#1168 千影VSシルフィ姫様の夜叉
千影を見たシルフィ姫様が笑顔を見せる。
「千影さんで来ましたか…恋火ちゃんが戦いたがっていたのではないですか?」
「もちろんそうですよ。でも、恋火より千影のほうが気持ちが高かったので、選びました」
「はい! あなたはあたしの目標でした…しかし今日で終わりにするであります。あたしに託された武器とこの甲冑に誓って、あなたを倒す!」
「中々熱い事を言うな…やれるものならやってみるがいい」
俺が今回選んだフィールドは夜のお城。森の方がいいかも知れないが二人の武の勝負を見るならこれ以上に相応しいフィールドはないと思う。
夜叉が剣を抜くと中国の七星剣のような剣だった。ただし刃は漆黒。普通の剣ではないな。それを見た千影が注文を言う。
「戦う前にその面をとってはくれないでありますか?」
「ふ…素顔が見たいなら自力で見るんだな」
「では、そうさせて貰うであります」
千影が乾坤圏を構える。これを見た全員が興味深そうに言う。
「見たことがない武器ですね…孫尚香さんが持っている武器に似ていますが」
「タクトがこの武器を持たせた事には何か意味があるはずだ。さて、夜叉はどう戦うか見ものだな」
「夜叉は恐らく戦い方を変えないと思います。問題は千影さんがあの武器でどんな戦いを見せるかですね」
「鬼と天狗の武器特化召喚獣の戦いだ。これは見ものだよ」
そして戦いが始まる。
「来い」
「参るであります!」
千影が右手に持っている乾坤圏で攻撃すると夜叉は剣で受け止める。すると千影はすかさず左手の乾坤圏で連続攻撃を繰り出す。しかし千影の連続攻撃を夜叉は全て受け止めている。
流石シルフィ姫様の武器担当と言うべきか。千影の動きをしっかり見切って、攻撃を上手く受け流している。しかし千影はごり押しするタイプではない。技巧派だ。それがこんな力任せな戦いをしているということはそこには何か意図がある。
「やぁ!」
「ふん…」
乾坤圏の武器の特性、長さなどを見切った夜叉は思いっきり振りかぶった千影の攻撃をギリギリのところで後ろに下がって、攻撃を躱そうとする。その瞬間を千影は狙っていた。攻撃する瞬間に千影は乾坤圏を手放して投げつけた。
「ぐ…!? 何!?」
これが夜叉の腹に決まり、くの字でぶっ飛ぶ。夜叉は鬼だ。乾坤圏の破魔で大ダメージとなる。
「乾坤圏! 伝説解放!」
乾坤圏(伝説解放):レア度10 投擲武器 品質S+
重さ:100 耐久値:1500 攻撃力:2500
効果:英雄技【焔天大車輪】、破魔、仙気、念動力、自動防御、自動攻撃、万物破壊、高速回転、衝撃貫通、魔力切断、格納、荷重操作、巨大化、帰還
哪吒太子が持つ宝貝の一つで円環の形をした二つで一つの投擲武器。自動で攻撃と防御をしてくれる便利な武器で大きさも自在に変えることが出来るので、ブレスレットとして装備することが出来る。
いきなり千影が大技を使う。
「英雄技! 焔天大車輪!」
乾坤圏が神の炎に包まれて、千影が乾坤圏を投げ付けると高速回転しながら夜叉に襲い掛かる。
「く! なめるな!」
「夜叉! 後ろからも来てます!」
最初の攻撃は剣で受ける夜叉だが千影が最初に投げ付けた乾坤圏が英雄技状態で戻って来る。
「何!? く! が!?」
夜叉は正面の乾坤圏を下に弾き飛ばすが背後の攻撃には対処出来ずにくらうと下に弾かれた乾坤圏も戻り、夜叉の顎に決まる。そこからは螺旋を描くように連続で乾坤圏が夜叉を襲う。そして空に打ち上げられた夜叉に千影がフィニッシュを決める。
「巨大化! は!」
巨大化した乾坤圏が夜叉に落ち、お城が木端微塵になる。これを見たグラン国王様が言う。
「フリーティア城で戦わせなくてよかったな」
国王の心からの声にこの場にいるみんなが苦笑いを浮かべていた。国王の心からの声なんて早々聞ける者じゃない。
「なかなか凶悪な武器ですね…でも、この程度で負ける夜叉じゃありませんよ」
シルフィ姫様がそう言うと巨大な乾坤圏が傾き、倒されると千影が元の大きさに戻して、手元に戻す。そして瓦礫から夜叉が現れると鬼の面が割れて、素顔を晒す。夜叉の素顔は額に三日月の刺繍があるイケメンの顔だった。イケメンなら顔を隠すなよ。
