ、グレイたちもいますから大丈夫でしょう」
暫くするとジークやストラが先輩にドラゴンフルーツをあげたとの報告がリリーたちから来た。俺の召喚獣、立場よえー。このままでは島が乗っ取られる危機的状況だが、まぁ、何とかなるだろう。最悪二つの島で分ければいいしな。出来れば仲良くして欲しいものだ。
ここでグレイとフェンリル。虎徹と夜叉が一触即発の状態になる。俺の願いは届かなかったようだ。
「そこまでにしてくれ。喧嘩する奴にはご飯はあげないし、この島にいることを禁止するからな?」
俺がそういうと喧嘩を止めた。
「なんというかタクト様がどうやってみんなを纏めて来たかよくわかりますね」
「まぁ、なんだかんだで料理には本当に助けられて来ましたよ」
元々グレイたちの出会いが料理だったし、俺が料理出来なかったら、みんなを抑えるのは色々苦労していただろう。最も料理を買うのが結局召喚師だからそこまで重要じゃないけど、料理バフにも助けられてきたし、料理をしてきてよかったと心底思う次第だ。
この後、シルフィ姫様に島の案内をすると鍾乳洞温泉やシルフィ姫様が知らないアイテムだけで物凄く楽しんでくれた。
それが終わると流石にお城の部屋に帰ってログアウトだ。ステータス操作や成長は明日するとしよう。流石に楽しんでいるシルフィ姫様の隙をついて、ステータス操作することは出来なかった。何事も始めが肝心だからね。最初ということで俺の部屋にネグリジェ姿のシルフィ姫様がやってくる。
「お、お邪魔しまーす」
「どうぞ」
「えーっと…こういう時ってどうすればいいでしょうか?」
「決まりはないと思いますよ。リリーたちも結構ばらけていましたから」
結局二人でベッドに入って、シルフィ姫様のリクエストで少しだけ話した俺たちの冒険の話をした。そして物語がシルフィ姫様が知るところに入ると話を切り上げる事になった。
「なんだが、不思議ですね。私とタクトの出会いの時も私はベッドで今は結婚して一緒に寝ている…毒で苦しんでいた時に使っていなかった幸福が一気に押し寄せてきたみたいです」
「それは俺も思う時がありますね」
バイトのし過ぎで倒れてからこのゲームを初めて、今までの人生で一番幸福な時間を過ごしているとはっきりと言える。
「案外似た者夫婦なのかも知れませんね」
「え? 俺はシルフィほど、頑固じゃありません」
「それを言うなら私だってタクトほど、過保護じゃありません」
二人で見つめ合って言うと自然と二人で吹き出した。
「ふふ。お互いに似ているようで違っているからこそ好きになったのかもしれませんね」
「俺もそう思います。そう言えばまだはっきりといってませんでしたね」
「何がですが?」
「俺はシルフィのことをこの世で一番愛している」
シルフィ姫様がきょとんとした顔をしてから笑う。
「今いう言葉じゃないですよ。でも、そうですね。私もタクトのことをこの世で一番愛しています」
自然とお互いの口が近付き、キスをした。そして顔を離すと急に恥ずかしくなる。
「そ、それじゃあ、寝ましょうか!」
「そうですね!」
お互いが恥ずかしさを紛らかすように眠りに落ちるのだが、その手はしっかり握られているのだった。