「言われたとおり、実力でその顔、見させて貰いました」
「ふ…まずは見事と言っておこうか…魔素解放!」
夜叉は魔素を解放し、雰囲気が変わった。これを見た千影が原初海竜の太刀に装備を変えようとした瞬間、夜叉に斬られる。だが、千影の姿は丸太になっていた。そして千影が原初海竜の太刀で襲い掛かるが夜叉は剣を後ろに向けて、千影の攻撃を止めた。
「よく躱したな」
「このぐらい対処出来なければお館様の召喚獣は務まらないでありますよ!」
「そうか…だが、そこからどうする?」
「んん!?」
千影が力を入れるが動かない。すると夜叉は簡単に原初海竜の太刀を弾き上げると夜叉は回転すると千影を斬る。だが、鞍馬神威が夜叉の攻撃を防ぐ。しかし斬られた際に神鎌鼬が放たれ、千影は吹っ飛ばされる。
「く…」
「…いい鎧だ。その鎧が無ければ今の一撃で死んでいたぞ」
「それぐらい分かるでありますよ! 閃電! や!」
千影が襲い掛かるが夜叉に押される。パワーで完全に負けているな。それに千影は魔素解放などの強化スキルを持っていない。それなのに千影は必死に対抗して、追い込まれている。
「これで十回目だな。俺に斬られたのは」
「この…!」
この攻防を見ていたみんなが言う。
「夜叉の戦い方に完全に飲まれているな」
「鬼である夜叉のほうがパワーでは分がありますからね」
「それもあるだろうけど、戦いの経験値の差も出ちゃってるね。シルフィ姫様の夜叉はずっとシルフィ姫様を守って来た召喚獣だから召喚師と過ごした時間、数々の戦いを超えて来た経験値の差がでちゃってるよ」
「ここはタクト君の腕の見せ所ね」
俺は千影にシンクロで通信を送る。
『落ち着け。千影。まずは空に飛んで距離を取るんだ』
「お館様!? はいであります!」
千影が空に距離を取る。しかし夜叉は仙術の空中浮遊を使い、襲い掛かる。
「逃げても無駄だ!」
「く…!」
『無駄なんかじゃない。あいつには空を飛ぶための翼がない。そこは千影の領域だ』
これを聞いた千影は次々夜叉の攻撃を躱す。
『いいぞ。千影には千影の戦い方がある。あいつにそれを見せてやれ』
「はいであります! 神鎌鼬! 木の葉」
「く…ふ」
夜叉は剣を横に構えて防御態勢になる。だが、千影はまだ武技を発動させていない。千影は空を蹴り夜叉の懐に入る。
「空衝脚!」
「何!?」
千影は夜叉の剣を空衝脚で蹴り上げるとそのままの蹴りの反動のまま逆さまになる。
「回天!」
逆さまのまま体を一回転させて夜叉を斬って見せた。
『そうだ。あいつの戦いに飲まれるな。今度は逆に千影の戦闘に飲み込んでやるんだ』
『任せて下さい!』
斬られた夜叉はすぐに体勢を戻して、逆さま状態の千影に襲い掛かる。だが、千影は既に腰に装備していた風林火山の軍配を持っていた。
「旋風刃!」
「ぐぅうう!?」
至近距離から竜巻の斬撃を受ける夜叉だが、これもガードしている。しかし流石に無傷ではない。すると千影は原初海竜の太刀から如意金剛錫杖に装備を変える。
「伸びよ! 如意金剛錫杖!」
「く…!」
千影の攻撃を夜叉は空を蹴り、躱すとすぐさま距離を詰める。
「取ったぞ!」
「閃電! 点欠!」
「が…!?」
剣で大振りした夜叉の首に雷速の千影の指が突き刺さっていた。あのタイミングでカウンターが来るとは思わなかったみたいだ。しかも防具で守られていない首を狙ったのがえぐい。もちろん簡単に出来る事じゃない。自分の攻撃から相手の動きまで全てを計算し、正確に首を撃ち抜くことが出来たのは千影の技量があってこそだと思う。
「取ったとはこういう時に言うので、ありますよ! 才気煥発!」
原初海竜の太刀と鬼夜叉を取り出した千影が演武のような美しい連続攻撃を見せると風林火山の軍配を至近距離で使い、吹っ飛ばすと武器を乾坤圏に変えて投げつけると夜叉に乾坤圏が襲い掛かる。止めは如意金剛錫杖で突きを放つ。
「伸びよ! 如意金剛錫杖!」
夜叉は地面に叩きつけられる。
「夜叉!?」
流石にシルフィ姫様も心配な声を出す。一応夜叉が攻撃する時も声は出しているのだが、指示というか応援に近かった。これを見ていたみんなが言う。
「戦闘の経験値は夜叉のほうが上みたいだが、近接戦闘の技量は違ったみたいだな」
「シルフィお姉様の召喚獣に武器を使う召喚獣は少ないですからね…しかもタクト様と違ってシルフィお姉様は武器を使った戦闘は得意じゃありませんから」
「仲間と召喚師と共に磨き上げた武…見事なものだな」
「それらを総じてタクトを評価するべきだと僕は思います。彼と天魔とでは近接戦闘のスタイルが違っている。これは彼が天魔の戦い方を認め、そのままの状態で技量を高めたという事です。それが自分の戦闘スタイルの確立に繋がり、夜叉に飲まれているあの状態から脱出するきっかけに繋がった。近接戦闘の召喚獣を育てることにおいてタクトは全召喚師の中で一番うまいかもしれませんね」
カインさんのこの言葉には反論する声が出なかった。そして如意金剛錫杖に潰された夜叉も評価する。
「召喚師が違うとここまで違う物か…」
「聞こえてますよ!? 夜叉!」
シルフィ姫様が文句を言う中、夜叉は立ち上がる。
「お前たちの強さを認め、俺も本気になろう…行くぞ!」
「受けて立つであります!」
「「神威解放!」」
二人が本気状態になる。天から紫色の光の柱と共に現れた夜叉は夜空のような服に光背が現れ、武器に方天画戟のような槍が追加された。
クベーラ?
? ? ?
凄いタイミングでお目に掛かったな。クベーラはインド神話の富と財宝の神。日本では毘沙門天と呼ばれている神様だ。俺たちが攻略中のラーヴァナとは異母兄弟となるが敵対関係にある。
何せラーヴァナに千年の修行の果てにブラフマーから与えられた島や宮殿を奪われている可哀想な神様だ。波旬とどんな戦いをするか見ものだな。
「参るであります!」
千影が斬りかかるとクベーラは手を向ける。
「操り糸!」
「っ!? 魔素化!やぁ!」
「ふん。は」
操り糸なんて隠していたのか。恐らくこれは最初から覚えていたと思う。それを千影は魔素化で躱し、背後に回って原初海竜の太刀の斬りかかるが最初と同じように振り向きもせず攻撃を止められるが同じ攻撃を喰らう千影ではない。
受け止めて、吹っ飛ばされる千影だが、すぐさま攻撃をするが全てぎりぎりのところで躱され、カウンターを受ける。すぐさま距離を取る千影だがクベーラの姿が霊化で消えると背後を取られる。
「物真似!」
「ほぅ…」
物真似スキルで霊化をパクった千影は見事に攻撃を回避した。しかし霊化で逃げた先にクベーラが現れ、攻撃を受ける。それを見ていた俺はクベーラの強さについて考える。
今の千影は最初と同じで完全にクベーラの戦いのペースに飲まれている。だがその理由は全く異なっている。自分がしたい動きをさせて貰えていないように見える。その証拠にクベーラがあちこち動き回っている。それはまるでスピードタイプの戦闘だが問題なのはその動きに無駄がないことだ。こんなことは普通はあり得ない。
どんな高速戦闘でも動きの無駄と言うのは発生してしまう物だ。それは考える時間だったり、高速戦闘を続ける上でのスタミナ切れなど様々なことがあるのだが、クベーラからはそれが感じられない。
それを考えた時に俺は一つの可能性に思い至る。クベーラには毘沙門天の他にもう一つ別の名前を持っている。それが多聞天。漢字のとおりでよく聞く所の者とされる。ここから予想されるクベーラが持つ能力をダマスカスワイヤーで必死に戦っている千影に伝える。
『相手は恐らく他心通と未来予知のスキルを持っている』
『でも、それはあたしも持っていますよ?』
『そうだな。だからそれで負けているということは恐らくスキルのレベル差があるんだろう』
これは俺が切り札を温存しすぎていることが影響している。まさかこんなところでスキルのレベル差問題を突きつけられるとは思いもしなかった。
『では、あたしはどうすれば…切り札を使う隙がありません、というかバレていますよね?』
『そうだろうな。だから作り出すしかない。相手も抵抗してくるだろうが速さと手数、武器でごり押しして切り札を使う隙を作り出すんだ』
『わかったであります!』
千影は勝負を仕掛ける。
「波動衝撃!」
「ふ! 来い!」
「影分身! 参る! 雷化!」
千影は影分身を出すとそれぞれの武器を構えて、雷化で一気に襲い掛かる。すると流石に全ての攻撃を捌ききれずにクベーラにダメージが通る。やはりスピードなら千影に分がある。それに影分身で手数が増えた上に恐らく思考がばらけて動きが読みにくくなっているみたいだ。それでも未来予知があるからほとんどの攻撃を防がれているのはシルフィ姫様の夜叉のレベルの高さを思い知る。
「「「「でやあああ!」」」」
「いい攻撃だ。だが、それではまだ俺を倒すことは出来んぞ。波動衝撃!」
千影の影分身たちが吹っ飛ばされると夜叉は剣を構える。
「宵練、伝説解放!」
宵練だと!?中国の三宝剣の伝説で知られている目に見えない剣だ。
「こんな武器を持っているなんてズルいぞ!」
「タクト様にだけは言われたくないです!」
ごもっとも。そして伝説の通りで宵練の刃が見えなくなる。
「「「「「っ!? 気力装甲!」」」」」
「英雄技、宵闇!」
千影や影分身が一瞬で斬られた。斬撃すら見えない必殺技。しかも千影の気力装甲や武器でのガードをすり抜けて斬られていた。更にクベーラの攻撃は止まらない。今度は剣を天に掲げる。
「魔神技! 夜天魔楼撃!」
夜空から千影と影分身に紫の光の柱に照らされるとその光を浴びた千影は痛みで絶叫して、倒れ込むと起死回生で復活するがボロボロだ。それでも千影が立ち上がり、その目はまだ死んでいなかった。
「諦めよ。貴様にもう勝機はない。貴様の心のよりどころにしている縄も俺に届くことはない」
ナーガパーシャのことはやはりバレていた。しかしそれを告げられてもなお千影は言い返す。
「生憎お館様から諦めることは最初の頃から教えられていないでありますよ。あたしはどんな敵が相手でも最後の最後まで戦うことをやめたりなんかしません」
「そうか…ならば一切の妥協なく、殺してやろう! 煉獄!」
こいつ最悪だ。煉獄のダメージで千影の残り生命力を削って来やがった。さぁ、千影。お前が俺たちから学んだ全てをあいつに教えてやれ。
「ナーガパーシャ!」
「シャー!」
「何!? 馬鹿な!? 一体どこから現れた!?」
突如自分の体から現れたナーガパーシャにクベーラは拘束される。千影は俺から学んだ一寸法師戦法をしっかり覚えていた。クベーラが宵練を天に掲げて必殺技の体制になったタイミングで変化で小さくなった千影の影分身がクベーラの服にくっついて空虚で気配を消していたのだ。
流石に空虚を初見で使っている上に自分の必殺技を自分に使うことはクベーラには出来なかった。それに他心通や未来予知は対象を選択することで発動するスキルだ。小さくなった千影の影分身を選ばない限り、この攻撃を見切ることは出来ない。
「く…だが、遅かったな」
「それはどうでありましょうか? 得意の未来予知で自分の未来を見てみるといいでありますよ」
煉獄で燃える千影が光となって、消えるがその光が再び集まり、千影が全開状態で蘇生する。鞍馬神威に刻印された奇跡の効果だ。
「な…」
「ちょ!? 反則! 反則ですよ! それは!」
「伝説の武器を持たせている人に言われたくありませーん」
「く…!」
言い返してやったぜ。反則、卑怯。大いに結構。どんな方法でも勝者こそが絶対正義なのだよ。千影が原初海竜の太刀を構える。
「海竜解放!」
これに飲み込まれたら、流石のクベーラも終わりだろう。
「俺が慢心していたことは認めよう…だが! 俺も姫の召喚獣! 負けるわけにはいかんのだ! 開け! 強欲門!」
空からフリーティアの騎士たちが装備している剣がクベーラと千影を狙い、次々降って来た。なるほど。あれでナーガパーシャから脱出するつもりか。
「く…全竜解放! やぁあああああ!」
「何!?」
千影の鎧から虹の七色に加えて白と黒の合計九つの竜が現れると降り注ぐ剣に襲い掛かった。これがユウェルが仕込んでいた鞍馬神威のとっておきだな。本来なら攻撃に使うんだろうが千影が防御に今回は使った形だ。
結果、クベーラの脱出を図った攻撃はタンニーンに流され、不発に終わる。しかし肝心のクベーラはまだ生きていた。
タンニーンの攻撃から縛られた状態で空中浮遊で海から脱出した。その諦めの悪さは評価しよう。
「く…! 水虎三叉戟! 宝槍解放!」
「邪竜解放! 喰らい尽くすであります! 蒼雲!」
夜叉の背にあった槍が水の渦を発生されて、タンニーンの海に向かって放たれると水が虎になり、千影に襲い掛かる。これに対して千影はタンニーンの海から八岐大蛇を出現させると水の虎とぶつかり合い、一つの首が相打ちとなり、他の首がクベーラに噛み付いた。
「ぐ!? おぉ! 日輪! っ!?」
日輪を発動させようとしたクベーラだったが千影が構えた天國から宇宙空間が広がる。
「宝剣解放! 三千大千世界!」
宇宙空間が消え去り、静寂が訪れると千影が刀を鞘に納める音が響き、クベーラは夜叉に戻ると言う。
「見事だ。俺はお前たちが姫の結婚相手に相応しいと認めよう」
そういうと夜叉の首が斬れて、召喚石に戻る。日輪が発動するよりも早くに千影はクベーラの首を斬っていた。最後の最後まで分からないいい勝負だった。そしてインフォが来る。
流石にスルトほどの経験値はないみたいだな。それでも千影のレベルを三つも挙げたことはレベルの高さを伺える。
「よく頑張ってくれましたね。夜叉」
優しくそういうシルフィ姫様だが、俺を見ると口を尖らす。
「タクト様が使っている防具など反則が過ぎませんか?」
「これも俺たちが頑張って来た成果ですよ? 今更否定されても困ります」
「それはそうですが…同じ武器じゃないと釣り合いが取れません」
「では、そちらもフリーティアの装備をすればいいじゃないですか? というかさっき使っていた武器はフリーティアの騎士が持っている武器ですよね? 思いっきり千影に刺さっているんですが?」
鞍馬神威で防ごうとしたが流石の千影もドラゴンたちとタンニーンのコントロールが上手く出来なかったらしい。この瞬間、全員が俺の怒りを察知した。そしてそのターゲットがフリーティアの騎士たちであることも俺と付き合いが長いみんなだからこそ理解する。
「えーっと、あれはフリーティアが作っている武器なのでフリーティアの騎士が持っている武器とは関係ありませんよ?」
「本当ですか~? では、これを終わった後に全員の持ち物検査をさせてください。剣や弓矢を持っていない者がいたら、手加減無しの俺の訓練を受けて貰います」
「それはダメですよ。今は夜ですから夜の見回りをしている騎士以外は普通に寝間着で寝ていますから」
「…わかりました。取り敢えずこの話は終わりにしておきます」
『『『『絶対わかっていない!』』』』
王様たちは下手に騎士に口を滑らせないように徹底することを決めるのだった。それでは次の戦いに進む。これで俺の二勝だ。次勝てば取り敢えずシルフィ姫様との結婚が決まる。この重要な戦いでシルフィ姫様が選んだのは自身が結婚している召喚獣だった。
「出番ですよ! ティターニア!」
ティターニアが現れると持っている剣が俺が知っているティターニアの武器とは違っていた。ティターニアが装備していたのは黄金の剣。それはサラ姫様との対決でシルフィ姫様が使っていたフレイの勝利の剣だった。
「そう来ましたか…」
シルフィ姫様が剣が苦手な情報を俺はギルドメンバーから聞いており、この武器の情報も貰っていた。てっきり最終決戦で使って来ると思っていたが確かに苦手な武器なら剣が得意な召喚獣に託した方がいい。
「ふふ。さぁ、タクト様は誰を選びますか?」
「もちろん。俺のティターニアがお相手しますよ。来い! ルーナ!」
ルーナが召喚されると早速新しい鎧と二刀流を披露する。
「ちょっと待ってください! またその鎧ですか!? しかもエクスカリバーならまだいいですけど、なんですか!? その剣は!? しかも二刀流って反則なんてものじゃないですよ!? しかもルーナちゃん、いつもと違いませんか!?」
まぁ、そういうリアクションになるよな。
「考える事は同じですね。まぁ、最近色々あったんですよ」
「はい! 色々ありました!」
「そうなんですね。で納得すると思ったら、大間違いですからね! 色々やりすぎです! タクト様!」
そりゃあ、シルフィ姫様と結婚するためのクエストだ。しかも名目上はシルフィ姫様との結婚をシルフィ姫様の召喚獣に認めさせなければならない戦いなのだ。手抜きなどしたら、召喚獣たちに認められはしないだろう。少なくとも俺が召喚獣の立場なら嫌だね。
そんなわけでルーナとルーナの憧れであるティターニアとの勝負が始まる。




